第10回会員ネットワーク勉強会「TODA BUILDING」見学ツアー
企業メセナ協議会の会員が集う場・出会う場を生み、メセナ活動にかかわる情報交換・研鑽の場として開催する会員ネットワーク勉強会。記念すべき10回目として、今年11月にオープンした「TODA BUILDING」を視察します。エントランスロビーなどの共用スペースに展示されるパブリックアートやアートスペース「APK ROOM」などを見学しながら、アートによるまちのエコシステムの構築を目指す「ART POWER KYOBASHI」の事業について、独自に企画・運営する話をうかがいます。
ぜひお誘い合わせのうえ、ご参加ください!
◎日時:2024年12月13日(金)15:00~17:00
◎視察先:TODA BUILDING (東京都中央区京橋1-7-1)
◆◆◆◆◆https://www.todabuilding.com/
◎予定プログラム:
15:00~ 担当者による活動紹介
◆◆◆◆◆・芸術文化の拠点「TODA BUILDING」について
◆◆◆◆◆・アート事業「ART POWER KYOBASHI」の取り組み
◆◆◆◆◆・各プロジェクトの詳細 など
15:40~ 施設内見学(屋外広場・1階エントランスロビー・2階コリドーなど)
16:30~ 質疑応答・ディスカッション
17:00 終了
※本イベントの見学フロアは1・2階となります。3階ギャラリーコンプレックス・6階ミュージアムの鑑賞を希望される方は、終了後、個別での見学をお願いいたします。(ミュージアムは事前予約制・別途入場料がかかります)
※4階ホール&カンファレンスは当日使用されているため、立ち入り出来ません。
◎参加費:
協議会会員:無料/一般:2,000円
◆申込方法
①上記チラシの裏面にあるお申込書に必要事項をご記入のうえ、メール:mecenat@mecenat.or.jp またはFAX:03-5439-4521 までお送りください。
②件名を「TODA BUILDING見学ツアー申込み」とし、mecenat@mecenat.or.jp 宛に下記内容をお知らせください。
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1)お名前
2)ご所属・お役職
3)ご連絡先(住所・電話番号・E-mail)
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※申込期限:12/6(金)(定員20名様に達し次第〆切)
[会員ネットワーキンググループとは?]
会員相互の交流・連携強化、および情報交換・相談・研鑽等を恒常的に行える場を設けるため、2011 年発足。企業メセナ協議会会員有志からなる幹事メンバーが中心となり、協議会事業・行事に関連づけた会合を開くほか、メセナ活動にかかわる課題について話し合うなど、集いの場・ネットワークづくりのため活動しています。
[会員勉強会とは?]
メセナの現場を知る機会として視察とレクチャーで構成する勉強会。
お問い合わせ:企業メセナ協議会 会員ネットワーキンググループ担当
TEL|03-5439-4520 FAX|03-5439-4521 Email|mecenat@mecenat.or.jp
開催報告
企業メセナ協議会の会員が集い・出会う場を生み、メセナ活動にかかわる情報交換・研鑽の場として開催する会員ネットワーク勉強会。第10回目は、2024年12月13日(金)に、東京メトロ銀座線 京橋駅からすぐの「TODA BUILDING」を訪問した。
「TODA BUILDING」とは
2024年11月にオープンしたばかりの「TODA BUILDING」は、戸田建設の新社屋であるとともに、「アートの力で京橋エリアの文化的価値を更新し、成長し続けるまちづくりに取り組む」という同社の指針を体現した、新しいかたちの複合施設だ。
エントランスロビーなどの共用スペースには、現代作家が手がけたパブリックアートを展示。地上6階までの低層階には、国内外の作家を紹介する著名なコンテンポラリーアートのギャラリーコンプレックス、カフェなどの飲食店、ポップカルチャーや現代アートなどの多彩な領域のクリエイションを大空間で体感できるミュージアムを備える。オフィスの枠を超え、日々、多くの人々でにぎわう様子は、今後ますます京橋の文化的な価値向上に寄与していくだろう。
アートによるまちのエコシステムの構築を目指す「ART POWER KYOBASHI」
会の前半では、参加者全員が3階にある戸田建設のアート事業「ART POWER KYOBASHI」の活動拠点「APK ROOM」に集まり、同社独自の企画と運営について話をうかがった。
まず、プロジェクトを推進してきた小林彩子氏(戦略事業本部 国内投資開発統轄部 統轄部次長 兼 京橋プロジェクト推進部 部長)から、戸田建設がアート事業を始めた経緯について説明がなされた。
「TODA BUILDING」が位置する京橋は、江戸の職人街から発展し、かつては歌川広重や北大路魯山人が居を構えていた歴史がある。現在も、骨董・古美術店と現代アートのギャラリーが混在し、アーティストに寛容な芸術文化のまち、といえるだろう。
同社が京橋に社屋を構えたのは120年以上前に遡る。その後、2021年に始まった旧社屋の老朽化による建て替えに際し、来る次の100年に向け、新たなまちの価値づくりを模索してきたという。その中で、"人々が求めていくのは、まちの歴史や文化の厚みであり、必要なのはアートの力ではないか"、また、"この場所からアーティストが育ち、発信し、評価されていく仕組みや、もっと人々の生活にアートがかかわり、生きる源になり得るのでは"と、隣接するアーティゾン美術館とともに、「都市再生特別地区」を活用したエリア一帯の再開発に取り組み、アート事業を展開したことが語られた。
左から、小林彩子氏、久木元拓氏
続いて、久木元拓氏(戦略事業本部 国内投資開発統轄部 京橋プロジェクト推進部 コミュニケーションデザイン課 課長代理)から、芸術文化エリアの概要と「ART POWER KYOBASHI」の具体的な取り組みについて紹介いただいた。
「ART POWER KYOBASHI」は、ビル開業とともに本格始動したアートプログラムの総称で、同時代を生きる方々とともに新たな文化を築いていきたいという想いから、"現在進行形のアート"をキーワードに、"創作・交流"→"発表・発信"→"評価・販売"という「アートによるまちのエコシステム」の構築とその循環を目指している。ビル開業前から現在までに、さまざまなプログラムを実施している。
◎公募プログラム「KYOBASHI ART WALL―ここから未来をはじめよう」
「TODA BUILDING」の建設工事現場にあった仮囲いを活用し、アーティストの創作や発表の場を提供。
2021〜24年にかけ全4回を開催し、優秀作品及び奨励作品を選出した。2025年に選出作品の作家らによる合同展を開催予定。
◎作品制作プロジェクト「Tokyo Dialogue 2022-2024」
東京駅東側エリアで展開する、都市型屋外写真祭「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」と戸田建設による共同プロジェクト。
3年間にわたり、毎年、写真家と詞歌や俳句などの書き手がペアとなり、京橋を舞台に「写真」と「言葉」で紡ぎ出す“対話”を通し、変わりゆく都市の姿を表現した。
◎コミッションワークでのパブリックアートの取り組み「APK PUBLIC」
新進アーティストやキュレーターによる都市の風景を担う大規模な作品発表の場として、TODA BUILDINGの共用空間を活用し、更新性のあるパブリックアートを展開するプログラム。キュレーターを選定し、作家に図面や建設現場を観てもらいながら、コミッションワークとしてパブリックアートの制作を依頼。
今回のキュレーションは、国内外で活躍する飯田志保子氏が担当。「螺旋の可能性―無限のチャンスへ」をコンセプトに、小野澤 峻氏、野田幸江氏、毛利悠子氏、持田敦子氏が新作を展開している。1年半後の2026年3月まで展示し、その後は新たなキュレーターと作家を選出してコミッションワークを依頼、という流れを継続的に行う予定。
なお、作品の制作費や設営にかかった経費、アーティストフィーに至るまでを戸田建設がサポートしているが、作品はあくまで借用で、所有者は制作した各作家となる。そのため、会期終了後の販売や所蔵については作家に一任されているという。
◎2025年から開催するラーニングプログラム「APK STUDIES」
2025年から新たにスタート予定の「APK STUDIES」は、アートを起点にさまざまな創造的実践に出合い、参加メンバーの関心や課題意識を深めていくプログラムだ。他者と協働して創作していきたいクリエーターや、地域に根差した表現活動を企画・実行したいキュレーターやコーディネーター、アートと社会の関係について理解を深め実践したいオフィスワーカーなどを対象にした内容で、第1期メンバーは2025年2~4月に募集、2025年6月~2026年2月に、全日程とも対面形式で実施するという。
「アートによるまちのエコシステム」の循環について、久木元氏は強調した。
「都市の中では、「発表」や「消費」の場はたくさんある。しかし、ここでは実際に何かを「つくる」、そして「発信」していくことを大切にしたい。「つくる」という作業を怠って「消費」の場が大きくなると、都市は衰退していく。だからまずは「つくる」という作業を大事にしていく。 それは作品をつくったり、アトリエをおいたりすればいい、というものではない。先ずはつくりたい人々が集まって「つくる」という意識や気持ちを醸成していきたい。集った人たちがここで喧々諤々と色々な話をすることでコミュニティが出来上がっていくという考えから「STUDIES」という表現にした。さらに、この場所で「発表」や「発信」をしていこうということで、「APK PUBLIC」としてパブリックアートを設置した。
エコシステムの中でも、特に広めたい要素は、わかりやすい言葉で表現すると「販売」の部分。
作品そのものの価値を掲げ、値段をつけて販売するのがギャラリーだが、それに加えて、アーティストの力は、作品制作以外の場でも発揮されるはずだ。例えば、イベントやワークショップなどでリーダーになってもらうなど、アーティストのもつポテンシャルを経済活動の中にうまく組み込んでいきたい。
「エコシステム」「循環」と、言葉でいうのは簡単だ。しかし、つくって終わり、見せて終わり、では文化が育っていかないだろう。たったひとりの作家でも、ここでうまく活動することにつながっていけばと考え、取り組んでいく構想だ。」
さらに2025年以降、上層階のオフィスフロアにさまざまな企業が入居予定だが、各社に対して、アート作品のコーディネートを行う事業の展開も検討している。「APK PUBLIC」でパブリックアートを定期的に新しくしていくのも、新進アーティストの作品発表の機会提供とともに「アートのあるオフィスビル」という付加価値の維持・向上を目指してのことだという。
「APK PUBLIC」の鑑賞ツアーや質疑応答も実施
会の後半は、ビル内や中央通りに面した敷地を巡り、「APK PUBLIC」の作品群を鑑賞しつつ、ギャラリーコンプレックスの各スペースも訪問した。ここでは簡単に紹介する。
プロのジャグリングパフォーマーとしての経歴を持つ作家による作品。通常は静止している6つの球体が、毎時間に一定の速度で微妙なズレを保ちながら振り子のように動くパフォーマンスが約8分間上演される。
小野澤 峻 《演ずる造形》の解説風景
明治時代に起きた地震記録をもとに、当時の地震学者が東京での震動を模型に表したことから着想を得た作品。動態の変化を身の回りにあるデバイスを通じて表現する作家が、今回は地球のエネルギーの動きを、4色のパイプによって実験的に表現している。
毛利悠子 《分割された地震動軌跡模型Ⅰ-4》の解説風景
ビル竣工までの2年間にわたって京橋エリアのフィールドワークを行い、その地域で入手した小さな植物や素材をもとに構成された作品。久木元氏も季節毎に作家の現地調査に同行し、ともに採取したという。
野田幸江 《garden -a- <この風景の要素>》の解説風景
屋外広場と1階吹き抜けのエントランスロビーに設置された螺旋階段の巨大作品。オフィスワーカーや来街者が最初に訪れる場所で、様々な角度から自由な想像を与える。夜には照明があたることで、作品やビル空間の見え方も変化する。
持田敦子 《Steps》の解説風景
最後に参加者からの質疑応答を受け付けた。一部を抜粋して紹介する。
Q)ここまで立派なビルだと、一般の方は中に入って来にくいのでは?
だからこそ、屋内外にパブリックアートを設置して、できるだけ入ってきていただきやすいように設計した。オープンから1ヶ月が経ち、人の流れが変わりつつあると感じている。アーティゾン美術館や東京駅に近い、という立地に助けられているところも大きい。
Q)「APK STUDIES」を始めたきっかけ、受講料や選考課題の提出もあるが、参加者は集まりそうなのか。
久木元氏は、前職でアーツカウンシル東京やアーツ千代田3331に勤務しスクール事業を運営していた経験がある。勝算といわれると分からないが、ゲストと呼ぶ各講師陣も課題意識を持っていて、アートにかかわるさまざまな分野の人々が持つ課題意識を分かちあい、幅広く交流しながら言葉にして考えたいというニーズは充分にあるものと考えている。
Q)「APK PUBLIC」の参加アーティストの選定はキュレーターに一任していたのか。自社の事業との親和性など、何か選考基準があったのか。
キュレーターとはコミュニケーションを密に行った上で、弊社の事業についての理解のもとに作品の方向性とアーティストの選定を検討いただいている。アーティストの選定については、キュレーターの意思を尊重し決定している。
Q)「APK PUBLIC」の作品は借用とのことだが、展示が終わったあとに社名のクレジットを入れる予定は?また、アート事業部の構成は?
作品にクレジットを入れることはない。
新規事業を行う戦略事業本部の中に国内投資開発統轄部があり、その一部にTODA BUILDINGの開発を担う京橋プロジェクト推進部を設置している。所属する10名のうち半数が開発事業とリーシング(テナント誘致)を担当、もう半数がアート事業と広報、エリマネを担当している。後者のうち半数はアート事業の経験者をキャリア採用し、現場実務の対応ができるよう配置している。
限られた時間ながら、企業内で文化芸術やメセナ活動に取り組む担当者同士だからこその活発な意見交換が行われ、見学ツアーは終始和やかな雰囲気の中、大きな拍手とともに終了した。
編集後記:
戸田建設は「TODA BUILDING」が開業する数年前からさまざまなプログラムを行ってきた。
実は筆者も、2023年末、2024年夏と、プレイベント トークセッションに参加し、そのユニークな取り組みと動向に関心を持っていたが、オープンを経ての最新の状況を、担当者から直接シェアしてもらえたのは、非常に有意義な時間だった。
ART POWER KYOBASHI プレイベント トークセッション Vol.1「ART POWERが生まれる場所とは」/Vol.2「ART POWERを生み出すしくみとは」
◎訪問日: 2024年12月13日(金)
◎訪問先: 「TODA BUILDING」(東京都中央区京橋)
会員ネットワーキンググループとは:
企業メセナ協議会会員の相互交流・連携強化、および情報交換・相談・研鑽などが恒常的に行える場を設けるため、2011年に発足。会員有志からなる幹事メンバーが中心となり、協議会事業・行事に関連づけた会合を開くほか、会員自らのメセナ活動にかかわる日常的な課題について話し合うなど、集いの場・ネットワークづくりのため活動しています。
*2024年度幹事(企業・団体名のみ):
竹中工務店、朝日新聞社、TOPPANホールディングス、ベネッセホールディングス、リクルートホールディングス、リソー教育
(計6社団体・敬称略)
【撮影】企業メセナ協議会
【報告】Naomi/メセナライター