メセナアワード2024 メセナ大賞受賞

「遺す」という大切な役割

加藤英輔 カトーレック株式会社 代表取締役社長

―大賞受賞おめでとうございます。最初に感想をお聞かせください。

本当にうれしい、その一言です。
父が社長だった1994年、弊社は四国村の運営に関して「メセナ地域賞」をいただいています。30年経ち、私が父とほぼ同じ年齢になった今年、大賞をいただきました。世代を超えた地道な取り組みを評価いただき、しみじみとありがたいです。

―あらためて1976年に「四国村」を開村された経緯を教えてください。

弊社は香川県高松市の廻漕業から始まり、陸運業を祖業とする会社です。あのころは重い荷物を運ぶ仕事も多く、腰や膝を痛める社員がいました。父は彼らの第2の職場として讃岐うどん店『わら家』をつくったのです。古民家を移築して店を始めたのですが、父はその茅葺き屋根の意匠に魅せられました。「美術品は愛好者が多く、後世に遺される。しかし四国の人たちの営みが滲む民家や道具も同様に遺すべきでは」と古民家を集めました。賛同いただいた方から土地を譲り受け、四国村を起ち上げ、公開してきたのです。

―思いを引き継いだ加藤社長が、2022年に「四国村ミウゼアム」へとリニューアルされました。契機は何だったのでしょう?

いわば危機感です。かつて四国村には年間20万人ほどの来場者がいましたが、近年は4万人ほどに減少していました。この数を増やしたいこともありましたが「四国村の見え方、景色が変わってきた」ことに危機感を感じたのです。

―「見え方、景色が変わった」とは?

開村当初、四国村に来ていただく方は、古民家が身近だった世代の方が多くいました。「お母さんもこんな家で育った」「竈を使っていた」と古民家を前に自然と会話が生まれていました。ただ時を経て、そうした生活体験がない世代が多数を占めるようになりました。古民家はあれど“営み”が見えない展示になり始めていたのです。建築史家である伊藤ていじさんが1976年の開村セレモニーでおっしゃった「貴重な建物が復元されたのは意義深いが、抜け殻にしてはならない」との言葉が頭をよぎりました。

―そこで展示されている古民家に住んでいた方などを取材、動画を撮り、展示公開されたのですね。

はい。「今ならば、まだそこで営みを育んでいた方がおられるはず」と探し出してインタビューをさせてもらいました。これまでもあった古民家の壁のキズや民具から、生活の息吹が伝わるようになりました。エントランスに新たに建てた「おやねさん」や瀬戸内国際芸術祭との連携の効果もあわせ、毎年、少しずつ来場者が増えています。より多くの方に当時の生活の知恵と豊かさ、幸せの本質のようなものに触れる機会を生み出せたかなと自負しています。

―そんな御社にとってメセナ活動はどのような位置づけですか?

四国・高松は弊社発祥の地で、グローバルにビジネスを展開する今も大切な場所。貢献したい意識が当たり前にあります。メセナ活動はその一つ。四国村ミウゼアムを通じ、地域文化を遺し、伝える。先人の営みや工夫から学びを得る。その機会を生み出すことは会社経営とはまた別に、やらなければならない使命と考えております。「KATOLEC」の社名は、1992年に「加藤陸運」から変えたものです。新しい社名のLECは、ロジスティクスのLと、エレクトロニクスのE、そしてカルチャーのCを付けたものです。父の強い思いからCが付いた。「四国村を継続させよ」「原点である人々の営みを忘れるな」とのメッセージと受け止めています。

―メセナ活動における、今後のビジョンは?

四国村を磨き上げながら、その輪を広げていきたい。イサム・ノグチや流政之といった香川に制作拠点を構えていた彫刻家の足跡など、周辺には文化的な素地が点在しています。瀬戸内国際芸術際などを通じて、国内外から瀬戸内と高松が注目される今、その一翼を四国村ミウゼアムが担いつつ、新たなつながりを生み出す役割を果たしていきたいです。

[聞き手・構成:箱田高樹(カデナクリエイト)]


かとう・えいすけ

1954年 香川県高松市出身
1978年 東京大学法学部卒業
1978年 NHK入局
報道局、甲府放送局にて番組制作に携わる
「海外ウィークリー」「NC9」「小さな旅」等を担当
1988年 加藤陸運[株](現カトーレック[株])入社
1997年 同社 代表取締役社長に就任 現在に至る
2018年 [公財]四国民家博物館副理事長に就任
2022年 同館 理事長に就任 現在に至る

メセナアワード2024 メセナ大賞受賞

カトーレック株式会社
四国村ミウゼアムのリニューアル

活動内容
香川県屋島の南麓5万7,000㎡に広がる野外博物館・四国村。カトーレック創業者の加藤達雄氏が1976年に開設し、江戸~大正時代に建てられた四国各地の古民家や産業遺産をはじめ、それにまつわる民具、民俗資料を収集・保存・展示している。開村から約半世紀を経て、博物館の存在意義を見直し、2022年に「四国村ミウゼアム」と名称を変え大きくリニューアルした。
施設入口には、新たなランドマークとして東京大学准教授・川添善行氏が設計したエントランス棟「おやねさん」を新設したほか、2つの蔵をインフォメーションセンター・ミニシアターに活用。また、主要な建物と四国の伝統産業である砂糖づくりや醤油醸造、楮蒸しなどの過程や道具の解説、当時暮らしていた家族へのインタビュー映像など、展示内容も全面的に刷新し発信力を強化。さらに、約2万点の民俗資料(うち6,514点が国の重要有形民俗文化財指定)をおさめた収蔵庫も公開し、毎月予約制のツアーを実施している。
週末は囲炉裏に火を入れ、季節に応じた飾りを施すほか、小豆島農村歌舞伎舞台では石切り唄・砂糖〆唄といった仕事唄や民話オペラを上演するなど、展示のみならずさまざまな手法で人々の営みや生き様を伝える。リニューアルにより年間の来村者数も増加し、多言語対応の音声ガイドの導入を受けて外国人が3割を占めるほか、小学生以下を無料にし、校外学習の利用もさらに増えている。
新名称は、開村時から親交が深かった画家・猪熊弦一郎氏が『生きている四国村』という文章に残した「大きな野外の建築ミウゼアムよ。がんばってくれ。」という一節からきている。四国の先人の労苦や知恵、祈りが込められた「人智遺産」は、創設者たちのエールとともに、今なお生き続けている。

受賞理由
歴史的建築物や文化財の維持保全とともに、公開・活用しながら先人の暮らしを後世に伝え、博物館の新たな可能性を広げている。
リニューアルを経て展示内容を充実させ、よりユニバーサルかつていねいに発信する工夫により、地域文化の理解促進につなげている。

企業プロフィール
本社所在地:東京都江東区
創業年:1961年
資本金:7,600万円
従業員数:2,270名(グループ総数:7,900名)
主な事業:ロジスティクス事業(運送、倉庫、物流加工)、エレクトロニクス事業(電子機器の製造受託サービス)
URL:https://www.katolec.com/
(2024年3月現在)

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