株式会社長谷工コーポレーション

“集まって暮らす”楽しさを伝え、次世代を育む学びの拠点に
集合住宅のすべてがここにある!「長谷工マンションミュージアム」

新宿から急行電車に揺られて約20分、降り立ったのは多摩センター駅。駅前には広々とした歩行者デッキが広がり、緑豊かな植栽に彩られた道を、レジャーに向かう家族連れ、仕事の時間にランチを楽しむ人々、近隣のマンションから買い物に出かけてきた人々がすれ違う。自動車の往来を気にする必要のない安心感からか、都心部のせわしなさから切り離されて、ゆったりと時間が流れているような心持ちになる。

今回の訪問先「長谷工マンションミュージアム」の入口は、駅前から続く歩行者デッキを南へ10分ほど歩いて行くと見えてきた。

 

長谷工マンションミュージアム

 

”集まって暮らす”ことの豊かさを伝えたい、その一心で

長谷工マンションミュージアムは、長谷工グループ創業80周年記念事業の一つとして2018年に開館した。企業ミュージアムでありながら、あえて企業色を抑え、UR都市機構や各メーカー等の力添えを得て取り揃えられた多彩な資料によって、”集まって暮らす”ことの魅力をさまざまな角度から伝える工夫が随所に凝らされている。建設業界の中でも、マンションの設計・施工を担い、分譲・管理・修繕に至るまでマンションで暮らす人々の人生に寄り添う包括的な事業分野で企業の歩みを進めてきた、まさにマンションのプロフェッショナル集団といえる長谷工グループだからこそ実現できた施設だ。

取材チームを迎えてくれたのは、長谷工マンションミュージアム館長の江口均さん。江口館長は、現場監督、販売、設計と経験を積み、マンションづくりの技術と、お客様と目線を合わせる姿勢の両方を現場で鍛えて、よりよいマンションのあり方を模索されてきた。

 

長谷工マンションミュージアム 館長 江口 均さん

 

いざ館内見学へ!

長谷工マンションミュージアムを一通り見学するのにかかる時間はおおむね90分。館内見学のプロローグは大迫力の360度シアター。圧倒的なスケールの広がりを見せる集合住宅の世界に一気に引き込まれる。

続く〈集合住宅のあゆみ〉ゾーンには、壁一面に年表がずらり。日本国内の状況のみならず、社会全体の動きや世界の集合住宅の変遷とあわせて理解できる。

 

左手には年表がずらり、テーマ毎の詳しい解説は右手の壁に

 

さらにここではタブレット端末を利用した〈アバターガイド〉も活用することができる。コロナ禍に対面の館内ガイドが制限されたことをきっかけに生まれた、来館者のもっと知りたい!に何でも答えてくれる最強ツールだ。

 

ロボット博士・石黒浩氏監修、タブレット端末を用いたアバターガイド
「遠慮なくなんでも聞いてください!」と江口館長

 

実物の素材・大きさを見て触って比較して、暮らしの変化をリアルに体感!

さて、大量の文字情報の海をくぐり抜けたら、今度は実寸大での体感コーナーだ。1970年代と最新のモデルルームを左右に並べた展示構成。マンション技術が進歩することで、住まいの空間が変わり、そこに暮らす人々の生活が変わる。再現された住戸の中を歩きながら、見上げたり手を広げたりして比較することができるのは、実寸大ゆえの魅力だ。

 

マンションの最先端、すごすぎる!と取材チーム一同の感動が止まらない

 

江口:私たち長谷工のモットーは、お客様の声に耳を傾け、その期待に必ず応えること。それを続けていくことが、技術をアップデートし、暮らしをもっと豊かにしていくんです。

モデルルームで紹介されている最新のマンションの構造や素材は、そのほとんどが長谷工グループの分譲マンションの居住者から寄せられた日々の困りごとを受けて、それらを改善するために技術開発を行い、製品化に漕ぎ着けたものだという。試行、実装、検証、改善がスピード感を持って実行されていくところに、よりよいマンションづくりに本気で向き合っている長谷工グループの覚悟が見てとれる。ミュージアム運営にも、そうした企業の考えが反映されているため、常によりよいものを目指す努力を欠かさない。

 

マンションづくりの現場を体験してみよう!

マンションの設計・施工プロセスを知るゾーンで、特に興味を惹かれるのが、ARを用いた設計シミュレーションだ。コンピューターが普及する前は手書き図面が当たり前だった建築設計業界も、デジタル化が進み、BIMと呼ばれる3Dモデリングでの設計手法が普及しつつある。長谷工グループのマンション設計では、ほぼ100%BIM設計が採用されているということで、体験コーナーでは工期や日照等の与えられた条件に対して、タブレット端末上で3Dモデルを動かしながら階数や日影の検討を行い、BIMを使ったマンション設計を疑似体験することができる。

 

タブレットを敷地模型にかざしながらゲーム感覚で楽しめる設計シミュレーション
数々のミッションをクリアして、最適なマンションを計画してみよう!

 

続く施工コーナーでは、実際の鉄筋を触ったり、実寸大の杭の模型を眺めながら杭工事のプロセスをイメージしたりすることができる。マンションに限らず建築業界に携わる方であれば、一度は見ておきたいイチ押しの展示だ。

 

「この空間におさめるために、これでも一番小さな杭を選んだんですよ」と江口館長
地中に埋まって普段は見ることができないが、杭はマンションの基盤を支える重要なポイントだけに
ここでじっくり観察してみてほしい

 

ミュージアムは、ユーザーの本音と向き合える場所

江口:来てくださった方にどれだけマンションを好きになって帰ってもらえるか、これが当ミュージアムの最重要ミッション。

ミュージアムの価値は来場者数にあらず。集まって暮らすことの魅力を一人でも多くの来館者に知ってもらうことが、ひいてはマンション業界の発展を支え、企業の利益にもつながる、というのが長谷工グループの考え方だ。

長谷工マンションミュージアムの館内見学では、江口館長を筆頭にミュージアムスタッフと来館者の距離がとても近い。

江口:来館してくださった皆さんとざっくばらんなコミュニケーションを取らせていただくと、分譲マンションの見学会とも市場調査とも違う、生の声に触れることができるんです。生活している中での些細な違和感、もっとこうだったらいいのにという惜しい部分が、ミュージアムを見学している過程でふと出てくることがある。お客様のそうした小さな言葉を細やかに拾い上げて、潜在的なニーズや課題点として、技術開発や設計、営業の現場にフィードバックしています。

長谷工マンションミュージアムは長谷工グループにとって、ユーザーの本音と向き合える窓のような存在なのかもしれない。

 

何度訪れても新しい!に出会えるミュージアムを目指して

長谷工マンションミュージアムの開館にあたっては、江口館長自ら多くの企業ミュージアムを視察し、研究し、情報を集めたという。

江口:お客さん目線で体験しないことには始まらない。日本全国にはおもしろい企業ミュージアムがたくさんあって、とにかく足を運んで、たくさん相談に乗ってもらいました。開館準備チーム総出で、自分の目で見て体験して、いい!と思ったアイディアを持ち寄って試行錯誤して、開館に漕ぎ着けることができました。

 

長谷工マンションミュージアム エントランス
開かれた明るい印象の空間で来館者を迎える

 

2018年の開館から5年が経過し、その間にコロナ禍も経験した。人々の家での過ごし方や暮らしを巡る関心事も日々変化している。

江口:人々のライフスタイルの変化に応じて、住宅に求められる機能や価値もどんどん変わっていくものです。だから私たちの長谷工マンションミュージアムも、来館してくださった皆さんが常に新しい発見に出会える場でありたい。資料は日々充実していくし、技術も更新されていくので、自ずと展示もアップデートします。先日リピーターの方が「この前来たときにはなかった!」と気がついてくれたのはうれしかった。小さな変化も見逃さないでほしいですね。展示内容や見せ方もまだまだ工夫できると思っています。

 

集合住宅の特性を活かした様々なアイディアが壁一面に描かれている〈これからの住まい〉ゾーン
もっとずっと先の未来ではなく、ちょっと先の手が届く未来だと思うと、想像が膨らむ

 

たとえば、コロナ禍をきっかけに始まったのが「長谷工マンションミュージアムバーチャルツアー」。遠方で来館が難しいという方向けも、WEB上で館内を探索できる。また、香港や韓国といった海外の不動産関係企業からの視察の問い合わせ増加を受けて、Q&Aの多言語対応についても充実を図っていく予定だという。

 

多摩エリア一体となって、次世代の学びの場に

多摩ニュータウンといえば、1960年代に都心部の急激な人口増を受けて開発が始まった国内最大規模の郊外型住宅地だ。企業誘致条例の効果もあいまって、多摩市には企業の拠点オフィスや研究所も多く、多摩ニュータウンエリアには、長谷工マンションミュージアムを含めて7つのミュージアムがあるそうだ。

江口:当館を含めた7施設で「多摩センター地区連絡協議会 ミュージアム部会」を組織し、業界の垣根を超えた交流や連携を深めています。単一の館では難しいことも、地域の縁でスケールの大きな試みができるのはおもしろいですね。

 

道を挟んで左手が長谷工マンションミュージアム、右手がKDDIミュージアム/KDDI アートギャラリー

 

開館当初は取引先企業や協力会社を中心に見学会を行っていたが、その充実ぶりが教育現場や自治体からも注目され、次世代のための活きた学びの場としても実績を重ねている。

江口:小学生の社会科見学ツアーのほか、中学校の社会科の先生たちが授業のためのリサーチとして勉強会ツアーを組んでくださったり、内閣府・文科省・経団連が共催する「夏の理工チャレンジ(通称:リコチャレ)」の一環で女子小中高生を対象とした「マンションまるわかりツアー」を実施したりと、さまざまな学びの場としての可能性が広がってきています。

リコチャレでは、ミュージアムの見学だけでなく、隣接する技術研究所でコンクリート練りと強度試験を体験できるプログムも実施。自分で練ったコンクリートの強度を、実際に壊してみることで確かめることができるなんて、考えただけでわくわくする。本物を体験させてくれるところに、本物志向・現場主義の長谷工らしさがうかがえる企画だ。

 

リコチャレの様子

 

また、長谷工マンションミュージアム敷地内には、多摩エリアの在来種の動植物で構成されたビオトープがあり、子どもたちが自然に触れ合いながら学べる空間としても活用されている。長谷工グループは、建設事業においてSDGsに重きを置き、環境負荷の低減や生物多様性を活かしたマンションづくりを掲げている。その考え方は、ビオトープをはじめ、長谷工テクニカルセンターのエネルギーシステムや外装仕上げにも反映されている。

 

長谷工マンションミュージアムのビオトープ

 

関東大震災から100年の夏、日々の防災意識を高めるきっかけに

2023年の今年は関東大震災から100年のタイミング。長谷工マンションミュージアムでは、多摩市と協力して防災イベントを実施したり、独自の防災マニュアルを作成したりと、地域の連携と自社のマンション管理の実績を活かしながら、日常的な防災意識を高める活動を行なっている。防災フェスタでは、東京消防庁 多摩消防署、多摩市、多摩市消防団と協力して〈VR防災体験車〉を使った防災体験や、実際の災害を想定したリアルな体験が参加者に好評だ。

 

防災フェスタの様子

 

館内の〈マンション防災〉をテーマにした展示コーナーは、来館者からの人気が高い。

江口:元々は企画展示のつもりだったのですが、来場者からの高い人気を受けて常設化しました。地震や豪雨といった災害が決して他人事ではないと、社会全体で防災意識が高まっている中で、マンションだからこそできることを考えたい。有事にも安心して生活を続けていけるような仕組みは、マンションの設計や管理を担う私たちが考えるのはもちろんですが、住民の方に知ってもらうこともとても大切。防災倉庫の中身なんて、実際見たことないでしょう?こんなものが入っているんだと知っているだけで、いざというときに住民の皆さんが協力しやすくなるんじゃないかなと思うんです。

 

〈マンション防災〉の展示ゾーン
防災倉庫の中身や、防災3点セットなど、実物を見ることができる

 

さらに実践的なマンション防災に触れるアイテムの一つとして配布されているのが『マンション防災マニュアル』だ。これは長谷工マンションミュージアムが独自に作成したもので、マンションに暮らす住民にとって、日々の備えやいざというときのための行動がわかりやすくまとまっている。長谷工グループが管理するマンションでは、実際にこのマニュアルを参考に各マンションに応じた防災マニュアルが配布されているそうだ。啓発活動にとどまらず、現場に実装されていくところが長谷工らしい。

 

長谷工マンションミュージアムが独自に作成した『マンション防災マニュアル』

 

この秋、開館5周年を迎える長谷工マンションミュージアムは、企業ミュージアムとして、地域に根ざすミュージアムとして、次世代を育て、日々の暮らしをもっと安心して楽しく暮らせるきっかけや交流を生み出せる場所へと成熟していっている。

江口:ミュージアムを訪れた子どもたちや若い世代の人たちが、色々な発見をしてくれるのが私たちもうれしい。企業を知ってもらうだけでなく、マンションとか建築っておもしろいなと思ってもらえると、業界全体が盛り上がって未来が期待に満ちていく。暮らし方は人ぞれぞれですが、長谷工としてはやっぱり「”集まって暮らす”のって、楽しいし安心だしいいよね」と思ってくださる方が増えると嬉しいなという気持ちで、これからも地域のみなさんや全国の企業ミュージアムと連携しながら、情報発信を続けていきたいですね。

圧倒的な情報量、実物を見て触って学べる納得感、そして徹底した実践型未来志向で、人々を惹きつけてやまない長谷工マンションミュージアム。訪れればきっとマンションの魅力に夢中になることだろう。

 


取材を終えて

見学前は90分あれば十分と思っていたにもかかわらず、体感的にはかなり駆け足だった気がしてしまう。それだけ展示の密度が高い。許されるなら1日中入り浸りたいのが本音だが、予約枠が常にいっぱいな施設ゆえにそうもいかない。なんども足を運んで、訪れるたびに新しい発見に出会えるのを楽しみにするのがよさそうだ。
マンションの購入やリノベーションを検討している方には、リアルな生活を想像できる刺激が得られる場所として、気軽に訪れてみてほしい。大学で建築や都市計画を学ぶ学生には〈集合住宅のあゆみ〉コーナーで思う存分集合住宅の歴史に浸って興味を深めてほしいし、建設業界への就職を考えている就活生は〈まるごとマンションづくり〉のコーナーで設計シミュレーションを体験したり、〈暮らしと住居〉のコーナーで住まいづくりの考え方やアイディアに目を向けたりして、自分の興味にあらためて向き合ってみるのもいいだろう。一級建築士試験を控える受験生は〈まるごとマンションづくり〉の施工エリアを見学すると、かなり具体的なイメージを持って試験勉強に取り組めること間違いなしだ。
記事ではご紹介しきれなかったが、マンションのパンフレットや手書き時代の図面など貴重な資料の実物が多数展示されているほか、展示コーナーで無料配布されている資料の充実度にも目を見張るものがある。徹底したリサーチ、確実な実行力、来場者の声を現場にフィードバックする即応力がなせる技だ。展示物に付されているキャプション一つひとつにもこだわりが感じられ、さらにキャプションで説明しきれないところはミュージアムスタッフの方やアバターガイドが補って回答してくれるというのだから、フォローアップに隙がない。ミュージアムを出るころにはすっかり集合住宅の虜になり、マンションに住みたい!と、帰り道にひとしきり盛り上がった取材チームなのであった。

メセナライター:前田真美
・取材日:2023年6月12日(月)
・取材先:(株)長谷工コーポレーション「長谷工マンションミュージアム」(東京都多摩市鶴牧3-1-1)

 

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