メセナアワード

メセナアワード2020贈呈式


2020年11月20日(金)、「メセナアワード2020」贈呈式を浜松町コンベンションホール(東京)にて開催しました。当日は、新型コロナウィルス感染防止のため、贈呈式と記者発表会を同時開催とし、規模を縮小して受賞各社・団体、関係者、プレスのみの招待としました。贈呈式では、各受賞活動の紹介に続き、文化庁より「特別賞:文化庁長官賞」(1件)、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)の受賞企業へ表彰状とトロフィーを贈呈。受賞企業の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からは選考評が述べられました。当日はYouTubeでライブ配信も行い、芸術文化支援に携わる全国の企業・団体の方々にご覧いただきました。(アーカイブ動画:https://youtu.be/1f4GniremiM

メセナアワード2020贈呈式 受賞者スピーチ

公益財団法人鹿島美術財団 専務理事 高橋 司 様

メセナ大賞:公益財団法人鹿島美術財団 鹿島美術財団賞


本来ですと、鹿島昭一理事長の名代として私がまいりました、と自己紹介をするところですが、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、鹿島建設株式会社の取締役相談役である鹿島昭一(鹿島美術財団 代表理事・理事長)が、11月4日に急逝されました。プレス発表の前日でしたので、私も本当に驚きました。9月に大賞内定のご連絡をいただきまして、すぐその報告をいたしましたが、本日のことを改めて四十九日に墓前に報告したいと思っております。
鹿島美術財団と申し上げますと、「美術館があるのですか」、「どういう美術品をお持ちですか」とよく聞かれますが、私共の事業は、研究者に対する助成を主として行っております。研究者のみなさまは、地道に研究をしているわけですが、そうした研究者に助成をして、良い状況をつくって、研究を継続してもらおうとしています。私は財団に来て12年になりますが、改めて第1回(1983年)の助成者を見てみますと、青柳正規・前文化庁長官、それから昨年まで「メセナアワード」の審査委員をされていた馬渕明子・国立西洋美術館長も載っていました。そうした方々が、今、日本の美術界を引っ張っていらしているわけです。青柳先生が選考委員を務められていた1994年に鹿島美術財団賞を発案して、その第1回の受賞者が、当時は美術館の学芸員だったのですが、現在では大学の教授を務められています。そして、5年前に、その第1回の受賞者の教え子がまた財団賞を受賞するという、38年の長い期間でうまく循環していると言いますか、人々が良い意味で育っていると言いますか、そうしたことに鹿島美術財団が貢献していると感じております。それから、本年3月に今年度の事業計画として、少し新しいことを考えようということで、まず財団賞の副賞の賞金を倍額にしました。それから、選考委員の高階秀爾先生のご発案で、中堅の研究者に対して少し何か考えようということで、3年間研究をしてその成果を本にまとめて出版してもらうことにいたしました。それに応募していただいた方が第11回の財団賞の受賞者でした。本来であれば、コロナがなければ、当財団は理事、監事、評議員、それから選考委員、そして、推薦委嘱者でもっておりますので、こうしたハレの場にお越しいただきたかったのですが、それもままなりません。そうはいっても財団の常勤は私以下事務局5名ですので、今日は無理を言って、全員で参加させていただきました。皆さん立ってご挨拶しましょう。〔全員でご挨拶〕
今後、永続的に研究を続けてきて、今年助成を受けた方が、いずれ将来また、日本の美術界を背負っていく、そういう希望を持って続けてまいりたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

株式会社アンデルセン・パン生活文化研究所 取締役会長 林 春樹 様

優秀賞 パンと絵本でメルヘン賞:アンデルセンのメルヘン大賞


今回の受賞は望外の喜びですけれども、これは会社にいただいたというよりも、「メルヘン文庫」を刊行しているチームの皆にいただいたのではないかと思っております。先ほど説明申し上げましたが、第1回から第37回まで、審査委員長を務めていただいている童話作家の立原えりか先生、彼女抜きではこの賞を語れないのではないかなと思います。また、延べ185人に及ぶ挿絵を描いていただいている選考委員の先生方、この先生方抜きにも、この賞はなかったのではないかなと。それと、第1回からずっとお手伝いをいただいている企画・運営の株式会社スペース、株式会社電通西日本の皆さんのご支援のおかげだと思っています。また、毎回授賞式を4月2日に行っていますが、緊張されている受賞者と、あまりお話が上手でない選考員の先生方の間に立って、毎回、非常に和やかな授賞式にしていただいている司会者の井尾さんに、37年連続でやっていただいていますが、彼抜きにこの受賞もなかったのではないかと思っております。
コロナ禍で大変ですけれども、できたらウィズコロナではなく、コロナが収束して、関係者の皆に、広島に集っていただき、でっかい声で「カンパーイ」と言える日を望んでおります。本日は誠にありがとうございました。

鬼塚電気工事株式会社 代表取締役社長 尾野 文俊 様

優秀賞 アートで街を充電しま賞:プロジェクトONICO


この賞を受賞できましたのは、私ども一社でいただいたものだとは考えておりません。多くのプロジェクトに関わってくれた人、皆でいただいたものだと考えています。大分県庁の方々、それから今日も会場にいらしてくださっている於保准教授を中心とした大分県立芸術文化短期大学の方々、また商店街の皆さん、そして大分経済同友会の方々、BEPPU PROJECTの方々、そして、クリエイターの清川進也さんと当社の社員の皆さんに、心からお礼を申し上げたいと思います。
プロジェクトONICOは、制作過程で、社会的課題の洗い出し方や、その解決方法を、みんなでデザインシンキングした結果、生まれたものです。
第一弾の活動では、「災害時にも使えるアート作品」とも言える無料充電ステーションを運用しましたが、この活動は芸術文化を直接的に支援する活動とは違います。このため、私たちの活動がメセナ活動に相当するのかと不安になり、協議会にも相談しました。今年の8月に開かれた「2019年度メセナ活動実態調査」報告会では、企業と芸術・文化がパートナーシップを結び、社会的課題解決を図っていく活動を、「社会的インパクトメセナ活動」であるということを教えていただきました。当社の活動もそれに相当するとして安堵して継続して活動しております。
現在は、検温ステーション鬼桜を運用しています。コロナ禍で人と人、まちなかで人と商店などの絆が分断されました。その社会的課題解決に向けた取り組みを始めました。良い活動になって皆さんにご報告できればと思っています。
これからも「社会的インパクトメセナ活動」を推進していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

公益財団法人ソニー音楽財団 理事長 水野 道訓 様

優秀賞 クラシックを♪♪咲かせま賞:子どもたちへの良質なクラシック音楽の提供および音楽を通した教育活動助成や若手演奏家の支援


この度は、企業メセナ協議会様、そして選考をいただきました選考委員の皆さま、この栄えある賞をいただきまして、本当にありがとうございます。
私は今年の6月までソニー・ミュージックエンタテインメントの代表を務めておりまして、現在はソニー音楽財団の理事長を務めておりますが、このような社会貢献やメセナというものは、活動の仕方が非常に難しいです。でも、企業をバックボーンにして社会貢献を行っていくことは、非常に大事なことだと思います。
その中で一番大変なのはスタッフです。財団のスタッフが本当に一生懸命、過去からの伝統を引き継ぎながらも新しいことを迎え入れる、といったやり方で活動しています。これはメセナ協議会のスタッフの方々、ここにお集まりの様々なスタッフの方々も同じで、本当に大変だと思います。その働きに対して賞をいただいたのではないか、とありがたく思っております。
コロナ禍において、クラシックのみならず音楽関係では、コンサートができない、あるいは演劇などカルチャー全般では、リアルなライヴができないということ、これはとても大変なことです。そこで私共が今年始めた新型コロナウイルス対策特別支援プロジェクトの中で、そうした活動ができない若手のパフォーマーの人たちに、子どもたちに対してどうやって音楽を届けるか、ということについて企画を募集しました。その結果、とてもたくさんの数の応募をいただいて、中には我々もびっくりするような新しい企画がありました。このコロナ禍でも、日本はもっと、文化・芸術分野で新しいことができるということも知ることができました。
今後、ソニーが掲げる次世代のため、「For the Next Generation」 というテーマに対しても、新しいことが色々とできるのではないかな、と思います。これからも「子どもたちのために」「次世代のアーティストのために」貢献をしていきたいと思います。よろしくご支援のほどお願いいたします。

株式会社原田 専務取締役 原田 節子 様

優秀賞 並んでも食べたい音楽で賞:未来の音楽文化のための芸術文化支援活動

この度は「メセナアワード2020」、栄えある優秀賞を賜りまして、誠にありがとうございました。また、「並んでも食べたい音楽で賞」という、とても素敵なタイトルを頂戴しまして、私ども関係者一同、大変感激しております。さて、私どものメセナ活動でございますが、店舗棟に隣接していて2008年に竣工した本社工場の一階のホールを利用して行っております。新社屋建設にあたり、お菓子文化とその他の文化を融合させ、この地から、新たな感動を発進させたい、そして地域の皆さま、昔からご愛顧いただいているお客さまに、少しでも喜んでいただきたいという思いで計画しました。
メセナ活動をどうしてやっているか、ということになると思うのですが、私どもは生産の人たちが一生懸命作ってくれたもの、販売の人たちが一生懸命売ってくれたものから得た利益を食いつぶしているのですね。それでも続けている理由は、本当にきれいごとに聞こえてしまうかもしれないのですが、サービス精神の発露だと思っています。お客さまが喜んでいただいている顔を見ると、もっと喜んでいただきたい、もっと楽しませたいという気持ち、そして、それを社員たちが見事に具現化してくれている。とても感謝しています。そして、大多数の社員は、弊社のメセナ活動に誇りを持ってくれていると思っています。
コンサートは、12月を除いて年11回行っています。今年はコロナでお休みしていますが、コンサートのチケットは、当社のお菓子のお土産付きで、お一人様2千円で販売しています。チケットの売上金は、地元高崎の文化振興、それから3.11被災地・陸前高田市の教育委員会、またはドクターヘリと、すべて公的機関に全額を寄付させていただいております。また年2回ほど行っている、現代アートを中心とした美術展では、少しでも気楽に、気軽に、現代アートに触れていただきたいと、入場料は無料で行っています。
しかしながら発足当初は、集客もままならず、大変苦労いたしました。おかげさまで今では友の会の会員も増え、人気のコンサートは発売と同時にソールドアウトになってしまうほど、大変ご好評いただけるまでになりました。「継続は力なり」という言葉がございますが、本当にそうだな、続けてきてよかったなあ、と実感しています。
また、新たな試みとしまして、高崎市出身の新進気鋭のピアニスト・金子三勇士さんの考えに賛同しまして、小学生以下を対象とした、「未来のピアニスト育成事業」にも2016年より参加しています。2017年には、全国5カ所の予選を勝ち抜いたピアニストたちを東京の第一生命ホールに集めて、最終選考会を行いました。そこで選ばれた6名の優秀な未来のピアニストたちを、金子さんのもう一つの祖国、ハンガリーに派遣するという事業を行っています。彼ら・彼女たちはそこでも優秀な成績を修め、帰ってきてくれました。本当に嬉しいことです。そうしたことが、私どもの原動力になっているのです。本当は、今年8月には第2回のハンガリー派遣選考会を行う予定でしたが、残念ながらコロナウイルスの影響で延期となっております。
最後になりましたが、この度の受賞を励みといたしまして、私どもでも、身の丈に合った、息の長いメセナ活動をこれからも続けて参りたいと思っております。本日はありがとうございました。

株式会社琉球新報社 代表取締役社長 玻名城泰山 様

優秀賞 琉球の心いちまでぃん賞:琉球古典芸能コンクール・琉球古典芸能祭

このたびは、当社の主催事業「琉球古典芸能コンクール・琉球古典芸能祭」に栄えある賞を賜りまして、大変光栄に存じます。評価をしていただいた委員の先生方をはじめ、主催の協議会、関係者の皆さまにはこの場をかりて厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
沖縄はかつて琉球と呼ばれ、中世近世の時代には、亜熱帯の風土の中で独自の王朝文化が花開きました。独特の文化は、宮廷のみならず庶民にまで裾野を広げ、人々を癒し勇気づけながら脈々と受け継がれてまいりました。沖縄の人々が幾多の困難を乗り越えてきたのは、まさに芸能の力があったからに他なりません。ちょうど一年前、沖縄には世界遺産の首里城がありましが、焼け落ちてしまいました。大変ショッキングな出来事がありました。首里城は、沖縄のシンボルであり、県民の心の拠り所でもあっただけに、一時は深い悲しみに包まれました。しかし、人々は立ち上がります。伝統芸能の実演家、愛好者らが呼応して、城の再建に向けて公演を企画するなど取り組みを始めました。その矢先に、コロナ禍という想定外の事態に見舞われてしましました。当社の芸能コンクールも一年延期を余儀なくされてしまいました。さすがに挫けるといいますか、まいってしまう時期もございました。
そんな中で飛び込んできたのが、この度の「メセナアワード」の受賞決定という知らせでございました。何という朗報でしょう、今年一番の喜びでございます。半世紀あまりも芸能コンクールを続けてきて、本当に良かったなと、改めて実演家の先生方をはじめ、多くの関係者に支えられているということを実感し、喜びを皆で分かち合っているところであります。
発展目覚ましいデジタルの時代ではございますが、この活動は、芸能コンクールから芸能祭へつなげていくという地道な、息の長い事業であります。まさにアナログの事業ではありますけれども、受賞を励みに舞台芸術を高めて、文化芸能の力でアジアの架け橋となれますよう努力を積み重ねてまいりたいと決意を新たにしているところでございます。本日は誠にありがとうございました。。

株式会社資生堂 執行役員常務・社会価値創造本部長 青木 淳 様

特別賞 文化庁長官賞:資生堂ギャラリーの企画・運営



このたびは、メセナアワード特別賞・文化庁長官賞という栄えある賞を賜りまして、誠にありがとうございます。社員一同、会社を代表して、まずは皆さまに御礼申し上げます。
「アートとサイエンスが融合するところで、新しい美の価値をつくろう」の理念のもと、常に新進気鋭のアーティストを発掘したい、あるいは新しいアートの領域を広げたいという志で活動してまいり、昨年、資生堂ギャラリーは百周年を迎えました。
当ギャラリーの新進作家を応援するプログラムshiseido art eggの最近の応募テーマには、環境や社会に対して何となく違和感があるといった、社会課題を提起するような表現が増えてきています。“Life is more than being happy”、すなわち、「人生には幸せである以上の意味がある」といったテーマの『TED Talks』がありますが、その中に“transcendence”という、アートを言い得て妙とも言えるような言葉が出てきます。もともとtranscendという動詞は、超越する、枠をこえる、ひらめく、悟りをひらく、啓示を受ける、今そこにないものに時空をこえてつながる、あるいは、アーティストやクリエイターの方にアイデアが宿る、降りてくる、という意味であることから、このtranscendenceには「自分の価値観をひっくり返すような、揺さぶるような気づき」という意味があるのですが、こうした気づきは誰にでも起こることだと思うのです。最近の資生堂ギャラリーでは、音楽家の方が、音とビジュアル、造形を組み合わせることにより、また、フードアーティストの方が、味わうということから広がりをもたせることにより、我々を未知の世界へと誘い込んでくれるのですが、こうしたアートが、私たちに気づきを与えてくれていると思います。これはまさにtranscendであり、ウィズコロナの時代にはとても大切なことだと思います。
また、私たちの社業である「ビューティー」には、人を幸せにする力があると思っています。日本におけるビューティーには、単にフィジカル(physical)のビューティーだけではなくて、ホリスティック(holistic)なビューティー、インターナル(internal)なビューティー、すなわち、先ほど審査委員の山口さんが「美しい」という言葉をお使いになりましたが、「徳」、あるいは、日本の文化、社会のなかで培われた素晴らしい「真・善・美」という意味があると思います。
「ESG経営」という言葉が大変流行っていますが、当社では、ESG経営のEとSとGにカルチャーのCも取り込み、環境・社会・文化の相乗効果で社会課題に取り組んでいます。日本で培ってきた文化が、今のこの世界に、もう少し何か良い影響を与えられるのではないかということも考えながら、ますます当ギャラリーの活動を強化して参りますので、ぜひこれからも、ご指導、ご協力のほどよろしくお願いいたします。本日は本当にありがとうございました。

選考評

委員長 萩原なつ子 氏

まずは、受賞された企業の皆さま、また、関係者の皆さま、本当におめでとうございます。昨年初めてこの選考委員になりまして、実は今年、委員長一年生でした。新しい選考委員も迎えた新体制の選考委員会は大変盛り上がりました。
といいますのは、これだけの素晴らしい企業メセナの活動を、どのように評価していいのか分からない、と悩まれた方もいらっしゃいました。私も初年度そうでした。本当に素晴らしくて、一つ一つどれを選んでいいのかわからなかったのですけれども、まずは美味しいかな、なんか見てみたいな、行ってみたいななど、そういったところから選んだのではないかと思います。
会議の議事録を見せていただきますと、発言の後ろに「(笑)」とたくさん書いてあるのです。それくらい皆、楽しく、本当に素晴らしい活動の中から選んだものばかりです。そしてすべてが、将来世代、未来世代、子どもたちを応援する、そういったものばかりでした。今、「SDGs」ということも言われておりますけれども、やはり、「誰一人取り残さない」といった時の、文化的な貧困という問題もあるのですけれども、そうしたところをまさにカバーする、メセナ企業活動だと実感いたしました。
この新型コロナ禍で、もしかしたら文化的な活動が少し後退してしまうのではないかと危惧をしますけれども、おそらくすべての企業が、ギフトワークとして素晴らしい活動、文化的活動を今後も展開してくれるのではないかと期待して、私の話を終えたいと思います。本当におめでとうございました。

はぎわら・なつこ|立教大学・教授/(認特)日本NPOセンター代表理事
お茶の水女子大学大学院修了。博士(学術)。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学助教授等を経て、現職。専門は環境社会学、非営利活動論。

佐倉 統 氏

今回初めて参加させていただいて、もう戸惑いの連続でした。これをどうやって評価したらいいのか、どの活動も本当に素晴らしくて、しかも多様で多彩なのです。評価ですから一つの点をつけないといけないのですが、その軸を決めるのがとてつもなく難しい。それぞれがユニークで、世界的な規模でやっているものもあれば、地域密着でやっているというのもあり、創業者の理念が反映されているものもあれば、新しいニーズに応えているものもある。これらに共通する評価の軸をどのように考えるか、大変戸惑いました。
大学におりますと、昨今ありがたいことに色々な形で様々な企業から寄付をいただくことがあります。研究の助成や、寄付講座、建物など、そうした寄付をして下さる方々が異口同音に、「日本は寄付文化が根付いていない。アメリカやヨーロッパに比べるとそこが弱いため、寄付を頑張らないと良い文化が育たない」とおっしゃっていたのですが、今回選考に参加させていただいて、そんなことはないなと思いました。これだけ多様、多彩で素晴らしい活動を企業の方々が、しかもずっと長くやってくださっているということは、アメリカやヨーロッパと形は違うかもしれないけれども、日本の社会や民間文化を厚く豊かにしているということを改めて痛感しました。
おそらく、日本の文化は奥ゆかしいので、「こんなにやっていますよ」ということを言わないのかなと思うのですね。普段からよく知っている企業もたくさんありましたが、「こんな活動をしていたのか」と、寡聞にして初めて知ることもありました。勉強不足で申し訳ない限りですがこうした奥ゆかしさ、「俺が、俺が」と前に出ないというのも、昨今の世の中、大事なことかもしれないなと改めて思った次第です。
コロナの時代ですので色々と大変なこともあると思います。コロナに対応することも大事ですが、非常時だからこそ、普段と変わらない活動を地道に細く長く続けていくことも大切ではないか、そういうところで心に安らぎを得る世の中の人もたくさんいるのではないかなと思います。どうかこれからも皆さんのユニークな、皆さんでなければ出来ない活動を、細くでもいいので、長く続けていっていただければと思います。今回、私も楽しませていただきましたし、少しでもお役に立てればと思っております。本当にありがとうございました。

さくら・おさむ|東京大学大学院情報学環・教授 理化学研究所革新知能統合研究センター・チームリーダー
1960年東京生れ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。科学技術と社会の関係を進化論的に研究考察中。主著に『科学とはなにか──新しい科学論、いま必要な三つの視点』(ブルーバックス)、『「便利」は人を不幸にする』(新潮選書)、『おはようからおやすみまでの科学』(ちくまプリマー新書)など。

中島信也 氏

まずは受賞されました企業の方々、皆さん本当におめでとうございます。
普段仕事でお世話になっているところもたくさん受賞されているのですが、先ほど佐倉先生がおっしゃったように、まさに「実はそういう活動している」という、知られていない活動をされていて、大変勉強させてもらっています。
いつも審査のたびに、ああ、こういう形で企業が頑張っているんだ、ということを私も一企業人として、会社の経営の方に携わっているわけですが、経営というのは、利益を生んでいって、その会社を存続させていくということで、形のあるものを目指していくわけですね。ただ、文化活動、メセナ活動というのは、これからを担う人材をつくっていく、これからの社会の文化を担う一つの知を蓄積していく、地域を活性化させる、これはなかなか目には見えないような活動だと思うのです。この目に見えないような活動に対して、OKをされているトップの方の意識が、意図が、意志がはっきりと見えているんじゃないかなと。
今、日本社会というのは、国と国民との関係がありますが、我々を取り巻いている企業と生活者の関係はとても重要だと思います。そういった、我々をとり巻いている企業が、本当に尊敬できる姿であるということは、その国が大変豊かであるということだと。これを分かっておられるトップの方がいらっしゃるからこそ、目に見えない活動にこれだけエネルギーを費やされているのだと私は思っております。大変貴重なことですし、これが一部の企業ではなく、どんな小さいことでもいいのですが、全ての企業がどこかで目に見えないものに価値があるんだというメセナの精神を、利益とは別の観点で育てていかなければいけないと思います。そうした気持ちを少しでも持つように、この「メセナアワード」でもって「メセナアワード」知らしめることによって、企業の気持ちが少しでも変わってくるのではないか。これからこのコロナ禍の中を生き抜いていかなければいけないのですけれども、本当に未来をつくっていく大事な活動だと思いますので、応援していきたいし、また、私も一会社経営者として、見習っていきたいと思います。この度は本当におめでとうございました。

なかじま・しんや|株式会社東北新社取締役副社長/CMディレクター
1959年福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒。デジタル技術を駆使した娯楽性の高いCMで数々の賞を受賞。武蔵野美術大学客員教授(情報デザイン学)、金沢工業大学客員教授(メディア情報学)。

仲町啓子 氏

受賞された皆さま、おめでとうございます。
実は私も、選考に参加させていただくのは本年度が初めてでございまして、選考する上で最初は本当に戸惑いました。活動組織の規模も異なれば、活動内容も多種多彩であったため、こうした活動に対し、どのようにして順番や優劣をつければよいのか戸惑いました。選考した理由を明確に答えるのは難しいのですが、選考会に参加させていただき、先輩の選考委員や協議会の方々から、応援したいという気持ちを持てる活動を選んでほしいと言われまして、自然と応援したいという気持ちになった活動を選んでいく中で、自然と本年度の受賞活動が決まっていったように思います。
私が一昨年まで外部委員をしておりました組織では、人文系、芸術系の分野は少しだけ肩身の狭さを感じることもありました。ですが今年度、こうした機会に参加させていただき、企業や財団の皆さまが、本当に芸術・文化を支援され、さらにそうした支援活動を文化庁が後援するといった、素晴らしい体制が築かれていることに対し、非常に嬉しく、何か勇気を持てた気がいたします。コロナ禍で本当に辛い時期ではありましたけれども、非常に明るい気持ちを持てたことが、今回審査に参加させていただいた中で一番良かったことのように思います。
現在、美術館の運営に携わっておりますが、こうした素晴らしい活動に触れたことにより、私の方が学ばせていただき、感謝したいという気持ちでいっぱいになりました。本当に皆さま、おめでとうございました。

なかまち・けいこ| 実践女子大学教授/秋田県立近代美術館特任館長
東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位修得退学。専門は日本近世美術史。特に琳派や浮世絵研究を専門とする。実践女子大学香雪記念資料館長を兼任し、女性画家の作品の収集・研究・展示も行う。

山口 周 氏

受賞された皆さまと関係者の皆さま、おめでとうございます。
先ほど中島委員が「勉強させていただいています」とおっしゃっていましたが、実は私も選考委員は初めてで、ご依頼をいただいた時にお受けしようか迷ったのですが、「やはりこのお話を受けた方がいい、必ず勉強になるだろう」と思いました。
私は企業の経営に関する様々なアドバイスを行っておりますが、そうした中で最近、非常に大きな問題になっているのは、企業は大抵、世の中で悪者になっているということです。このため企業は、CSV(Creative Social Value)、すなわち、社会的な価値を生み出すビジネスをしましょうと、わざわざ言わないといけなくなっています。しかし、そもそも「社会的な価値を生み出す」のがビジネスであったはずですが、それをわざわざ言わなければいけなくなっているということで、ビジネスがdestroying Social Valueになっていると言え、今、ビジネスが世の中から非常に厳しい目線を注がれています。
しかし、「今日は金曜日で一週間忙しく、少し疲れたかな」と思っていたのですが、先ほどの担当者の方のプレゼンテーションを聞いて、やはり少し元気になっているのが自分でわかるのです。それはやはり、皆さんの活動が世の中に対してエネルギーを与えているのだと思います。プレゼンテーションを聞いた私は、また元気になって、「ビジネスは捨てたものではない。やはり企業は色々なことができる。一人ではなかなか大きなことはできないが、皆で集まって組織を作ったら社会に対して色々な良いことができる。」と再確認できる場になりました。私自身は本当にエネルギーをいただけました。逆に感謝を申し上げたいと思っています。
皆さんの活動そのものが、私だけではなく、おそらく世の中にいる人、色々な人たちに対して、確実にエネルギーを与える活動になっています。ぜひこのリーダーシップを維持して、株主などから様々なノイズがあるかもしれませんが、長い目で見ると、美しい活動というものは必ずやったこと以上のリターンを伴って戻ってくるはずです。ぜひ、こうした活動を続けていただければと思います。本当におめでとうございました。

やまぐち・しゅう|独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
電通、ボストン・コンサルティング・グループ等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後に独立。現在は、独立研究者、著作家。著書に『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『ビジネスの未来』など。

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