株式会社ブルボン/公益財団法人ブルボン吉田記念財団

ドナルド・キーン・センター柏崎

メセナライター 中原和樹
外部ライターによる「メセナの現場」体験記をお届けします。

コロンビア大学の教授時代のアパートの復元展示室

柏崎の閑静な住宅街を歩いていると現れる茶色の建物。落ち着いた色合いの広々としたエントランスから、その精神性が見えてくるようだ。多くの市民ボランティアの皆さんにも支えていただきながらの、文化活動の発信基地、ドナルド・キーン・センター柏崎である。

人となりを紹介し、発信する基地
一階には無料で入ることのできるフリースペースが広がっており、市民が集う場所として開けているほか、ドナルド・キーンの著作本を閲覧できるコーナーや、情報端末で検索をかけられるコーナー、そして200インチの大型スクリーンを備えた映像ホールがある。特にこの映像ホールで見られる豊富な映像資料は、ドナルド・キーンの「人となり」「作品・業績」「日本への思い」を伝えるという狙いの中で、大きな役割を果たしている。

市民による展示なども行われるフリースペース。伝統芸能の紹介なども行われた(綾子舞、北前船など)

映像ホール

二階にはメイン展示となる、ニューヨークに在った書斎と居間をそのまま再現した復元展示室や、ドナルド・キーンが自ら語る半生や著名な作家たちとの邂逅、講演会やイベントなどの映像を視聴できるライブラリー、収蔵資料検索コーナーなどがある。

復元展示室の雰囲気は、まるで今でもドナルド・キーンがそこに現れるかのよう。まさにここがドナルド・キーン・センター柏崎である、強い意思と想いを感じることができる。

 書斎の復元。息遣いが感じられるようだ

設立の経緯
関東大震災の影響から地方へのお菓子供給がストップした窮状を見て、初代社長が「地方にもお菓子の量産工場を」と1924年に決意して作られた会社である(株)ブルボン。18歳で源氏物語の翻訳本と、人生を決める運命的な出会いを果たした1922年生れのドナルド・キーン。1923年の大震災を挟んだこの交わりは不思議な縁で彩られている。

古浄瑠璃の復活上演
2007年の中越沖地震の際、ドナルド・キーンが提案した古浄瑠璃「越後国柏崎・弘知法印御伝記」の復活上演を、このような大変な時だからこそ明るい未来と希望を感じられるようにと(株)ブルボンが支援したことが、このセンター設立の大きなきっかけとなった。

大英博物館で発見された幻の作品を、被災市民ボランティアと被災企業協賛によって見事成し遂げたこの企画によって、ドナルド・キーンとの絆が固く結ばれたのである。そしてそのご縁の結び役が、2011年の東日本大震災の次の年に、先生の御養子となられたキーン誠己さんである。

復活上演の際の経緯やさまざまな記事もセンター内で見ることができる

帰化宣言とドナルド・キーン・センター柏崎構想
2011年の大震災に心を痛めたドナルド・キーンは、被災市民が落ち着いてそれらに対処している姿に感動し、恩返しを含めて日本に帰化する決意をした。それは同時にニューヨークにある書斎が無くなることを意味していたため、(株)ブルボンが柏崎のブルボン研修センターの空いているスペースにそのまま持っていくことを提案。ドナルド・キーン・センター柏崎として、ドナルド・キーンの研究を紹介する施設をつくることを決定した。

当時、地元の高校生の進学を支援していた吉田奨学財団を公益財団法人に変え、センターを運営していくことになったのである。

左:理事の吉田眞理さん右:理事・事務局長の佐藤仁さん

ご担当者様の声
「ドナルド・キーン先生の人柄に触れた方、つまりファンがいらっしゃることが多いんです。」と、理事の吉田さん。

「今年キーン先生がお亡くなりになってから“あらためて先生の人柄に触れたい”と、いらっしゃる方が増えました。ご年配の方、じっくり見られる方、柏崎にある二つの大学の方もいらっしゃいます。」と、事務局長の佐藤さんも優しく話す。

地域密着型・地域活性の基地としての役割も果たすため、地元のボランティアの方の協力を得ているそう。案内や説明だけではなく、一階のロビーでの展示をボランティアの方々が企画することもあるとのこと。

「今後も、ウィットに富んだ優しいキーン先生の人となりを広くお伝えし、ご紹介していきたい。先生が大事になさっていた「和」の心に、少しでも触れていただけたら幸いです。」

取材を終えて
センターに入った瞬間から感じる暖かさや、受け入れられているような感覚は、そこに働いている人が心からドナルド・キーン先生の人柄に想いを向け続け、発信し続けている積み重ねなのだと感じた。

和の心とは、日本人がもう一度思い出すべき大事なつながりであり、それがここ柏崎に、不思議なご縁の輪によって生まれて育ち、こうしてかたちになっていることに、日本人として感銘を受けた。ぜひ、文学や作家としてのみならず、一人の人としてのドナルド・キーン先生に会いに、いろいろな方に訪れてほしい場所である。


メセナライター:中原和樹

・訪問日:2019年8月1日(木)
・訪問先:ドナルド・キーン・センター柏崎 https://www.donaldkeenecenter.jp/

(2019年9月11日)

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