メセナアワード2007贈呈式
2007年11月29日(木)、「メセナアワード2007」贈呈式をスパイラルホール(東京・港区)にて開催しました。贈呈式では各受賞活動の紹介につづき、文化庁高塩次長より「文化庁長官賞」部門、企業メセナ協議会福原会長より「メセナ大賞」部門の賞の贈呈をおこないました。受賞企業・団体の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からはそれぞれ審査評が述べられました。
「メセナアワード2007」受賞企業・団体の紹介
メセナ大賞部門 | |
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メセナ大賞 | 株式会社資生堂 資生堂ギャラリーの運営 |
地域文化支援賞 | 北野建設株式会社 信州に根ざした「北野美術館」および「北野文芸座」等の芸術文化活動 |
企画運営賞 | 財団法人東京オペラシティ文化財団 東京オペラシティにおけるお案額・美術事業の企画運営 |
バックステージ支援賞 | 日本生命保険相互会社/財団法人ニッセイ文化振興財団 舞台芸術を表と裏から支える、総合的な支援活動 |
体感音楽賞 | パイオニア株式会社 「身体で聴こう音楽会」の開催および企画運営 |
俳壇ネットワーク賞 | マルホ株式会社 全国俳誌ダイジェスト『俳壇抄』の発行 |
文化庁長官賞部門 | |
文化庁長官賞 | 財団法人アサヒビール芸術文化財団 アサヒビール大山崎山荘美術館の総合的な芸術振興活動 |
メセナアワード2007贈呈式 受賞者スピーチ
株式会社資生堂 代表取締役社長 前田新造 様
メセナ大賞:資生堂ギャラリーの運営
この度は栄誉ある賞をいただきまして光栄に存じております。本当にありがとうございました。
資生堂ギャラリーは、初代社長の福原信三が資生堂化粧品部(現・銀座七丁目、ザ・ギンザの場所)の2階に開設したものです。若くてまだ評価の定まらない芸術家の方々に無償で作品発表の場を提供させていただき、世に送り出す後押しをしてまいりました。1919年の設立ですので、今年で88年を迎えました。その間、第二次世界大戦などにより休館した時期もありましたが、これまでに、延べ3,000回にも及ぶ展覧会を開催することができました。また5,000人以上の芸術家の方々を色々な形でご支援させていただき、後世になってご高名になられた方も多数輩出しております。
このように長きにわたって活動を続けてこられましたのも、多くの芸術家、美術家の先生方、そして研究者の方、さらにはマスコミの皆様、そして何よりも、暑い日も寒い日も雨の日も足を運んでいただけるお客様があって初めて成しえたことだと思っております。この場をお借りして、心より感謝を申し上げます。
資生堂は、「新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造する」ということを企業理念としております。事業活動もメセナ活動もすべて一貫した形でこの理念を追求してきました。企業活動の中で、経営とメセナ活動を不可分一体のものとして続けてきたことが、このような評価につながったものだと思っております。
今回の受賞を励みに、資生堂ならではのメセナ活動の実現に向け、これからも努力をして参る所存でございます。これからも変わらぬご支援をお願いしますとともに、あらためてこのような賞をいただきましたことに、社員ともども御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
審査委員スピーチ
審査委員 いとうせいこう 氏
審査に参加するのは今年で2年目になりますが、昨年にも増してシリアスな議論が審査の中でいくつも行われました。
私にとって非常に興味深かったのは、どこまでが「蓄財行為、開発事業」で、どこからが「文化支援」なのか、メセナとは何なのか、という根本の議論を審査会できちんと行ったということです。これは本当に素晴らしいことだと思いました。
私はメセナの見識がございませんので、ボーっと見ているだけでしたが、これからも毎年、メセナとはどういうことなのか、ということを必ず話し合うような審査会であってほしいと考えております。
この議論を抽象化して言ってしまうと、「善行をいかに為すべきか」という、人類が哲学として考えてきた歴史を、毎年新たに更新し直す場なわけです。そうした機会を皆様によって提供されているということは、我々文化に携わる人間にとっては本当にありがたいことです。
本日受賞された企業の皆さまも、受賞されなかった方々の活動も、私たち委員は一生懸命、真剣に審査しておりますので、どうかそのことをご理解いただいて、来年、再来年とメセナ活動を続けていただきたいと思っております。私共も自分の力の及ぶ限り応援したいと思います。
【プロフィール】
作家、クリエイター。活字や映像、舞台、音楽、ニューメディアなど幅広いジャンルで表現活動を行う。著書に『ボタニカルライフ』(99年)、『見仏記』シリーズ等多数。2006年より、園芸ライフスタイル・マガジン『PLANTED』(毎日新聞社)の編集長。11月より文化放送の新番組『グリーンフェスタ』で久々にラジオのパーソナリティを行い、2008年はデジタルショートアワード『600秒』の審査員も務める。
●おすすめ
いとうせいこう 「メセナの力」
『メセナnote』<51号:身近なメセナを探そう>巻頭言
審査委員 岡部真一郎 氏
メセナアワードも第17回を迎え、「メセナ」という言葉や概念、それに基づく各企業の取組みも、今や社会の中で広く受け入れられるようになりました。 そうした中で、この頃一寸考えることがあります。それは──
芸術は全ての人のもので、多くの人とその素晴らしさを分かち合うことができる。
しかし一方で、芸術というのは常に日常の世界から非日常の世界へとワープさせてくれる体験でなければならない。
そうだとすると、芸術は簡単に言葉で説明できないが、何か分からないすごいものへの憧れであり、感動させてくれる素晴らしいもの、そして多くの人と分かち合いたいけれども、必ずしも皆の総意では合意できないものかもしれない。
──そのことを前提に、そこから新しい、いいものが生まれていくことを支援しようとする社会の枠組みを、芸術の根源に立ち返って考えていくことも大事ではないかと思います。
企業が自らの見識と裁量によって行うメセナ活動だからこそ、社会や我々の生活や文化全体にとって真に大事なものをサポートしていく姿勢が求められ、またその在り方を考える時期に来ているのではないか。大賞を受賞された資生堂ギャラリーをはじめとして、応募活動の資料を拝見していて改めてそう思いました。
特に、私が深く関わりを持つ音楽は、演奏したその場でしか体験できない芸術です。にもかかわらず、多くの企業から熱い支援をいただいています。今後もますます活動が盛んになっていくなかで、社会全体がさらに豊かになっていくことを心から願っています。
【プロフィール】
音楽学者・評論家、明治学院大学教授。専攻は音楽学、特に20世紀音楽および同時代音楽。『日本経済新聞』、『朝日新聞』、『レコード芸術』、『音楽の友』等で評論活動を展開するほか、NHKテレビ・ラジオの音楽番組の解説、キャスターなどを務める。著作に『ヴェーベルン 西洋音楽史のプリズム』(2004年)、『消費社会の指揮者像』、『装置としてのオペラ――タン・ドゥン:《マルコ・ポーロ》序論』などがある。
●おすすめ
岡部真一郎 「支援する側に求められる『創造性』」
『メセナnote』<45号:企業による音楽支援>特集ページ
審査委員 樺山紘一 氏
近年、各企業や産業界などで「CSR=企業の社会的責任」という事柄が大変強調されるようになりました。企業が社会に対してもつ大きな責任を自覚しようではないか、その方向に努力していこうではないかということで、その主旨はよくわかります。
けれども、この「社会的責任」という言葉があまりに強いために、しばしば責任とか義務という厳しさが強調され過ぎるというのが私の実感でもあります。あれをやらなければならない、これをやってはならない、法令遵守、コンプライアンスということがあちらこちらで強調されるようになりました。
そのこと自体には賛成ですが、企業の中にコンプライアンス官僚、CSR官僚という人たちが現れ、眉間にしわを寄せて「守れ!守れ!」という話になる。
今日受賞されましたようなメセナ活動をされる方々は、眉間にしわを寄せるのではなくて、メセナ活動を心から喜ばしく、自由に、楽しく活動しておいでになる。
資生堂、アサヒビール、北野建設、その他の企業のみなさんは、他人から強制されたり責任をひしひしと感じたりということよりは、相手も楽しければ自分たちも楽しく、というかたちで活動しておいでになる。そのことに、私は審査を通して強く感動を受けました。
どうか「責任、責任」といわずに、これを機に何が自分たちにとって楽しく、また、その恩恵を受ける地域住民などが、何が楽しいかということをお考えになりながら、これからもこのメセナ活動を続けていっていただきたいと思います。
【プロフィール】
東京大学名誉教授、印刷博物館館長。元・国立西洋美術館長。専攻は西洋中世史、西洋文化史。現代における市民社会、地域社会と、学術・文化・芸術活動との連携や協調のあり方を幅広く探る。著書に『西洋学事始』(82年)、『ルネサンスと地中海』(96年)、『地中海―-人と町の肖像』(2006年)、共著『解はひとつでない―グローバリゼーションを超えて』(2004年)など多数。
●おすすめ
樺山紘一 「『取材リポート』を読んで──メセナの新局面へ」
『いま、地域メセナがおもしろい』 所収
審査委員 北川フラム 氏
個人的なことですが、今から27年前、長野県でガウディ展をやりたいと考えた時に、「北野建設さんに話をしなさい。なんとか手伝ってもらえるよ」と言われ、展覧会が実施できた記憶がございます。
長野の人たちは本当にいろいろな時に北野建設にご相談に行く、そういう地縁がずっとあるということを、今回受賞されて感慨深く思いました。
先ほどいとうさんが言われたことについて、僕なりの考えを申し上げます。国が文化に関わることはやめたほうがいい、とずっと思っている人間ですが、企業が文化を支えるということが、企業メセナ協議会の活動で推進されてきました。
今は地域と文化が非常に深く結びついていて、今回も前回も、地域と深く関わっている活動が賞をもらっています。
国にミッションが無いときに、自分の足場をがんばってつくっていこうというのはいいと思いますが、現在、文化芸術によるまちづくりしかやれなくなってきたということは問題です。
私たちにとって喜ばしいことなのですが、文化芸術そのものが企業の価値を産むようになってきている。ビルを建てた上に神棚のように美術館やコンサートホールをつくるというのが都市開発の基本になってしまった。
このときの美術、音楽というのはどういうものなのか。そこをちゃんと考えないと非常に危うい。
今後、文化芸術のまちづくりというのは、ますます進むでしょう。僕としては嬉しいことですが、そこでのメセナ活動というものをどう捉えるかは、ますます大きな問題になるだろうと思っています。
【プロフィール】
アートディレクター、アートフロントギャラリー主宰。女子美術大学教授。主なプロデュースとして「アントニオ・ガウディ展」(78年)、「アパルトヘイト否!国際美術展」(88年)等。まちづくりの実践では「ファーレ立川アート計画」、「越後妻有アートネックレス整備構想」ほか。2000年より「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の総合ディレクターを務める。
●おすすめ
北川フラム 「人々が<里山の祭り>にかかわる理由」
『メセナnote』<44号:地域を変える?!アートパワー>巻頭言
審査委員 楢崎洋子 氏
昨年から審査に関わらせていただきまして、私なりの印象の変化を申し上げたいと思います。
「メセナ」といいますと、これまでスポンサーのイメージが非常に強かったのですが、応募案件を拝見するうちに、それはずいぶん変わってきました。
スポンサーというよりは、むしろ芸術活動を積極的に活気づけている。もしかしたら、サポートされている芸術の実践者たちよりも、それをサポートしている企業のほうが活動の意義をきちんと理解している。
特に、私が普段接している現代の音楽は聴衆にはあまり恵まれなくて、ともすれば社会の狭いところにいってしまいがちですが、そうならないように企業メセナが社会での居場所をきちんと演出されているということも感じました。
今、社会で何が必要かということは、必ずしも芸術活動のモチベーションとはつながらないと思います。
社会で何が必要かに対しては、企業メセナの方が敏感でしょう。直接、消費とは結びつかないようなニーズを敏感に察知して、それに応えているようなメセナ活動が今回の応募案件の中にもありました。これからもそうしたニーズを見つけていくようなメセナが増えてくれたらいいな、と思っております。
【プロフィール】
武蔵野音楽大学教授。音楽学専攻。愛知県立芸術大学教授を経て2005年より現職。『毎日新聞』ほかで音楽会批評を執筆。著書『武満徹と三善晃の作曲様式――無調性と音群作法をめぐって』(94年)で第9回京都音楽賞研究評論部門賞受賞。他に『日本の管弦楽作品表 1912-1992』(94年)、『作曲家◎人と作品 武満徹』(2005年)、共著に“A Way a Lone : Writings on Toru Takemitsu”(2002)がある。
審査委員 山根基世 氏
今年6月にNHKを退職し、「LLPことばの杜」という、子どもの言葉を育てる組織をつくりました。自らが、企業協賛を集めることがどれほどのことかと実感しています。
そのなかで、メセナ活動をする企業がこれだけあるという事実に、去年にも増して深い感慨を覚えながら審査にあたりました。 応募案件の資料を読む中で、企業それぞれが社会に必要なこと、あるいは今までとは違う新しい何かを見つけ出していて、メセナそのものがある芸術性を持っていると感じました。
長い間、美術番組を担当し、とりわけ大賞を受けた資生堂ギャラリーで育った大勢の作家を取材しました。活動が長く続くと形骸化したり、硬化しがちですが、資生堂ギャラリーの常に新しく、まさに革新を続けることによって伝統を紡いできたことに敬意を感じています。
ちょうど東京女子医大の岩田誠先生がお書きになった『神経文字学』を読んでいますが、それによるとシーラカンスと人間の脳の本質的な違いは、「今、自分が持っているものを次に伝えたい」という生物学的な欲求で、世代と世代がコミュニケーションしていくことが文化なのだそうです。シーラカンスは4億年全く変わらない形で生き延びているけれど、人間は決してそのことに満足せず、常により良いものに変わろうとし、革新したい脳を持っている。それが、人間の人間たる所以である脳の特質なのだそうです。
日本というものを一人の身体になぞらえてみると、企業メセナという、常に新しい革新をおこない、文化を後世に伝えようとする動きは、まさに社会の脳にあたる活動のように思えます。
是非、脳の衰えが起こらないよう、ますます盛んな企業メセナ活動で、日本を活性化していただきたいと思います。
【プロフィール】
LLP ことばの杜 代表。NHKアナウンサー現役時代、旅番組で全国各地を取材するほか、10年あまり美術番組を担当し、400人以上の芸術家を取材する。国土庁地域表彰委員、文化庁国語審議会委員などを務める。2000年、放送文化基金賞受賞。著書に『であいの旅』(91年)、『歩きながら』(94年)、『ことばで「私」を育てる』(99年)等がある。
あなたが選ぶメセナ賞
メセナ大賞部門で選ばれた6つの活動に対して一般投票を募る「あなたが選ぶメセナ賞」。
応募総数319票の中から、最多得票となったパイオニア株式会社に「あなたが選ぶメセナ賞」をお贈りしました。
受賞各社・財団には、皆様から寄せられた声を色紙にまとめてお渡ししました。また、投票者のなかから抽選で一名の方に、スパイラルオリジナルの素敵な版画作品をプレゼントいたしました。(提供:スパイラル)
レセプション
贈呈式後のレセプションでは、人々がひしめき合う中、体感音響賞を受賞したパイオニアの関係者であるヴァイオリニスト佐々木裕司氏(日本フィルハーモニー交響楽団)がサプライズで生演奏をご披露くださいました。