「2022年度メセナ活動実態調査」報告会 ~多様化するメセナ活動の“今”と“これから”~
企業による芸術文化振興の取り組みに関する「メセナ活動実態調査」の2022年度 調査結果の報告会を開催します。
最新の調査結果報告とともに、「メセナレポート2022」に掲載した活動事例を通じて、多様化するメセナ活動の“今”を各活動の企業ご担当者様からご紹介いただきます。
後半は話題のCMを多く手掛けてこられたクリエイティブ・ディレクター中島信也氏をモデレーターに迎え、ご登壇者の皆さまとともに、コロナ禍を経た企業メセナ活動の“これから”について議論を深めます。
【開催概要】※チラシ(PDF)
■日 時:2023年7月12日(水) 14:00~16:00(開場13:30)
■会 場:大手町フィナンシャルシティ カンファレンスセンター ホール
(〒100-0004東京都千代田区大手町1-9-7サウスタワー3F)
■参加費:一般:3,000円 学生:500円 協議会会員:無料
■定員:
・会場:70名
・オンライン:人数制限なし ※アーカイブ配信[7月20日(木)~8月4日(金)]
■お申込み:
(1)カード(VISA, Master, JCB, AMEX)払いの方(一般・学生)
Peatix:https://mecenatresearch2022.peatix.com
(2)事前振込、当日支払い、無料の方(一般・学生・協議会会員)
※振込 7月5日(水)まで
専用フォーム:https://pro.form-mailer.jp/fms/5cdc1261219599
【プログラム】
◇開会ご挨拶 夏坂真澄[企業メセナ協議会 理事長]
◇2022年度メセナ活動実態調査結果報告 清水慶之 氏[企業メセナ協議会 調査研究部会長/株式会社朝日新聞社CSR推進部 業務推進担当部長]
◇メセナ活動のご紹介
(1)朝日放送グループホールディングス株式会社
「未来ある子どもたちへ“最高の読書体験”を! 『おはなしの森』」
岡元 昇 氏[朝日放送グループホールディングス株式会社 コミュニケーション戦略局 サステナビリティ推進部]
(2)一般財団法人セガサミー文化芸術財団
「Dance Base Yokohama」
宮田美也子 氏[セガサミーホールディングス株式会社 広報室 ブランドコミュニケーション部 兼 一般財団法人セガサミー文化芸術財団 ディレクター]
(3)株式会社チャーム・ケア・コーポレーション
「若手アーティストと高齢者をつなぐ文化活動『アートギャラリーホーム』」
菊水 尚 氏[株式会社チャーム・ケア・コーポレーション 首都圏介護事業部 広報・ブランド推進課 アートギャラリーホーム 主任]
◇ディスカッション
モデレーター:中島信也 氏[株式会社東北新社 エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター/CM演出家]、岡元 昇 氏、宮田美也子 氏、菊水 尚 氏
◇閉会ご挨拶 澤田澄子[企業メセナ協議会 常務理事]
開催報告
2023年7月12日(水)、大手町フィナンシャルシティ カンファレンスセンター ホール(千代田区大手町)にて、企業による芸術文化振興の取り組みに関する「2022年度メセナ活動実態調査」の報告会が、公益社団法人企業メセナ協議会主催で開催された。
本報告会では、最新のメセナ活動実態調査結果報告に続き、『メセナレポート2022』にも掲載された3つのメセナ活動の事例について、それぞれの担当者から紹介された。後半は、クリエイティブ・ディレクター中島信也氏をモデレーターに迎え、前半の登壇者とともに、コロナ禍を経たメセナ活動の現状と今後の展望について議論が行われた。
1. 2022年度メセナ活動実態調査結果報告
清水慶之氏[企業メセナ協議会 調査研究部会長/株式会社朝日新聞社CSR推進部 業務推進担当部長]
2022年度のメセナ活動実態調査は、調査対象期間を2021年4月から2022年3月とし、日本国内企業2,082社、企業財団294団体を対象に実施された。集計・分析された調査結果は、今年3月発行の報告書『メセナレポート2022』にまとめられている。本報告では、メセナ活動の実施件数、取り組み目的で社会課題解決のために重視した点、分野別実施件数に主に焦点が当てられた。
清水慶之氏
まず、メセナ活動の企業実施件数については、前年度調査に対して増加が見られた。2022年度調査での実施件数は1,379件と、2021年度の1,266件に対して113件増えた。新規活動と継続活動の割合には、大きな変化がみられなかった。
次に、企業におけるメセナ活動の取り組み目的としては、SDGs[持続可能な開発目標]を重視する傾向が続いている。調査では、取り組み目的について「芸術文化による社会課題解決のため」と回答した企業・団体に対し、「社会課題解決のために重視した点」を具体的に尋ねたところ、3年前の2019年度調査と比較し、「SDGs」と回答した割合がプラス13.7ポイントと大幅な伸びを見せた。メセナ活動を通じて社会課題の解決に取り組む動きは、引き続き強まっていくと思われる。
企業・財団のメセナ活動の分野別実施件数の調査からは、メセナ活動が社会の変化を反映したことで、実施分野が多様化する傾向がみられた。企業の活動においては、「舞踊分野」での「ジャズダンス・ヒップホップ」「コンテンポラリー」「児童舞踊」、そして「美術分野」での「現代美術」の回答割合が、2017年度調査と比較して特に伸びている。また、財団の活動では各分野とも「アートマネジメント」「評論・研究」が伸びる結果となった。
最後に、メセナ活動の成果として、「地域での自社ブランドの向上」、「地域へのプラスの効果」また「社員の啓発や一体感の醸成」など、地域/社内双方での成果の高まりが感じられている傾向についても触れられ、調査報告は締め括られた。
2. メセナ活動の事例紹介
(1)朝日放送グループホールディングス株式会社
「未来ある子どもたちへ“最高の読書体験”を! 『おはなしの森』」
岡元 昇氏[朝日放送グループホールディングス株式会社 コミュニケーション戦略局 サステナビリティ推進部]
朝日放送グループホールディングス(以下、ABC)は、その傘下に朝日放送テレビ、朝日放送ラジオ、スカイAなど28社を有するメディアグループで、大阪市福島区の堂島川に面して中之島を見渡すようにオフィスを構える。同社は、大阪市北区の文化芸術エリアとして注目を集める中之島に2020年7月に開館した文化施設「こども本の森 中之島」、また神戸市中央区に2022年3月に開館した「こども本の森 神戸」にて、アナウンサーによる子どもたちへの読み聞かせ会「おはなしの森」を開催している。「こども本の森 中之島」では、2、3カ月に一回ほどのペースで、毎回80名近くの親子連れを対象に、施設内に蔵書される18,000冊におよぶ絵本の中から季節や社会情勢に合わせた数冊をピックアップし、朗読や読み聞かせを行う。
岡元 昇氏
当初は話題の施設としてオープンしたものの、コロナ禍真っ只中でイベントが開催しにくい状況にあった「こども本の森 中之島」と、文化芸術への支援の意識があらためて芽生え始めたABCがパートナーシップを組み始動したこの活動は、次世代を担う子どもたちに物語を届けたいという両者の思いが一致したことで実現した。集まる子どもたちは、物語に熱心に聞き入りながらも、時には読み手に話しかける場面もあるなど、家庭内での読み聞かせのような双方向的なやりとりも生まれている。また、読み聞かせを通して目の前の子どもたちに直接語りかけるという経験は、言葉で情報を伝えることを専門とするアナウンサーたちが、自らの仕事のやりがいを再認識し、健やかさや充足感を得られる場としても機能しているという。まさに、メセナ活動が社員の啓発につながっている好事例だ。
(2)一般財団法人セガサミー文化芸術財団
「Dance Base Yokohama」
宮田美也子氏[セガサミーホールディングス株式会社 広報室 ブランドコミュニケーション部 兼 一般財団法人セガサミー文化芸術財団 ディレクター]
一般財団法人セガサミー文化芸術財団は、ゲームメーカーのセガと遊技機メーカーのサミーが経営統合して生まれた総合エンタテインメント企業グループ「セガサミーグループ」が、2019年に設立した財団だ。音楽、ダンス、文学、アートといった先端的な文化芸術が、創造産業を支える基盤になるという考えのもと、エンタテインメントビジネスで得た利益を文化芸術へ還元することで、その環境整備に寄与することを目指す。文化芸術は、先端的であるがゆえになかなか市場の評価が定まりにくい。特に舞台芸術は、複製が効かないために生産性が低く、慢性的な収入不足にも陥りがちだ。
宮田美也子氏
Dance Base Yokohama(DaBY/デイビー)は、そのような問題意識も背景として、2020年6月に横浜市馬車道に財団の舞踊部門の活動拠点としてオープンした。同施設は、クリエイションを行うレジデンススペースでありながら、地域のアーティストや市民との交流も促進する設計がなされている。施設内には、アーティストが創作活動やワークショップ、トライアウトを行う「アクティングエリア」が中央に据えられ、その周囲には書籍を取り揃える「アーカイブエリア」がある。アーカイブエリアからは、中央のアクティングエリア内をガラス越しに見ることができ、施設を訪れた観客や市民らが、アーティストたちの創作過程を間近で見学できるつくりだ。海外の著名ダンスカンパニーの招聘公演から、視覚障害のある方との鑑賞ワークショップ、近隣の屋外スペースでのダンスパフォーマンスなど、舞踊を深く広く普及する同財団の活動は、業界内外から注目を集めている。
(3)株式会社チャーム・ケア・コーポレーション
「若手アーティストと高齢者をつなぐ文化活動『アートギャラリーホーム』」
菊水 尚氏[株式会社チャーム・ケア・コーポレーション 首都圏介護事業部 広報・ブランド推進課 アートギャラリーホーム 主任]
首都圏と近畿圏で介護付き有料老人ホームの運営事業を展開する介護企業、チャーム・ケア・コーポレーションは、「『豊かで実りある高齢社会』づくり」をミッションに掲げ、入居者が自宅同様に自由度の高い生活を過ごせる施設運営を目指している。演奏会や外出イベントを実施するほか、「アートギャラリーホーム」と称し、エントランスなどの施設共用部に若いアーティストの作品を展示する活動を行う。「首都圏進出にあたって何か目新しいことを」という素朴な思いつきでアートに着目したという同社だが、継続するうち、生活の一部にアートを取り入れることが、高齢者の心を豊かにすることに気づいたという。
菊水 尚氏
「アートギャラリーホーム」の取り組みは、2014年には始動していたものの、当初は展示作品が集まらず、担当者のモチベーションも低かったという。そのような状況を変えるために社内で議論を重ね、2021年より若手アーティストからの作品公募を開始。外部の審査員による選考を経て表彰、作品を買い取ったうえで施設内に展示を行う。現在、首都圏を中心とした32カ所の施設で、およそ200人の若手アーティストによる約1,200点の作品が常設展示される。同社は、入居者がアーティストと積極的にコミュニケーションをとるアートプログラムも行っている。東京都美術館などとの連携で配置されたアートコミュニケーターのサポートもあり、作品の制作後には、入居者同士で感想を伝え合う鑑賞会も行うことで、無力感、孤立感を抱えがちな入居者間のコミュニケーションの活性化にも一役買っている。入居者とアーティスト双方を支えるこの活動の仕組みは、他企業・団体にも活かせるヒントが多いのではないだろうか。
3. ディスカッション
モデレーター:中島信也氏[株式会社東北新社 エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター/CM演出家]
パネリスト:岡元 昇氏、宮田美也子氏、菊水 尚氏
ディスカッションでは、企業メセナ協議会主催の「メセナアワード」審査員も務める中島氏をモデレーターに迎え、パネリストとして事例紹介を行った3名の登壇者が意見交換を行った。
(左から)中島信也氏、岡元 昇氏、宮田美也子氏、菊水 尚氏
中島氏は、登壇者の中で唯一の財団であるセガサミー文化芸術財団について、セガサミーグループ本体との関係性について尋ねた。同財団は、立ち上げてから数年経て、ようやくセガサミーグループ内にその存在が浸透してきたと答える宮田氏。DaBYは、オープン当初からコロナ禍の影響を甚大に受け、イベント実施どころか施設内に人を呼ぶことができない時期が続いた。しかし、コロナ禍を経て、エンタテインメントが豊かな生活に不可欠と再認識されたことで、同時にその核となる文化芸術に対する支援の重要性についても社内で理解が深まっていったという。
メセナ活動にあたって困難な課題について尋ねられると、ABCの岡元氏は、社内で本業のあるスタッフにメセナ活動に協力してもらうことの難しさを語った。「どこの企業もそうかもわかりませんが、繁忙期だと快く人が出にくいといいましょうか・・。しかし近年は意識も高まり社内協力に壁がなくなった」と岡元氏。継続のハードルを下げるためにも、初めからスケールの大きな活動をやろうとするのではなく、本業を活かしながら、無理せずシンプルな活動をできることからやっていくことの重要さについても触れた。
(左から)岡元昇氏、宮田美也子氏、菊水尚氏
メセナ活動が社内への影響力を高めている近年の傾向についても取り上げられた。チャーム・ケア・コーポレーションでも、当初はアートに興味を示さなかった社員が多かったが、活動を通して社内にも変化が起きているという。作品公募の表彰式運営について、「最初は、『アートってなに?』といった感じの雰囲気がすごくありまして、皆さんいわれたことをやるだけだったんですが、3、4回ぐらいになってきたところで、みんなが自主的に動いてくれて」と菊水氏。表彰式後のレセプションでのアーティストとの交流をきっかけにアートに興味を持つ社員も出てきているそうだ。アートギャラリーホームの取り組みをよいものにしたいと社内の議論も重ねられており、継続的な活動の原動力となっているようである。
登壇各社の活動に共通するのは、まずは本業を原点として、それをメセナ活動と掛け合わせることで、それが巡って本業にも好影響を与えている点だ。この循環は、昨今のメセナ活動を考えるうえで重要なポイントになってきている。また、コロナ禍の影響を大きく受けながらも、しかしだからこそ、より力強く進化を遂げている各活動の試行錯誤の過程は、他企業からの来場者、視聴者にとっても重要な手がかりになったのではないだろうか。
【報告】寺田 凜/メセナライター