ポーラ ミュージアム アネックス
「感受性のスイッチを全開に」誰もが気軽に楽しめる銀座のギャラリー

ポーラ・オルビスホールディングス コーポレート室の松本美貴子さん
多くの人が行き交う銀座中央通りに面したポーラ銀座ビル。3階にあがると「ポーラ ミュージアム アネックス」がある。ここは株式会社ポーラ・オルビスホールディングスが行う文化活動であり、その情報発信地として多彩な企画を展開するギャラリーだ。ポーラ銀座ビルが創業80周年を記念し2009年にリニューアルした際にオープンし、歴史的に価値ある原画を展示できる設備を備える。
オープン以来15年、現代アートを中心に、5年ごとの周年記念の展覧会、チャリティオークション、若手アーティストの支援、各種ワークショップなど、さまざまな企画を実施してきた。
「作品を見ることだけではなく、アートにできることはたくさんあります。もっと気軽に、いろいろな人にアートを楽しんでいただきたい。アートは可能性に満ちあふれています」と、ポーラ ミュージアム アネックスのディレクターで、ポーラ・オルビスホールディングス コーポレート室の松本美貴子さんはいう。
2024年には、新たなアートの楽しみ方として、赤ちゃん鑑賞会や高齢者の方向けの対話型鑑賞会、地域の保育園児へのワークショップなども実施した。ポーラ ミュージアム アネックスの準備室時代からかかわる松本さんに、ポーラ・オルビスホールディングスとしての想いやアートの可能性についてお話をうかがった。
チャリティオークションの拡がり
「アーティストとして何かできることがないか」。
新型コロナの影響で、ステイホームを強いられている状況下の2020年ごろ、アーティストたちと話をしている中で始まったのがチャリティオークションの企画展だ。「私たちが『今できること』を」と、作品をつくることで貢献しようと考えた。
20人のアーティストに声をかけ、クリスマスをテーマに「Christmas Smile」展を開催。「新型コロナウイルスと最前線で戦う医療従事者の方々や、感染防止への取り組みを支援し、地域医療の維持・強化につなげる」ため、サイレントオークション方式で集まった9,145,000円はすべて日本赤十字社へ寄付をした。
サイレントオークション方式で自動入札ができるようにしたのは、ステイホームでもおうちにいながら寄付ができるからだ。参加したアーティストからは「何かできないかと、もどかしい気持ちがあったから声をかけてもらえてありがたかった」という感想もあった。

「Place in my heart」展
ポーラ ミュージアム アネックスを訪れたときに開催されていた展覧会は「Place in my heart」展と題したチャリティオークション、テーマは「ふるさと、故郷、HOME」だった。
2024年1月1日に発生した能登半島地震。
「震災にあった地を憂い、天災の頻発を受けて家族や故郷を想う気持ち」を表現するため、ふるさとをテーマに22人のアーティストがオリジナル作品を制作した。
能登半島地震では、伝統産業の「漆」も大きな被害を受けた。チャリティオークションへ当初から参加している岩田俊彦さんは”漆”のアート作品を手がける。「能登への支援ならやらないわけにはいかない」と、タイトなスケジュールの中「Place in my heart」展に参加してくれたという。

松本さんの右側にあるのが岩田俊彦さんの作品
松本さんは、「能登は遠いようだけれど、離れていても想うというふるさとを表現してほしいと、このテーマにした」と振り返る。
販売収益全額は、日本赤十字社を通じて「令和6年能登半島地震災害義援金」へ寄付された。チャリティオークションは、これまで新型コロナ、ウクライナ、海洋プラスチック、そして能登半島地震とテーマを変えてきた。総額では88,356,415円となる。
「テーマ選びは難しいけれど、毎年なにかしら支援を必要とする出来事があり、”わたしたちにできることはなにか”ということを考えて選びます。アーティストに共感してもらうためにも、そこを明確にしてご提案しています」
「内面の美しさが重要」
ポーラ ミュージアム アネックスのコンセプトには次のように書かれている。
「美容」「美術」「美食」―ポーラ銀座ビルのコンセプトである3つの美―その1つを担う「美術」。銀座というまちで多くの方々に芸術を通して美意識・感性を磨いていただきたいという想いから、気軽にアートを体感していただけるよう、年間を通じ、無料でご覧いただける企画展を展開しております。
松本さんは、「ポーラは創業当初から美しさは内面が重要であると考えています。そして内面の美しさの支えとなるのが文化・芸術です」という。
「新しい美との出会いがあるように、現代アートの中でも難解な内容より親しみやすい企画をしたり、作品のテキストを読んでわかってもらえるような工夫もしています。お客様が気軽にアートに触れて、感性を磨いていただきたい」
作品のテキストは、アーティスト自身に書いてもらうこともある。アーティストの言葉で語られることで、作品への理解が進む。チャリティオークションでは、解釈を深めることで、購入につながっていくこともある。

テキストはアーティスト本人が書く
2017年にポーラ・オルビスグループとして企業理念を刷新した。核となるミッションは、「感受性のスイッチを全開にする」。その後には、「湧きあがる好奇心。心に響く新たな出会いや発見。昨日とは違う世界の広がり。冴えわたる感受性は、人生を変える。もっと楽しく、もっと心豊かに」と続く。まさにポーラ ミュージアム アネックスで体現されていることだ。
ポーラ・オルビスグループならではの企画への挑戦
2023年のチャリティオークション「Plastic Revives」展のテーマは「再生」。循環型社会の実現をめざした初の企画で、ポーラ・オルビスグループの化粧品容器から再生したプラスチックを作品に使用した。「This is MECENAT2023」でも認定されている。
代表的な商品のB.A シリーズとホワイトショットシリーズに使われていたプラスチック容器からなる再生素材を活用。初めての取り組みではあったが、グループ内のポーラ化成工業の研究チームが協力して制作した。
グループ内でも容器の再利用ができないかという話もある中で進んだ企画ということで、ポーラ・オルビスグループならではの企画となった。

(左)舘鼻則孝「Heel-less Shoes」 2023年 牛革、染料、再生ポリエチレンテレフタレート、金属ファスナー Photo by Osamu Sakamoto
(右)鬼頭健吾「untitled」2023年 再生ポリエチレンテレフタレート、アクリル
プラスチック容器は破砕・溶融を経て、ペレットとして再生し、パネルやビーズ、額縁などの形状に成形。アーティストそれぞれが素材をオリジナルに活用したことで、プラスチックとは思えない表現の広がりや、キャンバスの支持体となる木材不足に対して再生プラスチックを応用するなど、幅広いアイデアが生まれ、「プラスチックが作品の中で息を吹き返した」。
また、10月に開催した、ポーラ銀座ビル15周年を記念した展覧会「マティス ― 色彩を奏でる」でも、さまざまな試みを行った。
その一つが、高齢者施設の方を招いての対話型鑑賞会。
千葉にある高齢者施設から連絡があり、「施設ではみんな絵を見るのが好きなんですが、本物を見る機会がありません。この機会に本物の絵をみながら交流できれば」と。
施設から皆さんバスに乗って来ることが決まった。スタッフで相談して、せっかくならメイクもしたらどうかとなった。一階がショップになっているので、ポーラのメイクアップアーティストをアサインした。
-800x533.jpg)
ポーラギンザでのメークサービスの様子(対話型鑑賞会)
当日、皆さん最初は緊張の面持ちだった。
「でも、アイライン、チーク、リップと色が乗っていくと、笑顔になっていくんです。明るくきれいにメイクアップした後、絵を鑑賞しました。メイクというビューティ事業とアートを組み合わせた当社グループならではの企画となりました」

高齢者を対象にした対話型鑑賞会
こどもがいる親も気軽に美術館へ
ポーラの事業ターゲット層は30、40代女性。しかし、小さいお子さんがいる人にとって美術館はハードルが高い。走ったり泣いたりすると、作品を落ち着いて見ることは難しい。アートが好きでも足が遠のいているという方も多いだろう。
そこでマティスの展覧会に合わせて実施したのが「赤ちゃん鑑賞会」だ。呼びかけ文には以下のような記載がある。
“赤ちゃんと一緒に、展覧会を楽しめる1日です。「静かにしなくては」「赤ちゃんが泣いたらどうしよう」といった心配はありません。周囲に気がねなく作品をお楽しみいただけます。会場では赤ちゃんが落ち着くBGMが流れ、ベビースペースのご用意もあります。ベビーカーでの観覧も可能です。”
親御さんがゆっくり鑑賞できるように、ベビースペースでスタッフが絵本の読み聞かせも行った。「こんなにゆっくりと見られたのは久しぶりでうれしい」など喜びの声があったという。
「お子さんにとっても、きちんとしたものを見せることで、小さいときから感受性を刺激することができます」

赤ちゃん鑑賞会の様子
ほかにも地域の保育園の子を招いて、切り絵ワークショップを行った。年長さんのこどもたちがマティスの絵をモチーフにした切り絵を思い思いに貼りつけてアートに触れる時間を過ごした。「マティスのジャズシリーズに使われているさまざまなかたちのシールや、ハサミで自由にカットしたパーツを組み合わせ、自分だけの「JAZZ」作品を制作してもらいました」。
昨年は同じ保育園と、壁いっぱいにお絵描きできるイベントも行っている。こうした地域との交流もギャラリーとして今後も展開していきたいと話した。

近隣の保育園とのワークショップ
ポーラ ミュージアム アネックスとして、老若男女へさまざまな展開を行っていくことが、ギャラリーへ来てくれた方に、ポーラ・オルビスグループのファンになってもらうことに繋がっている。
最後に、松本さんは「アートができることはたくさんあります。チャリティとして寄付もでき、対話型鑑賞会を通じて内面を磨いてもらったり、コミュニケーションツールにもなったりします。今後は、総合性のあるギャラリー運営ができたら」と今後の展望として意欲を語った。
取材を終えて
取材の中で印象的だったのが、ポーラ ミュージアム アネックスには、「銀座に来たら行きます」という”常連”がいるという話。「今日は美術館に行こう」というのではなく、「銀座に来たから、ちょっと寄っていこう」と。気軽にふらっと寄れる”行きつけの美術館”のような場になっているのだ。
ライターの私は3歳と6歳の子どもがいることもあり、美術館のような場からは数年遠ざかっている。どうしても疲れてしまうだろうと腰が重くなっていたが、ポーラミュージアムアネックスであれば、連れて行ってみたいと思った。赤ちゃん鑑賞会のような特別な時間だけでなくとも、ふらっと気軽に。ポーラ ミュージアム アネックスを通じて、アートを日常にしていきたいと思う。
取材日:2024年11月28日(木)
取材先:株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
・ポーラ ミュージアム アネックス(〒104-0061 東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階)