メセナ大賞1999 メセナ大賞受賞

地域社会と共存共栄の歴史を歩む 

三浦 守 株式会社東急文化村 代表取締役社長

―Bunkamuraは、渋谷のランドマークとしてすっかり定着していますね。

開館以来10年間、個性ある複合文化施設として350本以上の自主企画をおこなつてきたことが評価され、権威ある賞をいただいたことは大変光栄であり、誇りに感じています。これまでオフィシャルサプライヤー*として支援いただいてきた各企業に感謝しております。また、当社の企業理念である「地域社会に対する貢献」が、メセナの精神に通じたようにも思います。

―東急グループにとってBunkamuraとはどのような存在といえるのでしょうか。

亡くなった会長の五島昇は、「日本は文化武装すべき」が持論で、芸術・文化や教育の振興に力を尽くした人物でした。Bunkamuraもその遺志を継いでいます。思えば15年前、東急百貨店社長として渋谷の再開発に取り組んでいた私は、商業施設と文化施設を一体化できないかと考えてBunkamuraを計画したのですが、その歴史は、街づくり、人づくりの歴史でもありました。

―Bunkamuraの出現によつて、渋谷はどのように変化しましたか。

渋谷は若者の街といわれますが、実は、大人の街でもあるんですよ。全区の25%が高級住宅地で学校も多いという渋谷の特色に、Bunkamura はよくマッチしたようです。大人のお客様が頻繁に足を運んでくださるようになり、街全体のモラルが上がったともいわれます。地元商店街の要請で通りの名前も「文化村通り」になるなど、街とBunkamuraが共存共栄してきたように思います。

―追随する文化施設も多い中、今後はどんな活動を展開されていくご予定ですか。

スタッフー同「初心に返って」と、気持ちを新たにしています。近年では供給面で厳しい状況もあるのですが、テーマ性のある自主企画を工夫するなどの努力で、よリダイナミックな活動をつづけていくつもりです。オーチャードホールには「可動式音響シェルター」**というユニークな舞台機構がありますので、これを活用し、バレエやオペラの公演をというお客様のご要望にもお応えしていきたいですね。

また、「楽しくなければ文化じゃない」とはシアターコクーンの芸術監督だった串田和美氏の言葉ですが、私もそのとおりだと思います。お酒を飲んで歌って楽しい、それこそが文化だと。実は私も、クラシックよりもカラオケが好きな口で……(笑)。文化は象牙の塔におさめておくものではありません。これからもBunkamuraは、生活の中で身近に楽しめる良質な文化の発信をつづけていきたいと考えております。

[聞き手:熊倉純子|取材/執筆:高野香子]

*オフィシャルサプライヤー
全体の運営に対し、数社の企業がまとまった資金援助を継続しておこなう制度。東急文化村のオフィシャルサプライヤーは、現在、日本電気、鹿島建設、日立製作所、東京急行電鉄、東急百貨店。

**可動式音響シェルター
高さ16mにおよぶ二重構造の音響板で奥行きが173mから65mまで自在に構成できる仕組み。それによって舞台面の大きさと残響の調節が可能となる。

 

メセナ大賞1999 メセナ大賞受賞

株式会社東急文化村
複合文化施設Bunkamuraの運営

活動内容
東急グループは、1989年、東京・渋谷にホール(「オーチャードホール」)、劇場(「シアターコクーン」)、 映画館(「ル・シネマ」)、美術館(「ザ・ミュージアム」)からなる複合文化施設Bunkamuraを開館させ、本年で10周年を迎えた。企画・運営・施設管理にあたる(株)東急文化村は、採算をとることよりもテーマ性、先見性のある質の高い企画を行うことを優先し、これまで350にも及ぶ多彩な企画を実施してきた。
東京フィルハーモニー交響楽団とフランチャイズ契約を結び、またオペラも自主制作してきたオーチャードホール。演出家の串田和美、蜷川幸雄らを芸術監督に迎え、「コクーン歌舞伎」「中島みゆきの夜会」など数々のヒットを生み出したシアターコクーン。芸術性の高い作品を紹介しつつ、興行的にも成功を収めてきたル・シネマ。近・現代美術に焦点を当て、「パリ・オランジュリー美術館展」などが話題を集めたザ・ミュージアム。 これら、どの施設にも独自のカラーがあり、それらが有機的に絡み合い、Bunkamuraは新たな文化を創出することに成功してきた。
また、外部専門スタッフが企画に加わるプロデューサーズ・オフィスやシーズン制などの運営システムは、他の文化施設にも大きな影響を与えてきた。とりわけ、全体の運営に対し、多額な資金援助を継続して行うオフィシャルサプライヤー制(現在は日本電気、鹿島建設、日立製作所、東京急行電鉄、東急百貨店の5社)は、メセナ・ブーム以前1989年当時、大変な話題となった。現在もオフィシャルサプライヤーからの資金援助は、Bunkamura運営の貴重な財源となっている。
さらにはオーチャードホールアワードや、ドゥマゴ文学賞、シアターコクーン戯曲賞などの贈呈を通じ、来る21世紀に向けて、新しい才能の発掘、育成にも努めている。 常にエネルギッシュな文化を発信し続けはや10年。国立美術館の独立行政法人化なども取りざたされている中で、経済性と芸術性のバランスを厳しく追及し続けてきたBunkamuraには、「明日のメセナ」でも中心的な役割を果たすことが期待される。

Bunkamura外観

企業プロフィール(1999年5月末現在)
本社所在地:東京都
業種:複合文化施設の管理・運営
創立年:1988年
資本金:4,500万円
従業員数:300人
URL:https://www.bunkamura.co.jp/

『メセナnote』4号掲載(1999年11月15日発行)

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