メセナアワード

メセナアワード2022贈呈式


2022年11月24日(木)、「メセナアワード2022」贈呈式をスパイラルホール(東京)にて開催しました。当日は、新型コロナウィルス感染防止のため、規模を縮小して受賞各社・団体、関係者、プレスのみの招待としました。贈呈式では、各受賞活動の紹介に続き、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)の受賞企業へ表彰状とトロフィーを贈呈。受賞企業の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、選考委員からは選考評が述べられました。当日はYouTubeでライブ配信も行い、芸術文化支援に携わる全国の企業・団体の方々にご覧いただきました。
(アーカイブ動画:https://youtu.be/Bq-PHobqWlI

メセナアワード2022贈呈式 受賞者スピーチ

凸版印刷株式会社 代表取締役副社長執行役員 大久保伸一 様

メセナ大賞 可能性は無限で賞:凸版印刷株式会社 可能性アートプロジェクト

今回、栄えあるメセナ大賞を頂戴しました。社員一同、そしてこの活動を推進している関係各位、心を新たにし非常に励みになっております。企業メセナ協議会の皆様、そして審査にあたられた皆様に本当に深く感謝申し上げます。
思い起こしてみると、この活動は島根県にある「わんぱく学園」の土江理事長のお話から始まりました。土江さんが長男を出産された時、長男の首にへその緒がずっと巻かれて、それで酸欠状態でお産まれになったということです。おなかが大きい7ヶ月ぐらいの時に誤って転んで、おなかを強く打ってしまった。産まれてきた時に、この子を本当に育て上げられるだろうかと不安だったということです。ご夫婦で色々とお話しした中で、わが子の可能性を親が信じなければ誰が信じるのだと、誇りをもって子どもを育てよう、そして親がいなくなっても生活できるような、そういう社会をつくろうと誓いあったということでございます。子どもは障がいが残りましたけれども、絵を描く才能、これがすばらしかった。同じような方々が集まってNPO法人「サポートセンター どりーむ」を結成し、創作活動を始められました。よい作品ができましたが、作品は売ってしまえば、手元にはなにもなくなってしまう。作品を手元に置きながら、生活の糧にすることはできないだろうかと悩んでいたところで、ちょうど凸版印刷との出会いがありました。作品をデータ化し、そのデータを加工してお金にならないだろうか?と。
凸版印刷は1900年に創業しました。当時、大蔵省の印刷局で「エルヘート凸版法」という精緻な印刷技法を持った技師たちが、これを印刷局に置いておくだけではもったいない、世間で使おう、とスピンアウトしてベンチャーで立ち上げた会社であります。設立趣意書には「印刷術は美術なり」と書いてあり、まさにアートと親和性のある会社です。作品をデータ化し、そのデータを活かしてプリマグラフィー®や工事現場の仮囲いを飾る、あるいはポスター、カレンダー、カタログ、マスク、カートカン®、そしてメタバースを飾る展示物、さまざまなものに応用展開しています。のちにプロジェクトに加わった「障がい者アート協会」の熊本さんも、土江さんと同じような境遇であったということです。建設会社や不動産会社、多くの企業、多くの人々の下支えがあり、温かい援助があって、この活動が成り立っています。
一人ひとりの可能性は無限である。この無限の可能性の花を開くお手伝いができるということ、これは社員一同この上ない喜びであります。今後とも、障がいをもつアーティストの皆さんの経済的な自立ができるような社会を目指し、皆さんと一緒に協力体制を取りながら頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。

一般財団法人おおさか創造千島財団 理事長 芝川能一 様

優秀賞 すごいやん!この空間賞:一般財団法人おおさか創造千島財団 MASK ー見せる収蔵庫ーの運営


当財団の母体である千島土地株式会社は、2011年にメセナ大賞を受賞しています。一般に経営者というのは、自分の道がはたして正しい道かどうか、常に自問自答しながら歩んでおりますが、メセナ協議会の専門の選考委員会の方々から賞をいただいたということは、その道が間違いなかったということで、たいへん励みとなったものでございます。
千島土地は非常に歴史が古く、メセナ大賞受賞の翌年2012年に株式会社として設立100周年を迎えました。100周年と言いますと、ホテルにお客様方をご招待して、帰り際には記念品を差し上げたりするのが一般的ですが、代わりに100周年記念事業として、一般財団法人おおさか創造千島財団を設立しました。
今回、優秀賞を受賞した「MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA(MASK)」に、ヤノベケンジさんの大きな火を噴く作品《ジャイアント・トらやん》を昨年までお預かりしておりました。本作品は現在、大阪中之島美術館に収蔵展示されています。美術館に入りますと、二度と火を噴くことができません。そこで、昨年2021年11月に3日間に渡り、MASKにて、《ジャイアント・トらやん》のファイヤーパフォーマンスを開催しました。
今年2022年、千島土地は株式会社設立110周年を迎えました。この栄えある年にこのような賞をいただけたということは、「今後ますます頑張れ」ということではないかと思います。再び優秀賞、大賞をいただけるように努めて参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。

公益財団法人サントリー芸術財団 専務理事 福本ともみ 様

優秀賞 DXみとくんなはれ賞:サントリーホールディングス株式会社/公益財団法人サントリー芸術財団
「デジタルサントリーホール」、「まるごといちにち こどもびじゅつかん!オンライン」を中心とするサントリーホール・サントリー美術館のDX推進


このたびは、優秀賞というたいへん栄えある賞をいただきまして、誠にありがとうございます。
サントリーの社是には、「人間の生命の輝きを目指す」という一節がございます。私どもは、創業の年1899年からこれを目指して、「やってみなはれ」というチャレンジ精神を発揮しながら、「利益三分主義」をかたちにしてまいりました。サントリー芸術財団も、音楽や美術を通して人々の心に豊かさや潤いを届けたい、そして輝く毎日を送ってほしい、という思いをもって取り組んでいます。
コロナ前は、ホール・美術館あわせて年間約100万人のお客様にご来場いただいておりました。これをもっと多くの方にお届けしたいと、デジタルを使った新しい接点づくりの模索を続けていました。そんな時にやってきたのがコロナ渦で、接点を広げるどころか、一時はホールも美術館も閉館を余儀なくされました。ようやく開館できた時も、感染予防対策を取りながら、あるいは入場人数の制限をしながら、そして私たちスタッフ自身も健康管理をしながら、日々、今日展覧会をやる、コンサートをやるということ自体が苦労の連続でした。そうした中、「こんなときこそやはり心の潤いが必要ではないか」「芸術文化は不要不急ではないんだ」と、音楽をどうやったら多くの人に届けることができるのか?日本美術を楽しんでいただけるのか?と皆が考え知恵を絞って、今回の企画を実現することができました。そんなホール・美術館の仲間の思いや努力を、私自身心から誇りに思っています。そういう意味で今回の「DXみとくんなはれ賞」は、私たちの志を汲んでいただいた、本当に素敵なお名前だと思っています。
サントリーホールの「デジタルサントリーホール」上では、沢山のオンラインコンサートを行っていますが、このオンライン公演を聞いたあるお客様から、SNS上で「久しぶりにサントリーホールの素晴らしい音でライブの演奏を聴くことができて、思わず涙が出てきました。毎日一人でパソコンに向かっていた心に、美しい音楽が染み込んできました。」という非常に嬉しいお声をいただきました。本当にやっていてよかったなと思いました。一方で、やはりリアルで音楽・美術をお客様とともに楽しんだり、あるいはお客様と直接触れ合う場や時間を私たちは大切にしたいと思います。
これからは、リアルだからこそ五感を通してできる体験、デジタルだからこそ可能になる時間や空間を超えた体験、それぞれの価値を追求しながら知恵を絞っていきたいと思います。そして、この”DXみとくんなはれ賞”の名前に恥じないよう、常に”みとくんなはれ”といえる新しいワクワクする価値創造を続けてまいります。本日は誠にありがとうございました。

シミックホールディングス株式会社 代表取締役会長CEO 中村和男 様

優秀賞 明日のキース・へリング賞:シミックホールディングス株式会社 中村キース・ヘリング美術館 国際児童絵画コンクール


このたびは「メセナアワード」の優秀賞、ありがとうございます。
私のもう一つの顔として、キース・へリングのコレクターです。私が彼に惚れ込んだのは、シンプルな作品の中に「なにかあるぞ」という感覚でした。そして作品を少しずつコレクションし、中村キース・へリング美術館を建てたのですが、美術館設立にあたっては一つのテーマがありました。それは、キース・ヘリングの作品を通して、私自身が社会的な課題を伝えるということです。日本のお寺のような、シンプルにして削ぎ落としたものの中で表現する彼のアートに対する姿勢にたいへん共感し、美術館を「バイブルのない教会」、または私自身が思い描く京都の三千院のようなかたちを表現しました。美術館に足を踏み入れると、まるで禅の世界のような、館内を歩いていくと、自分の感性のままに作品を感じてもらえると思います。キース・へリングは、作品を通じて社会的な課題を訴えています。それは戦争や地球規模の問題、人種の問題、または色々なかたちのLGBTQなども含まれています。
そして、美術館開館の2年後に「国際児童絵画コンクール」を始めました。最近の子どもたちの作品を見ると、「環境問題」を取り上げることが多かったため、本年は募集テーマを環境問題に絞り、作品を募集しました。私が一番感激し、学んだのは、子どもたちにとっては昆虫も、動物も、魚も、それから自分の周りも仲間ということ。そういう目で見た時の作品は、本当に素直に「環境問題に真剣に目を向けないとまずいよね」と感じさせてくれました。そして、今回ウクライナからも応募がありました。彼らの作品を見ると、とても明るく、未来を感じるものがありましたが、同時にとても心が痛みました。作品には、それぞれの国の文化や現状、色々な環境が、素直にストレートに伝わってきます。
よりよい未来のために、どうしていけばよいか?それは子どもたちとともに考えなければなりません。地球の問題やSDGsは大人たちだけの問題ではなく、むしろ子どもたちの方が、大人以上に危機感を持っています。子どもたちを巻き込んで、取り組まなくてはならないのです。
今回のアワードで私どもの活動が評価され、また今後の課題を頂戴したと思っております。ありがとうございました。

株式会社竹中工務店 取締役 名誉会長 竹中統一 様

優秀賞 美を建て文化を築くで賞:株式会社竹中工務店/公益財団法人ギャラリー エー クワッド  建築・愉しむをコンセプトに次世代へ継承する本質的な美を探索する

私どもの会社の歴史を振り返ってみますと、名古屋で寺社仏閣の宮大工としてスタートし、1899年(明治32年)に祖父の竹中藤右衛門が当社を創立しました。1990年代後半からは建設業界にとってもたいへん厳しい時代がきていたこともあり、本社を築地にほど近い銀座8丁目から江東区東陽町に移ることを決心しました。東陽町の周辺は、もともと江戸時代から木場が近く庶民の街であり、江戸から明治、大正、昭和にかけてはほとんどの建造物が木造建築の地域であったと思われます。そういう地域に私どもは2004年、東京本社を移しました。
その1階に設けたのがギャラリー エー クワッドで、開設以来、さまざまな企画展やシンポジウムを通して建築文化を発信してまいりました。庶民の町・東陽町でございますので、私どもが目指したのは、一般の方々や子どもたち、また広く地域の皆さんに来ていただけること、また普段着のままで皆さんが来ていただけること、そんなギャラリーにしたいと考えました。
建築は、人々の暮らしや働き方、また自然環境と密接につながっています。私どもは、人々の生活のかたちである建築を、文化やその歴史とともに発信し、興味や関心を持たれる方を一人でも増やすことによって、美しい街、人々の心の豊かな生活が次世代に継承されるように願っています。
今回の受賞は2014年のメセナ大賞に続き2回目の栄誉となり、私もたいへん光栄に存じております。私たちは、昨年創立60周年を迎え、のべ3,600名以上を奨学生として迎えた「竹中育英会」、私の父が宮大工の伝統を継承したいとスタートして30年を超えた、神戸の「竹中大工道館」、そしてこの「ギャラリー エー クワッド」の3つの公益財団法人の運営支援を行い、これからも未来を担う人の育成、また先人の知恵が詰まった竹中大工道具の伝承、そして建築文化に関する情報発信を力強く進めていきたいと思っています。今後もこれらの活動を連携させ、日本の建築文化を未来に継承していけるように、一層の力を注ぐ覚悟でございます。皆様方のご支援に心から感謝申し上げるとともに、ギャラリー エー クワッドの関係者一同に代わりまして、心から御礼申し上げる次第でございます。ありがとうございました。

日本カバヤ・オハヨーホールディングス株式会社 代表取締役社長 野津基弘 様

優秀賞 未来を歌って踊りま賞:日本カバヤ・オハヨーホールディングス株式会社 岡山子ども未来ミュージカル「ハロルド!」

錚々たる企業の皆さまと並び、弊社がこのような名誉ある賞を受賞させていただけたこと、とても光栄に思っております。このようなかたちで皆さまとお会いできること、そしてこの場に立たせていただけることに大変感謝しております。
このミュージカルの出演者は、200人以上の応募者の中から、約60人の子どもたちがオーディションを経て選ばれます。1か月で大体のセリフ、歌や振付を覚え、2ヶ月目は徐々に慣れてきて役をつくりこみ、3ヶ月目でしっかりかたちにしていきます。限られた時間の中で集中してミュージカルに取り組む様子には、我々大人たちがびっくりさせられます。
私、塩野七生さんの『ローマ人の物語』が大好きで、その本に登場する皇帝アウグストゥスの友人であり重臣でもあるマエケナスから、芸術・文化の重要性を学ばせていただきました。その時代に、ローマによる平和“パクス・ロマーナ”を実現したわけですが、芸術・文化を中心にするとあらゆる立場の人々が対等になり、そのうえで、人としてどうより善く生きていくべきかを追求できる仲間になることを目指して、日々芸術・文化活動をしています。
社団法人などの別組織をつくっているわけではないため、社員が日々の多忙な業務の中から時間をひねり出し、子どもたちのケアや協賛企業・自治体の方々へのご挨拶、細やかな事務処理など多岐にわたる運営業務をしています。この場を借りて心より感謝したいと思います。我々が子どもに対して教育するというよりも、我々自身も子どもたちとともに学び、より善く生きることで、社会に貢献することを目指してまいります。本日は本当にありがとうございました。

選考評

委員長 萩原なつ子 氏

受賞された皆さま、本当におめでとうございます。振り返りますと、本当に楽しく、すべての活動に賞を差し上げたかったです。選考会では、活動を一つひとつ見ながら「ほぉ~」「ここ行ってみたい!」「ここ行ったことある!」という風に、委員一人ひとりの言葉の中で選考させていただきました。
やはり子ども、そして障がいを持った方、元子どもたちの方も含め、色々な方の幸せというか、喜びを引き出している活動がたくさんあったと思います。そして、コロナの中で色々な工夫があって、今まででは考えられないような方法を生み出されていたと思います。先ほどの活動紹介にもあったように、これまで1,000人規模でしか参加できなかったものが、ハイブリッドにすることで本当に多くの方たちが参加できるようになったというのは、とてもすばらしいことと思います。色々な方が参画することを可能にしていく、そうした点でもピンチをチャンスにつなげていった活動がたくさんあったと思います。
それから、やはり文化芸術というのは、さまざまな”ウェルビーイング”に貢献するすばらしい活動ということがあらためてわかりました。もう一つ、色々な人たちをつなぐ役割、そして幸せにしていくための、まさに人の暮らしや命を支える基盤である”ヒューマンインフラストラクチャー”としての文化芸術活動だと思います。これから、まさに2つの「想像力(イマジネーション)」「創造力」をもっと掻き立て、そして日本、世界、そして地球を元気にするような活動をますます展開していただきたいと思います。本当におめでとうございます。

はぎわら・なつこ|独立行政法人国立女性教育会館理事長/(認特)日本NPOセンター代表理事
お茶の水女子大学大学院修了。博士(学術)。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学助教授、立教大学教授を経て、現職。立教大学名誉教授。専門は環境社会学、非営利活動論。著書・編著に『市民力による知の創造と発展』『としまF1会議ー消滅可都市都市270日の挑戦』など。

新井鷗子 氏

このたびはご受賞誠におめでとうございます。長引くコロナ禍、そして戦争など、企業を取り巻く状況はますますたいへんになっていると思いますが、その中でたいへんな工夫をして文化芸術の支援の歩みを止めないでいる姿に、誠に敬服しております。
これまでのメセナ活動は、どちらかといえばアーティストの芸術文化活動を外側から経済的に支援するというかたちが多かったように思いますが、今回の選考を通して、企業が「自分ごと」としてその芸術文化活動に参加する、企業のリソースを活用するといった方向に変わってきているように感じました。そうした中で、今回大賞を受賞した凸版印刷さんは、障がいのあるアーティストたちを支援することで、企業のリソースである人材育成や技術の活用につながっている、両者がwin-winの関係になるような持続可能な仕組みが、一つのモデルケースとして高く評価されました。
これからも、アーティストにとっては生きがいとなり、企業の皆さんにとってはやりがいとなるようなメセナ活動がどんどん増えていくことを願っています。本日は誠におめでとうございました。

あらい・おーこ|横浜みなとみらいホール館長/東京藝術大学客員教授
東京藝術大学楽理科および作曲科卒業。NHK教育番組の構成で国際エミー賞入選。「題名のない音楽会」等の番組構成を数多く担当。東京藝大で「障がいとアーツ」の研究を推進し、1本指で弾けるインクルーシブな楽器「だれでもピアノ®︎」の開発に携わった。著書に「おはなしクラシック」、「音楽家ものがたり」等。

佐倉 統 氏

このたびはメセナアワード大賞、優秀賞のご受賞誠におめでとうございます。この困難な時代にさまざまな創意と工夫をしながら活動を継続していることを、心よりお祝い申し上げると同時に敬意を表したいと思います。
私はこの選考委員が今年で3年目で、ちょうど2020年のコロナになった年から務めています。最初の年は、(選考対象の)活動自体は1年前が主ですが、どうしても申請書や選考会の雰囲気、応募活動が、ひたすら耐え忍ぶという感じのものが多かったです。しかし、昨年になると、なんとか乗り切ろうという雰囲気のものが出てきて、そして、今年度の活動を拝見すると、これをむしろ良いきっかけとして未来の社会をつくっていこう、今までにない新しい社会をつくっていこう、という非常に前向きの姿勢で、この辛い時代にありながら次世代、未来の息吹を感じさせるものが多かったと思います。
大賞の「可能性アートプロジェクト」は、今までのアートとは少し違う価値観を見出す活動ですし、優秀賞の中にも、未来や子ども・次世代といったキーワードや、あるいは地域に密着してそういう活動を広げていこうというものが多く見られました。コロナによってあり方が変わった社会や人々の関係を単に元に戻すのではなく、これをきっかけに今まで足りなかったところや新しい価値、新しい社会をつくっていこう、という意欲が感じられたことが大変嬉しく、また有難く思いました。
一部には、何事もなかったかのように戻ってしまっている動きが日本だけでなく世界にもあるように思いますが、そうではなく、せっかく皆さんのような活動をしているところがたくさんあるのですから、これをよいきっかけとして、日本の社会が新しい時代にふさわしいものになることを祈念する次第でございます。本日は本当におめでとうございました。

さくら・おさむ|東京大学大学院情報学環 教授/理化学研究所 革新知能統合研究センターチームリーダー
1960年東京生れ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了、理学博士。東京大学大学院情報学環教授。いろいろな科学技術と社会の関係が研究テーマ。おもな対象はロボット・AI、脳神経科学、進化論など。主著『科学とはなにか』『現代思想としての環境問題』『進化論の挑戦』『進化論という考えかた』『科学の横道』。

中島信也 氏

このたびはご受賞本当におめでとうございます。心よりお喜び申し上げます。
私はテレビのコマーシャルの演出家を40年間やっています。近年、広告の世界もコロナや地球の気候変動だけではなく、経済的にも各企業たいへん苦しい状況に置かれており、特に日本の企業は「どうしたらよいのかわからない」という状況です。広告というのは、まさに企業の姿を映す鏡でございます。企業が広告効果、経済的な効果を求めるというかたちが目についてきていますが、これは景気がよくない中、高いお金を払って広告を出稿するわけですから、それなりの見返りを求めるのは当然なことではあります。ただ、私が広告の世界に入ってきた時、コマーシャルは、日本を代表する企業が生活者とよいコミュニケーションをつくり、企業と国民を結ぶ大事なものでした。
メセナ活動も、景気のよい時に「余剰資金をつかって芸術でも盛り上げよう」ということがなかったわけではないと思います。では、景気が悪くなるとしぼんでいくのではなかろうか?という危惧がありました。しかし今年の選考を見ると、規模ではなく活動の中身が大変前を向き、明るくなってきている。そして、企業として芸術を支えていくというよりも、企業自身、自分たちを見つめる目とメセナ活動が凄くつながっているなと思いました。
今、経済的な効率だけを求める企業は、おそらく多くの人の心から離れていき、皆で幸せになっていこうよという姿勢を持つ企業は生き残っていくのではなかろうかと思います。経済的な面だけではなく、皆で、皆が幸せな社会をつくっていく活動を行う企業は発展していくと。コマーシャルも、皆を幸せにするコマーシャルをつくっているところが、生き残っていくと思います。
大賞の活動も、メセナ活動でありながら、社員による社員のためのイベントとしてつくられている。これは今までなかった動きで、そうしたかたちで企業がどんどん皆の幸せのために活動を続けていくこと、そこしかこの世界で明るさを見出せないのではと思っています。これからもぜひ頑張っていただきたいです。我々も「すごいええよ、この会社は!」「ものすごいことやってるんやで!」と宣伝していきたいと思いますので、ぜひこれからも、よい世の中、若者が希望を持てるような世界を一緒につくっていきたいと願っています。このたびは本当におめでとうございました。

なかじま・しんや|(株)東北新社エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター/CM演出家
武蔵野美術大学客員教授 福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。カップヌードル「hungry?」でカンヌ広告祭グランプリ。デジタル技術を駆使したエンタテイメント性の高いCMを数多く演出。

仲町啓子 氏

このたびは受賞をされた皆さま、本当におめでとうございます。
私は、一昨年まである学術賞の選考をしていました。それは難しい論文を読んだりして苦行だったのですが、このたびメセナアワードの選考に携わるようになりまして、また別の意味での苦行になりました。先ほど、企業の皆さんによる説明をご覧になったと思いますが、実に多彩です。内容だけではなく、目的も規模も、そして各企業の特質の活かし方、人材の活かし方も非常に多彩です。そうした中で、優劣をつけることが果たしてできるのだろうか?というのが、私の正直な感想です。ですが、やはりこの選考に残ったというのは、選考委員の同意というか、我々がそれぞれ違った立場から見て評価できるというか、非常に共感できる。そこに流れている、人間に対する温かい眼差し、愛というと少し大げさですが、やはり人間への想いがそこに感じられるかどうか、それが私にとって選考のときに一番大事だったと思います。かたちというよりもその中身の重さが、少しでも私たちに伝わってくることができたら、それが得点につながったかなという気がします。
この選考に関わることは、初めは非常に不安でしたが、実に楽しいです。色々な創造力や工夫のぶつかり合いというか、「こんなことがあるのか」「こういうことを考えている企業がいるのか」とか。それはとてもおもしろいというか、それを発見することは、少し大げさにいえば人生観の変わることでもあります。本当にそういう意味では、非常に楽しく選考させていただいたことに、むしろ私の方が感謝しています。本日は本当におめでとうございました。

なかまち・けいこ|実践女子大学名誉教授/秋田県立近代美術館特任館長
東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位修得退学。専門は日本美術史、特に琳派を初めとした江戸時代の絵画・工芸の研究。また江戸時代の女性画家作品の発掘・調査にも努めてきた。主著に『光琳論』(中央公論美術出版社、2021年度國華賞及び徳川賞受賞)。近年は地方の芸術文化振興の問題にも強い関心を抱いている。

山口 周 氏

受賞された企業・団体の皆さま、本当におめでとうございます。
今、企業というのは非常に厳しいまなざしが注がれるようになってきています。これは日本以上に特にヨーロッパで起こっていて、日本とヨーロッパの報道を見ていると相当な温度差があります。例えば、日本は気候変動に関わるニュースがほとんど流されていなかったと思いますが、ヨーロッパでは連日ライン川が干上がりしたと報道されていました。ライン川はヨーロッパの物流の要であり、日本でいうと東名・名神の高速道路がアスファルトが溶けて使えなくなったというほどのニュースです。二酸化炭素を排出している活動の大半は企業が行っていますから、今企業は非常に厳しいまなざしで見られています。
そうした中、スイスに本拠地を置く経済団体で、私もお手伝いしている「ダボス会議」がありました。今年の年次総会のテーマが「ステークホルダー資本主義」。つまり、企業は今まで重視されていた株主だけではなく、顧客・従業員はもとより、その地域に関わりのある人たち、すべてのステークホルダーに対して正味の価値でプラスのものを提供できないといけない、そういう会社でなければもう生き残れないだろうということでした。現実として、そこの部分に疑義のある会社は非常に強いバッシングを受けるようになってきています。過去の歴史をみると、そうしたヨーロッパの空気は10年から20年ぐらいかけて日本にも同じように入ってきます。ですので、ここから先おそらく日本企業も「あなたの会社は存続していることで社会にとってプラスの価値を本当に出しているのか」と厳しく問われる時代になってくると思います。
そうした時に、おそらく多くの会社がお手本、あるいは先行事例を求めるようになると思います。今回あらためて色々な活動を見て、こうした活動を行うとちゃんと人は来てくれる、あるいはステークホルダーが評価してくれて、会社の内部にいる人もその地域にいる人たちも「この会社があって良かった」と感じられる、多くの企業に対して指針、もっというと勇気を与えてくれる先行事例になるのではと思います。そしてもう一つ思ったのは、以前の会社の同期と久しぶりに会うと、「自分の仕事なんて」と言って少しやさぐれていたりするんですね。しかし、今日あらためて活動発表を聞いた時の皆さんの誇らしい顔。やっぱり仕事はこうじゃないと!と、あらためて自分もそういう仕事しなきゃ駄目だと、大変大きな勇気をいただきました。本当にお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。

やまぐち・しゅう|独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
1970年東京生まれ。慶大文学部、同大学院修了。電通、BCG等で戦略策定、文化政策立案に従事した後に独立。株式会社ライプニッツ代表。ダボス会議メンバー。著書に『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』など。

トロフィー紹介

作家 後藤 宙 氏

本日は、受賞された企業や団体の皆さま、本当におめでとうございます。
「構造・上昇」というトロフィーのタイトルについて、僕の中で2つのメタのようなものがあります。1つ目は作品の中で使用しているステンレスの鏡面仕上げの板を、社会や世界が変化していく状況のメタファーとして表現し、取り込んでいます。2つ目は糸によって連綿と続いていくメセナ活動、文化芸術活動という意味合いで、糸のパターンを組み合わせて作品としています。それらが混じり合った状態によって、上を向いて上昇していくような雰囲気をまとわせられたらと思っています。さまざまなメセナ活動があり、いろいろな方向性を持っているとは思いますが、何かしらポジティブな方へ向かってほしいと「上昇」というタイトルをつけ、そのようなイメージで製作しました。今年度は糸の色が変わり、よりトロフィーらしい作品になっています。
僕もアーティストの端くれとして、インスタレーションや作品製作などやっております。財団様や企業様からも支援いただいており、このような活動が続いていってほしいなと心から願っております。本日は本当におめでとうございました。

ごとう・かなた
1991年東京生まれ。2018年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。幾何学的な法則性やトーテム的表象をモチーフとして作品を制作している。2016年Tokyo Midtown Award アート部門にてグランプリ受賞。その他受賞多数。

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