「育てる」「続ける」をキーワードに
森田富治郎 第一生命保険相互会社 社長
―受賞おめでとうございます。受賞の率直なご感想をお聞かせください。
受賞の知らせをいただき、大変驚きました。メセナ大賞の過去の各社の実績にただ感心しておりましたが、私どももその中に加えていただいて非常に光栄です。もともと私は古典名画や印象派が好きだったのですが、当社の活動を通じて現代美術に触れ、そのよさがわかってきました。いろいろと触発されることが多く、アンテナも広がりました。メセナには、「内側に対する効果」もあるようです。第一生命の企業文化も向上しつつあるのではないかと思っております。
―日本の企業メセナについてどのようなご意見をお持ちですか。
企業メセナは非常に意義深く、社会の一員である企業の当然のおこないだと思います。文化行政の整備や企業メセナのさらなる充実が望まれている今、国による文化支援と企業メセナの両方がバランスよくおこなわれるのが好ましいと考えています。最低必要なインフラは上から整備されるべきものですが、そこに下からの明確な「意志」が加わって、初めてメセナが魂のあるものになるのではないでしょうか。
―スタートから8年になるVOCA展ですが、印象深い思い出などはございますか。
社内の一角で細々と始めた試みが、周囲の方々のご賛同やご理解を賜り、美術界のリーダーにもご参画いただくほどに広がったばかりか、地域に作家が育つ基盤になっているとの評価もいただき、深い感慨を覚えています。振り返れば、気鋭の方々のおもしろい作品と次々に出会うことができました。どれも印象深い力作ばかりです。
―今後の御社のメセナ活動のご計画や目標をお聞かせください。
来年、東京晴海に第一生命ホールを開設します。当社の社屋にはもともとホールがあり、地域の音楽文化の拠点としてそれなりの役割をはたしてきたのですが、残念ながら1989年に取り壊されました。ですから、これを旧第一生命ホールの再興として盛り上げると同時に、より明確に地域貢献活動の一環として位置づけていくつもりです。音楽を通して地域の方々と密接にかかわり、相互交流できるような、従来とは違った新しいホールのあり方を模索していきたいですね。今後は、VOCA展とホールの2本柱を核にして、「育てる」「続ける」をキーワードにメセナ活動を考えていきたいと思います。それに加えて、「見直す」ことも必要でしょう。つまり、やりっばなしにせず、反芻しながらよりよいものにしていくべきだという意味です。どんなにすばらしい活動でも、新しい視点で見直していかなくては、次第に精彩を欠き、惰性的なものになりがちです。いつも生き生きとした姿でメセナ活動をつづけていくためにも、常に評価と検証を加えていきたいと思っています。
[聞き手 :熊倉純子|取材/執筆:高野香子]
メセナ大賞2000 メセナ大賞受賞
第一生命保険相互会社
VOCA展の開催
活動内容
VOCA(ヴォーカ)は「The Vision of Contemporary Art」の略で「現代美術の展望」を意味している。1994年から毎年1回開催しているこのVOCA展は「VOCA展」実行委員会(実行委員長:高階秀爾氏)および(財)日本美術協会・上野の森美術館が主催、第一生命保険(相) はその協賛会社であるとともに、実行委員会の実務組織として、同展に関する企画案の作成、運営、広報活動などに関わっている。
同展では現代美術の動向を知るうえで、あえて作品を平面に限定していることに、大きな特徴がある。また30名前後の全国各地の美術関係者(学芸員、研究者、ジャーナリストら)に各1名ずつ、「ユニークであり、作品に必然性のある、国際的に通用する力強い表現力を持った」40歳以下の若手作家の推薦をしてもらい、推薦された作家の作品を全て展示するという方式も注目されている。
展覧会は上野の森美術館(東京・上野)で約2週間開催し、毎回オープニング前日には審査員、専門家によるシンポジウムも実施。さらに、VOCA賞1名、VOCA奨励賞4名を選び、それぞれ300万円、150万円の賞金を贈呈するほか、受賞作品を同社が買い上げ、本社ビル(東京・有楽町)に内設するギャラリーにて常設展として公開している。これらは若手作家の励みとなるだけでなく、一般の方々にも現代美術にいつでも触れられる、絶好の機会となっている。
また、同展のカタログはバイリンガルで制作しているが、これは「海外でも、日本の若手作家のドキュメントとして活用できる」と高く評価されている。
VOCA展は若い世代の最もヴィヴィッドな動向が紹介される場として、回を追うごとにますます注目されるようになってきており、今後も同展を通じて、平面の表現の新たな可能性が発見されてゆくことが大いに期待される。
VOCA展の開催風景
「VOCA展」シンポジウム
評価ポイント
現代美術の分野では、表現方法が増え、平面の存在が軽く見られることが多い時代だからこそ、平面を問い直す議論の場としても意義のある活動だと思う。
社名を前面に出さず、控えめに協賛という立場を貫いている。
企業プロフィール(2000年3月末現在)
本社所在地:東京都
業種:保険業
創立年:1902年
資本金:2,200億円
従業員数:60,792人
URL:https://www.dai-ichi-life.co.jp/
『メセナnote』11号掲載(2001年1月15日発行)