四半世紀のメセナの「功徳」
山下昭子[メセナライター]
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メセナアワードは、25年という節目を迎え、四半世紀の歴史を持つ賞となった。
これは、1991年に「メセナ大賞」として創設されて以来、芸術・文化を通じた社会創造の観点で優れた活動を顕彰するものとして、公益社団法人企業メセナ協議会が毎年おこなっているものだ。2015年11月20日、東京・南青山のスパイラルホールで「メセナアワード2015」の贈呈式が開催された。
当協議会が発足したのは90年、当時私は美術教育を学ぶただの大学生であったが、「メセナ」という言葉には、何か前向きで、ある種の「カッコよさ」を感じていた。理由は単純、語源がフランス語で日本にはそれまでにない取り組みであるというその新規性に魅かれたからである。新聞などのマスメディアが取り上げた影響も大きかったと思う。発足当時から注目された企業のメセナ活動は、その後、景気の荒波とともにさまざまな理論と実践が展開され、25年が経った。書籍やWebサイトでは多くの研究成果や課題も報告されている。詳しくは専門家に任せるとして、贈呈式当日は四半世紀の歴史を経た「日本の企業メセナのいま」に触れることができる素晴らしい機会となったので、その様子を報告する。なお、受賞者と審査員のコメント等の詳細は2015贈呈式レポートにあるのでご参照のこと。
今年は、大賞1件、優秀賞5件、特別賞の文化庁長官賞1件の、計7活動が受賞した。
(文末に選考結果一覧)
特徴的だったのは、東京都や全国展開の活動が3件で、ほか4件は地域密着型の活動だったことである。当協議会が、地域のメセナ活動が活性化する動きを受けて『いま、地域メセナがおもしろい』という書籍を出版したのは10年前である。受賞数が示す通り、こうした活動のすそ野が広がってきていることを感じる。
「古今伝授の間の維持管理および一般公開」で文化庁長官賞を受賞した、株式会社古今伝授の間香梅(こうばい)は、熊本市にある従業員数4名の企業である。歴史の深い文化財を維持管理し、一般公開もして、企業理念“くつろぎのごちそう”のもと秘伝の銘菓と抹茶とともにお客様を迎えてくれるという。まさに地域文化の継承に大きく貢献しているとしての受賞となった。挨拶に立った副島社長は、「くつろぎのごちそうは、一生懸命働いた後のほっとする時間のことです」と話し、「長官賞をもらって“超”うれしい!」とジョークを飛ばし観客の笑いを集めていた。朗らかでユーモアに富んだお人柄を感じさせてくれた。
大賞は、大日本印刷株式会社の「ルーヴル-DNPミュージアムラボを起点とした美術館ワークショップ」に贈られた。ルーヴル美術館や教育機関とのコラボレーションによる美術鑑賞ワークショップを開発し、子供たちの豊かな感性を育む長年の取り組みが評価されての受賞となった。北島代表取締役社長は、昨今の世界情勢に触れた上で、「我々のこうした取り組みが、多様な文化に対する人々の理解に、少しでも貢献できると良いと考えています」という話を寄せた。
また、優秀賞には、それぞれの活動に相応しい独特の名前がつけられるのも見どころである。
サントリーホールディングス株式会社/公益財団法人サントリー芸術財団の「ウィーン・フィル&サントリー音楽復興基金」は、サントリーグループが取り組む東日本大震災の復興声援活動の一つで、その志に「志マッチング賞」が贈られた。登壇した執行役員の福本氏は、「来年は震災から5年になります。私たちスタッフ一同、志をひとつにしてまいります」というコメントを寄せていた。
しずおか信用金庫の「地域資源循環型もの、人、夢づくり活動」には「夢ものづくり賞」が、島の子供たちに贈る瀬戸内デリバリーコンサート実行委員会の「島の子供たちに贈る瀬戸内デリバリーコンサート」には「瞳かがやく賞」、富士フイルム株式会社の「“PHOTO IS”想いをつなぐ。30,000人の写真展」には「写真伝想賞」、ローム株式会社/公益財団法人ロームミュージックファンデーションの「京都・国際音楽学生フェスティバル2014」には「音でつなぐ世界賞」が贈られた。賞の名前でどんな活動なのか想像も膨らむ。各活動の詳細はメセナアワード2015
これらの賞は、This is MECENAT 2014 に認定された109の活動の中から選ばれた。
果たして、審査員たちはどのような思いで選考にあたったのであろうか?
審査員の方々のコメントからは、選考の難しさとともに、四半世紀を経たこれからのメセナへのキーワードが見えてきたように感じた。
「メセナとは何なのかを真剣に議論した。本当に大切な活動をありがとうございました。」と話したのは、審査委員長の原島博氏(東京大学名誉教授)。ユニバーサルデザイン総合研究所所長・赤池学氏は、「これからは次世代に向けた、気付き・学び・出会い・交流があることが大事、富士フイルムの取り組みは各地の写真店がプラットホームでしずおか信用金庫の場合はお客さまがステークホルダー、こんな風に巻き込んでいくことが大切」という。
また、音楽史家で大阪大学大学院文学研究科教授の伊東信宏氏は「最近は大学も厳しくて、コンサート等を企画すると、やれ成果を出せ、数字を出せと言われる。ここにいる社員の皆さんも、きっと会社でそんなことを言われているんちゃうか、と同志のように感じてしまう。数字よりも、“功徳がある”と言い続けたい。」と大阪弁での歯に衣着せないお話に、会場は大いに賑わった。
その他、「自身の研究テーマはロマネスク文化で石像に触れることが多く、その文化の作り手を見たことが無かった。今日は、生で皆さん(文化の作り手)を見られて嬉しい。」(美術史家、東海大学教授・金沢百枝氏)、「メセナがきっかけになって新しい経済が生まれる。」(同志社大学教授、文化経済学会<日本>会長・河島信子氏)、「(企業メセナを通して)希望の持てる社会になって欲しい。」(立教大学21世紀社会デザイン研究科教授・中村陽一氏)、以上のようなお話が寄せられた。
贈呈式の後に開かれた記念レセプションは、ドリンクや軽食を取りながらの和やかな交流の場であった。ある審査員の先生にお話を伺ったところ「今回、直に足を運んでみてその素晴らしさを知ることができた活動もあった」とのこと、今後も引き続き、全国各地で地道に続けられている活動に賞が贈られることを願う。
そして伊東先生の「功徳」を引用した会話が、会場のあちこちで繰り広げられていた。皆さん、お互いを労うようにお話をされていた。
功徳とは…、よい果報をもたらすもととなる善行(広辞苑)。
企業のメセナ活動は功徳であることを感じた一日であった。
【メセナアワード2015 選考結果】
◎メセナ大賞
大日本印刷㈱
ルーヴル – DNP ミュージアムラボを起点とした美術鑑賞ワークショップ
◎優秀賞
<志マッチング賞>
サントリーホールディングス㈱/(公財)サントリー芸術財団
ウィーン・フィル&サントリー音楽復興基金
< 夢ものづくり賞>
しずおか信用金庫 地域資源循環型もの、人、夢づくり活動
<瞳かがやく賞>
島の子供たちに贈る瀬戸内デリバリーコンサート実行委員会
島の子供たちに贈る瀬戸内デリバリーコンサート
<写真伝想賞>
富士フイルム㈱ 「“PHOTO IS”想いをつなぐ。30,000人の写真展」
<音でつなぐ世界賞>
ローム㈱/(公財)ロームミュージックファンデーション
京都・国際音楽学生フェスティバル2014
◎特別賞・文化庁長官賞
㈱古今伝授の間香梅 古今伝授の間の維持管理および一般公開
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2015年11月20日
(2015年12月21日)