メセナアワード2015 メセナ大賞受賞

対話と協働の先に、未来を描く

北島義俊 大日本印刷株式会社 代表取締役社長

ーメセナ大賞のご受賞、誠におめでとうございます。ルーヴル美術館と連携して開発を重ねた美術鑑賞ツールを、独自のワークショップとしてさらに幅広い層へ向けて展開されている点が高く評価されました。

ありがとうございます。ルーヴル美術館との協力関係は長く、1998年にマルチメディア情報検索スペース「サイバー・ルーヴル」を寄贈して以来です。その中で、ルーヴルが抱える課題、来館者が数多くある作品一つひとつに対して理解を深めることが難しいという状況を知りました。そこで、新しい美術鑑賞の方法を探るために協働を始めたのが、「ルーヴル ‐ DNP ミュージアムラボ」なのです。当初は、作品の近くにデジタル機器を設置することへの抵抗を示されましたが、対話を重ねて開発をすすめ、学芸員の皆さんが実際に鑑賞システムを体験してみて作品への理解が深まると実感されたのでしょう。これまで館内4部門で、このシステムが導入されました。
当社の情報コミュニケーション技術やノウハウを活かした文化活動は、デジタル環境や時代の変化に即応する社業と相関関係にあります。ですから、今回賞をいただいた活動も、ルーヴルとの協働を経て、より多くの人へ新たな体験を伝えようと、いまも成長を続けているのです。

ー社業と関連しながら、文化活動を展開しているのですね。

まだメセナの言葉もなかった86年、東京にグラフィック専門の「ギンザ・グラフィック・ギャラリー」を開設してからです。現在は京都と福島を加えた3か所を拠点として、2008年に設立した公益財団法人DNP文化振興財団で運営しています。グラフィック文化の価値を伝えるほか、アーカイブや調査、近年は研究助成なども展開しています。年々アーティストの表現は多様化し、グラフィックの領域もコミュニケーションメディアも拡大しています。グラフィックはコミュニケーションの一形態であり、当社にとって密接なものです。だからこそ、我々が取り組むべき文化活動ですし、本業に近いところで息長くという姿勢も一貫しています。
当社は「文明ノ営業」と位置づけ印刷業を創業して、2016年に140周年を迎えます。企業として、社会の変化に応じるだけでなく弛まぬイノベーションを続け、社会に変化をもたらしたい。そのためにも、事業と文化活動の両輪で社内にも社会にも新しい価値を提供し続け、「未来のあたりまえ」を思い描いて種を蒔き、育んでいるのです。

[聞き手・構成:内田秋]
取材日:2015年10月19日


きたじま・よしとし
1958年慶應義塾大学経済学部卒業、同年株式会社富士銀行入行。
63年5月 大日本印刷株式会社入社、79年12月代表取締役社長就任。
日本経済団体連合会常任理事。レジオン・ドヌール・コマンドゥール受章。

メセナアワード2015 メセナ大賞受賞

大日本印刷株式会社
ルーヴル – DNP ミュージアムラボを起点とした美術鑑賞ワークショップ

活動内容
「ルーヴル‐DNPミュージアムラボ」は、ルーヴル美術館と大日本印刷が互いに専門性とリソースを持ち寄り、美術作品との新しい出会いに貢献する共同プロジェクト。美術鑑賞における、感動や喜びとさまざまな気づきをもたらす点を重視し、多様な技術や手法を活用して、より一層豊かな視点を持って楽しんでもらうための取り組みだ。2006年から13年まで、社屋内の専用スペースでルーヴル美術館の作品による展覧会を開催し、100の鑑賞システムを開発。その一部は同美術館に設置され、世界中からの来館者に利用されている。
11年からは、共同開発の中で培ってきたマルチメディアツールなどの活用を、作品がない場所へと広げる。近年、日本の中学校では美術における鑑賞教育が重視される一方、授業の進め方への教員の戸惑いが課題として聞かれた。学校現場でのデジタル機器使用に対する親和性の高まりも受けて、同社は国内の美術館や教育機関の専門家とともに、中学生を対象にタブレット端末を用いた美術鑑賞授業を構想、開発に取り組んだ。学校での実践と改善を重ねる中より幅広い層への有用性を見出し、14年にはさらに、美術に馴染みのない人たちに向けた鑑賞ワークショップへと展開。同社の文化活動として、美術に親しむ機会の拡大を目的に子供や親子向けに実施を始めたところだ。
「より多くの感性豊かな人々が、社会に生まれ・育ちますように」と試行を繰り返し、常に目の前にある事柄の先を見据えて新たな取り組みへと挑んでいく。美術との多面的な出会いを広げることで、創発的な社会の実現へとつなげている。

評価ポイント
美術館や教育機関などと協働で長期的な開発に取り組むことで、美術鑑賞の可能性を広げ、深めている。
自社の事業ドメインと関連しながら文化活動を展開することで、両事業に貢献する継続的な取り組みとなっている。

企業プロフィール (2015年4月現在)
本社所在地:東京都新宿区
主な事業:情報コミュニケーション部門(書籍・カタログ・各種カード・各種転写記録材他)、生活・産業部門(包装材・住宅等の内外装材他)、エレクトロニクス部門(液晶ディスプレイ用カラーフィルター・フォトマスク・各種光学フィルム他)
設立年:1894年(創業1876年)
資本金:1,144億6,400万円
従業員数:39,451名(連結)、10,697名(単体)[2015年3月31日現在]
URL:https://www.dnp.co.jp/

『メセナ アワード2015』掲載(2015年11月20日発行)

arrow_drop_up