メセナアワード

メセナアワード2021贈呈式


2021年11月25日(木)、「メセナアワード2021」贈呈式を東京ミッドタウンホール(東京)にて開催しました。当日は、新型コロナウィルス感染防止のため、贈呈式と記者発表会を同時開催とし、規模を縮小して受賞各社・団体、関係者、プレスのみの招待としました。贈呈式では、各受賞活動の紹介に続き、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(6件)の受賞企業へ表彰状とトロフィーを贈呈。受賞企業の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からは選考評が述べられました。当日はインターネットでライブ配信も行い、芸術文化支援に携わる全国の企業・団体の方々にご覧いただきました。
(アーカイブ動画:https://youtu.be/4MBxZCnHl7U

メセナアワード2021贈呈式 受賞者スピーチ

トヨタ自動車株式会社 代表取締役副会長 早川 茂 様

メセナ大賞 パンデミックでも幸せつくるで賞:トヨタ自動車株式会社 「パンデミックの中でのプチ幸せの量産」


今回初めてメセナ大賞をいただきました。たくさんの企業、団体の方々がさまざまな領域ですばらしいメセナ活動に取り組まれている中で今回いただいたということは、長い間我々のメセナ活動を支えていただいた多くのパートナーの皆さんも含めて、我々関係者にとって本当に大きな励みになります。協議会関係者の皆様、審査委員の先生方に心から御礼を申し上げたいと思います。
ちょうど今回の賞の活動対象期間が日本中がコロナ禍に圧倒されて先もよく見えない、いろいろな活動や行動が非常に大きな制約を受ける中で、我々企業もですね、このコロナ禍にどう対応をしていくんだろうか、何をやってたらいいのか、優先順位はどうするんだというような試行錯誤を重ねている期間でございました。私どもは自動車会社、ものづくりの会社ということで、まずは社会が求めていることに対応しようとマスクとかフェイスシールドを社内で作る、医療用ガウンの増産に貢献する。そして、コロナ患者さんをどう移動させるかということで専用車両を提供する。あわせて、PCR検査を移動車両でできるよう、そういった車を作って提供するようなことをやってきました。加えて、まだ日本の産業界全体がどうなるかわからない中で、我々は非常に多くの方が参加するサプライチェーンに支えられている事業でございます。どこの一社もそこから脱落しないように、それにはどうしたらいいかということを一生懸命考えている時期がその頃でございました。
そういう中で、音楽とかアートに直接触れていただくことで多くの人に元気や勇気を届けてきたメセナ活動をどうするんだという議論が社内でもございました。今までと同じような継続の仕方はもう到底できないような制約を受ける中で、やはり工夫をして、やり方を変えて続けていこうと続けていったわけですけど、これもそう容易なことではなかったと思っています。長い間一緒に支えてくださったパートナーの方々の熱意とか、彼らとの信頼関係があって初めて継続できたと思っています。この場をお借りして、あらためてそういった方々に感謝を申し上げたいと思います。
ちょうど2年前に社長の豊田がSDGsに本気で取り組もうと宣言しました。それ以来、日頃からほかの誰かのためにという視点で、まずは「YOUの視点」を持ったトヨタパーソンを世界中に増やしていく活動に取り組んできております。これからのメセナ活動についても、まさにこの「YOUの視点」を持ってですね、できるだけ多くの方に元気や勇気をお届けできるような活動に知恵を絞って参りたいと思います。今後とも是非ご支援をいただければと思います。本日はどうもありがとうございました。

公益財団法人ソニー音楽財団 理事長 水野道訓 様

優秀賞 「禍」の今こそ音楽で賞:コロナ禍における、音楽を通じた教育活動に取り組んでいる団体、および若手演奏家への支援


メセナ協議会の皆さま、そして審査委員の皆さま、栄えある「メセナアワード2021」優秀賞をいただき、本当にありがとうございます。昨年に続き2年連続の受賞ということで、スタッフ一同本当にうれしく思います。
1984年にソニーの大賀典雄がこのソニー音楽財団を設立して、2008年にメセナアワードの「文化庁長官賞」をいただいて以来ご縁がなかったのですが、私が理事長に就任しました昨年、そして今回と連続で優秀賞をいただくこととなりました。財団スタッフ一同が誠実に活動してきたことを評価していただけたのだと思います。実は、私事で恐縮ですが、昨年まで代表を務めておりましたソニー・ミュージックエンタテインメントでも、就任中に24年ぶりに所属アーティストがレコード大賞をとりまして、そこから5年連続で受賞しているということで、「賞を引き寄せる男」だと言われております。
さて、このコロナ禍によって皆が疲弊している中で、多くの方々が「何ができるのだろうか」とお悩みになられたかと思います。昨年4月に、コロナ禍で困られている方に対してグローバルでどういう支援ができるかということを、ソニーグループ全体で考え、クリエイターの方々やそこから感動や共感を得ている視聴者やお客様などに向けて、大規模な支援を検討しているところでした。当財団では、日頃からクラシック音楽を通じて子どもや若手演奏家の方たちを支援していましたが、昨年、特にこのコロナ禍でダメージを受け、表現する場を失った演奏家やリアルな音楽や教育に触れる機会を失った子どもたちに向けて本プロジェクトを立ち上げました。今年はこのプロジェクトを継続・発展させたということで、より大きな共感をいただけたのかと思います。
また、本賞の受賞によって、こうしたメセナ活動を陰で支えているスタッフの苦労を評価していただいたことを、非常にありがたく思います。日頃大変な思いをしているスタッフを労う良い機会にもなりました。今回の受賞を励みに、今後も一層活動に精を出したいと考えています。本当にありがとうございました。

久原本家グループ 社主 河邉哲司 様

優秀賞 おうちごはんでアートで賞:くばらだんだんアート


本日は福岡の片田舎からこのようなところに来る機会をいただきまして、本当にありがたく思っております。
この事業は、「だんだんボックス」という事業をもともとスタートされた神崎さんのご紹介により、「我々も何か、久原なりの何かをできないか」と考え抜いた挙句、2011年にスタートいたしました。最初は、私どものクリエイティブ事業部の社員が一人でこの事業を担当しました。その最初の表彰式で、ご家族そして施設の方々がお集まりになり、そして涙されました。その姿を見た時に、「これは素晴らしい事業だ!これは続けないといけない!」と思い、「よし!次もやります!」と申しましたが、なかなかハードルが高いものでした。考え抜いた挙句、「そうだ!新入社員の事業にしよう!」と思い、2013年に新入社員の事業として再開いたしました。そして、新入社員が生き生きと楽しんでこの事業に取り組み、また、大変ありがたいことにより多くの絵をご応募いただくようになり、今日を迎えたという次第です。
このような賞をいただいたということは、おそらく「ここでやめるなよ、まだ続けろよ」 ということではないかと思っております。ぜひ、続けていきたいと思います。そして願わくば、飛行機の機体にこのラッピングをする、という私の夢もどこかで叶えられれば、私はこれほど嬉しいことはないと思っている次第です。今後とも皆さまにご指導ご鞭撻いただきながらこの事業をしっかり継続させていきたいと思いますし、それをまた皆さまの前でお誓い申し上げます。本日はありがとうございました。

株式会社資生堂 代表取締役 常務 鈴木ゆかり 様

優秀賞 でも笑顔を届けるで賞:LAVENDER RING MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES


このたびは優秀賞という栄えある賞をいただきまして、誠にありがとうございます。社員一同、会社を代表しまして御礼申し上げます。
「LAVENDER RING」という活動は、がん患者の皆さまの「自分らしく生きよう」というメッセージをポスターで表現し、社会のがんに対するイメージを変え“社会の風土を変えていいきたい”という想いのもと、2017年より電通有志の皆さま、NPOキャンサーネットジャパン様と共に開始した活動でございます。改めまして活動を共に取組んでくださっている皆さまに心より御礼申し上げます。
がんは今、日本の中で2人に1人が生涯のうちに罹患するといわれています。ある意味、身近な病気であるかもしれません。早期の発見、早期の治療により多くが治るともいわれており、今、企業をはじめ自治体でもがん検診が積極的に行われています。また、医療分野ではこれまでは治らないといわれていたがんも、医学の進歩によって新たな治療法もできていますし、入院しなくても通院によって治療を続けられることになっていますので、すなわち多くの皆さまにとって、”がんと共に生きる”ということが日常生活の延長線上にあるといえると思います。
病気や治療による外見の変化というものは、自身が気にならなければそのまま日常生活を過ごすことはできますが、一方で、外見の変化が精神的な苦痛となり社会生活に支障をきたすようなことがあるのも事実でございます。
資生堂は「ビューティー」の会社です。がんを治すことはできませんが、化粧のちからによってがん患者様の「前向きに自分らしく生きたい」という気持ちを後押しすることはできると考えています。化粧のちからによる外見ケアを通じて、前向きに生きるきっかけを皆さまに与えることができることを誇りに思って、これからも医療機関、患者団体、企業の皆さまと共に連携を深め、地域における活動の輪を広げていきたいと考えています。
LAVENDER RINGで撮影された皆さまの写真には、患者様の前向きに生きたい、その方本来のあふれ出るような魅力と、生きたい、生きるというパワーが写し出されています。コロナ禍においてもビューティーコンサルタントによるネット環境を使ったセミナーやイベントを行ったり、また今年の2月には、写真を書籍にまとめて医療機関に寄贈したところでございます。この写真に写された生き様は多くの皆さまに大きな希望と勇気を与えるということを信じ、これからもこの活動を進めていきたいと思っております。引き続きご支援をどうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

株式会社ホテルオークラ東京 代表取締役社長 成瀬正治 様

優秀賞 ロビーで育て!音楽家で賞:生まれ変わったホテルでも続く、音楽を通じた社会貢献

このたびは優秀賞という栄えある賞をいただき誠にありがとうございます。34年にわたる「ロビーコンサート25」の開催に対してこのような評価をいただき、本当に光栄なことだと大変うれしく思っております。
ホテルの創業者である大倉喜七郎は、芸術文化、特に音楽に造詣が深く、浄瑠璃やオペラ活動などを支援していました。また長年にわたるホテルの経営の経験から「ホテルは人が集い、芸術文化が交流する場所である」という理念を持っており、私たちはそのようなホテルのロビーをパブリックスペース、つまりお客様に自由にご利用いただける公開された場所として大切にしてまいりました。その公共性を活かしてお客様と芸術をなんとか結びつけられないかと、1987年、ホテル開業25周年の記念事業の一環として始めたのが「ロビーコンサート25」です。毎月25日の夕刻に30分ほどの無料コンサートを開催し、ホテルご利用の皆さまに憩いの時を提供したところ、毎回多くの方々がお集まりいただき、恒例行事として30年以上にわたり続けてまいりました。
また1996年に開業35周年を迎え、さらに音楽家の活動支援を機として「ホテルオークラ音楽賞」を設立、昨年までに22回を数え、多くの受賞者の皆さまがその後活躍されていることを大変うれしく思っております。2015年に始まりました本館建て替え期間中も、別館においてコンサートは継続し、2019年9月新たに「The Okura Tokyo」として開業を迎え、以前の姿を余すところなく再現したロビーで無事コンサートを再開することができました。
そして本日は何日でしょうか?奇しくも25日です。17時半から、「第403回ロビーコンサート25」をNHK交響楽団コンサートマスターの伊藤亮太郎さんをお迎えして開催します。表彰式の終了後でもギリギリ間に合うかも知れませんので、もしお時間がございましたらぜひThe Okura Tokyoまで足をお運びください。
改めまして本日の表彰を重ねて感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

公益財団法人ベネッセこども基金 代表理事 副理事長 福原賢一 様

優秀賞 ステイホームでもおえかき賞:親子でチャレンジ国際理解!ちびっこおえかきコンテスト

この度は大変栄えある賞を頂戴いたしまして誠にありがとうございます。企業メセナ協議会の皆さま、それからご選考に携わっていただきました選考委員の先生方、大変ありがとうございます。厚く御礼申し上げます。
私どもベネッセに関連してのメセナ協議会様の賞というと今回が3度目になります。特に、2006年に私どもは瀬戸内海の島、直島で行っておりますアート活動をご評価いただき、メセナ大賞を頂戴いたしました。その受賞を機に、それまで3つの島で展開をしていたアート活動を2010年には12の島に広げ、瀬戸内国際芸術祭という形で大きく飛躍を遂げるきっかけを、あの時の大賞によっていただいたなと思っております。
今回優秀賞をいただいた「ちびっこおえかきコンテスト」は、共催実施しているNPO法人グッドネーバーズ・ジャパンさんのご協力をはじめ、このコンテストに参加するために多くの子どもたちの背中を押していただいた園の先生方、保護者の方々、そういった方々に御礼を申し上げたいと思います。
ベネッセこども基金は、ベネッセホールディングスという企業が母体となって誕生いたしました。社名にございます”ベネッセ”というのは、ラテン語のbene(よく)とesse(生きる)を組み合わせた造語でございます。私どもは”よく生きる”というように訳しておりまして、赤ちゃんからご老人まですべての方々の”よく生きる”を支援する事業をずっと継続していくという決意表明が私どものベネッセという社名に込められております。ベネッセこども基金は事業化の難しい様々な困難、例えば貧困あるいは重病それから災害…こういった困難を抱えた子どもたちのための支援と学びの場の提供を目指して2014年に設立をいたしました。国際的な社会課題に子どもたちが気づき、それに対して保護者の方々と一緒に感想あるいはそれに対する感動などを絵という形で表現するということと、私どもの教材を制作するノウハウや教材を発送するノウハウを組み合わせて今回の受賞に至ったことを私どもメンバー一同大変喜んでおります。
2006年に頂戴した大賞をきっかけとした活動の拡大に劣らぬよう、この受賞を機にベネッセこども基金の活動を今後とも拡大し精進して参る所存でございます。本日はどうありがとうございました。

大日本印刷株式会社 専務執行役員 北島元治 様

優秀賞 いつも福島にグラフィックで賞:CCGA現代グラフィックアートセンター


このたびは「CCGA現代グラフィックアートセンター」の活動に高いご評価と賞を賜りましたことを感謝申し上げます。CCGAは設立25年という節目を迎える年で皆さまから励ましと活力をいただいたと思っており、関係者一同大変嬉しく思っております。
当社の前身である秀英舎は、明治9年(1876年)に「文明ノ業ヲ営ム」ことを舎則として銀座の地に創業しました。明治維新以降まだ間もない頃でございましたので、当時の先端技術であった金属活字の印刷の基盤をつくりながら、文明の発展と文化振興に寄与していきたいという思いが舎則となっています。グラフィックアートは印刷とは不可分というか、非常に密接な関係を持っておりまして、大日本印刷およびDNP文化振興財団はこのグラフィックアートを文化振興のコアの一つとして強く推進しています。2008年からは活動そのものを財団に移しまして、今では展示事業やアーカイブ事業、教育普及事業また研究助成事業、こういった活動を続けております。
先ほどより皆さまからお話がありましたけれども、昨年の新型コロナ以降、やはり当社も文化活動のあり方そのものをどうしていくか、全面的に見直しをしていくことに迫られています。その中からいくつか新しい芽も出てきており、持続可能な文化振興・文化活動をどのように行っていくのかということに直面している多くの方々と、今後ともぜひ協働させていただいて、その課題に対して向かっていきたいと考えています。ぜひご支援ご指導いただけると大変ありがたく存じます。
最後になりますが、我々の文化振興について生前からご指導いただいた田中一光先生、版画史上大変重要な作品を我々に託していただきましたケネス・タイラー氏、また通常からDNP文化振興財団の活動にご協力いただいている皆さま、福島の地において長年CCGAをご愛顧ご支援いただいている皆さまに感謝を申し上げて、私のご挨拶とさせていただきたいと思います。本日は誠にありがとうございました。

選考評

委員長 萩原なつ子 氏

今回は初めてコロナ禍に見舞われた年の活動が対象でした。そのような状況下でも応募してくださったことに感謝申し上げます。多くの優れた、個性あふれる活動が寄せられ、メセナが社会の基盤を支えていることを実感します。
残念ながら規模の縮小や途中で中止を余儀なくされた活動などもありましたが、さまざまな工夫もみられ、担当する方々の芸術文化と継続への熱い想いが伝わりました。芸術文化が不要不急ともみなされがちな中、今年は特にコロナ禍に対して迅速に、そして柔軟に対応した活動が受賞しました。
コロナ禍は社会課題を際立たせ、社会のあり方が問い直されています。メセナの役割もさらに重要になると思います。時代を捉えたさらなる進化も楽しみです。

はぎわら・なつこ|立教大学・教授/(認特)日本NPOセンター代表理事
お茶の水女子大学大学院修了。博士(学術)。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学助教授等を経て、現職。専門は環境社会学、非営利活動論。

新井鷗子 氏

このたびは「メセナアワード」受賞企業の皆さま、本当におめでとうございます。
私は今年から僭越ながら審査委員を務めることになったのですけれども、企業のメセナ活動によるコンサートの企画構成をすることが私自身の日々の仕事でして、まさにこのメセナの恩恵を受けている立場にある人間です。そんな自分が今回審査委員を務めるということは、メセナというものを客観的に見直す貴重な機会となりました。
誤解を恐れずにいうならば、支援される側のアーティストたちは、「芸術というのは素晴らしいものであって、その素晴らしい芸術をやっている自分たちは支援されることが当然である」といったような前提に甘えてきた節がございます。しかしこのコロナ禍という特別な状況にあって、芸術に携わる誰もが自らの活動の真価を問いただし、メセナ本来の意義と真剣に向き合ったように思えます。芸術の創造活動というのはきわめてパーソナルなものですが、企業の支援を受けることによって初めてその芸術作品は社会に存在することができるようになるのだと思います。
これからの芸術は音楽のための音楽、美術のための美術といったことだけではなく、芸術を通して何らかの社会課題を解決するという役割もあわせて持っていくことが求められてくるのではないでしょうか。そういう意味で、今年はコロナ禍の状況にいち早く対応したスピード感と、企業と芸術がお互いに切磋琢磨し合う強い信念を持って継続されたメセナ活動を高く評価しました。
皆さま本当におめでとうございます。

あらい・おーこ|横浜みなとみらいホール館長/東京藝術大学特任教授
東京藝術大学楽理科および作曲科卒業。NHK教育番組の構成で国際エミー賞入選。「題名のない音楽会」等の番組の構成を数多く担当。藝大 COIにて障害者を支援する芸術の研究に携わる。著書に「おはなしクラシック」、「音楽家ものがたり」など。

佐倉 統 氏

このたびはメセナ大賞および優秀賞のご受賞、誠におめでとうございます。
私は昨年度から審査委員を拝命し、これまでも学術的なものや文化的なもの、色々な審査にかかわっていますけれども、ここほど多様で審査の軸が難しいものはないと、昨年ずいぶんびっくりした記憶があります。そんな中で今年は昨年度に引き続き、一段とコロナパンデミックの状況で企業の皆さまが手探りしながら、あるいは苦労されながら本当に真価を発揮し、底力のあった活動が並んだなという風に思っています。日本を代表する企業、著名な企業、大きな企業、それから社会貢献を企業のDNAとされている所が、本当にその持ち味を発揮して素晴らしい活動をされているという点がよく出たなと思っています。
一人一人の身体でもそうですけれども、健康が損なわれて状況が悪くなった時にこそ、一番その人の真価というのが出ると思っています。多分社会も同じで、今こういう状況にあるからこそ、今まで培ってこられた企業の皆さまの底力が発揮されたのではないかなと思います。コロナ禍だからこそ今までと変わらぬものを続けてきた企業もあれば、コロナ禍だからなにか次に新しいことができるかと模索されていた所もあり、審査にあたっては本当に感動することがありました。あと1,2年経てばこのパンデミックも終わって、社会も平静に戻っていくと思いますけれども、その時に単に前に戻るのではなく、この2,3年で得た経験を私たちがどういう風に次の新しい社会文化に活かしていくのかが、今後問われていくのではないかと思っています。
中世のヨーロッパにペスト、黒死病というものが猛威を振るい、何千万という人が亡くなって惨禍が凄かったわけですが、それが終わった時に、かつての社会を支えていた教会のあり方というのが、「実は教会ってそんなに役に立たないじゃないか」と権威が失墜したり、昔に戻ってもう一度人間の文化を見直そうとギリシャやローマに返る動きが起こったりして、その中から宗教改革やルネサンスの活動が興って、次の新しい時代の幕開けが始まったという風にいわれています。今の時代、おそらくそのペスト、黒死病のような只中に私たちがいるのだと思います。けれどもこれが終わった時、どういう風に次の日本の社会、企業の文化が新しいものになっていくのか、その時におそらく皆さまの力がまた発揮されるのではないかと思って、今から楽しみにしております。今回はどうもおめでとうございました

さくら・おさむ|東京大学大学院情報学環・教授/理化学研究所革新知能統合研究センター・チームリーダー
1960年東京生れ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。科学技術と社会の関係を進化論的に研究考察中。主著に『「便利」は人を不幸にする』(新潮選書)、『おはようからおやすみまでの科学』(ちくまプリマー新書)など。

中島信也 氏

このたびは、このような時期に素晴らしいメセナ活動を推進されて、本当におめでとうございます。
会社の代表をやってみて、いかに会社というのは大変かということが身に染みてわかっているだけに、しかもどんな会社もコロナの打撃をもろに受けている、そんな時にこのメセナ、芸術文化を支える活動をされていることに大きな敬意を払いたいと思います。選考評にも書きましたけれど、もともとマエケナスさんという方が経済的に困っている芸術家を助ける所から「メセナ」という言葉が生まれていることを知りました。つまり「弱い人を助けようじゃないか」という心がメセナ活動の原点にあるのです。まさにコロナ禍でもって、力を持っていない人、弱い人がさらに弱い立場に追いやられるのがコロナなんじゃないかと私は思います。そんな中、「困っている人たちを助けようとする活動」としてメセナをとらえて今年の受賞案件を見ていますと、各企業様の、世の中の人を助けなければいけないなという志が強く伝わってきました。感動いたしました。
芸術文化というものがはたして不要不急なものであるかという点において昨今、実は芸術文化があることによって豊かな社会、これからの素敵な社会をつくっていくことができるのではないか、という考え方が育ち始めているのではないでしょうか。絵を飾る、なんて贅沢だという時代があったわけですけれども、そうではなくて芸術文化というものが皆の幸せを築いていくためにどうしても必要なんだということが、僕らの中に少しずつ実感として芽生えてきているのではないかなと思います。このメセナ活動を支えている企業の皆さんも、やはりどこかでこの活動を支えることが良い社会をつくっていく、自分の会社を良いかたちで宣伝するということではなくて、やはり豊かな世の中をつくっていこうという、そういう企業姿勢の表れだろうなと思っています。
これからメセナ活動はそういった豊かな社会を実現させるのに本当に大事な活動として位置づけられていくべきだと思いますし、そういった活動を色々な会社が大きく支援していただくことを、心からお願い申し上げたいと思います。このたびはご受賞おめでとうございました。

なかじま・しんや|株式会社東北新社代表取締役社長/CM演出家
武蔵野美術大学客員教授 福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。カップヌードル「hungry?」でカンヌ広告祭グランプリ。デジタル技術を駆使したエンタテイメント性の高いCMを数多く演出。

仲町啓子 氏

受賞された方々、おめでとうございます。心よりお喜び申し上げます。今年は特に、未曽有のコロナ禍の現状を直視して、新たな芸術・文化への支援活動を展開された企業様の工夫とご努力に、深く感動いたしました。
今までにない異常な状況を経験したことによって、先端的な芸術・文化への継続的な支援の重要さを痛感いたしますとともに、老若男女さまざまな立場の人々が、等しく芸術・文化へ関われる楽しさを共有できるような社会を実現することの大切さも、改めて思い知ることとなりました。
どうかこれからも、ワクワクするような新しいアイディアや弱者への優しい眼差しに満ちた企画を実現されて、選考会議のメンバーをアッと言わせてくださることを期待いたしております。本日はおめでとうございました。

なかまち・けいこ| 実践女子大学教授/秋田県立近代美術館特任館長
東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位修得退学。専門は日本近世美術史。実践女子大学香雪記念資料館長を兼任し、女性画家の作品の収集・研究・展示も行う。『光琳論』は2021年度國華賞と徳川賞を受賞。

山口 周 氏

今回受賞された企業および団体の皆さま、本当におめでとうございます。
私は元々、本籍がアメリカの会社でコンサルティングの仕事を20年ほどやっていました。アメリカの企業は経営者の選び方が違うんですね。指名委員会というものを立てて、どういう人がいいかということを長い場合で5年くらいかけて選びます。その時に非常に重要なのがどういう要件かというと、普段も素晴らしいリーダーシップを発揮しているというのは当たり前のことで、何十人の候補の中から選ばなければいけないのですが、最大の決め手は何かというと、極めて強いストレスをかけた時にリーダーとしてふさわしい振る舞いができるかどうかということです。経営者選びのプロセスには随分とかかわってきたのですが、今回メセナ活動も同じだなと思いました。
今回の活動紹介を聞いて皆さんも感じられたと思うのですけれども、こういう時だからこそ何かできないかと、委縮するのではなくてむしろ今こそ私たちが必要なんじゃないか、立ち上がらなくちゃいけないんじゃないかという、自ら動くことでまさにリーダーシップですね。中には不要不急であるとして、今はもう社業に集中しようと活動を縮小された会社も残念ながら、これはそれぞれの会社でのご事情もあって非難するつもりはないのですけれども。こういう状況でメセナ活動に関するリーダーシップを持たれている会社がどういう会社なのかというのが非常にはっきりと出たと思います。
ラテン語で“ノーブレスオブリージュ”といいますが、今の企業は非常に風向きが悪くて、環境を汚す、格差をつくっているとして全世界的に企業、経済活動、もっというと資本主義に対しての風あたりが非常に強くなっているんですけれども。逆にその資本主義というシステムの中だからこそできる非常に強力な支援もあるということで、皆さんの活動がアーティストあるいはその芸術文化団体、そういったことに携わっている人たちに対して灯火を照らしたなという気持ちでございます。私からは本当にありがとうございましたといいたい気持ちです。どうもおめでとうございました。

やまぐち・しゅう|独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
1970年東京生まれ。慶大文学部、同大学院修了。電通、ボストンコンサルティンググループ等で戦略策定、文化政策立案に従事した後に独立。株式会社ライプニッツ代表。ダボス会議メンバー。著書に『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』など。

トロフィー紹介

作家 後藤 宙 氏

今回の制作はトロフィーということで初めての挑戦だったのですが、大変光栄に思っております。
僕の作品、トロフィーのテーマを少しだけご紹介させていただきます。『構造 / 上昇』というタイトルですが、メセナ活動自体が地域や世界に根づいて、それが向上していくようなイメージを作るためにこのような素材を使って表現しました。糸は連綿と続いていくメセナ活動のメタファーとして取り込みました。内側は鏡面で、鏡が三枚合わせになっていて、周囲の風景を取り込んで糸と交わっていくような形になっております。この「周囲の風景を取り込む」ことを社会のメタファーとして彫刻の中では扱っておりまして、移ろいゆく社会と連綿と続いていくメセナ活動が交わりあいながら少しずつ上昇して拡散、広がっていくイメージで今回作らせていただきました。
僕の作品は普段から糸を結構使っているのですが、繊細なメディアにもかかわらず、ご選考いただきましたスパイラル様と企業メセナ協議会の皆さまには大変感謝しております。また、今回ご受賞されました企業の皆さま、大変おめでとうございます。短いですが、以上となります。ありがとうございました。

ごとう・かなた
1991年東京生まれ。2018年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。幾何学的な法則性やトーテム的表象をモチーフとして作品を制作している。2016年Tokyo Midtown Award アート部門にてグランプリ受賞。その他受賞多数。

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