凸版印刷株式会社

『印刷博物館』(2) 体験レポート編
~企画展『地図と印刷』~

印刷博物館は設立以来、多岐に渡る活動を通して、印刷と人々との関係を文化文明史的な視点から調査・研究し未来へ継承していく「印刷文化学」の構築を試みてきた。それらの活動のうち“発信”の要となっているのが展示である。今回は現在開催中の企画展のレポートとともに、実際に展示室をぐるりとめぐってみよう。

企画展『印刷と地図』 2022年9月17日~12月11
印刷博物館では、常設展に加えて、大規模な企画展が年に1度行われるのが通例である。これまで開催されてきた印刷博物館の企画展は、いずれも印刷が社会・文化の発展とさまざまな点で深くつながり役立ってきたかがわかるものばかりだ。

現在開催中の『地図と印刷』展もまた、地図という切り口から、印刷技術の発達を通して、人々の移動の歴史や活動範囲の拡がり、世界から見た日本の姿や日本から見た世界のあり方の変遷を見通すことができる展示構成となっている。

 

『地図と印刷』展入口。展示室に並ぶ大判地図の迫力に心が躍る。

 

通常の企画展では、常設展示室内のスペース(展示室全体の床面積の半分)を使って展示を行うが、今回はチケットカウンターから展示室に向かうアプローチ部分である「プロローグ」と呼ばれる空間に、伊能忠敬の歩幅を歩測(歩幅による測量)を想定再現し、測量時の気分を味わいながら展示室に向かえるようになっている。

 

伊能忠敬の足跡。想像よりも歩幅が大きいことに驚く。背の高い人だったのだろうか。

 

今回展示されているのは主に近世以降の日本の地図で、国内の旅や領地把握の手がかりとして人間の記憶と記録、イメージを頼りに描かれた”絵図“から、中国や西洋の地理学を取り入れながらも独自に客観性や正確性を探求するようになり、次第に世界と相対した場面での国防の要として地図が重要視されていくまで、スケールの拡がりを感じることができる。

 

展示は3部構成。細かい地図の描写に見入っていると、つい時間が経つのを忘れてしまう。

 

展示室内は写真撮影不可だが、最後にフォトスポットが設けられている。今回展示室をご案内くださった学芸員の式さんに記念撮影にご協力いただいた。

 

展覧会出口に設けられたフォトスポット

 

印刷への興味をさらに深める体験の場「印刷工房」
展示室を抜けると、研究室のようなガラス張りのスペースが現れる。「印刷工房」だ。「工房見学ツアー」「活版印刷体験」や、大人のための活版ワークショップ、学校の職場体験・企業研修等も行われている。イベント情報は印刷博物館のSNSで発信されているので、是非チェックしておきたい。
・Facebook:https://www.facebook.com/PrintingMuseumTokyo
・Twitter:https://twitter.com/PrintingMuseumT

 

印刷工房はガラス張りで外から中の様子を見ることもできる。古い印刷機も現役で動く。

 

おうちでも印刷博物館を楽しめる!
展示室をぐるりとめぐった後は、どうか出口付近まで気を抜かないでほしい。実は、誰でも手軽に印刷体験ができるミニコーナーが設けられている。1枚の紙に順番にスタンプを押していくと、一色ずつ印刷が載っていき、季節のカレンダーが完成する寸法だ。来館のお土産づくりに、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

 

季節ごとにデザインが変わっていくそうだ。筆者訪問時は秋のカレンダーをつくることができた。

 

そのほか、展示室の外でも印刷博物館を二度三度楽しめる工夫がまだまだある。

2022年にスタートした「いんぱくポッドキャスト」は音声で常設展オンライン開設を楽しむことができる。展示室内での音声ガイドとして活用できるほか、QRコード読取式なのでお土産として持ち帰っていつでもどこでも楽しめるのがうれしいポイントだ。

また印刷専門の博物館だけあって、企画展の図録はデザインも装丁もかなりこだわり抜かれておりファンも多い。2018年に開催された『天文学と印刷』展の図録は「第60回全国カタログ展」文部科学大臣賞を受賞し、図録では異例の重版がかかるほどで、現在も品切れ状態が続いているという。

さらに博物館の公式グッズや企画展のグッズを取り扱う「印刷博物館オンラインショップ」も満を持してオープンした。さまざまな事情で来館は難しいがグッズだけでも欲しいという声や過去の図録を買い求めたいという声に応えるもので、今後のラインナップの充実が期待される。

 


取材を終えて
「地図」は私たちの生活になくてはならないものの一つでありながら、日ごろ当たり前に享受しているために、その成り立ちや歴史的な変遷に思いを馳せる機会が、実はあまりないことに気がついた。本企画展では、印刷技術の発達が地図の普及を支えてきた様子を読み取ることができる。見聞きした話から想像して描いた絵図は、正確性には欠けるが人間の想像力の豊かさを知ることができるし、当時の価値観や人々の興味関心までもうかがい知ることができる点でおもしろい。一方で軍事用等に重宝される地図には緻密や正確さ、合理性が重視され恣意性が排除されていくのがわかる。そのとき、社会が何を眼差していたのか、どこに向かっていこうとしていたのか、それを知る鍵が『地図と印刷』の関係性の中に潜んでいる。

メセナライター:前田真美
・取材日:2022年9月22日(木)
・取材先:印刷博物館(東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川本社ビル)

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