沿革
設立趣意文
1984年に第1回日仏文化サミットが開催されて以来、両国における文化についての考え方の違いが指摘されてきました。ことに1988年「文化と企業」をテーマに京都にて開かれた第3回の文化サミットでは、日仏の文化環境の差が改めて浮き彫りにされ、わが国は経済大国になったものの文化面ではとても「大国」とは言いがたい状況が明らかにされました。フランスは国が明確な文化政策を持ち、巨大な公共文化予算を投じて文化振興につとめていますが、わが国の文化予算は先進国比較で最低水準であり、政府にかわって戦後の文化を支えてきた民間企業に対する税制上の優遇措置もほとんど認められておりません。
この会議に代表として参加された経営者諸氏はことに、「文化は国営」と思われてきたフランスで<アドミカル ADMICAL>(商工業メセナ推進協議会)が民間企業による文化擁護の拡大につとめている事実に注目し、以来有志が会合を重ね、文化活動に関心を抱く企業のヨコの連絡をはかり、税制上の優遇措置を政府に要請するとともに企業の文化への関心をふかめていく、同様の協議会形式の組織の設立を検討してまいりました。
フランスばかりでなく、欧米諸国では各国に民間企業の連絡組織―<アブサABSA>(芸術助成企業協議会・英国)、(産業連盟文化部会・西ドイツ)、<BCA>(芸術支援企業委員会・米国)などがあり、また市場統合を目前にした欧州ではEC委員会の支持のもとに、これらの各国の協議会が加盟する連合機関がこのほどロンドンに設置されました。
アドミカルはメセナの組織です。このメセナというフランス語は、ローマ皇帝の大臣で文学・美術の擁護者だったマエケナスという人の名に由来する言葉だといわれています。西欧では古代からルネッサンス、絶対王政時代を経て今日まで、国や富裕な市民そして企業が文化擁護を行ってきたのです。わが国にはこうした伝統は乏しく、文化・芸術はいつの時代でも等閑視されがちでした。
しかし、国際化の進行とともに、わが国でも文化の重要性が急速に注目を浴びるようになりました。企業の世界でも、貿易摩擦の緩和のためには国際文化交流の促進をはかる必要が痛感される一方、国内においても製品の文化的付加価値が売れゆきを左右する時代だという認識が深まっています。企業自身のイメージアップのための「企業の文化化」も叫ばれています。<アドミカル><アブサ>との緊密な連携のもとに、わが国に初のメセナ協議会を設立する時期が熟したといえましょう。
わが国の企業はこれまで、個々にバラバラに文化擁護を行ってまいりました。しかし個々の活動の限界は明らかです。現代における文化の重要性を認識し、志を同じくする企業が手をたずさえて、わが国の文化状況の改善につとめていきたいと思います。
税制の問題ばかりでなく、企業が文化への関心を深め、文化にたずさわる人間を養成していくことも大切です。文化情報の交換、芸術家と企業の出会いの場をつくることも企業の文化擁護を円滑にするのに役立ちます。また協議会は、当初はわが国における企業メセナ活動の一層の進展のための啓蒙と調査を主な事業といたしますが、将来は協議会自体が個々の企業の利害を超えた立場から独自のメセナ活動にも取り組む所存であり、文化問題で広く企業の立場に立った活動を展開することを目的といたします。つきましては趣旨ご賛同のうえ、貴社のご参加をお願い申し上げる次第です。
1990年
社団法人企業メセナ協議会