人と社会と文化のために
村瀬清司 安田火災海上保険株式会社 常務執行役員中部本部長
―受賞おめでとうございます。まずはひまわりホールについてご紹介ください。
ひまわリホールは1989年に、東海地方唯一の人形劇専用ホールとしてオープンいたしました。この年、弊社が中部地方の拠点として名古屋市に新社屋を建てるにあたり、何か地域のお役に立ちたいと地元の皆様のご意見をうかがったところ、中部地方では古くから人形劇がさかんで愛知県内に150もの団体があるにもかかわらず、常設の劇場や稽古場がない、ということがわかりました。そこで、新社屋の最上階(19階)に人形劇場をつくることになったわけです。当初から運営をNPO愛知人形劇センターにゆだね、専任の事務局職員を社員が務めるかたちでパートナーシップを築いてまいりました。企業による人形劇専用ホールの開設は全国的にも初めてとのことですが、11年間の活動をこうしてご評価いただき、大変光栄に感じております。
―11年の活動で思い出深い出来事は何でしょうか。
まず、10周年を迎えた2000年に実施した「週末連続公演」ですね。おかげさまでご好評をいただき、年間1万1,000人ものお客様にご来場いただきました。さらに同年は、ひまわリホールで公演いただいた地元の人形劇団が名古屋市の市民芸術祭賞演劇部門を、また、私どものパートナーである愛知人形劇センターの前会長・須藤三男さんが名古屋市芸術特賞をそれぞれ受賞されるなど、ホールにとつても地域の人形劇文化にとっても記念すべき年となりました。また最近の出来事では、ホールで活動していただいている「車椅子の人形劇団」がフランスで開催された国際セラピー会議に招かれ、その公演が大好評を得たということも、強く印象に残っております。さらにこのころでは、多くの劇団がひまわリホールを拠点に浜松はじめ周辺地域まで活動の範囲を広げるなど、地域間の交流も活性化しているように感じています。
―御社は美術館活動をはじめ多彩な文化活動を展開していらっしゃいますね。
弊社の創業以来の経営理念である「社会と共生する」が、すべての活動のバックボーンとなっています。人と社会と文化のためにお役に立ちたい、そのために私どもでは、各地の代理店とも一体となって、豪雪地帯での雪降ろし、海岸や河川敷の清掃、富士山の空き缶・ゴミ拾いなど、地域に密着した社会貢献活動に取り組んでおります。そうしたコミュニケーションを通じて、地元の皆様に愛される企業となりたい。新宿本社ビルの東郷青児術館やひまわリホールなどのメセナ活動も、これらの社会貢献活動の一環として位置づけらねるものであり、今後も継続していきたいと考えております。私個人としては、旅行が好きなのであちこちに行きますから、機会があれば地元の美術館や劇場などに足を運んで、地域の文化を吸収してみたいですね。
[取材執筆:高野香子]
むらせ・きよし
1946年11月25日生まれ。1970年東北大学経済学部卒業、安田火災海上保険株式会社入社1985年営業推進部特命課長。総合システム部特命課長、自動車業務部特命部長、テクノサービス部長、自動車開発第一部長などを経て、2000年取締役嘱静岡本部長兼嘱静岡業務部長。2001年11月より現職。
メセナ大賞2001 メセナ大賞受賞
安田火災海上保険株式会社
安田火災劇場「ひまわりホール」の活動
活動内容
1989年、安田火災が中部地方の拠点として名古屋に新社屋を建設するにあたり、地元の意見を取り入れたのが「ひまわりホール」開設のきっかけである。もともと中部地方では人形劇が盛んで、愛知県内だけでも120団体を越える人形劇団がありながら、ながらく専用ホールがなかった。そこで安田火災では、同ビルの最上階に人形劇場「ひまわりホール」を開設する。全国的にも人形劇の専用ホールは7~8つしかなく、それらは公立か劇団が所有するもので、企業による人形劇場の開設は同ホールが初めて、かつ唯一のものである。
さらに、単なる貸しホールを設けただけでは本来的な人形劇の普及・発展にはつながらないであろうとの考えから、ホールの運営をNPO・愛知人形劇センターに委ね、この事務局を務める専任の職員を総務部内に配した。加えて、センターの年間活動費に対しても協賛をおこなっている。
愛知人形劇センターは、地元の人形劇団関係者をはじめ東海地方のプロ・アマの人形劇団約150団体によって構成されており、以降、ひまわりホールを拠点として、継続的な活動を展開することになる。具体的には、(1)人形劇公演やワークショップの企画・制作、(2)人形劇情報誌・月刊『あっぷ』の発行、(3)プロによる「養成講座」の開設、(4)「脚本賞」の公募と入選作品の上演、(5)福祉施設への出前公演「パペットキャラバン」の実施などである。
116人収容の可動式ホールは人形劇公演には最適な規模であるとともに、休日も含め毎日使用できるため、練習や会議などもあわせると年間の稼働率は300日を越える。また、毎年秋には「パペット・フェスティバル」という3日間連続のイベントを行っており、2000年度はのべ2,000人以上の親子が人形劇を楽しんだ。この催しにも、毎年、100名近い社員がボランティアとして参加し、受付や会場整理などのスタッフをつとめている。
安田火災「ひまわリホール」での人形劇団むすび座公演「はっくしょんしてよかばくん」
評価ポイント
まず人があってハコがある。地域に望まれることを還元している。
自社ビルの提供や運営面での人的サポート、NPOとの連携など、これからのメセナのあり方にとって示唆に富む。
企業プロフィール(2001年3月現在)
本社所在地:東京都
業種:保険業
創立年:1944年[創業1888年]
資本金:584億2,100円
従業員数:11,106人
URL:https://www.sompo-japan.co.jp/
『メセナnote』17号掲載(2002年1月15日発行)