メセナアワード

メセナアワード2023贈呈式

2023年11月28日(火)、「メセナアワード2023」贈呈式をスパイラルホール(東京)にて開催しました。贈呈式では、各受賞活動の紹介に続き、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)の受賞企業へ表彰状とトロフィーを贈呈。受賞企業の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、選考委員からは選考評が述べられました。当日はYouTubeでライブ配信も行い、芸術文化支援に携わる全国の企業・団体の方々にご覧いただきました。
(アーカイブ動画:https://youtube.com/live/RSluzLCFU4s

メセナアワード2023贈呈式 受賞者スピーチ

一般財団法人セガサミー文化芸術財団 代表理事/セガサミーホールディングス株式会社 代表取締役社長 グループCEO 里見治紀 様

メセナ大賞:一般財団法人セガサミー文化芸術財団 Dance Base Yokohama

このたびは栄誉あるメセナ大賞を頂戴しまして、誠にありがとうございます。関係各位、審査員の皆さま、そして当事業を推進している我々のスタッフにも、重ねて御礼申し上げます。
セガサミー文化芸術財団は、2019年に設立されたばかりでございます。元々セガサミーグループは、会長、そして私もスポーツや芸術が好きなこともあり、色々なスポーツ、またジャズや映画祭などに”スポンサー”というかたちで支援をしてきました。
「今後は文化芸術を応援していこう」と財団を設立する際、愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサーの唐津絵理さんと出会いました。我々としては「日本で多くの才能があるのに未だ陽があたらない分野はどこだろう?」と思っているところでした。
実際に活動を実施する拠点として、横浜に「Dance Base Yokohama」(以下、DaBY)を設立して、唐津さんには当財団理事、そしてDaBYのアーティスティックディレクターになっていただき、コンテンポラリーダンスを支援することとなりました。
DaBYのオープンが2020年6月、まさに第1回緊急事態宣言の直後でした。コロナ初期の頃で、舞台芸術には非常に大きな逆風が吹いており、ダンサーだけではなく、舞台演出や大道具、照明などの方々も含めて少しでも支援しようと始まりました。行動が制限される中で、我々はダンス作品を世に届けていく活動を一つひとつ行ってまいりました。DaBYでは「ダンスを社会にひらく」というテーマを掲げていますが、文字通り真ん中にアクティングエリアがあり、まわりを周遊できるようになっています。また、いつでも皆さんが来て見学・視察できる環境になっており、オープンドアポリシーで色々な方に我々の活動を知っていただこう、色々な方を巻き込んでいこう、と活動してまいりました。そして一流のものに触れてもらおうと、さまざまな海外ダンスカンパニーを招聘してきました。「NDT (ネザーランド・ダンス・シアター)」も2019年に一度招聘しましたが、2024年に再度来ていただくことになりました。また地元の中学生などを無償で招待し、本物に触れていただくことで、もっとコンテンポラリーダンスを好きになってもらおうという活動もしています。
セガサミーグループは、「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」というミッション/パーパスを掲げています。この「カラフル」という言葉には二つの思いがあります。一つは「ダイバーシティ」で、多様性を大事にしていくということ。
もう一つは、我々のビジネスについてです。エンタテインメントビジネスには明るい側面だけでなく、のめり込みや依存症の問題など『負』の側面もあります。こうした『負』の側面を隠すのではなく正面から向き合って表に出していくことで、その影響をミニマイズし、それ以上に『正』として我々の提供する商品・サービスでお客様に感動体験を届けること。そこに我々グループの存在意義はある、という意味も込めています。
「文化芸術活動もカラフルに」、今後も取り組んでまいります。引き続きご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

清水建設株式会社 代表取締役社長 井上和幸 様

優秀賞 ここから才能が育つで賞:清水建設株式会社 シミズ・オープン・アカデミー

このたびは、優秀賞という大変栄誉ある賞にご選出いただきまして、誠にありがとうございます。当社初の「メセナアワード」受賞、また、今年はシミズ・オープン・アカデミー開講15年という節目の年での受賞であり、大変嬉しく心より感謝申し上げます。当社の創業は、今から220年前の1804年、越中富山の大工であった初代・清水喜助が江戸の神田鍛治町で大工店を開業したことに始まります。創業当時から「誠実なものづくり」に真摯に取り組み、これまで事業を展開させてまいりました。昨今、若者の理系離れが進み、ものづくりへの関心が薄れていますが、その課題解決の一助とするべく、15年前に江東区越中島にある技術研究所に「シミズ・オープン・アカデミー」を開講しました。おかげさまで、これまでに約6万人の方々に受講していただきましたが、毎年当社の新入社員の中には、かつて受講した若者が入社しております。それ以外の受講者の皆さんも、きっと様々なフィールドで日本のものづくりを支えてくれていることでしょう。シミズ・オープン・アカデミーが若者たちの才能を育てることに役立っているとすれば、私どもにとってこの上のない喜びでございます。
さて、当社は今年9月に江東区潮見にイノベーションと人財育成の拠点「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」の運用をスタートさせました。当社の二代目である二代清水喜助が手がけ、日本の近代建築史を語るうえでかかせない貴重な建造物である渋沢栄一翁の邸宅「旧渋沢邸」もその中に移築をしており、さらに、来春にはNOVAREの敷地内に歴史資料の展示をする施設「NOVAREアーカイブス」もオープンします。
今後はこれらの施設を活用し、人財育成の活動をより勢力的に推し進めるとともに、日本の近現代建築を次世代に伝承するメセナ活動についても積極的に展開していきたいと考えております。引き続き、皆さまの温かいご指導ご支援をお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました。

株式会社チャーム・ケア・コーポレーション 代表取締役会長 兼 社長 下村隆彦 様

優秀賞 アートがチャームをつなぐで賞:株式会社チャーム・ケア・コーポレーション
若手アーティストと高齢者をつなぐ、チャーム・ケア・コーポレーションの文化支援活動「アートギャラリーホーム」

このたびは、メセナアワード2023優秀賞という栄えある賞をいただきまして、身にあまる光栄でございます。誠にありがとうございました。
私どもは、首都圏・近畿圏を中心に有料老人ホームを展開しておりますが、ホームの開設にあたって社会貢献につながり、高齢者の方々にとっても有意義なことができればと考え、若いアーティストの皆さまにアートを制作していただき、それをホーム内で展示するアートギャリーホーム事業を展開してまいりました。
アートは高齢者の方々の心を豊かにし生きる力を与えるものとしてその効用が認められております。私どもはご入居者さまがそのホームにしかないアート作品を眼と心で楽しんでいただけるよう、アートギャラリーホームづくりに邁進しております。
また若いアーティストの皆さんは、制作意欲は旺盛ですが、なかなかその発表の場がない、また購入していただく機会もないということで、私どもが若いアーティストの皆さまにアートを制作していただき、それをお買い上げしてアーティストの育成に少しでも役立ちたい、と考えております。このたび、私どものこの取り組みがメセナアワード2023の優秀賞として、評価をしていただきましたことを誠にありがたく思います。
日本は世界で第3位の経済大国と言われますが、アートへの評価や投資に関してはまだ発展途上の段階です。私はアートギャラリーホーム事業を通じて、少しでもアート界の発展のお手伝いができればと考え、今後もこのアートギャラリーホーム事業を積極的に展開していきたいと考えております。本日は誠にありがとうございました。

日機装株式会社 代表取締役社長 甲斐俊彦 様

優秀賞 伝統と革新の技で賞:日機装株式会社 公益財団法人 宗桂会の創立、活動支援



本日は、このような大変名誉ある賞をいただくことができました。選考委員の皆さま方、ご関係の皆さま方、誠にありがとうございます。
私どもは創業から今年で70年になりますが、創業者が金沢市出身ということもあり、金沢に工場を建てることになった30年前、「金沢市にどんなかたちで恩返しができるだろう」と検討を始めたという経緯を聞いています。その後、「宗桂会」という財団法人を設立しまして、以来、大変地道に加賀象嵌の普及、そして技法の後継者育成と、ささやかな努力を続けてまいりました。大変幸いなことに、最近では加賀象嵌を目指す若い作家さんも相当出ていらっしゃっていると聞いています。今後とも一層この活動に力を入れていきたいと考えております。
本業で申しますと、私どもはポンプ屋ということで、そこから金工とのつながりが始まったと聞いています。これからの脱炭素社会の構築の中で、新しいポンプ、新しいポンプ技術の展開ということが求められています。そういう意味では、これからの社会への貢献を含めて、より一層皆さま方のご理解とご支援が必要になると考えております。あわせて、今後ともこの宗桂会の活動に一層力を入れたいと考えておりますので、どうぞご理解とご支援のほど、よろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございます。

株式会社長谷工コーポレーション 取締役執行役員 吉村直子 様

優秀賞 明日香に明日が香るで賞:株式会社長谷工コーポレーション 奈良県明日香村における歴史・景観保全活動及び地域活性化への取り組み

このたびは、メセナアワード2023優秀賞という栄えある賞を頂戴し、誠にありがとうございます。まずは、企業メセナ協議会の皆さま、そして審査にあたられた皆さまに厚く御礼申し上げます。
私たち長谷工コーポレーションは、2015年より奈良県明日香村の村内産野菜を長谷工グループが管理するマンションで販売する、ということから、村とのご縁が始まりました。その後、2017年に明日香村、一般財団法人明日香村地域振興公社と当社との間で、「官民連携に関する包括協定」を締結し、2020年には、奈良女子大学、明日香村と当社との間で「産官学連携包括協定」を締結いたしました。以来、古代の遺跡や文化財を守り、美しい自然や風土を維持するとともに、地域の方々や大学などと協力して新たな魅力や価値を創出するためのさまざまな活動を明日香村にて行っております。これらの活動は住まいと暮らしの創造企業グループであることを掲げる当社の企業理念に基づいたものでもあります。住宅を提供するだけでなく、住まいと暮らしに関わるあらゆる社会課題に向き合い、最適な生活環境を創造し社会に貢献することを目指す当社にとって、歴史や文化、自然や環境、人と人との繋がりなど、住まいと暮らしを豊かにする様々な要素を大切にしながら行う、明日香村での活動は長谷工グループの企業理念を具現化するための重要な取り組みの一つだと考えております。今の日本という形がつくられた、その源となる明日香の地に思いをいたしながら、当社グループとしても明日香村の魅力を国内外に広く発信するお手伝いをし、全国はもとより世界中から多くの方々に訪れていただきたいと思っております。そして、明日香村の皆さまと共に古(いにしえ)の時代から続く明日香の歴史に連なるこれからの未来をつくることにも貢献したいと考えております。
この賞を励みに、今後も長谷工グループ独自のメセナ活動を継続し発展させるとともに、文化芸術の振興や社会貢献に取り組む他の企業様、団体様とも交流を深め、地域に根ざした最適な生活環境の創造に取り組んでまいりたいと思います。
最後になりますが、この活動を支えてくださった明日香村の皆さま、関係者の皆さま、そして活動に参加する多くの当社社員に対しても心より感謝したいと思います。本日は誠にありがとうございました。

株式会社広島マツダ 代表取締役会長 兼 CEO 松田哲也 様

優秀賞 「願い」をアートで描く賞:株式会社広島マツダ WALL ART PROJECT "2045 NINE HOPES"

広島にたくさんの方々が原爆ドームや広島平和記念資料館を目的としていらっしゃいます。しかし、私が広島を訪れる方々へ発信したいことは、廃墟だった広島が、戦後78年を経て美しい街並みになったこと、そして政治や文化および宗教やイデオロギーなどを乗り越え、全ての方々を受け入れ、私たち広島市民の明るく豊かな暮らしを見せていくことであり、それこそが復興の希望になるのではないか、と考えています。
この復興の希望を具現化するものとして、おりづるタワーを作りました。古いビルを改装した建物のためハード面での制限は多くありましたが、オープンから7年間、私たちは広島の思いを発信し続けてきました。その中で、今回受賞させていただいたWALL ART PROJECT "2045 NINE HOPES"は、私たちが取り組んだ中でも最も力を入れたプロジェクトであり、広島での取り組みがこうしてメセナアワードまで繋がったことは大変光栄で嬉しく思います。このたびは本当にありがとうございます。
何ヵ月もかけて壁に向かい作品をつくってくださった9名のアーティストの方々へも心より御礼申し上げます。9名のアーティストの方々は同時期に作品をつくっていただいたのですが、お互いが影響し合って作品を仕上げていかれ、私たちの予想を超えるすばらしいウォールアートとなりました。
皆さまもどうぞ広島にお越しの際はお立ち寄りいただけたらと思います。本日は誠にありがとうございました。
※社名・肩書きは受賞当時のものです。

選考評

委員長 萩原なつ子 氏

受賞された皆さま、本当におめでとうございます。コロナが5類に移行したということもあり、社会が活気づいてきた、それを表すような皆さまのご活動だったと思います。選考も、それぞれの選考委員の推しがありまして、それを「うー!」や「それもそうだね!」といいながら、活動のホームページも拝見して、一つひとつ丁寧に審査をさせていただきました。
賞の名前はいかがですか?私たちはこの名前をつけるのが1番好きで、とても楽しい時間です。本当に一つひとつの活動が素晴らしく、キラキラと輝いていて、そしてまた、長年のそうした活動が深みを増していくことで、選んでいる側も大変嬉しく思いました。
一つのキーワードとしては、「つなぐ」という風に思いました。「世代をつなぐ」、「伝統をつなぐ」、「多様な人をつないでいく」、そして「想いをつなぐ」。また色々な、異種異質というか、そういったものをつないでいく。それによって新しいものが生み出されていく。そのような活動へと展開していることを非常に思いました。そして今、ご担当の方の話を聞いて、皆さんの活動がますます展開されていることに、さまざまキーワードをいただきました。「笑顔」、「優しさ」、「ハッピーハッピー」!
未来に希望をつなぐような活動に展開されることを祈念しまして、お祝いの言葉といたします。本当におめでとうございます。

 

はぎわら・なつこ|独立行政法人国立女性教育会館理事長/(認特)日本NPOセンター代表理事
お茶の水女子大学大学院修了。博士(学術)。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学助教授、立教大学教授を経て、現職。立教大学名誉教授。専門は環境社会学、非営利活動論。著書・編著に『市民力による知の創造と発展』『としまF1会議ー消滅可能性都市270日の挑戦』など。

新井鷗子 氏

このたびは「メセナアワード」のご受賞、誠におめでとうございます。皆さまのプレゼンテーションをうかがいながら、改めてとても大きな感銘を受けました。
今年の選考にあたっては、メセナのあり方というものが大きく変わったという実感を持っています。これまでのメセナは、経済的に余力のある企業が文化芸術を一方的に支援するというような、外側からのサポートが多かったように思いますが、約4年にわたるコロナ禍を経て、メセナのあり方がCSRからCSV(Creating Shared Value)の方向に流れていったように思えます。企業が独自のリソースを活かして社会課題を解決し、それによって企業に経済的な価値がもたらされる、こうした”共通価値の創造”という考え方に、皆さまのメセナ活動が動いていったように見受けられます。
今年の例でいいますと、若手アーティストの支援が超高齢化社会の問題解決につながる、芸術文化団体の支援がそのまちのまちづくりにつながっていくなど、どこまでが企業の役割でどこから先が文化芸術の支援なのかという、いい意味で境界線が曖昧になる双方向型のメセナというものが生まれてきたようです。
これからのメセナ活動というのは、人と人とをつなぐコミュニケーション機能を果たしていくものになるのかもしれません。受賞団体の皆さま、本日は本当におめでとうございました。

あらい・おーこ|横浜みなとみらいホール館長/東京藝術大学客員教授
東京藝術大学楽理科および作曲科卒業。NHK教育番組の構成で国際エミー賞入選。「題名のない音楽会」等の番組構成を数多く担当。東京藝大で「障がいとアーツ」の研究を推進し、1本指で弾けるインクルーシブな楽器「だれでもピアノ®︎」の開発に携わった。著書に「おはなしクラシック」、「音楽家ものがたり」等。

佐倉 統 氏

メセナアワードの受賞、誠におめでとうございます。今年は全ての受賞者が初受賞というフレッシュな顔ぶれとなり、新しい時代の始まりを象徴しているかのようだと、選考委員一同で話しておりました。本日は台湾に滞在中のため出席がかなわず、このようなかたちでのご挨拶となり申し訳ありません。
台湾にいると、日本とはまた違うさまざまな形で各種団体が社会の問題に取り組んでいる姿があり、興味深く感じています。結局、それぞれの国にはそれぞれの課題とやり方があるのだから、自分たちのことは自分たちで解決しなければならないのだと改めて思わされます。
本日受賞された皆さまは、時代の趨勢にとりわけ敏感な方々だと思います。これからの日本の未来を、少しずつ良くしていくために、今後ともますますのご活躍を祈っております。本日は誠におめでとうございました。

 

さくら・おさむ|東京大学大学院情報学環 教授/理化学研究所 革新知能統合研究センターチームリーダー
1960年東京生れ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了、理学博士。東京大学大学院情報学環教授。いろいろな科学技術と社会の関係が研究テーマ。おもな対象はロボット・AI、脳神経科学、進化論など。主著『科学とはなにか』『現代思想としての環境問題』『進化論の挑戦』『進化論という考えかた』『科学の横道』。

中島信也 氏

私はご縁があってこの審査に参加させていただいておりますが、今年で任期満了となります。在任中は、そのほとんどがコロナでございました。身動きが取れない状態から、段々と少しずつ動き出していく中で、企業の皆さんの大変豊かな活動に触れることができてとても良かったです。このたび受賞された皆さま、本当におめでとうございます。
私も企業の経営に携わったことがございますが、経済状況がとてもよいということではない中、各社本当に色々な苦労をされていると思います。一方で、世の中の価値が変わり始めているのではないか、と感じます。企業活動というものの意味が、コロナがきっかけもあると思いますが、ここ2,3年大きく変わってきているのではないかと感じられました。その中で先ほど新井先生もおっしゃったように、お金のある企業が文化のパトロンをしているというメセナではなくて、企業そのものが新しく変わっていくきっかけを、メセナ活動で見出していっているのではないかと観察しました。
といいますのも、一つは企業の社員たちの参加がとても積極的になってきた、ということです。もう一つはその会社とまわり、先ほど委員長もいっていたように「つなぐ」ということですね。特に地域とつながっていく、学生とつながっていく、本当に生活している人々と企業がつながっていく活動の核に、メセナ活動というものが位置づけられてきている。文化を「支援する」のではなく、企業そのものが新しい価値を発見し成長していく、それとともに文化も成長していく。文化と経済活動は相反する部分がありますが、これを一つにして豊かな文化を企業の皆さんが築いていくことが、これからの皆の幸せの一つのヒントなのではないかという風に、私はメセナ活動の意義を位置づけています。
これからも、今までになかったような新しいヒントを新しい発見を持って、皆さんがご自身の企業を何とかしようという気持ちと、この文化を何とか拡げていこうという気持ちが合体したところに素晴らしい活動が生まれると信じています。ますますの皆さんのご参加をお待ちしていきたいと思います。このたびは本当におめでとうございました。

なかじま・しんや|CM演出家・クリエイティブ・ディレクター/武蔵野美術大学 客員教授
福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。カップヌードル「hungry?」でカンヌ広告祭グランプリ。デジタル技術を駆使したエンタテイメント性の高いCMを数多く演出。

仲町啓子 氏

私はずっと大学に籍を置いて、美術史という分野を研究しておりました。本当に狭い分野で、このメセナの委員に参加させていただいていることによって、色々な社会の、企業がさまざまな活動をやっていることを発見することができて、非常に嬉しく楽しい発見です。しかも、受賞されたものばかりではなく、どの作品、どの事業を見ても非常に前向きであり、自分の会社の良いところを引き出そうとしていたり、若い人を育成したり、あるいは地域とかかわったり。色々な意味で大変前向きで、ある意味とても力をもらえる、そういう企画が非常に多く、ほとんどといってもいいかもしれません。
テレビなどをみていますと、あまり面白くない話が続出して非常に暗くなりがちですけれども、皆さんの企画は前向きであって「自分たちの良いところを少しでも出そう」という気分が多い。そのような企画がアピールすると思いますし、そういうことに私自身も目を開くことができました。このメセナの選考にかかわった私の1番の幸せだと思っています。本日はどうもおめでとうございます。

 

なかまち・けいこ|実践女子大学名誉教授/秋田県立近代美術館特任館長
東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位修得退学。専門は日本美術史、特に琳派を初めとした江戸時代の絵画・工芸の研究。また江戸時代の女性画家作品の発掘・調査にも努めてきた。主著に『光琳論』(中央公論美術出版社、2021年度國華賞及び徳川賞受賞)。近年は地方の芸術文化振興の問題にも強い関心を抱いている。

山口 周 氏

毎回キーワードがあって、今回に関しては「文化」だと思います。今年は非常に象徴的なニュースが「経済と文化」。特に経済の側で、それは日本のGDPがドイツに抜かれて世界4位に落ちることが確実になったとIMFが発表した、という報道だったんですね。
企業メセナ協議会の設立が33年前、1990年で日本の経済がピークを迎えた時です。その時に日本人が世界でどのようにいわれていたか、覚えていますか?”エコノミック・アニマル”と、「経済一流・文化は二流・政治は三流」といわれました。ただ当時、経済だけではやはりダメだということで、この「メセナ」というものが出てきた。さらに時代を遡ると、1945年に日本が敗戦し、これからどういう国になっていくのか?軍事国家に代わる新しい国家ビジョンは何だ?と問われて、当時盛んにいわれたのは「文化による立国」でした。これも忘れられていますが、文化による立国とはずっといわれていましたが、1950年代から当時の池田隼人内閣が所得倍増計画をいい始めて、プライオリティとして経済の方が上だとなったわけです。
そこから40年経ち、このエコノミック・アニマルの称号を世界からいただいたわけですけれども、今やそのエコノミックというのは我々のプライドではなくなってきているということですね。では何が新しいプライドになっていくのか?となると、やっと「文化」というものを真ん中に据えて、人のクリエイティビティや生活の豊かさ、人生の喜びといったものを、社会の真ん中に置いた価値としてつくっていける、そういう時代がやっと来たという風に感じています。
今回受賞された方たちは、皆さん新顔なんですね。例年大体8年、10年、15年前に受賞しているといった受賞歴のあるケースが多いのですが、実は今回は全て初めての受賞ということで、ものすごく大きく裾野が広がってきていて、プライドをいただいたと思っています。受賞された皆さま、本当にありがとうございました。お礼をいいたいと思います。

やまぐち・しゅう|独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
1970年東京生まれ。慶大文学部、同大学院修了。電通、BCG等で戦略策定、文化政策立案に従事した後に独立。株式会社ライプニッツ代表。ダボス会議メンバー。著書に『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』など。

トロフィー紹介

作家 後藤 宙 氏

本日は、受賞された企業・団体の皆さま、誠におめでとうございます。このトロフィー は、二つのメタファーといったようなものを組み合わせており、一つは鏡面仕上げのステンレスの板を組み合わせて支持体にしており、周囲の世界や社会といったものをこのオブジェクトの中に取り込むといったようなイメージで配置しております。また、連続して形が変わっていくような糸の部分は、連綿と続いていくメセナ活動のメタファーとしてオブジェクトの中に取り込んでおります。これら二つが折り重なり合いながら上昇していくようなイメージを作れればと思って、こういった形になっております。「上昇」というのは、それぞれの活動が、いろいろと展開したり、発展したり、根付いたりしていきながら、レベルアップやステップアップし、よい方向へ転がっていくといったイメージで上昇するような形として今回の作品となっております。また、土台の部分を含めて堂々とした感じや華やかな感じ、あとは重さのようなところにもこだわって制作しております。僕もアーティストの一人として、こういった文化の循環の中に一員として含めてもらえたことを大変嬉しく思います。
僕にメセナアワードのトロフィーをつくる機会を三年間いただき、いろいろ成長することができました。感謝したいと思います。本日は誠におめでとうございます

ごとう・かなた
1991年東京生まれ。2018年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。幾何学的な法則性やトーテム的表象をモチーフとして作品を制作している。2016年Tokyo Midtown Award アート部門にてグランプリ受賞。その他受賞多数。

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