メセナアワード2008 伝統技能継承賞/あなたが選ぶメセナ大賞受賞

匠の技と心を絶やさないために

竹中統一 株式会社竹中工務店 取締役社長/財団法人竹中大工道具館 理事長

―「伝統技能継承賞」に重ね「あなたが選ぶメセナ大賞」の受賞、おめでとうございます。御社にとって大工道具館はどのような位置づけなのでしょうか。

まず、このような名誉ある賞を二つもいただき、たいへんうれしく思います。ご支援いただいた皆さまに感謝申し上げます。日本では、大工の優れた技術や独自の美意識に基づいた木の文化が育まれてきました。しかし現代では、効率優先の風潮もあり、伝統的な技術や道具が次第に忘れられようとしています。また、使い込まれて摩耗する大工道具は後世に残りにくい。竹中大工道具館は、そうした大工道具を通じて匠の技とものづくりの心を伝え、日本の建築文化の維持と発展に役立ちたいという想いから活動を続けています。
当館は1984年、竹中工務店の創立85周年記念事業として、発祥の地、神戸に開設しました。道具や関連資料の収集は、建築史家の故・村松貞次郎先生などのご指導を仰ぎながら、ゼロから始めたのですが、今では2万4,000点を超えています。
竹中工務店の新人研修では、新卒・中途採用にかかわらず必ず当館を見学します。竹中は約400年の歴史があり、創始以来近世に至るまで大工の棟梁として受け継がれてきました。鉄やコンクリートの建築を手がけ会社が大きくなった今日でも、長い歴史に培われた棟梁精神は深く根づいていると感じています。当館は、社員や私自身が常に立ち返るべき原点を伝える役割も担っているのです。

―博物館の枠を越えた幅広い取り組みを展開されていますね。

大工の技をお見せする企画展は、いつもご高評をいただいています。大鋸(おが)や鉞(まさかり)などには、皆さん驚かれたようです。技を伝えるには、道具をただ陳列してもあまり意味がありません。道具を常に使える状態に保ち、実際に使って見せる必要があります。そして、木と触れ合う機会の乏しい現代こそ、まずは木の暖かみを知っていただきたい。企画展のほか、子どもたち対象の体験教室などもあります。「生きた」技と心、そしてそのすばらしさを一層深く知っていただける催しです。また、当館は学術研究にも着実に取り組んできました。研究紀要は毎年発行していますし、研究者や現場の方々との専門的な交流も盛んです。より多くの人々に匠の技を紹介するため、定期的にセミナーや講演会も開催しています。

―今後の展開も非常に楽しみです。

4年前に東京本店を木場に程近い江東区新砂へ移したことがきっかけで、活動にさらなる広がりが生まれました。木場は江戸時代から木材の集積場で、現在も材木商の方々が多くいらっしゃいます。東京本店にあるGALLERY A4(エークワッド)では企画展を行っていますし、近隣の学校へ出張授業に出向いたりもしているので、地域との関係が次第に深まっています。
今後は、大工道具と関係の深い左官などの道具についても収集と技の継承に取り組んでいくつもりです。また現在、国土交通省が推進する「大工育成塾」に講師を派遣していますが、全国各地にある大工養成機関とも連携して、多くの匠を育てたいですね。これからも、伝統技能継承賞の名にふさわしい活動に邁進してまいります。

[聞き手:荻原康子|取材執筆:木村沙江]


たけなか・とういち

1942年生まれ。甲南大学経済学部卒業後、竹中工務店入社。1968年ミシガン州立大学大学院経営学部修士課程卒業。万博工事本部、企画室などを経て、1973年取締役、1977年常務取締役、2000年より現職。1997年より財団法人理事長に就任。趣味はスキー、登山。

メセナアワード2008 伝統技能継承賞/あなたが選ぶメセナ大賞受賞

財団法人竹中大工道具館
竹中大工道具館での交流・体験重視型活動

活動内容
1984年、竹中工務店創立85周年を記念して、同社創立の地である神戸市に竹中大工道具館は開設された。古くからの技を伝え「匠の精神」を受け継ぐ場にしたいと、約2万4,000点の大工道具を所蔵。1989年に財団法人化、90年には登録博物館となり、大工道具の収集・保存、展示と学術研究に努めてきた。
地下1階・地上3階建て、展示面積437㎡ながら、内容は時代と地域を越えて奥深い。古代から現代まで大工道具の変遷を系統的に辿り、復元品と実物を常設展示。実物の道具は日頃から研いでおり、いつでも使える状態を保って見せている。
「鉋の世界」や「錺金具」などテーマを絞った企画展も開催。同館だけでなく東京本社にあるギャラリーA4でも年1回行い、毎回必ず、セミナーと実演、子ども体験教室を開いている。さらに学校への出張授業や、他機関が催す体験講座などにも積極的に取り組み、職人の技に触れ、体験してもらう機会を広げている。
ほかにも、定例のセミナーや講演会、ミニ企画展などを開催して幅広い層の関心を集める。研究紀要も毎年発行し、名工の技をビデオに記録するなど真摯な博物館活動を続け、建築の研究者や職人からの信頼も厚い。

大工道具館の3階展示室は、「道具と鍛冶」がテーマ。
伐採から仕上げまでに使う数十種の道具と、それらをつくる鍛冶の世界を紹介する。

館の正面にある木柱は、法隆寺金堂の柱を模したもの。
法隆寺宮大工棟梁が当時の技法でつくった。

建築工事の節目に行われる儀式は、大工棟梁にとって重要な仕事の一つ。
儀式道具は、金箔や漆で装飾されている。

近隣の学校での出張授業では大工道具の歴史や鉋削りを実演する。
現代では珍しい手道具を通じ、ものづくりの楽しさを伝える。

企画展「削る―鉋の世界―」(2007年8月~9月)にあわせて東京本店で行われた、大鉋づくりの実演。
木場木遣保存会の木遣歌も披露された。

財団プロフィール(2007年12月現在)
財団所在地:兵庫県神戸市
設立年:1989年
正味財産:28億256万円
職員数:10人
URL:https://dougukan.jp/

『メセナnote』59号掲載(2009年1月15日発行)

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