「2019年度メセナ活動実態調査」報告会
~ウィズ/アフターコロナと企業の芸術文化による社会創造~
企業メセナ協議会により1991年から全国の企業・企業財団を対象に実施している「メセナ活動実態調査」。
2019年度の調査結果をまとめた『Mecenat Report 2019』を本年3月に発行しました。
今回は2019年度の傾向を報告するとともに、昨年のシンポジウム「SDGsとメセナ」に続く第4弾として、
株式会社ベネッセホールディングス、鬼塚電気工事株式会社、株式会社東急文化村をお迎えし、各社の取り組みについてお話しいただきます。
講演後には、登壇者、モデレーターの萩原なつ子氏とともに、来場者の皆さまとの質疑応答を含めたディスカッションの時間も設けております。
近年、社会課題の解決のための活動や社業との関連性を重視する傾向が続いていますが、
新たにウィズ/アフターコロナを見据えた今後のメセナ活動の課題や可能性についても議論を深めたいと存じます。
ぜひ皆さまお誘い合わせのうえご参加ください!
また、本報告会は当日オンライン配信(YouTubeライブ)も行います。
会場に来られない方はぜひオンラインでご参加ください!
■開催概要
日 時| 2020年8月5日(水)16:30~19:00(開場予定16:15)
会 場| ヒカリエホール ホールB(〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目21-1 渋谷ヒカリエ9F)
参加費|一般2,000円 学生1,000円(協議会会員は無料)
定 員|
・会場では先着50名 ※通常期のホール収容人数150名に対して収容人数を30%程度に制限
・オンライン参加は人数制限なし
※2020年7月29日追記
会場参加については、定員に達しましたので参加受付を終了しました。
オンライン参加をご検討いただけますと幸いです。
お申込み|※8月3日18時締切
(1)webでお申込み:https://research2019.peatix.com/
(2)メールでお申込み:research@mecenat.or.jp宛てに、件名を「8/5報告会申込み」とし、下記をご記入の上お送りください。
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ご希望の参加方法(会場/オンライン)
貴社名/ご所属:
お役職:
お名前:
住所:
電話番号:
メールアドレス:
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※新型コロナウイルス感染対策のため、上記お申込み情報のご提供をお願いしております。
(3)FAXでお申込み:別紙「参加申込書(PDF)」に必要事項をご記入の上03-5439-4521までお送り下さい。
■内容
[16:30~16:35 挨拶・登壇者紹介] 企業メセナ協議会
[16:35~16:40 2019年度メセナ活動実態調査結果報告] 部会長:森実尚子[日本電気(株)]
[16:40~16:55 「新型コロナとメセナのこれから」(アンケート調査結果報告含む)] 吉本光宏[(株)ニッセイ基礎研究所]
[16:55~18:10 講演] ※各社25分
(1)「ベネッセのサスティナビリティ経営と直島の30年」
(株)ベネッセホールディングス 社長室 部長 坂本香織氏
(2)「アートで地域の課題解決をめざすプロジェクトONICO」
鬼塚電気工事(株) 代表取締役社長 尾野文俊氏・営業部長 中上俊明氏
クリエイティブディレクター 清川進也氏
大分県立芸術文化短期大学 美術科 准教授 於保政昭氏
(3)「まちづくりを通じての文化の普及」
(株)東急文化村 代表取締役社長 中野哲夫氏
[18:10~18:55 質疑応答/ディスカッション]
モデレーター:萩原なつ子氏 立教大学社会学部/大学院21世紀社会デザイン研究科教授
[18:55~19:00 挨拶] 企業メセナ協議会
※登壇者へのご質問を受け付けます。報告会開催前はメール(research@mecenat.or.jp)のみ、報告会開催中はメールまたはYoutubeライブ配信画面のチャットにて随時受付いたします。
ただし、チャットによるご質問を行う場合は事前にアカウント登録が必要です。スマートフォンではYouTubeアプリをご利用ください。すべての質問にお答えできない場合もありますのでご了承ください。
■2019年度 調査研究部会メンバー一覧 [企業五十音順、敬称略]
部会長:森実尚子[日本電気(株)]、上坂陽次郎[(株)朝日新聞社]、吉本光宏[(株)ニッセイ基礎研究所]
お問い合わせ|足立|research@mecenat.or.jp|TEL:03-5439-4520|FAX:03-5439-4521
2019年度メセナ活動実態調査は、「2019年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」として文化庁から委託を受け、実施しました。
開催報告
「SDGsとメセナ」vol.4
「2019年度メセナ活動実態調査」報告会
~ウィズ/アフターコロナと企業の芸術文化による社会創造~ [レポート]
2020年8月5日(水)ヒカリエホール(東京都渋谷区)にて、「2019年度メセナ活動実態調査」報告会が開催された。あわせて、2018年から継続し4回目となる「SDGs(持続可能な開発目標)とメセナ」についてのシンポジウム、そして、ウィズ/アフターコロナを見据えた今後のメセナ活動の課題や可能性についての議論を深める場も設けられた。シンポジウムでは、株式会社ベネッセホールディングス、鬼塚電機工事株式会社、株式会社東急文化村、各社の取り組みについての講演も行われた。本報告会はオンライン配信(YouTubeライブ)を実施、筆者はアーカイブを視聴し、レポートを作成した。
◆「2019年度メセナ活動実態調査」結果報告
企業メセナ協議会の澤田澄子常務理事兼事務局長の挨拶に続き、森実尚子調査研究部会部会長(日本電気(株))から「2019年度メセナ活動実態調査」について報告があった。本調査は1991年から継続し、2019年度の調査報告は2018年度の活動実績についての結果である。回答企業数は319社。回答財団数は163団体となっている。報告の中で興味深かったのは、その目的において「社業との関連、企業としての価値創造のため」という項目の比率が年々増加し、メセナ活動が芸術・文化支援を基本としながらも、自社資源の活用や経営との結びつきを意識する傾向が高まっていることであった。また特筆したいのは、「芸術・文化による社会課題解決」をメセナ活動の目的に掲げた企業が重視した内容について、「SDGs」への選択回答が増加したことであり、当協議会が「SDGs」についてのシンポジウム・勉強会を継続的に実施しており、取り組みとの関連性が実感できた。
◆「新型コロナとメセナのこれから」(アンケート調査結果報告含む)
次に、吉本光宏氏((株)ニッセイ基礎研究所)より、2020年5月に実施した企業メセナ協議会とニッセイ基礎研究所の共同調査の結果報告があった。アンケートは企業メセナ協議会正会員119社に実施し、有効回答数は84件であった。結果はポジティブな回答が多く、コロナ禍で7割の企業がメセナ活動に影響があるとするものの、過半数の企業がコロナ収束後は「時期や方法について慎重に検討したうえで再開させたい」と考え、ほぼすべての企業が芸術文化活動への支援は必要であると回答した。そして多数の企業が今後、文化芸術の社会的な役割や存在価値が高まると考えていた。
さらに吉本氏からメセナのこれからについての提言があった。新型コロナに直面した芸術文化のさまざまな動きについて、世界の潮流を捉えたタイムリーな情報提供がなされた。ここでは、コロナ禍で求められる芸術支援のあり方について、三つのフェーズに分けて語られている。一つ、損失に対する緊急支援。二つ、再スタートへの支援。三つ、ポストコロナの芸術のあるべき姿や表現の模索に対する支援。今後は、新型コロナに対する芸術家からの応答と呼ぶような、コロナ禍での社会的課題と向き合うアートのあり方についての支援が重要となってくるとの考えが述べられた。そのうえで、国内のメセナ活動に目を向け、新型コロナにより価値観の転換を迫られた社会において、企業とアートがパートナーとなって社会課題と向き合う、社会的インパクトメセナという概念が示された。社会的インパクトメセナとは、芸術的な成果と並行して社会的・環境的インパクトを生み出す意図をもって行われるメセナ活動のことである。そして、奇しくもこの提言について、すでに先取り、実践している企業があり、次に控えるシンポジウムとして準備されていた。本イベントの構成の巧みさ、おもしろさがここにある。
◆講演 ① ベネッセのサスティナビリティ経営と直島の30年
ベネッセホールディングス社長室の坂本香織部長から、ベネッセアートサイト直島についての紹介があった。
ベネッセアートサイト直島は、企業理念「Benesse =Bene(よく)+esse(生きる)」がそのまま社名にもなっているベネッセが、1987年以来、瀬戸内海を舞台に福武財団とともに展開しているアート活動の総称である。島の人口3,000人に対して、毎年50万人(瀬戸内国際芸術祭がある年は70万人)の訪問者が訪れている。「訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出会い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、企業理念である「よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っている。」というメッセージが力強い。近年、サスティナビリティ、「SDGs」という言葉で表現されるようになった取り組みを実に30年以上前から実践しているベネッセは、わが国のメセナ活動の歴史において、大きな存在感を示しているように思う。メセナ活動を継続することによって、地域の環境・文化・経済のすべての面において持続可能な地域づくりを推進するとともに、地域とともに成長し続ける関係を築いていきたいという考えは、前述の社会的インパクトメセナそのものである。アートサイト直島については充実したWEBサイトがあるのでそちらをご覧いただきたい。
ベネッセアートサイト直島 https://benesse-artsite.jp/
◆講演 ② アートで地域の課題解決を目指すプロジェクトONICO
九州の大分市に本社を置く鬼塚電気工事からは、企業とアートがパートナーとなって社会課題と向き合う事例が示された。前段として、尾野文俊社長から、県立美術館の移転新築を契機とした創造都市計画の立案、その後創設された「クリエイティブ・プラットフォーム構築事業(クリエーターと企業をマッチングし企業の経営課題を解決する事業)」の成り立ちや運営について経緯説明があった。
続けて、中上俊明営業部長からこの事業を活用したプロジェクトONICOに関する説明があり、オンラインでクリエイティブディレクター清川進也氏と協働する大分県立芸術文化短期大学の於保政昭准教授が登壇者に加わった。この事業によって、鬼塚電気工事とマッチングされたクリエイティブ人材が清川氏である。清川氏は、長年地域で電気工事業を営んできた企業特性を生かして世の中の困り事を解決し、企業ブランディングにつなげるプランを提案、スマホの充電難民を救済する無料充電ステーションONICOが発案された。その後、2018年9月北海道胆振東部地震での大規模停電に端を発し、ONICOは防災を意識したプロジェクトへと進化(深化)を遂げる。大規模停電により、携帯電話の充電を求める人々の長蛇の列が報道され、災害時の携帯電話の充電が社会問題として顕在化されたのである。結果、ONICOは平常時においては充電ステーションとしてまちに貢献し、災害時は発電機と接続し被災地での充電サービスとして地域へ貢献する設えとなり、地域住民はもとより県内外で高く評価されている。社会課題の解決に貢献するプロジェクトは社員の意識を変え、企業が長年培ってきた、地域への愛をより一層深いものとしている。
◆講演 ③ 街づくりを通しての文化の普及
東急文化村中野哲夫社長から、経営者ならではの視点を交えた示唆に富む講演となった。2019年に30周年を迎えたBunkamuraは、東急グループの文化発信のDNAを受け継ぐ複合施設である。1989年に開業し、オーチャードホール、シアターコクーン、映画館、美術館等から成る。10周年を迎えた1999年にはメセナ大賞が授与されている。その後、2011年セルリアンタワー能楽堂の運営、2012年東急シアターオーブの開業と運営を担い、現在に至る。
はじめに中野社長は、「文化芸術活動は手から水がこぼれ落ちるように、創出した価値は手元に残らず、周りの土を豊かにするために使われている」との例えを用い、金銭的指標で評価することが難しい文化芸術活動についての持論を展開した。重ねて通常のビジネスで使用するボキャブラリーでその価値や成果を説明することが難しいとも述べ、そのため、時間と空間、つまり評価が定まるまで10年20年30年かかる長期的な時間と当該施設にとどまらない地域に価値をもたらせているという広い空間という概念をもって説明を行っているそうだ。経営者としての説明責任を果たす氏の姿を垣間見ることができたように思う。次に芸術文化に対するBunkamuraの姿勢について、上野や銀座や六本木と比較して渋谷を「辺境」と捉え『芸術の「辺境」だからこそ「半歩先」を切り開く』。芸術文化を広めるために「芸術文化のスクランブル交差点を目指す」。知ってもらい触れてもらうために「自前施設にこだわらず街や地域へ飛び出す」と示された。最後にBunkamuraの存在意義について、「貢献」という言葉で説明された。感動を届ける「豊かな心」への貢献。芸術を核とした「街づくりの貢献」。クリエイティブ産業による「地域づくりへの貢献」。そして、コロナ禍で訪れる新時代を見据え、テクノロジーを活用し新しい世界文化をつくっていくと誓う「新技術の活用に貢献」であった。
◆質疑応答/ディスカッション
大分経済同友会の三浦様からアートやクリエイティブな力をどう地域に生かしていくか、そのあり方についての質問があった。企業(短い)と地域(長い)の時間軸の違いについて触れるとともに、パートナーである地域とていねいに時間をかけて課題を解決することが重要である、との登壇者共通の回答があった。またコロナ禍における時間軸の変化、短いから長い、を皆が共通に感じており、この流れはメセナ活動の新たな可能性を感じさせるものである。
また、取材で参加していたCREATIVE PLATFORM OITAを企画・運営するNPO法人BEPPU PROJECTの山出様より、企業と地域は未来を想像する力が必要であり、社会的インパクトメセナの実践においては、特に触媒となる人(旗振り役)の存在が重要であるというお話があった。
最後に、モデレーターを務めた荻原なつ子教授(立教大学)からまとめとして、創造力、想像力、ヒューマン・テクノロジーの時代となった今、ノットワーキングの重要性が高まる。人々の結び目をつくり、しなやかに連携協働のかたちをつくることができる人の存在が重要となってくるとの見解が示された。
【報告】メセナライター:和田大資 Taisuke WADA アートマネージャー
1977年神戸生まれ。兵庫県立神戸高等学校、同志社大学文学部美学及び芸術学専攻卒業。伊勢丹を経て日本フィルハーモニー交響楽団へ転職。広報宣伝、営業、企画制作を担当。2012年帰郷。京都市音楽芸術文化振興財団にて京都会館再整備、京都コンサートホール自主事業を担当。2015年より箕面市メイプル文化財団に勤務。2020年4月より(同)芸術創造セクションマネージャー。