フジフイルム スクエア見学ツアー
1月21日に行われた「企業メセナ協議会 2020年賀詞交歓会」に付随して実施された「フジフイルム スクエア」見学ツアーを通して、富士フイルムホールディングス株式会社のメセナについてご紹介します。
東京は六本木、都内屈指の大型複合施設「東京ミッドタウン」1階に、あらゆる角度から写真の奥深さを体験できる複合型ショールームがあります。富士フイルムが運営する「フジフイルム スクエア」です。
同施設は、多種多様なテーマで写真展を開催している「富士フイルムフォトサロン」、写真やカメラの歴史を学べる「写真歴史博物館」、そして写真メーカーならではの技術を活かした化粧品・サプリメント商品を取りそろえた「フジフイルム ヘルスケアショップ」などで構成され、年中無休・入場無料で、幅広い層に向けて写真への好奇心を刺激しています。
2007年、富士フイルムの東京ミッドタウンへの本社移転を機にオープンして以降、これまでに延べ約1400本の写真展を開催し、来館者数は700万人におよび、バラエティ豊かな企画を通して、写真の素晴らしさや楽しさ、そしてデジタル全盛時代の今だからこそ問われる、写真本来の意義や価値を伝えています。
2018年には、「富士フイルムフォトサロン」「写真歴史博物館」の運営、および日本の写真史を飾る101人の作家の選りすぐりの1枚をまとめた「フジフイルム・フォトコレクション」の収蔵・展示活動が総合的に評価され、「メセナアワード2018」において優秀賞「瞬間の芸術賞」を受賞しています。
富士フイルムの開発者が情熱とともに語る!
富士フイルムの歴代カメラが勢ぞろい。ものづくり精神あふれるコンシェルジュが解説する写真歴史博物館
▶写真歴史博物館では、カメラの原点「カメラ・オブスクーラ」をはじめとする貴重なアンティークカメラや富士フイルムの歴代カメラが並び、170年を超える写真文化とカメラの歴史的進化の変遷を追うことができる
▶同館にはカメラと写真の専門的知識をもったコンシェルジュが、展示物について丁寧にわかりやすく解説をしてくれるサービスがある。コンシェルジュたちは富士フイルムのOBで、日本の写真史を語るうえで欠かせない「チェキ」や「写ルンです」等写真製品の研究・開発・技術サポートに携わってきたベテラン中のベテラン。
所属するコンシェルジュはあわせて10人。それぞれ現役時代に異なる専門分野をもつため、同じ展示内容でもその日の担当者によって解説のアレンジや熱の入る部分が異なります。そこがここならではの魅力です。
歴史的に価値のある写真を展示する企画展も定期的に開催し、今回の訪問時には、日本を代表する写真家・岩宮武二の代表作である京都シリーズより『京のいろとかたち』展が開催されていました。限られたスペースを有効活用した同館の充実ぶりを存分に堪能できました。
デジタル時代でも銀塩プリントの魅力を!
プロからアマチュアまで、幅広い写真に触れられる富士フイルムフォトサロン
富士フイルムフォトサロンは、クオリティの高いさまざまなジャンルの写真を展示する写真ギャラリーで、プロ・アマを問わず写真の魅力、素晴らしさを表現した作品を厳選し、一週間単位で写真展を開催しています。
写真展は大きく分けて2種類あり、富士フイルムが主催する企画展と、プロの写真家やアマチュアの写真愛好家から作品を募集する公募展を実施。2018年は企画展13本、公募展54本、同社が主催/共催/協力する写真展12本の計79本が開催され、盛況を博しています。
写真を見るだけでなく、写真教室や音楽ライブなどの体験の場も企画され、出展者が作品を前に自ら解説を行うギャラリートークや講演会も積極的に行われています。ギャラリートークの参加者からは「作品づくりにかける想いを直に聞くことができて、感激した」などの声が寄せられ、「撮った人=出展者」と「見た人=鑑賞者」が直接ふれあうことにより、相乗効果を生み出しています。
同サロンのこだわりのひとつが、オリジナルプリントによる展示で、作品を銀写真プリントで仕上げることで、写真の「奥行き感、空気感、色の深み、豊かな色彩」を巧みに再現。見ごたえあるオリジナルプリントで作品を鑑賞することにより、写真展に直接足を運んだからこそ味わうことができる本物のもつ力に圧倒され、写真の魅力をあらためて感じることができます。
▶『ALIVE ~GREAT HORIZON~ 井村淳写真展』を解説する井村淳氏
▶『横田國平写真展 雪里』を開設する横田國平氏
今回の訪問時には、世界の野生動物をテーマにした『ALIVE ~GREAT HORIZON~ 井村淳写真展』と、新潟県中越地方の自然風景を写した『横田國平写真展 雪里』が開催されており、それぞれの展示で作家のギャラリートークを拝聴し、シャッターを押した瞬間のエピソードやその作品がもつ意味などを直接伺うことができ、いっそう作品への理解を深めることができた。
富士フイルムの化粧品!? フイルムの主成分はコラーゲン!
自社の技術を活かした化粧品が試せる。ASTALIFT ROPPONGI(フジフイルム ヘルスケアショップ)
▶フジフイルム ヘルスケアショップは、コマーシャルでおなじみの「アスタリフト」をはじめ、写真分野の研究開発で培った独自の技術を応用した富士フイルムのスキンケア化粧品やサプリメント全商品をとりそろえ、ビューティーコンサルタントのアドバイスのもと、商品をお試しすることもできる。
富士フイルム独自の技術とは、「写真フィルム=極薄の膜」の内部に、光や色、画像を司る微粒子を安定的に配置する「ナノテクノロジー」のこと。肌の角層が写真フィルムとほぼ同じ厚みであることから、化粧品やサプリメントで重要とされる「成分のナノ化と安定化」にこの写真フィルムの「ナノテクノロジー」が応用できるのではという発想から、同社のビューティ&ヘルスケア業界への参入がスタートしたそうです。
写真フィルムの主成分は美容に欠かせない「コラーゲン」。より純度が高く、高機能なコラーゲンを目指して研究を重ね、発展させてきた先進技術もナノテクノロジー同様、化粧品にうまく活用されています。いまでは化粧品・サプリメントの合わせて50を超える商品ラインアップをとりそろえ、異業種だからこその視点を武器に、独創性にあふれた商品開発にチャレンジしています。
写真を通じた多種多様な活動で、2018年は約60万人が来館したというフジフイルム スクエア。バラエティ豊かな企画とその運営はどのように行われているのでしょうか。フジフイルム スクエアの仕事に従事する3名にお話しを伺いました。
インタビュー1 「たくさんの人に写真の楽しさを伝えて、写真に恩返しがしたい」
富士フイルム株式会社 宣伝部 倉富二 裕美さん
――仕事の内容について
「写真展の企画や運営、若手の写真家を応援するプロジェクトに携わっています。写真家に作品をより効果的に見せる写真展の構成を提案したり、一人でも多くの方に来館していただけるような写真展の告知文を一緒につくったりと、写真家に伴走するかたちで写真展開催のサポートをさせていただいています。」
――今の仕事についたきっかけ
「もともと写真が好きで、写真の専門学校やスタジオ勤務を経て今にいたります。写真にいろんなことを教わった、学ばせてもらったという想いがあるので、今度は逆に、自分が今の仕事を通じてたくさんの人に写真の楽しさを伝えて、知っていただくことで写真に恩返しさせていただけたらいいなと思っています。」
――今後の目標について
「富士フイルムは2017年にCSR計画「サステナブル・バリュー・プラン2030(SVP2030)」を発表し、グループ全体で事業活動を通じた社会課題の解決に取り組み、サステナブルな社会の実現に貢献することを目標に掲げています。フジフイルム スクエアでは、写真を通して心の豊かさ、人々のつながりへ貢献したいと考えています。たとえば、港区教育委員会と連携し、近隣の小中学校に写真展の案内を出したり、夏休みの時期には子ども向けのイベントを開催したりと、学ぶ場として開放しています。科学や歴史、アートにいたるまで写真を通して多方面の題材を提供することで、子供たちの好奇心を刺激したり、将来やりたいことへのきっかけへとつなげられればうれしいです。」
インタビュー2 「写真展の運営で写真から活力を得、仕事のエネルギーへと換えている」
フジフイルム宣伝部 マネージャー 砂屋敷 真衣さん
――仕事の内容について
「フジフイルム スクエアの運営全般を担当しています。写真展の企画は島田館長を含め複数人でまわしていますが、開催本数が多いこともあり、ひとりで何本も並行して進めています。早め早めに準備に着手したり、チーム内でスケジュールを共有したりと互いに協力しながら効率的に進めるよう取り組んでいます。」
――仕事にやりがいを感じるとき
「フジフイルム スクエアでは来館者がタブレットに感想を残すことができるコーナーを設置しており、写真展に対して寄せられる「感動した」「視野が広がった」などの生の声に触れるとき仕事のやりがいを感じます。日々の業務は忙しいですが、どの作家のどの写真も個々の魅力にあふれ、写真から活力をもらい、それをまた仕事のエネルギーへと換えています。バリエーション豊かな写真展の準備を進めていく過程でたくさんの作品に触れることができ、純粋に楽しみながら仕事をしています。」
――印象に残っている写真展について
「特に印象的だったのが、2019年に開催した企画展『竹内敏信写真展「日本の桜」NIPPON-NO SAKURA』です。日本の風景写真の第一人者といわれ、後進の育成にも熱心に取り組んできた竹内先生には現在写真界を牽引している「門下」の写真家が何人もいらっしゃいます。井村淳さんをはじめ、門下の写真家の皆さんが多忙の中時間を融通しあい、会期中必ず在廊された姿には、師弟関係を超えた深い絆を強く感じました。『師匠と歩いた桜の道』と銘打ったトークイベントを開き、7人の「門下生」に、師としての竹内先生について語ってもらいましたが、竹内先生もその様子を本当にうれしそうにご覧になっていました。この写真展を通して「作品の素晴らしさ」のみならず、写真家としてのあり方や技術を次の世代に引き継ぎ、後世につなげていくことの大切さなど、写真のもつ役割や大きな可能性について再発見できたように思います。」
――今後の目標について
「今回の写真展でも井村さんや横田さんの動物や自然をテーマにした写真を通じて、ご来館される方が環境問題に関心をもたれるケースがありました。この事例のように、写真を鑑賞することをきっかけに、これまであまり関心がなかった分野について、興味をもっていただくことが可能であると思っています。このような活動をコツコツと継続し、「心の豊かさ、人々のつながりに貢献したいと考えています。
また、フジフイルム スクエアには外国の方のご来館が多いです。写真の「言語の壁がない」という強みを活かしたうえで、日本のよさを知ってもらい、日本をより好きになってもらえるような企画を提案していきたいです。」
インタビュー3 「今後の課題は若手写真家のバックアップ。写真家の卵を支える仕組みを整えたい」
フジフイルム スクエア館長 島田 知明さん
――反響が大きかった写真展について
「反響が強かったという意味では、2018年秋に開催した「40年間ありがとうございました。女優「樹木希林」さん 写真展」です。長年お世話になった樹木さんの訃報を受け、急遽決行企画したのですが、関係各所に協力頂き、写真展を開催することができました。予想を上回るたくさんの方々が来館され写真を通じて「自然体を貫かれた樹木さん」「たくさんの方から愛され続ける樹木さん」を偲ぶ機会となりました。
若い世代に反響があったのは、樹木さんの前に開催した「テイラー・スウィフト写真展」ですね。アンケートを見ても、「テイラーの貴重な写真が見れてよかった」「とても素敵な展示をみられて幸せだった」などの声が寄せられ、ファンの方に喜んでいただけたかと思います。
逆に、幅広い年齢層に好評だったのは「138億光年 大いなる宇宙の旅」というNASAが保有する天体写真の展示です。識者による講演会やトークショーを行ったり、コンシェルジュによる解説も毎日開催したりとイベントも積極的に行い、子どもから大人まで幅広い世代に楽しんでいただけました。」
――フジフイルム スクエアの魅力
「来館者の傾向を調べると、「初めて来た」という方が半数以上で、最初からフジフイルム スクエア目的で訪れる方よりも、東京ミッドタウンに来たついでに立ち寄られる方が多いんです。それでも、常時バラエティに富んだコンテンツを用意しているので、普段写真やカメラにあまり興味がない人や、偶然ふらっと来ただけの人も、楽しいなと思って帰ってもらえるところがフジフイルム スクエアのいいところだと思っています。
写真を専門とした美術館やギャラリーはほかにもたくさんありますが、ひとつの場所でこれだけ多種多様なテーマの写真を扱っているのは珍しいのではないでしょうか。フジフイルム スクエアの理念はいたって簡単で、「一人でも多くの方に写真を好きになっていただきたい」ということ、ただそれだけです。年代・性別を問わず、あらゆる方に向けて写真にとっつきやすくなるような企画を全体のバランスをみながら運営しているので、「わかりやすさ」や「親しみやすさ」がほかにはない魅力だと思います。」
――今後の目標について
「課題は山ほどありますが、喫緊の課題は未来を担う若手写真家の方々のバックアップです。ここ10~20年の写真のデジタル化により、ネットで検索すれば画像が無料で手に入るフリーコンテンツの時代に突入しています。写真業界ではクライアントワークが成り立ちにくくなってきており、写真家がプロとして独り立ちをして仕事をしていくことがますます困難な状況になっています。フジフイルム スクエアでは若手写真家応援プロジェクトの枠組みで、毎年2~3人ではありますが、優秀な若手を発掘し、世に出ていただくきっかけとして写真展の開催をバックアップしています。このようなサポート態勢をもう少し手厚くしていきたいと考えています。プロの写真家を目指す若手は、写真集の制作や写真展の開催などの作品を発表を望む方が多いのですが、機会が限られています。フジフイルム スクエアはそのきっかけを提供したいと考えています。」
取材を終えて
前から存在は知っていたが、なかなか行く機会がなかったフジフイルム スクエア。今回取材をきっかけにようやく足を踏み入れることができたが、想像以上に館内のコンテンツが充実していることに驚いた。写真の展示ひとつとっても先述した分に限らず、写真歴史博物館の左隣には「ギャラリーX」もあり、館内のスペースとスペースの隙間を埋めるようにちょっと空いたスペースにもコンシェルジュの方々が撮影した写真が展示されていたりと、とにかく一度でいろんな写真コンテンツに触れることができ、化粧品などのショッピングも楽しむことができるという、なんともお得な施設ではないかというのが率直な感想だ。
取材を通して一番印象的だったのが、コンシェルジュの方からも、社員の方からも、皆さん共通して「写真が好き」という言葉が自然と出てきた点だ。いたってシンプルな言葉だが、きわめて根本的な言葉でもある。その「好き」が結集し、フジフイルム スクエア全体の原動力になり、写真を通じて多くの人に共鳴している。フジフイルム スクエアで働く方たちの生き生きとした表情を見て、そんな風に感じた。
メセナライター:石川聡子
・訪問日:2020年1月21日(火)
・訪問先:フジフイルム スクエア