メセナ大賞2003 メセナ大賞受賞

ふるさとの文化を地道に発信する

金沢忠夫 財団法人常陽藝文センター 理事長/株式会社常陽銀行 監査役

―ダブル受賞おめでとうございます。ご感想はいかがですか。

企業メセナ協議会の顕彰事業のことは以前から存じておりましたが、地方の財団が応募しても無理ではないかと、ずっと控えておりました。今年は当財団が20年の節目を過ぎたこともあり、挑戦してみたのですが、大賞をいただけるとは想像もしていませんでした。当財団は1982年の設立で、翌年、活動の拠点である8階建ての郷土会館が完成しました。常陽銀行4代目頭取・青鹿明司の「地域の人々との心のつながりを」との経営理念に基づき、50周年事業の一環として創設したものです。20年の歩みのうちに、機関誌「常陽藝文」は247号、ギャラリーでの郷土作家シリーズは167回、自主ビデオ制作は111本を数えました。生涯学習「藝文学苑」の受講生は約1,600人、センターの友の会会員も4万人を超えています。茨城県という地域で地道に積み上げてきたこれらの事業に光を当ててくださり、また文化庁長官賞もあわせていただいたことに、財団職員だけでなく、銀行の行員・OB一同も大変感激しております。

―魅力ある地域づくりのために文化がはたす役割とは何でしようか。

水戸は、江戸時代に水戸藩が総力を挙げて「大日本史」397巻を編纂した地であり、文化的な土壌があります。県内には公立・民間各種の文化施設があり、今ではそれぞれの機能、役割が定着してきたと思います。特に藝文センターのある三の丸地区は、旧藩校の弘道館、県立図書館、NHK文化センターなどの文化施設が存立し、教養ゾーンを形成して賑わいを見せています。成熟社会・高齢社会にあって、定年後の人生や子育てを終わった後の人生をどう充足させていくかは、すぐれて個人の問題ではありますが、芸術・教育・文化事業の重要性は増すばかりです。私どもの学苑でも、教室で学ぶ方々の真剣な目には胸を打たれます。生涯学習とは、文字通り域外とイコールなのだと実感しております。

―企業メセナへの取り組みについて、考えをお聞かせください。

現在のような厳しい経済情勢の中でこそ、メセナ活動の真価が問われます。業績のよい時に華々しく活動し、悪化するとやめてしまうのは本物の活動ではありません。メセナの成果は金銭に換算できないだけに、業績低迷の時にはどうしても肩身が狭くなります。しかし、その活動が人々に感謝され、高く評価されているとしたら、それは投資額以上の信用、信頼感を企業にもたらしているはずです。企業が全社的なリストラを実施している状況下では、メセナ活動もその埒外ではありません。支援額や職員数が削減されていく中で、いかにしてレベル、質を低下させずにやっていくか。活動を継続させていくことの困難さを実感すると同時に、すばらしさも味わっております。今回の受賞を励みに、今後も郷土の文化の発信を継続していきたいと思っています。

[聞き手:角山紘一|取材執筆:高野香子]


かなざわ・ただお

財団法人常陽藝文センター理事長、株式会社常陽銀行監査役、茨城県産業教育振興会会長。1937年宮城県生まれ。1960年東北大学経済学部卒業後、常陽銀行入行。堀留支店長、法人第二部長、営業統括部長、取締役国際部長を経て、1991年常務、1997年専務。1998年監査役。同年より常陽藝文センター理事長。
著書に「茨城県における銀行合併の特色」、「茨城県の金融史とその周辺」、「茨城県の金融史といばらき時評」など。

 

メセナ大賞2003 メセナ大賞受賞

財団法人常陽藝文センター
郷土の芸術・文化の発掘と普及―20年目の挑戦

活動内容
茨城の常陽銀行により設立された同センターでは、地元ゆかりの美術家の展覧会やコンサートを開催するほか、語学や創作などの講座を設けて住民に活動の場を提供。
また、茨城の歴史や文化を多彩な切り口で紹介する冊子「常陽藝文」の発行やビデオ制作にも力を入れており、長年にわたる真摯な取り組みは、約4万7,000人の友の会会員に支持されている。

評価ポイント
地域に根ざした多岐にわたる活動は、地域文化振興のモデルケースとなる。
NPO法人の活動に職員の参加を促し、地域社会と結びつく発展的な拡がりが見える。

メセナ大賞2003 文化庁長官賞受賞(2003年度より新設)

財団法人常陽藝文センター
「藝文友の会」を通じた常陽銀行の社員、家族に対する文化芸術に親しむ機会の提供

機関誌『常陽藝文』ほか機関誌『常陽藝文』ほか

常陽文化センター1階のギャラリー 常陽文化センター1階のギャラリー

団体プロフィール(2003年3月現在) ※( )内は常陽銀行のデータ
財団所在地:茨城県水戸市
業 種:財団 (銀行)
創立年:1982年(1935年)
基本財産:5億円 (資本金:851億1,300万円)
職員数:37人 (3,766人)
URL:http://www.joyogeibun.or.jp/

『メセナnote』29号掲載(2004年1月15日発行)

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