凸版印刷株式会社

『可能性アートプロジェクト』
~オールトッパンで「無限の可能性・才能」を武器に新時代を切り拓く~

自然光が柔らかに差し込む凸版印刷株式会社の本社・小石川ビルのコンコースに、鮮やかなアートの回廊が出現している。これらは同社が2018年から取り組む『可能性アートプロジェクト』2022年度の受賞作品たちである。

 

凸版印刷・小石川ビルのコンコースに今年度の受賞作品がずらりと並ぶ。
待合せをしながら絵を眺める人や、通りすがりに絵に目が留まり立ち止まる人も。

 

アート×人財育成『可能性アートプロジェクト』の歩み
「今年度はプロジェクト始まって以来、初めての通年展示。社員だけでなく、会社を訪問されたお客さまや通過動線としてコンコースを利用する多くの方にご覧いただけることを期待しています。」と語るのは、プロジェクトを担当する人事労政本部人財開発センターの山崎智子さんだ。

2017年に島根県出雲市のNPO法人「サポートセンターどりーむ」の活動に感銘を受けたことをきっかけに、障がいをもつアーティストにアートを発注し、その収益をアーティスト自身に還元できる仕組みづくりを試みたところから始まった。アーティストが生み出す無限の可能性を秘めたアートが、凸版印刷の印刷テクノロジーと出会うことで実現する本プロジェクトは、アートの価値を最大化し、障がい者の経済的な自立と自己実現を後押しするものである。一方で、社内の人財育成プログラムの一環としても定着しつつある。新入社員を含む全社員参加型で、作品の選定から商品化・収益化のビジネスプロセスを体験することを通して、社員の可能性や発想の豊かさを育みチームワークを醸成していくことが狙いの一つだ。

年々応募作品数は右肩あがりで、5年目にあたる2022年度は、全国146名のアーティストから寄せられた応募総数579点の中から、50作品が選出された。選出にあたっては、コロナ禍の働き方の変化を反映させたオンライン投票が採用され、社員4,248名が1人あたり10票を気に入った作品に投票するかたちで受賞作が選ばれた。

 

人事労政本部人財開発センターの山崎智子さん

 

凸版独自の技術「プリマグラフィーⓇ」により、拡がるプロダクト化や鑑賞体験
受賞作品は「プリマグラフィーⓇ」と呼ばれるジグレー版画技法と、凸版印刷の独自技術であるカラーマネジメント技術を融合させた手法によって、アート作品として製品化される。現在コンコースに展示されているのも、アーティストが制作した大きさ、画材、キャンバス、表現手法が多種多様な作品を、プリマグラフィー化によって統一規格にして額装したものだ。展示されている絵に近づいて見てみると、原画と見紛うほど、筆のタッチや使用されている画材の質感がよくわかることに驚く。

プリマグラフィー化された作品は、社員のアイデアをもとにマグカップやトートバッグなどのプロダクトとして展開され、グッズ購入サイト「かなえるプロジェクト」から購入することもできる。また、カレンダーや建設現場の仮囲い、飲料ラベルなど、企業とコラボレーションするかたちでの収益化も実績を重ねている。

 

プロジェクトに賛同する企業とのコラボレーションで、アートを製品化。
その収益がアーティストに還元される。

 

さらに『可能性アートプロジェクト展2022』では、デジタル技術との融合で新しい展開に挑戦している。たとえば作品の一部は、ARアート作品として飛び出したり動いたりするのを楽しむことができる。

 

専用アプリでQRコードを読み取るとアート作品が動き出す。
どのように作品を動かすかのディレクションは、
人財開発センターの若手メンバーが中心となってアイデアを出し合って考えたそうだ。

 

また、2020年にはリアルでの展覧会と同時並行でVR展示の試みが始まった。コロナ禍の展覧会開催を鑑みての挑戦だったが、結果的には直接会場に足を運ぶことが難しい障がいをもつ方々や、グローバルの社員やお客さまにもアート作品に触れてもらうきっかけにつながったという。

2022年度はさらなるチャレンジとして、メタバースショッピングモールアプリ「メタパⓇ」を活用した展示会が行われている。メタバース空間で実際に展示室内を回遊して、気になる作品をじっくり詳しく観ることも可能だ。遠方の友人や家族と一緒に同じ空間に入って楽しむことができる新たな鑑賞体験として、今後の展開が期待される。

 


取材を終えて
「突出したリーダーが組織を率いていくのではなく、社員一人ひとりの能力や個性の集合体が会社を豊かにするのだという考え方が、凸版印刷の人財育成ポリシーでもあるんです」と山崎さんは語る。『可能性アートプロジェクト』が5年間ずっと大切に育み続けてきたテーマ「無限の可能性・才能」こそがトッパンの企業精神の本質を司るものなのだ。アーティストの力と、印刷技術、デジタル技術、商品化に係るアイデアやノウハウ、販促ルート、営業・広報活動まで、社内の資源を総動員した“オールトッパン”で無限の可能性の追求を体現する『可能性アートプロジェクト』は、個の力を最大化し融合させて活かすことで大きな流れを生み出し新時代を切り拓く、同社のあり方そのものだといえるだろう。

メセナライター:前田真美
・取材日:2022年9月22日(木)
・取材先:凸版印刷(株)(東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川本社ビル)

arrow_drop_up