「熊本・鹿児島フィールド視察」
<日 程> 2014年8月28日(木)~30日(土) 2泊3日
<定 員> 25名
<参加費> 協議会会員 45,000円 / 一般 50,000円
※参加費に含まれるもの:宿泊費(熊本市内ホテル:朝食込、指宿白水館:夕・朝食込)および現地での交通費
※航空券代は各自でご負担いただきます。協議会手配をご希望される場合はお申し出ください。
8月28日(木) 東京(8:35羽田空港発)→熊本(10:20熊本空港着)
◇熊本市現代美術館
現代美術を中心とした美術館として、国内外の水準の高い企画展を開催するとともに、美術の調査研究や地域に根ざした教育普及活動を実施。全国的に活躍する熊本および九州出身のアーティストの成果を紹介し、さらに地元を基盤として活躍するアーティストが生み出すすぐれた熊本の芸術文化を、国内外へ広く発信。
◇(株)お菓子の香梅「古今伝授之間」
東海道五十三次を模した桃山式庭園として名高い、「水前寺成趣園/通称:水前寺公園)」。「古今伝授之間」は、この名園を一番美しく眺めることができる場所に位置する、茅葺き屋根の歴史ある建物(熊本県指定重要文化財)。ここは、古今伝授(詳細は後述)が行なわれた空間として現存する「日本で唯一の建物」として、各方面から注目を集めている。お菓子の香梅(運営:古今伝授之間 香梅)は、先人達の文化遺産である「菓子」の神髄を追究し、後世に伝える立場から、「菓子」と「和歌」の違いはあれど、この貴重な日本唯一の文化遺産を後世に伝えることを使命し、運営管理を行っている。
〔宿泊:熊本市内〕
8月29日(金)
◇熊本県副知事訪問
戦後の県政史上最年少で副知事に就任された熊本県副知事、小野 泰輔氏を訪問。
⇒鹿児島県指宿市へ移動
◇指宿白水館「薩摩伝承館」
薩摩伝承館は2008年2月11日に開館。指宿白水館の創業者である一代目、下竹原弘志と、親子二代、60年にわたって収集された約3000点のコレクションを公開する施設として開館された。テレビ番組「なんでも鑑定団」で鑑定された薩摩切子がここに所蔵されている。
〔宿泊:指宿白水館〕
8月30日(土) ⇒鹿児島市内へ移動
◇マルヤガーデンズ
Community (集まる場所)、Department(百貨店)、Unitement(すべてをつなぐ)。マルヤガーデンズは百貨店のようでありながら、「ガーデン」と呼ばれる10のギャラリーを持つ、いわば「買い物集会所」。ショッピングを楽しむ。マルシェで夕飯の食材を買う。ガーデンで開催されるワークショップに参加する。あるいは、自分たちの手で展覧会をひらく。マルヤガーデンズは独立したお店の集合体でなく、お客様、お店、ガーデンすべてをつなぐことで、ひとつの意思を発信できる場所である。
◇鹿児島市内視察
鹿児島(16:30鹿児島空港発)→東京(18:15羽田空港着)
開催報告
企業メセナ協議会設立から25年、2014年から2015年を「Corporate MECENAT Year of Japan」とし、今年(10/23)と来年(3/8)に開催する国際会議「文化は資本だ-創造経済とは何か」の導入プログラムとして、地域文化や伝統文化などに関わる多彩な企業メセナをご紹介する「メセナフォーラム」を連続で開催しています。
第3回メセナフォーラムは、熊本・鹿児島へのフィールド視察とし、地元の企業や団体が地域固有の文化を支える拠点を参加者11名で訪れました。
~視察1日目:8月28日(木)【熊本】~
お昼に熊本市に到着し、いよいよ視察スタート!最初にうかがったのは、熊本市現代美術館です。
①熊本市現代美術館
まず、熊本市美術文化振興財団の岩﨑様から、市の美術館として掲げていらっしゃるビジョンや活動内容についてうかがいました。「アートの力を見せる」「アートへの愛情を育てる、根づく土壌をつくる」「アートが人をつなぐ、アートで都市をデザインする」を理念とする市民のための美術館として、展覧会のみならずコミュニティ活動を含むさまざまな事業を展開されているそうです。
館内は主任学芸員の坂本様にご案内いただきました。ジェームズ・タレルやマリーナ・アブラモヴィッチなどの作品に囲まれてくつろげる図書館「ホームギャラリー」や、親子で利用できる「街なか子育てひろば」、さらに9/15まで展示中の企画展「水戸岡鋭治からのプレゼント まちと人を幸福にするデザイン展」などを拝見しました。
館内は撮影禁止だったのですが、企画展は撮影OK。美術館の中に機関車が!子どもも沢山いて、厳正された静かな美術館のイメージとは全く違いました。
「市民のためにある美術館」という岩﨑様のお話のとおり、美術館のなかで子どもから大人まで思い思いに過ごされていた様子が印象的でした。今回は時間が限られていて断念しましたが、次回訪れた際には必ず「ホームギャラリー」のジェームズ・タレルの下に寝そべりたいと思う事務局スタッフでした。
②お菓子の香梅「古今伝授の間」
続いて向かったのは、「古今伝授の間」。東海道五十三次を模した桃山式庭園として名高い「水前寺成趣園」を最も美しく眺めることのできる場所に位置しています。慶長5年(1600)に、細川家初代・幽斎公(細川藤孝公)が八条宮智仁親王へ、当時の日本の学問の最高峰である「古今和歌集」の解釈の奥義を伝授されたことから、「古今伝授の間」と呼ばれることになったそうです。
水前寺成趣園に到着すると、お菓子の香梅の代表取締役会長・副島様を始め、山本様、笹原様がお迎えくださり、古今伝授の間へとご案内いただきました。
昨年の「メセナアワード」に応募頂き、「This is MECENAT」にも認定され、協議会関係者の中でも「行ってみたい」という声が多かった古今伝授の間
名園を眺め、お茶とお菓子をいただくという、贅沢なひととき。
「極上のくつろぎ」を企業理念とするお菓子の香梅さんだからこそ、この空間と時間を大切に守っていらっしゃることが全身で感じられました。
右側にいらっしゃるのは、古今伝授之間の運営を担当されている山本さん。古今伝授にまつわる歴史的なお話、
熊本に古今伝授の間が移った経緯などを丁寧にご説明下さいました
水前寺成趣園も皆で視察。遠くからも近くからも美しい庭園でした。
外から見た古今伝授の間。こんもりとした茅葺屋根が可愛らしいです
③ピーエスオランジュリ、ピュアリィ、器季家
1日目最後の視察先は、唐人町の通りに位置する3軒、ピーエスオランジュリ、ピュアリィ、器季節家です。
ピーエスオランジュリは、旧第一銀行の洋館を活用して、空調機や加湿器の開発・製造を手掛けるピーエス株式会社が製品のディスプレイを行っています。
手前にある「柵」で水によって温度、湿度を調整している仕組みで、触ると水滴が冷たいです。
地元の方がミーティングで利用されることもあるそう
吹き抜けで解放感も音響効果もあるつくりに加え、気温・湿度ともに最適な環境。心地よいとはこういうことか、と納得の空間。コンサートやギャラリーを開催する場としてぴったりだね、と参加者の皆さんも口々におっしゃっていました。
ピュアリィは、築130年以上の古民家をリノベーションし、地場企業かねくら株式会社が店舗活用。自然素材の食や天然コスメなどが販売されています。昔の船着き場を活用した地下のレストランでは坪井川を目の前に食事ができる素敵な空間になっています。
昔ながらの内装と、外の風景のマッチングがまた絶妙です
地階へ降りていくと現れるレストラン「福のや」。元は川に面した船着き場なので、表の通りからは見えず、文字通り隠れ家のよう。壁の石垣も当時のものだそうです
左)川を眺めながらお食事ができます 右)中は非常にアットホームな雰囲気に包まれていて、古さとモダンさがうまく融合している空間です
西館の2階は、かねくら社が運営する多目的スペース「Purely West Gallery」。展示やライブ、舞台の場として活用されているそうです。
器季家は、100年近く前に建てられた卸問屋の倉庫を活用したカフェ。レンガ壁が印象的で、熊本市の景観重要建造物に指定されているものの、40年以上もシャッターが閉じていたそうです。この歴史的な建物を再生させたいと、オーナーが2011年にカフェをオープン。熊本名物の馬肉や粉子を使ったメニューのほか、熊本の作家による陶芸品や肥後の和てぬぐいなどが展示販売されていたり、地元の方による書道教室やお花の展示会なども開催されているそうです。
40年間もシャッターが閉じたままだったこの建物を、なんとかまた開けて、風を!人の気を!
ここの中に通したい!という気持ちでゼロからカフェをオープンされたオーナーが熱く語って下さいました
カフェの横では現地の小物や食品も販売。可愛らしい小物が点在している店内です
カフェの裏には卸問屋からの建築がそのまま残されています。
ここに建っているだけでも、当時の風情を感じられるほど。奥に見えるのがカフェ
~視察2日目:8月29日(金)【熊本・鹿児島】~
2日目のスタートは熊本県庁から。地域における文化振興に尽力される副知事の小野泰輔氏のもとを訪れ、熊本県ならではの取り組みをうかがいました。
①熊本県庁:熊本県副知事・小野泰輔氏訪問
熊本の文化・風土・をいかに守り、活かし、発展させていくか、事例とともにじっくりお話しいただきました。例えば、「くまもと子ども芸術祭」。伝統芸能を次世代に継承するために始まり、出演者は全員子ども。民間ベースでの支援も増えているそうです。また、地域経済の活性化においても大事な要素である「手仕事」に着目した「くまもと手しごと研究所」は、地元の方が手がける食や行事、風習などを「手しごとキュレーター」が紹介しているそうです。
さらに、自然豊かで資源に溢れた地(熊本の水は全て湧水!)を生かした産業などもご紹介いただきました。「地方から日本を復活させたい」という小野副知事の言葉に、参加者の方々も共感され、中央と地方の連携や協働の可能性など、副知事との議論は尽きませんでした。
②河原町
小野副知事との会談から興奮冷めやらぬまま、次なる視察先として向かったのは河原町。シャッター街となった河原町繊維問屋街を、クリエーター・アートの町として再生させ、活性させようと立ち上げられた河原町文化開発研究所の代表・黒田様にご案内いただきました。
実は、黒田様には視察の準備段階からご協力いただいておりました。視察先をご紹介いただくほか、当日のアテンド、そして小野副知事との面会まで…。黒田様のご協力なくしては、今回の視察は実現できませんでした。黒田様、本当にありがとうございました!
この奥をさらに行くと右へ左へと、迷路みたいになっていました
残念ながら熊本を発つ時間が迫り、慌ただしい視察ではありましたが、古い建物の合間にギャラリーやカフェがあり、時間の流れが絶妙に入り混じるクリエイティブな空間に、ただただ感嘆するのみでした。
河原町では、若手アーティスト育成のため毎月第2日曜日に「河原町アートの日」が開催されています。今回は拝見できなかったので、次は第2日曜日をめざして訪れようと誓う事務局スタッフでした。
③指宿白水館・薩摩伝承館
熊本から新幹線と電車を乗り継ぎ、窓から海を眺めながら、指宿白水館へ。白水館にある「薩摩伝承館」では、白水館の創業者・下竹原弘志氏と子息の和尚氏が60年にわたって収集した約3,000点のコレクションが公開されています。
薩摩伝承館ができるまでのストーリーやこれからの展望など、白水館の代表取締役社長・下竹原様より直接お話をうかがうことができました。館内のコレクションはボランティアガイドの方が1つ1つの背景をご説明くださり、薩摩の歴史・文化を深く知る機会となりました。
中心でお話されているのが指宿白水館の下竹原社長です。直々にご説明をいただきました
視察も半ばを過ぎたこの日の夜。お食事の場では、参加者の皆様から視察に関する感想やご意見をいただきました。始終ばたばたしていた事務局スタッフもゆっくりとお話をさせていただき、今後に向けて温かいアドバイスをたくさん頂戴しました。3日間ご一緒させていただくなかで、参加者の方々とこうした時間を過ごすことができるのも視察の魅力の一つだなとあらためて思い、より多くの方に参加いただけるような企画を考えていきたいと、気を引き締めた時間となりました。
~視察3日目:8月30日(土)【鹿児島】~
いよいよ最終日。指宿を出発し、鹿児島市内へ向かいます。
①マルヤガーデンズ
呉服屋の丸屋が昭和36年に開業した「丸屋デパート」は、三越との資本提携から鹿児島店の撤退を経て、平成22年に株式会社丸屋本社が建物を全面的に改修、「マルヤガーデンズ」として再生されました。館内には「ガーデン」と呼ばれる複数のギャラリーがあり、ショッピングとともに展覧会やワークショップ、映画を楽しむことができます。「Unitement(ユナイトメント)」をコンセプトとし、さまざまな人、モノ、コトが自然と集まる「買い物集会所」として展開されています。今回の視察では、株式会社丸屋の代表取締役社長・玉川様より各階をご案内いただきました。
チャペル。シャンデリアが下がっている吹き抜けは元の丸屋時代からそのまま残して活用したそうです。
商業施設の上にチャペルがあることはあまり知られていないそうです
最上階にはそのままの自然を尊重したお庭が。植物や生き物を紹介する庭師さんの手書きマップに温かみがあります
左)エレベーター付近にある、「階」の案内。全て手書きで、1つ1つ違ったデザインが素敵でした
右)何気ない通路に突然、ソファと薪の山
屋上の庭園、チャペル、アートスペース、映画館、ギャラリー、そして店内の品々…。事務局スタッフを含む女性陣はそわそわ。「わざわざ東京から来てお買い物をされる方もいらっしゃるんですよ」と、玉川社長。納得です。
左)薩摩焼を扱っているお店で、店員さんが熱心にご説明して下さいました。このように、鹿児島ならではのお店が多いことも魅力的です
右)丸屋本社の社員さんが選ぶ、セレクトショップ
②尚古集成館
視察の最後に訪れたのは、「尚古集成館」。現存する日本最古の機械工場ですが、島津家の歴史や文化を語り継ぐ博物館として、大正12年に島津家の直営経営により開館。昭和31年からは株式会社島津興業が運営しています。
館内は撮影ができなかったため残念ながら写真はありませんが、尚古集成館の方にご説明いただきながら、映像で見る島津家の歴史や近代化事業を紹介する展示などを拝見しました。
メセナフォーラム第3回熊本・鹿児島視察は、2泊3日で合計9か所の拠点を訪れました。各地の文化を目にしながら、お迎えくださった皆様がいかに地域文化を大切にしてこられ、さらに今後へつなげようとされているか、濃密なお話をうかがうことができました。視察にご協力くださった熊本と鹿児島の皆様、視察にご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました!
足を運ばなければ見られなかったこと、お話を聞かなければ気づかなかったこと、自分の目で見なければわからなかったことを1つ1つ蓄積していく機会として、今後も企業メセナ協議会では視察を企画していきたいと考えています。
(執筆者 企業メセナ協議会事務局 松木まどか)