「テクノロジーを駆使して作品をつくり、豊かなくらしに貢献する。それが凸版印刷の使命であり、DNA」
麿 秀晴 凸版印刷株式会社 代表取締役社長
―メセナ大賞を受賞された感想をお聞かせください。
大変うれしく思っています。社会貢献につながる活動は、その重さを実感できる機会が多いとはいえません。そのため今回の受賞は、多くの従業員にとって大いなる励みとなりました。
もちろん当社だけで成しえたものではありません。「障がい者アート協会」、「サポートセンターどりーむ」様をはじめ、ご支援いただいた皆さまのおかげで4年間の活動を継続、拡大することができました。この場を借りて、あらためて感謝申し上げます。
―「可能性アートプロジェクト」のみならず、「印刷博物館」や「トッパンホール」の運営など、芸術支援に積極的です。経営の中で、メセナ活動をどのように位置づけされているのでしょうか?
事業と直結した“当たり前の活動“と認識しています。
当社は創業から122年間にわたり情報・文化の担い手として社会貢献や社会課題の解決をはかってきました。「印刷」を原点とする「印刷テクノロジー」を核にさまざまなコンテンツを広く普及させ、豊かな社会を下支えすることが我々の事業の本質であり、DNAともいえます。
2000年に制定された企業理念にも「彩りの知と技をもとに こころをこめた作品をつくりだし 情報・文化の担い手として ふれあい豊かなくらしに貢献する」との記載があります。
また、「印刷博物館」の設立理由も、印刷を通して生まれる価値を世の中に知ってもらいたい、との志が根本にあります。世界に印刷博物館は数多ありますが、ほとんどが国営です。それだけ印刷には公的な意義があり、価値ある事業であることの証左でしょう。
これらの活動は今後の事業運営においても、新しい価値を創造し、より豊かな社会を実現するうえで、その可能性を高める重要な活動と位置づけています。
―確かに「可能性アートプロジェクト」も、障がい者アートの新たなビジネスモデルになっています。
はい。実際の展示作品は「プリマグラフィ―®」という当社独自の高精細な印刷技術で表現したものですが、アートとして販売するだけではなく、さまざまなかたちでプロダクト化され、著作権利用料が障がいをもつアーティストの方々に支払われるビジネスモデルです。当社にはすでに2万社を超える多彩な業界のお客さまがいらっしゃいますので、可能性アートを用いた新たな共創プロダクトの提案などにも踏み込んで進めることができます。
持続的なビジネスになりえるからこそ、持続的な文化芸術の支援ができ、持続的な障がい者の方々の自立支援ができるのです。
加えて、お客さまからのニーズに応える受動的なビジネスが主流であった当社としては、このような自発的な提案型ビジネスを展開できるのは大変、意義があります。
現在、すでに当社の売上の7割は、紙の印刷以外の事業で成り立っています。DX(デジタルトランスフォーメーション)やSX(サステナブルトランスフォーメーション)をはじめとした新しく幅広な事業リソースを社内外に伝える契機にもなりえます。毎年、このプロジェクトを新入社員研修に取り入れているのも、そうした高い視座と柔軟な発想力を自然と身につけてほしいとの狙いがあります。
―メセナ活動における、今後のビジョンは?
印刷から派生した新たなテクノロジーによる表現を、メセナ活動においても積極的に活用していきたいと考えています。現在も仮想のメタバース上の住宅展示場などを制作しているほか、メタバース空間に可能性アートの作品を展示し、NFT(非代替性トークン)アートとして版権を担保しながらデジタル上で販売する仕組みなど新たなビジネスを推進しています。
今後も凸版印刷は当社のDNAを継承し、テクノロジーを駆使しながら情報・文化の担い手として、ふれあい豊かなくらしに貢献し続けていきます。
[聞き手・構成:箱田高樹(カデナクリエイト)]
まろ・ひではる
1956年 1月29日生
1979年 凸版印刷株式会社入社
2009年 同社 取締役
2012年 同社 常務取締役
2016年 同社 専務取締役
2018年 同社 代表取締役副社長執行役員
2019年 同社 代表取締役社長
現在に至る
メセナアワード2022 メセナ大賞受賞
凸版印刷株式会社
可能性アートプロジェクト
活動内容
「可能性アート」とは、無限の可能性を秘めた障がいをもつアーティストの作品を指す。凸版印刷は、一人ひとりの持つ多様な才能や感性を、自社独自の技術やノウハウで付加価値化することにより、障がい者の自立支援と事業活動の両立を目指している。同プロジェクトは2018 年よりNPO 法人サポートセンターどりーむ、後に(一社)障がい者アート協会の協力を得て推進され、この活動プロセスを通じた次世代リーダーの人財育成にも活用されている。
障がいをもつアーティストから作品を募集し、社員投票で選定された数十点が高精細な画像データに変換され、独自技法によるデジタルリトグラフ「プリマグラフィー® 」に生まれ変わる。毎年入社式で本社社屋をはじめ、「可能性アートプロジェクト展」として社内外に展示される。また、新入社員研修で「作品の価値をどのように最大化できるか」をテーマにアイデアを出し合い、各部門が連携して具現化・商品化していく。作品は営業社員がグループの得意先に向けて紹介し、障がい者アートの認知向上と活用促進を図っている。
作品が販促物のデザインなどに採用されると、アート使用料が対価としてアーティストと支援団体へ支払われる。これまでに建設現場の仮囲い、会員誌やカレンダー、紙製飲料容器など幅広く採用され、還元金額は400 万円を超えている。さらに、2021 年は京都の大徳寺「瑞峯院」を再現したVR 空間でオンライン展示会を開催、30 ヶ国以上の訪問者から好評を博した。今年はメタバース上での展示やNFT 販売など新たなテクノロジーを活用した展開も始まっている。
アーティストが自身の想いを表現し活躍できる場として、これまでに91 名(197 作品)が参加している。対等なビジネスパートナーとしての信頼関係が、さらなる可能性を切り拓いていく。
評価ポイント
自社技術とアートによる新しい持続可能な仕組みを創出し、社会課題解決と経済活動の両立に貢献している。
社員が新たなビジネスモデルに参画することで人財育成につなげ、さらなる支援へと発展が期待できる。
企業プロフィール
本社所在地:東京都文京区
創業年:1900年
資本金:1,049億8,600万円
従業員数:54,336名(連結)
主な事業:「印刷テクノロジー」をベースに情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクス分野で事業展開
URL:https://www.toppan.co.jp/
(2022年3月現在)
『メセナアワード2022』掲載(2022年11月24日発行)