文化拠点と地域・コミュニティ ―ケーススタディ&ワークショップ―

文化が地域にできること〜アジアの視点から〜

河野桃子[メセナライター]

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1月24日(水)、企業メセナ協議会では地域・コミュニティの再生・活性化を考えるワークショップを開催した。高齢化社会である日本では、地域活性化についていろいろな場で議論されている。タイムリーな話題に、30人ほどが集った。さらに、英語圏からの参加者がざっと3分の1近くと、日本語・英語が飛び交い「地域」と「コミュニティ」について意見を交わす機会となった。

17時から始まったワークショップには、2名のゲストファシリテーターが登壇。それぞれ、インドネシアとマレーシアで文化を通じた都市・地域づくりに関わる専門家だ。前半は、インドネシア、マレーシア各国の最新事例や考え方を紹介。後半は、参加者がチームにわかれ特定の課題についてディスカッションを行った。

インドネシア/マルコ・クスマウィジャ氏都市研究ルジャックセンター、ディレクター

マルコ氏は、建築家であり都市計画専門家。所属する組織「ルジャックセンター」の活動紹介として、まず、1枚の風呂敷を広げた。
組織の理念が地図のように描かれた風呂敷は、災害の多いインドネシアでいろいろな用途に使えるようにできているそうだ。

マルコ氏は芸術を用いた取り組み例も発表。たとえば、30人のアーティストを島に招いて地元の人と創作をしたプロジェクト「Limuto Pasi」や、フェスティバルで町の文化や歴史について発表したこと、津波被害者の仮設住宅内に絵を描いてアーティスティックな空間にした事例などを紹介した。「芸術をツールとして、コミュニティの人たちと協力し、その地域をもう一度活性化させよう」という試みだそうだ。また、積極的にボランティアを募ることもあり、彼らが地元の人やコミュニティと距離を縮める役目を果たしているという。

マレーシア/ダンカン・ケイブ氏シンク・シティ、アーバン・ナレッジ プログラム・マネージャー

ダンカン氏は、シンク・シティという半官半民のNPOでプログラム・マネージャーを務める。マレーシアでは急激に都市化が進みどんどんビルを建てたために、伝統的で文化的なものや人とのコミュニケーションが失われているそうだ。同時に、駐車違反や壁の落書きなど、マナー違反も増えているという。
シンク・シティが設立されたのは、ジョージタウンという世界遺産にも登録されている町で、建物・インフラなどへの投資がなく、人が減って建物が古くなっていたことがきっかけだった。まず小さな助成制度を設け、歴史的な建造物を持つオーナーを支援したり、リノベーションするための助成をしたという。

二人とも、土地と深く関わった活動を紹介してくれた。

メインとなるワークショプが始まった。「文化拠点と地域・コミュニティ」をテーマにグループワークを行う。「空き家をどんな文化施設にするか?」という内容で、A・B・Cチームそれぞれ10人ほどにわかれグループディスカッションをした。

<シチュエーション>
・かつて商家で賑わった地方の町(人口3万人、高齢者率40%)
・庄屋街の空き家を文化施設として使えることになった
・施設管理費は自治体負担
・創造的な地域・コミュニティづくりにつながる施設やプログラムって?

 

各チームとも「この町をどうしたい?」「この町に合っているのは?」と、その土地ならではの特徴に寄り添おうとする議論がスタートした。「まずは地域のリサーチから。地図をつくろう」という意見もあがる。
庄屋の使い方についてはさまざまなアイデアが飛び交った。「ライブラリーやヒストリカルセンターは?」「伝統的なものを使ったコンテストを実施したら?」「町のキャラクターをつくったら?」などの案が出ていた。

また3チームすべてから、アーティストを地域外から呼ぶことについての議論が聞こえる。「アーティスト・イン・レジデンスは?」(Aチーム)、トリエンナーレやビエンナーレを事例にあげ「イニシアチブをとるのは誰であるべき?」(Bチーム)、「語り合うきっかけをつくるのがアーティストでは」(Cチーム)などの意見があがっていた。そこから「地域にはそれまでの人間関係があるので、外の人だけが盛り上がってはいけない。地元の人とコンタクトをとらないと」と、アイデアを発展させていくチームもあった。

このディスカッションでは、「文化施設を作る」ことにからみアートやアーティストの話がよく出たように思う。文化施設というと、映画館・劇場・図書館・プラネタリウムなどさまざまあるが、どのチームからも「地域外からアーティストが来る」ことについて話が深まったのは、今の日本にそのような活動が多いからかもしれない。

50分のグループワークを経て、話し合った内容を発表する。これもまた、英語と日本語の入り交じった発表になった。3チームとも共通していたのはプロジェクトの「持続性(sustainable)」を大事にしていたことだ。ただし「持続性とは」に対する答えがそれぞれ違った。

■Aチーム
Aチームは、「庄屋」を特産品を売る場所にすればどうかと提案。干物をつくる → 庄屋で売る → 観光客が購入、といった循環で雇用をつくれないかと話した。また「mix use」をキーワードに、外から来たアーティストやワーカーと地元の人とがかかわれる場所として機能しないかとの切り口も発表した。アーティストをよんでアート作品を創るだけでなく、アーティストがレクチャーするなど、外部と地元の関係を生むポイントとしての「場」をイメージした。

 

■Bチーム
Bチームは、土地の魅力をどう高めるかを重視した。地域の魅力とは、「場所の魅力」と「住む人の魅力」である。その魅力を引き出すには、まず、高齢者の話を聞くこと。彼らのヒストリー(地域の記憶、人の記憶)を孫やひ孫が聞き、共有できる場になれば、世代間の断絶をつなぐことができるのではないか。高齢者らの特技や得意なことを活かすこと。そして一人ひとりがアーティストになれる日常的な場所として「庄屋」を使う。そうしたことを行えるようなキュレーターが外から来て、土地に住む高齢者の魅力を引き出していくコーディネーターの役割をするのもいい。

 

■Cチーム

Cチームは、「庄屋」が歴史を伝える場にならないかと考えた。たとえば、伝統料理の教室を開いたり、伝統舞踊を教えたりと、さまざまな企画があがった。庄屋には土地の歴史文化財を展示し、地元の高齢者たちが説明する。中でもインパクトがあったのは「逆スナック」。年配者が若い女の子にお金を払って話を聞いてもらう通常のスナックとは反対に、「逆スナック」は若い人がおじいちゃんに話を聞いてもらってお金を払うシステムにする、という案だ。子どもと高齢者がつながることで、地元の高齢者たちが「もう10年長く生きよう」と思える町づくりを目指した。

3チームの発表を受けて、マルコ氏は「地元の高齢者を起点にプロジェクトを発展させるのはいいこと。生きている文化(Living culture)という考えに同意する」と講評した。
またダンカン氏は、話題に挙がらなかった「資金の継続性」が重要だという。「急にスポンサーが降りることも考えられる。1日目から資金のやりくりや継続性を考えた方がいい」と、サステナブルなプロジェクトには資金運営が欠かせないことを指摘した。また「現場に行くこと」がなにより大事だと語った。

「創造的な地域・コミュニティづくり」についての、今回のワークショップ。限られた時間のなか、初対面の参加者全員の意見をまとめるのは難しく、慌ただしく発表の準備をしている姿もあった。参加者からも「もっと時間がほしかった」との声があったが、「普段の思考から離れてディスカッションするのは楽しかった!」と笑顔が見えた。

この日のディスカッションのように、きっと今も過疎化が進む日本のどこかで、ああでもない、こうでもない、といろいろな議論が交わされているのだろう。ワークショップでは「あのイベントはどうだった」「横浜ではこんな動きがあって・・・」と周囲の事例を参考に話す場が多かった。今回、インドネシアとマレーシアの視点も入ったことで、日本だけでは生まれない新たな可能性に触れられる日になった。

2017年1月24日(火)SHIBAURA HOUSE

(2017年2月27日)

 

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