メセナアワード2009 メセナ大賞/あなたが選ぶメセナ賞受賞

NPOを通じて、さまざまな人がつながるメセナ

斎藤勝利 第一生命保険相互会社代表取締役社長

斎藤勝利 第一生命保険相互会社 代表取締役社長

―メセナ大賞のご受賞、まことにおめでとうございます。
2000年のVOCA展の取り組みに続き、二度目の受賞となりました。

ありがとうございます。たいへん光栄です。地域の皆様をはじめ、支援してくださった方々に感謝申し上げます。私個人としても、VOCA展とトリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)の創設時にいずれも担当役員としてかかわっておりましたので、感慨もひとしおです。若手美術作家に光を当てるVOCA展とは異なり、TANは音楽文化の振興とともに地域コミュニティーとの「絆」づくりに重点を置いてきました。当社職員も多数、ボランテイアで参加しています。職員やサポーターの方々がいわば「体を使って」続けてきた活動ですから、今回のアワードで「汗のかき具合」という側面を評価していただけたことはたいへん喜ばしいことです。

―NPOのかたちをとり運営にあたることは、民間のホールとしては初めての試みでした。

TANが活動拠点とする第一生命ホールは2001年、皇居そばから、まちとして生まれ変わりつつあった東京・晴海に移転して再興を図りました。ここは、商業用高層ビルなどの職場と、生活の場である住宅、学校や商店街などが隣り合う、職住近接地域です。ホールが加われば、生活に芸術の場が隣接する、いわば「芸・住近接地域」となるのです。ホールの運営に関して、職員のアイディアをもとに社内のワーキンググループで話し合いを重ねました。そして、NPO法人を設立し、職員や地域の皆様に参加をお願いするかたちに自然に落ち着きました。
NPOである最大のメリットは、個人、法人を問わず、さまざまな立場の方々と連携しやすいということです。当社は、生命保険を通じて人の一生に寄り添いより豊かな生活をご提供することが使命ですから、社会貢献活動においても、お客様や地域の方々のライフサイクルに合わせた活動に取り組んでおります。自主公演の「ライフサイクルコンサート」は、人生のさまざまなステージでクラシック音楽に親しんでいただく企画です。また、ホールを飛び出して、地域の学校や福祉施設などに音楽を届けるアウトリーチ活動もそうした思いから続けています。

―晴海のこれからの発展も楽しみです。
TANの今後、そして企業メセナの今後についてはどのようにお考えでしようか。

かけがえのない人と人のつながりを大事にしながら、地域に腰を据えて一歩一歩着実に活動を続けていきたいですね。TANの存在は、職員の創造性を引き出すことにも一役買っています。そのこともTANの活動にさらなる広がりをもたらすと考えています。
経済に行き詰まりを感じる時代だからこそ、人々の創造性を高める文化の振興と地域での活動に力を注ぐメセナ活動は重要なことだと考えます。「企業メセナ」という言葉は何気なく使っていますが、企業に人格はありませんから、正確には「企業に所属する企業人による芸術文化支援活動」を指します。まさに、社会をつくる私たち自身の内面や生活が豊かになれば、新しい時代はおのずと開けてくると思います。私たちはこれからもその一端を担ってまいります。

[聞き手:荻原康子|取材執筆:編集部]


さいとう・かつとし

1943年、東京都生まれ。1967年一橋大学商学部卒業後、第一生命保険に入社。国際企画部長、調査部長等を経て、1995年取締役企画・広報本部長兼調査部長。2004年代表取締役社長に就任。ロンドン勤務の際に、ヨーロッパの美術館を数多く訪ねた。特にフェルメールの絵画に詳しい。

メセナアワード2009 メセナ大賞/あなたが選ぶメセナ賞受賞

第一生命保険相互会社
第一生命ホールを拠点としたNPOトリトン・アーツ・ネットワークの音楽活動への支援

活動内容
戦後の東京で、舞台芸術の拠点となった旧・第一生命ホールは、1989年、本社改築のため多くのファンに惜しまれつつ閉鎖となる。その後、同社設立100周年を迎える2001年、晴海のトリトンスクエアに新たな「第一生命ホール」が再建された。
ホールの企画を担うNPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)は、クラシック音楽を「広める・創る・育てる」をミッションに掲げ、「ホール・コミュニティ・サポーター・評価」の4事業に取り組む。地域の状況にあわせ、「育児支援」「はじめのいっぽ」などのコンサート企画を年30公演ほど制作。さらに、地元の自治体と連携し、地域に音楽を届ける「アウトリーチ活動」を実施する。
活動を支えるのは、法人会員・協賛企業、職員450名を含む個人会員、市民サポーターや社内ボランティアである。サポーター自らが企画して地域にホールを開放する「オープンハウス」や、各支社の職員がマッチングギフト制度によるコンサートを実施するほか、これまでの経験をふまえた「文化ボランティア・コーディネーター講座」も開講。NPOという形態が職員や市民の参加を促し、地域に根ざした音楽活動を着実に広げている。

アメリカから招聘したボロメーオストリングクアルテットが、弦楽四重奏の意外な豊かさを紹介。
楽譜を投影しながら演奏するというユニークな企画も行った。
©大窪道治

毎年夏に、地域住民にホールを開放するイベント「オープンハウス」。
舞台裏見学や、楽器を演奏する体験もできる。
©大窪道治

地元のボランティアグループとともに、高齢者福祉施設での出前音楽会を開くなど、アウトリーチ活動を精力的に行う。

西洋音楽だけではなく、邦楽器を使った活動も。
地域の小学生が、触れる機会の少ない箏などに親しむ「Meet the和楽器」プロジェクト。

若手の作家の登竜門、VOCA展を1994年より支援。
受賞作品の一部を買い上げ、第一生命保険本社1階にある2つのギヤラリーで展示する。

企業プロフィール(2009年3月現在)
本社所在地:東京都千代田区
業種:保険
基金総額:4,200億円
設立年:1902年
従業員数:5万3,072人
URL:www.dai-ichi-life.co.jp/

『メセナnote』63号掲載(2009年12月25日発行)

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