メセナセミナー

「多様な連携の姿から探る、企業メセナの可能性」

企業メセナ協議会では、「多様な協働と連携」というテーマのもと、企業や企業財団が連携して取り組むメセナ活動を事例にセミナーを開催します。本テーマは、企業メセナの傾向として近年広がっており、それぞれの強みを活かすことで活動の充実と裾野の拡大につなげ、地域の芸術文化の醸成や次世代育成、産業振興など、社会の持続的な発展も期待されます。
今回は、子どもを対象としたコンサートのノウハウをもつソニー音楽財団とサントリー芸術財団がタッグを組み生まれた子どものためのクラシック音楽フェスティバルと、地元企業とともに地域の伝統工芸に光をあてたしずおか焼津信用金庫の地域創生の取り組み、また、企業や行政、地域団体との幅広い連携により、社会に還元するホッピービバレッジのCSR活動を紹介します。
3社・団体の事例を通し、組織や人がつながり、新たな手法やアイデアを取り入れることで、メセナ活動を効果的に展開していくヒントとなれば幸いです。当日はライブ配信も行いますので、ぜひお誘い合わせのうえご参加ください。


【開催概要】チラシ(PDF)
日 時|2025年1月30日(木)14:00~16:00(開場13:30)
会 場|御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター ホール【EAST】(東京都千代田区神田駿河台4-6 2F)
参加費|一般3,000円(協議会会員は無料) / 学生500円
定 員|会場:80名 / オンライン(Vimeo):人数制限なし
□     ※見逃し配信有:2025年2月1日(土)~11日(火)
申込方法|
(1)事前振込、当日現金支払い(一般・学生)/無料(協議会会員)の方
□  専用フォーム: https://pro.form-mailer.jp/fms/0843da37314855
(2)カード(VISA, Master, JCB, AMEX)支払いの方(一般・学生)
□  Peatix: https://mecenatseminar2025.peatix.com

申込締切|2025年1月23日(木)
※オンライン視聴については、締切後も受け付けています。(見逃し配信のご案内となります)
また、開催日当日以降のお申込みは、(1)専用フォームのみ受け付けています。


【プログラム】
14:00 開会

14:05 活動事例紹介
□     1. 対象を子どもに特化した世界最大級のクラシック音楽フェス「こども音楽フェスティバル」
□   戸上眞一 氏(公益財団法人ソニー音楽財団 企画事業部 部長)

□     2. 地域資源循環型もの、人、夢づくり活動
□   佐藤忠輝 氏(しずおか焼津信用金庫 お客様サポート部 係長)

□     3. HOPPY for society ホッピービバレッジのGLOCALな活動
□   
石渡美奈 氏(ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社長)

15:25 クロストーク
□    パネリスト:戸上眞一氏、佐藤忠輝氏、石渡美奈氏
□    モデレーター:澤田澄子(企業メセナ協議会 常務理事)

16:00 閉会


【ゲストプロフィール】(敬称略)

戸上眞一 [公益財団法人ソニー音楽財団 企画事業部 部長]
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントにて営業、プロモーターを経てクラシックレーベルソニー・クラシカルでヒラリー・ハーン、イェフィム・ブロンフマン、水戸室内管弦楽団、加古隆、鼓童、小山実稚恵、小菅優、古澤巌、宮本文昭、宮本笑里等アーティストのA&Rディレクター、プロデューサーを歴任、現在ソニー音楽財団にて各種コンサート及びコンクール等公益事業の企画制作に従事。
佐藤忠輝 [しずおか焼津信用金庫 お客様サポート部 係長]
3月10日(サトー)静岡市生まれ、大学卒業後、1980年地元静岡の「しずおか信用金庫」(現:しずおか焼津信用金庫)に入庫、3支店にて営業・融資等の金融業務を経験後、1994年本部に異動、専門職として調査業務やお取引先支援業務を担当、2018年退職、現在嘱託職員としてビジネスサポート業務に従事。
石渡美奈 [ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社長]
立教大学文学部卒業後、日清製粉(現:日清製粉グループ本社)に入社。人事部に所属し、1993年に退社。広告代理店でのアルバイトを経て、1997年に祖父が創業したホッピービバレッジに入社。広報宣伝を経て、2003年取締役副社長に就任。2010年より現職。
ニッポン放送『看板娘ホッピーミーナのHoppy Happy Bar』パーソナリティ、著書に、『社長が変われば会社はかわる!』(阪急コミュニケーションズ)他多数。
澤田澄子 [公益社団法人企業メセナ協議会 常務理事]
大学卒業後、キヤノン株式会社入社。カメラ、ビデオ、知財、人事、広報部門を経て社会貢献推進室長、社会文化支援部長、CSR推進部長。退職後、2018年3月より現職。特定非営利活動法人日本NPOセンター評議員、静岡県文化政策審議会委員、船橋市文化振興推進協議会委員。一般社団法人「協力隊を育てる会」理事、公益財団法人日本自然保護協会理事など。

主 催 公益社団法人企業メセナ協議会
委 託 独立行政法人日本芸術文化振興会委託事業「令和6年度文化芸術活動の動向把握に向けた基礎資料収集事業」

 

 

開催報告

公益社団法人企業メセナ協議会は、2025年1月30日(木)、メセナセミナー 「多様な連携の姿から探る、企業メセナの可能性」を御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター・ホールEASTにて開催した。
「多様な協働と連携」というテーマのもと、企業や企業財団が連携して取り組むメセナ活動として、3社・団体それぞれのユニークな取り組みが紹介された。後半は、登壇者と、企業メセナ協議会常務理事の澤田澄子の4名によるクロストークを実施した。

 

活動事例報告①
対象を子どもに特化した世界最大級のクラシック音楽フェス「こども音楽フェスティバル」
戸上眞一  氏(公益財団法人ソニー音楽財団 企画事業部 部長)

ソニー音楽財団における4つの活動軸

1984年設立の公益財団法人ソニー音楽財団は、子どもや若い世代に向けた音楽啓蒙活動として、人材育成支援や機会の提供を含む「4つの軸」に沿った多種多様な活動を展開している。中でも連携という意味で代表的なのが、ソニー音楽財団と公益財団法人サントリー芸術財団が協働し、2022年に始まった「こども音楽フェスティバル」だ。

連携団体の強みを発揮し、子どもたちに上質な音楽体験を提供

0才の乳児から10代の青少年まで、子とその保護者を対象とした、世界最大級のクラシック音楽フェスティバルで、年齢に合わせたプログラムが組まれるなど、子どもに特化したクラシックイベントとしては他に類を見ない。子どもたちに本格的なクラシック音楽に触れる機会を提供するため、コンサートチケットの価格は子どもの場合1,000円〜2,000円程度 と低価格に設定されており、第一回の参加アーティストは300名以上、観客動員数は約30,000 人にのぼる。世界一美しい響きをコンセプトとするクラシックホールであるサントリーホールをはじめ、周辺広場、ホテルなども参画し、子ども向けの各種催しやワークショップが開かれるなど、連携団体それぞれの強みが集結した。

特に、会場に来ることのできない子どもたちに向けた無料ライブ配信の試みは、本セミナーのテーマである「多様な協働と連携」を体現する取り組みだ。基幹となる配信スタジオとさまざまな会場をつなげることで、演奏前のアーティストの声を届けたり、チャット機能を活用して観客と出演者がインタラクティブに交流できるなど、オンラインだけでなくオープンスペースも活用しユニークな配信が行われた。結果配信視聴数約100,000、チャット数28,806件と、大きな成果を得ている。さらに、今年5月に開催が決まった「こども音楽フェスティバル 2025」では、ソニー音楽財団とサントリー芸術財団およびそれぞれのステークホルダーが持つ知見を活用し、障害の有無などにかかわらず誰もが上質な音楽体験ができる、インクルーシブなフェスティバルの開催を目指す。
このようにソニー音楽財団は、多様な企業・団体と連携し、音楽に触れる感動と歓びを子どもたちに伝えることを通じて、次世代の音楽文化の発展に貢献していく。

 

活動事例報告②
地域資源循環型もの、人、夢づくり活動
佐藤忠輝 氏(しずおか焼津信用金庫 お客様サポート部 係長)

コンテストの公式キャラクター「ハットくん」人形を持つ佐藤氏


地域資源と次世代をつなぐ『しずおか「夢」デザインコンテスト』

しずおか焼津信用金庫は、静岡県静岡市に本店を置き、主に静岡中部を営業区域とする1931年設立の信用金庫である。当初から経営理念に地域振興を盛り込み、「地域の未来によりそう」をスローガンとした「なないろプロジェクト」を実施。若手経営者塾や経営フォーラム開催などのビジネス支援のほか、支店ごとの地域清掃や祭り運営の補助など、地域との共栄を目指したさまざまな事業に取り組んでいる。中でも力を入れているのが「地域資源循環型もの、人、夢づくり活動」である。

その一環として、地元企業の賛同や協力を得て取り組まれている「あったらいいな!こんな地場産品『しずおか「夢」デザインコンテスト』」は、2003年より静岡市内の小学校3〜6年生を対象に実施されている。静岡市の地場産品をテーマに、子どもたちの夢を実現するというコンセプトのもと、応募作品のいくつかは地元の職人と共同作業で製品化される。子どもたちに地場産品の素晴らしさと知識を伝えるだけでなく、創造的な感性を育むと同時に地場産業にインスピレーションをもたらす、双方向性のある取り組みだ。

会場に展示されたコンテスト入賞作品。右端にあるのが玩具「夢のおでけん」

羽織ると背中に富士山が現れる「フジ山マント」や、静岡市ふるさと納税の返礼品に採用された玩具「夢のおでけん」🄬もこのコンテストから生まれた。静岡のおでんに特有の黒い煮汁が表現されたおでん型のけん玉で、市内飲食店でのコラボ企画も生まれるなど、地域の魅力を内外に伝える製品となっている。セミナーでは玩具の実演と入選作品の展示も行われた。

産業と人と夢を育む、持続可能な地域社会へ

しずおか焼津信用金庫では、コンテストのほか、静岡市の地場産品ができる過程をわかりやすく解説した『しずおか特産品解体新書』🄬の発行や、『モノづくりワークショップ』の運営も手がけている。こうした一連の取り組みは、子どもたちの発想力や行動力を伸ばすだけでなく、コミュニケーション力の向上や郷土愛の醸成に貢献し、さらには産学連携事業のモデルケースともなっている。このように、地場産業と子どもたちの架け橋となることで、持続可能な地域の基盤が築かれている。

 

活動事例③
HOPPY for society ホッピービバレッジのGLOCALな活動
石渡美奈 氏(ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社長)

ホッピービバレッジ株式会社代表取締役の石渡氏


活動のはじまり、社員と企業文化を育む場としてのCSR

ホッピービバレッジ株式会社は1905年創業の老舗の総合飲料メーカーである。赤坂に本社を置き、元祖ノンビア「ホッピー」や「コアップガラナ」、地ビール、サワー等の製造販売を行っている。
原料であるホップの入手先であった長野県で開催されていた「軽井沢国際音楽祭」をはじめSuper GTへのスポンサー参画など、ホッピービバレッジの多様なCSR活動は、業界での生き残りをかけた経営戦略と、各分野での未来を担う人財育成、創業の地赤坂や工場を置く調布といった関係地域への強い想いに根ざしていると、3代目代表取締役の石渡氏は語る。
大手がひしめく酒類、清涼飲料業界のなかで「どう会社を守るのか」への答えとして導き出されたのは、誰にも真似されない独自の「企業文化」を確立し、それによって社会に求められる会社であり続けることだった。2007年に初の新卒社員を迎えて以降、企業文化の醸成を担う社員への教育の場として、さまざまな社会貢献活動に着手していく。
また、事業をスタートさせた石渡氏の祖父が赤坂に拠点を置いて以降、ホッピービバレッジは赤坂のまちとともに歩んできた。2011年の震災の影響により業績の落ち込んだ赤坂の飲食業を救うため、はしご酒を通した地域活性貢献イベントを実施するなど、創業家のファミリーヒストリーとして受け継がれる地域の繋がりと、企業のCSR活動は地続きといえる。

Glocalに動く、ミクロな出会いから「Hoppy Earth Project」へ

地球温暖化対策に関するメディア発信「HOPPY EARTH PROJECT」

「地球規模(Global)の視野で考え、地域視点(Local)で行動する」ことを活動方針として掲げるホッピービバレッジのCSR活動は、地元赤坂氷川神社で行われる「赤坂氷川祭」や「茜まつり」をはじめ、国内から海外へ幅広く展開されている。2012年以降はニューヨークへの本格進出に向けて、UNCA(国連報道協会)gala へ唯一の日本企業として参加するなど、さらなる企業文化の発展に取り組んでいる。
中でも、地球温暖化対策に関するメディア発信「HOPPY EARTH PROJECT」など、近年は地球環境というマクロな視点でのCSR活動に注力している。社会課題へアートを介してコミットする瀬戸内国際芸術祭の理念に共感したことを契機に、2019年には「犬島ホッピーバー」を開設。2022年からはパートナー企業となり、ついに自社でのCSR活動として環境対策を展開するに至った。「企業と社員をどう守り育てるか」を追求した先に生まれたホッピービバレッジのCSR活動は、地域への還元とさらなる企業価値の創出を通じて、持続可能な社会に向け進んでいく。

 

クロストーク
戸上眞一 氏、佐藤忠輝 氏、石渡美奈 氏
モデレーター:企業メセナ協議会常務理事 澤田澄子

左から澤田、石渡氏(ホッピービバレッジ株式会社)、佐藤氏(しずおか焼津信用金庫)、戸上氏(公益財団法人ソニー音楽財団)

クロストークでは、企業メセナ協議会常務理事 澤田澄子をモデレーターに、事例紹介の登壇者3名がパネリストとして意見交換を行った。

 

メセナ活動を通じて次世代へ「継承」の種をまく

企業メセナ協議会が実施する調査によれば、近年のメセナ活動に共通するキーワードは「地域」と「人材育成」だという。実際、今回事例を発表した3社では、産業や地域文化の「継承」が一つのテーマとなっていた。
ソニー音楽財団では、子どもを対象に音楽文化を次世代に伝え、機会の創出や人材の育成に取り組んでいる。しずおか焼津信用金庫でも同様に子どもをターゲットに、地場産業への関心の向上と、その先に継承を見据えた活動を行っている。
「近年、若い世代の生きる力というのが弱くなっているように感じる」と述べるホッピービバレッジ代表取締役の石渡氏は、しずおか焼津信用金庫やソニー音楽財団の事例にふれ、幼少期の文化体験の重要性を指摘する。また、事業や文化の承継に関して、事業承継者の不在により中小企業の大規模な倒産が相次ぐ現状から、子どもたちへの働きかけが地域ひいては国の未来につながると重ねた。さらに、しずおか焼津信用金庫の佐藤氏はコンテスト発案の経緯について「営業エリアが限られている信用金庫では、地域に元気がなければ業界の元気もない。都心への人口流出が加速する中、景気の動向調査を通じて現状を伝えるだけでは不十分だと思い、地域の未来を担う子どもたちのために取り組み始めた」と語る。

石渡氏(ホッピービバレッジ株式会社)


社内理解の重要性と、連携のメリット

大規模なコンサートや地場産業の職人がかかわるコンテスト、そして国内外に展開する多様なCSR活動ともなれば、直接活動にたずさわるメンバーだけでなく周囲の理解がなければ、活動を長期的に行うことは難しい。
ソニー音楽財団の戸上氏は「私どもの活動はソニーグループ関係各所より様々なご協力をいただいています。職員もエンターテイメントが好きな方が多く、積極的にチケットをご購入いただいたりボランティアで参加いただくなど、私どもの活動を支えていただいています」とグループでの相互理解が、音楽フェスティバルの開催を後押ししていると語る。

「合併以前から取り組んでいたコンテストでしたので、なかなか社内で理解を得るのが難しい時期がありました。そこで『メセナアワード』をはじめさまざまな賞へエントリーしたところ幾つかの賞を受賞することができました。それによって社内の見方がよい方に変わりましたね」と語ったのは、しずおか焼津信用金庫の佐藤氏だ。メセナ活動への外部評価が、社内理解の向上につながった。

「異なるノウハウを持った方たちと協働することで、業務の幅が広がる」一方、「複数団体で事業にあたるため、意思決定の難しさがあった」など、「多様な協働と連携」のメリットや課題についても意見が交わされた。過去にホッピービバレッジ前代表取締役会長の石渡光一氏が企画した地域活性化イベントでは、スポンサーの獲得に難航したこともあったという。「はじめは理解を得られないこともありましたが、実施してみると地域の方々が非常に喜んでくださいました。そこから周囲の評価も変わって、活動に一体感が生まれましたね」と現代表の石渡氏は振り返る。コロナ禍や赤坂周辺の再開発事業をきっかけに協力体制を構築し、現在はともにまちづくりに取り組んでいるという。協働と連携の課題を乗り越えた好例だ。

エンターテインメント、金融、飲料という全く規模もジャンルも異なる企業・団体だが、3つの組織に共通するのは、企業がメセナ活動に取り組むことで、未来へ大きな投資を行っている点である。教育や人材育成、環境への取り組みというのは一朝一夕に効果を発揮するものではない。今回の事例のような多様な協働や連携、広がりを持ちながら、長期的な取組みと、それを可能にする社内風土が必要である。そのいずれをも備えたこの3つの組織の実践に今後も注目したい。

【報告】福井さら/メセナライター

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