メセナアワード

メセナアワード2014贈呈式

2014年11月21日(金)、「メセナアワード2014」贈呈式をスパイラルホール(東京・青山)にて開催しました。当日は、受賞者と受賞関係者、メセナご担当者、メセナ活動のパートナー、アーティスト、文化機関などのほか30名強のメディア関係者を含め、300名を超える方々にご出席いただきました。
贈呈式では各受賞活動の紹介につづき、青柳正規文化庁長官より「特別賞:文化庁長官賞」、企業メセナ協議会 尾﨑理事長より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)の贈呈をおこないました。 受賞企業・団体の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、選考委員からはそれぞれ選考評が述べられました。贈呈式終了後は、同会場にて記念レセプションを実施しました。

メセナアワード2014贈呈式 受賞者スピーチ

株式会社竹中工務店 取締役会長CEO 竹中統一 様

メセナ大賞:“建築・愉しむ”ギャラリーエークワッドの運営


今回メセナ大賞をいただくという大変な光栄に浴したことに対し、本日はギャラリーエークワッドの担当者および竹中工務店の社員一同を代表して、心から御礼申し上げます。
私ども竹中工務店は、ギャラリーエークワッドを含めて3つの公益法人の運営支援を行っています。最初に設立したのは竹中育英会で、1961年にスタートしてから50余年を経過しています。これまでに4,000人近くの奨学生を支援しており、現在も大学・大学院の学生約200名の教育支援を奨学制度のもとで行っています。
続いて設立したのが、メセナアワード2008で「伝統技術継承賞」をいただいた竹中大工道具館です。我が国の伝統建築を支えてきた大工道具の保存と技術の伝承を目的として1984年に設立し、本年で設立30周年を迎え、10月4日に竹中工務店発祥の地である新神戸駅前に新館をオープンしました。青柳文化庁長官にもご来賓いただき、オープニングセレモニーを無事済ませたところです。
2004年に本社を移した江東区木場は、富岡八幡宮など江戸時代から庶民の町として栄え、木材商人や職人の皆さんが集った場所です。私どもは名古屋において神社仏閣等の大工を長年継承してきたこともあり、木の文化を持つ江戸の発祥の地である木場に移ったわけです。その際、ギャラリーエークワッドをスタートしました。ギャラリーでは、建築を愉しみながら遊び感覚で体験していただける企画を開催しており、これらを通じて建築への興味が深まり、街並みや環境への関心が高まればと期待しています。
ギャラリーのコンセプトに建築文化の普及を掲げていますが、建築に関することが日常生活の中で話題になってほしいという気持ちを込めています。したがって一見建築とは関係のなさそうな、例えば野口健さんによる、エベレストの登山家たちが残したゴミを展示する試みや、リサ・ヴォートさんによる北極シロクマの写真展などを通して、地球の自然環境をいかに守っていくかという問題意識の投げかけもしています。今年開催した絵本展では、お子様連れのお母さま方がたくさんご参加され、本社ビルの前にベビーバギーがずらっと並ぶ光景もなかなかのものでした。
建築というと、一部の専門家のものという認識を持たれがちですが、一人ひとりが建築に高い関心を持ち様々な考えを述べるようになれば、地域社会や自然環境と共存した、今以上に美しい街や建築が次世代に受け継がれます。今回の受賞を励みに、今後も、育英会・大工道具館・ギャラリーエークワッドの3つの公益法人それぞれの強みを生かしながら連携し、地域や社会との交流を含め、日本のものづくり文化を次代に継承していけるよう、メセナ活動・文化活動の展開に一層の力を注いでまいりたいと改めて決意した次第です。皆様方には、今後ともますますのご支援とご指導を賜りますように心から御礼を申し上げまして、本日の受賞の喜びとあいさつにかえさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。

アサヒビール株式会社 常務取締役 兼 常務執行役員 柴田和憲 様

優秀賞 川の手文化賞:すみだ川アートプロジェクト2013:江戸を遊ぶ―「ないまぜや!」鶴屋南北


このたびは、このような大変栄えある賞を頂き本当にありがとうございます。アサヒビールを代表いたしまして一言ご挨拶申し上げます。
アサヒビールは食に関わる企業として、健康で豊かな社会の実現を目指しています。商品が安全安心であることはもちろんのこと、微力ながらも皆様の生活を豊かにするお手伝いがしたい、そんな思いから、1989年に芸術文化財団、そして翌1990年に企業文化部(現:社会環境部)をつくり、メセナ活動をスタートしました。しかし、当初私どもは文化に精通しているわけでもなく、そのノウハウもありませんでした。また、企業が1社だけでメセナ活動をすることには限界があり、新しいことを実施するためには、先駆的で専門的な様々な立場の方々の力を借りなければならないと感じていました。そのため私たちのメセナはパートナーシップ型で始まり、多くの方々に支えられて今があります。
今回の受賞は、「文化の側面から地域資源に注目する長期的な取り組みで、遊び心に満ちた幅広い活動が展開されている」また「様々な立場の人が関わり、創意あふれる提案と主体的な参加を促すことで、文化の多様性を担保している」という点が評価いただいたと伺っています。
現在我々が本社ビルを構えている浅草には、昔工場があり、隅田川を使ってビールを運んでいました。そのため今も昔も、私たちにとって隅田川はなくてはならない重要な地域資源です。現在隅田川は泳げるような川ではありませんが、アートを通して隅田川に着目するきっかけを作り、80年かけて白魚が泳ぎ、遊べるような川にしていきたい、それが「すみだ川アートプロジェクト」です。浅草は江戸と切っても切れない関係であることから、4年前より「江戸を遊ぶ」というテーマで様々な方に参加していただいています。私たちのメセナ活動は、多くの方々の知恵と工夫により前進し続けることができています。全ての関係者の皆様に心から感謝を申し上げます。
「すみだ川アートプロジェクト」は残り74年間あり、まだスタートをきったばかりです。皆様のお力を頂戴しながら、アサヒビールが目指す豊かな社会の実現に近づけていきたいと思っています。引き続き当社の取り組みにご理解ご支援賜りますようお願い申し上げます。本日は本当にありがとうございました。

株式会社資生堂 代表取締役 執行役員社長 魚谷雅彦 様

優秀賞 華のアート賞:「椿会」の開催と資生堂ギャラリー、資生堂アートハウスの活動


今日はこのように栄えある「華のアート賞」をいただき、社員一同を代表して皆様に御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
社長という立場に就任したのが今年の4月でまだ短く、未来の資生堂はどうあるべきか、社員あるいは有識者や海外の方々と、「資生堂が世の中の人々に提供できる価値とは一体なんだろう」という議論をよくしています。実は先だって、広告業界で大変著名なアメリカ人のクリエイティブディレクターに、資生堂の価値は「人々をビューティーとカルチャーという視点でインスパイアすることである」と言われました。私たちの会社は美容や化粧の商品やサービスを提供している会社ですが、カルチャーという視点で価値を提供していることは、資生堂独自の価値ではないかと大変強く言っていただきました。これまでの長い取り組みにより、企業価値の一部に、カルチャーという側面を十分に認識していただいていると嬉しく思いました。
先ほど映像でも紹介がありましたが、当社の企業理念「美しい生活文化を創造する」という創業以来の精神で、長年にわたり様々な活動に取り組んできました。資生堂ギャラリーあるいはアートハウスでアーティストに展示の場を提供することのほかに、素晴らしいアートに触れることで、地域の多くの方々に心豊かな人生を送っていただきたいという地域貢献の側面もあったと思います。
特に私が申し添えておきたいことは、創業以来と申しましたが、特に現在名誉会長である福原義春氏が、資生堂の提供する大きな価値として一生懸命この活動を推進されたことが、今日の受賞に繋がったのではないかと思っています。これからもこの重要な役割を引き継ぎ、今まで以上に文化活動、メセナ活動を強化するとここに誓います。これからも頑張って参ります。どうか皆様のご指導ご協力のほどをよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

株式会社電通 代表取締役社長執行役員 石井 直 様

優秀賞 子どもクリエイティブ賞:「広告小学校」プロジェクト

本日は「子どもクリエイティブ賞」という大変素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。「広告小学校プロジェクト」に携わった社員を代表し御礼を申し上げます。
このプロジェクトは2006年にスタートし、3年かけて東京学芸大学の先生方にご指導をいただいて改定を続けてきました。その後、小学校の先生方のご指導ご協力もあり、多くの小学校で授業として取り上げられているという状況です。昨今は、中学校や高校、大学からもこの授業を取り入れたいという声をいただいており、私どもとしてはこの上ない喜びです。
当プロジェクトは、15秒のCMを作ることを通じて、子どもたちがコミュニケーションの本質に触れ、体感することを目指しています。ただもう少し加えると、「『伝える』ことと『伝わる』ことが違う」ということ、そして「同じメッセージを伝える場合でも、伝え方の方法、工夫の余地は無限にある」ということを感じてもらいたいと思っています。とは申し上げましても、実は我々の社員であるプロのクリエイターが子どもたちの柔軟な発想に大変刺激を受け、自らの仕事にいい影響を受けているという話を聞いており、私どもにとっても大変良い機会になっていると感じています。
今回の受賞を糧にし、先生方とともに、日本の未来を担う子どもたちが、発想力、コミュニケーションの大切さを感じ取ることができるよう、微力ながら力を尽くしてまいりたいと思います。今後とも、皆様方のご指導をぜひよろしくお願い申し上げます。本日は素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございました。

日本工営株式会社 代表取締役社長 有元龍一 様

優秀賞 ケニアで読みま賞:日本ケニア友好ソンドゥ・ミリウ公共図書館での読書文化普及のための支援活動


本日は「ケニアで読みま賞」という大変名誉ある賞をいただき、厚く御礼申し上げます。まさに望外の喜びでございます。
日本工営は国内外で建設コンサルタントとして、エネルギー・環境・農業・都市・物流などの多くの分野での技術的・経済的な諸問題を解決することを使命としている会社です。当社の経営理念は、「誠意をもってことにあたり、技術を軸に社会に貢献する。」ですが、今回の受賞は、その「技術」に加え「文化」を通じて社会に貢献したことが評価されたものと受け止めています。建設コンサルタントの仕事のベースは土木で泥臭いイメージがありますが、英語でいえばCivil Engineeringですから、多少文化との接点もあります。むしろ、国づくりあるいは地域開発といった面では、その地域の歴史や文化にも着目した開発が求められます。
当社は1985年から25年にわたり、アフリカのケニア西部のソンドゥ川流域開発、ソンドゥ・ミリウ水力発電所の建設に携わり、完成した発電所は、現在ケニアの電力のおよそ10%を供給しています。今回の受賞は、現地の「ヘラ婦人会」の社会活動への協力要請に応え、このプロジェクトに参加した技術者たちの発意をもって、2001年にスタートした図書館の設立と運営への支援です。
設立後3年を経て土地も購入し、新しい建物を建てました。その5年後には暴風雨に見舞われ、屋根が全壊し蔵書の大半が破損するというような曲折もありましたが、現在は蔵書が約4,000冊となり、年間約27,000人の方にご利用いただいています。
我々は、こういった活動の中で大事なことは、地域の皆様と文化活動を少しでも長く継続していくことだと学びました。図書館を設立した当初に利用した子供たちはすでに社会人となり、ケニア全土で活躍するほか、図書館が地域コミュニティの拠点となっているという大変うれしいニュースを聞いています。
今回の受賞を励みとし、私どもとしてはさらにこの活動を継続することをお誓い申し上げます。そして、このプロジェクトの本当の立役者をご紹介します。迫田さん、ご起立ください。(拍手)実は彼が、地域の人々のためという高い志をもって仕事をする一環としてこの図書館の設立に参加してきた、まさに中心人物です。その彼を紹介させていただき、私のご挨拶とさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。

株式会社琉球銀行 取締役頭取 金城棟啓 様

優秀賞 紅型めんそ~れ賞:「りゅうぎん紅型デザインコンテスト」による紅型振興と次世代育成活動


ハイサイ グスーヨー チュー ウガナビラ。沖縄の島言葉で「皆様、こんにちは」という意味です。今回、思いもよらずこのような素晴らしい賞をいただき心から感謝を申し上げます。
沖縄は大きく変わろうとしています。沖縄は日本の南端、または160の島があることから島嶼群の僻地という印象があります。しかし今、日本の南端から東アジアの中心に転換する大変重要な過渡期にあると思っています。また、大変多くの観光客が沖縄に来ています。
全国的に地方は人口が減少する段階に入り、増えているのは東京や大阪など都市地区です。人口が増えている数少ない地方に、沖縄があります。なぜ沖縄は人口が増えているのか?1945年に戦争が終わりましたが、沖縄では15~20万人の犠牲者が出ました。その影響でタイムラグが生じ、今人口が増えているという背景があります。そういった背景はありますが、沖縄に皆様が来られて感じるのは、沖縄が元気だということです。沖縄が元気なのは、経済だけではありません。沖縄の魅力は、豊かな自然と青い空、コバルトブルーの海、白い砂、そして沖縄の歴史と文化です。
地元の金融機関である琉球銀行は、地域の発展に寄与するという経営理念をもとに仕事をしています。地域の発展は、経済だけでなく文化面と両輪です。もっと言えば、「経済は文化の僕である」といった方がおられましたが、本当はそうなのだと思います。戦後の復興の中から沖縄が大きく発展するためには経済だけではだめで、料理や音楽、伝統工芸が大切で、そのために若い人たちを育て未来に向かって可能性を追求していく必要があります。私たちはそういった若い方たちをこれからもしっかりとサポートしていきます。
本日300名いる中で、沖縄からまいりました私たちの仲間はたかだか10名程度でございます。あの辺に固まっております、ちょっと立ち上がってください。(拍手)大きな拍手をありがとうございます。文化活動を含めて、これからも琉球銀行はますます地域の発展に寄与したいと思います。本日は本当にありがとうございました。

トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田章男 様

特別賞 文化庁長官賞:トヨタ青少年オーケストラキャンプ

一言御礼を申し上げます。文化庁長官および企業メセナ協議会のみなさま、本当に光栄な賞をいただきました。誠にありがとうございます。
私ども「トヨタ青少年オーケストラキャンプ」は今年でちょうど30周年の節目を迎えます。この年に、ずっと長くやってきたこの活動が表彰されましたことを本当に喜ばしく思っています。
30年間で、全国の中学生から大学生までの約5,000名の方々がこのキャンプに参加してくださいました。そして、20,000人を超える方々に素晴らしい音楽をお届けさせていただきました。今年と昨年参加した青少年は160名いますが、その中のメンバーが会場おります。ちょっと立ってもらえますか。(参加した会場の学生さんたちをご紹介、拍手)去年からのリーダーを阪本が務めさせていただいています。音楽が大好きな人達が切磋琢磨をして、そして世界の一流レベルの指揮者や演奏家の方々と刺激をしあって、そしてまたその感動の音楽ネットワークを30年間続けさせていただいています。ご支援いただいている皆様のおかげです。この感動を、今後10年も20年も続けていくことをこの場で皆様方にお約束させていただき、今までずっと社内でサポートしてきた皆とともに、この喜びを分かち合いたいと思います。今日は誠にありがとうございました。
また受賞者の皆様も本当におめでとうございます。ありがとうございました。

選考評

赤池 学 氏

昨年は「全日本製造業コマ大戦」が大賞を受賞し、ものづくりが、実は守り育むべき大切な文化であることを知らしめることとなりました。今年度は、文化なるもののさらなる発展を伝えられる素晴らしい顕彰になったと自負しています。
ゼネコンに蓄えられた財産を活かしながら、建築やまちづくり、それに関わる思想や文化、技術や技能を伝える竹中工務店のギャラリーエークワッドの活動、広告クリエイティブのノウハウを子どもたちに伝えながら、子どもたち自らが発見した社会課題の解決策を広告として制作している電通の「広告小学校」、自社の事業フィールドで図書文化の普及活動を展開している日本工営、そして自社のコミュニケーションメディアを活用して地元の伝統産業である紅型の普及啓発をする琉球銀行。この4社に共通していることは、企業の利益を文化のために還元しているのではなく、企業独自の「価値」を文化のために還元していることだと思います。これからは自社の人材、競争基盤、事業基盤を活用したメセナ活動にさらなる注目が集まるだろうと考えています。
最後になりましたが、メセナの模範演技を毎年見せてくださる、アサヒビール、資生堂、そしてトヨタ自動車に対しても、その継続性を含めて素晴らしいものであることをお伝えします。受賞された皆様に心からお祝いの言葉を申し上げるとともに、心よりの敬意を表します。本日は本当におめでとうございました。

【プロフィール】
ユニバーサルデザイン総合研究所所長。1958年東京都生まれ。筑波大学生物学類卒。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。また、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演などを行う。2011年より[一社]環境共創イニシアチブ、[一社]CSV開発機構の代表理事も務める。

河島伸子 氏

受賞された企業関係者の皆様、おめでとうございます。先程からお慶びの様子を拝見し感銘を受けると同時に、このような栄えある事業に選考委員として微力ながら関われることを、光栄に嬉しくつくづく感じていたところです。
今年の受賞活動は、いわゆるメセナのベテラン級の会社が幾つも入っていますが、それと同時に、日本の最南端にある沖縄の活動や、海外で支援活動に励まれている事例も含まれる点が非常に特徴的で、メセナの広がりと深まりを感じることが出来たと思います。多様でありながらもこれらの活動に共通しているのは、それぞれが取り組もうとしている領域に対して、課題は何であるのか、企業としてどのような資源を活用することができるのか、企業だけでは出来ない部分についてどのように外部の団体と連携が出来るのか、ということを社員の方々が真摯に考えられ、時間をかけて試行錯誤を繰り返されてきたことがこのような結果に結びついたのだと推察しています。
企業メセナにとって一つだけ課題だと感じているのは、このように素晴らしい活動が外部の方々や一般の方々にまだもうひとつ伝わっていないことです。私が大学のゼミで企業メセナを取り上げた際、学生に「企業はなぜこういうことをするのでしょうか」と問いかけたところ、「イメージアップを図っている」と即座に答えが返ってきました。確かに結果としてのイメージアップはあるかもしれませんが、本当にイメージアップを目指すのならばもっと効率的にできるわけで、それだけではないはずです。その後学生に「企業メセナ協議会のウェブサイトを見て面白いと思う事例をひとつ選びなさい」という宿題を出し、その報告を聞いていると、改めて教室で感動します。イメージアップを超えた、大変に大きな価値をもたらしている活動なのだということを、狭いながら教室で感じるからです。この活動をもっともっと社会一般に伝えていくことが、今後の私達の課題ではないかということをひとつ申し上げます。今日はどうもおめでとうございました。

【プロフィール】
同志社大学教授、文化経済学会<日本>会長。東京大学教養学科国際関係論専攻卒。英国ウォーリック大学文化政策研究センターリサーチフェローを経て現職。PhD(文化政策学、英ウォーリック大学)。専門は、文化経済学、文化政策論、コンテンツ産業論。著書に『コンテンツ産業論』、共著に『イギリス映画と文化政策』『アーツ・マネジメント』等。文化審議会委員などを務める。

椹木野衣 氏

受賞された企業の皆様おめでとうございます。私は東日本大震災の翌年から3年間、選考委員として関わりました。とても大きな文化の分岐点ともいえる時期に関われたことを、大変光栄に思っています。この間、文化の意味が大きく問い直されたように感じました。文化は決して贅沢なものではなく、人が生きていくための力づけになり絶対に欠かせないものだと、私の中でも改まりました。と同時に、自然の恐ろしさや人間を超えた遥かな力を知り、その力があるからこそ我々はその恵みを頂くことが出来るという観点が芽生えました。そして3年間、島国である日本の土地、海、空に根差したメセナがあり得るのではないかと考えてきました。そう考えると、日本列島ならではの自然に力を得ているメセナ活動が結果的に多かったのでは、と改めて感じました。
トヨタ自動車のキャンプ。私の息子もキャンプにいくと見違えるようになって帰ってきます。そこで得られるものは、たとえば文化に関する助成金を受け取ることとは全然違う効果があり、未来につながる要素になり、そこに力を入れているのだと思いました。
アサヒビールの隅田川。四季が豊かにあるのも日本ならでは。季節ごとに楽しむ中から文化が出てきたという原点に立ち返り、立ち返ることで未来を開いていく文化もありうるのだと思いました。
資生堂の椿会で非常に印象に残っているのは、先日亡くなった赤瀬川源平さんが、最後の最後に家具の作品、木の表面を細工した作品を出されていたことです。やはり木に帰っていくというところがあったのではと思いました。
日本には歌舞伎、浄瑠璃、文楽など演ずる楽しみがあり、これらは厳しい自然の中で培われてきたものです。電通の授業についても、教わる側も教わり方によって「表現」になっていく可能性があり、決して自然と切り離せられるものではないと思います。
そして日本工営。先ほどお話があったように、日本は土木国家です。水力発電のコンサルタントをきっかけにケニアに図書館ができた。本は木からできています。色々な意味で日本の複合的な文化が、遠いアフリカまで到達して次世代を育成する力となっていると思います。
琉球銀行。沖縄の島の豊かな自然についてお話がありましたが、日本全体が多くの島を抱えた島です。島は地殻変動でできますから、自然の恐ろしさも恵みもあります。紅型は、そういうところから出てきた美学を持っていると思います。沖縄は、ある意味日本列島の縮図でもあると思いますので、今回活動に光が当てられたことは嬉しく思っています。
ギャラリーエークワッドは、世界でも特殊な自然を持つ日本列島という場所で、木に関わる伝統や、世界一律ではない日本固有のモダニズムなど様々な局面から、5人の方が75回の展覧会を手作りで開催されていると伺いました。大変素晴らしいことだと思います。今後ともぜひ活動を拝見させていただきたいと思っています。
今という時代は、自然の豊かさと自然の怖さから学び、日本列島ならではの文化、メセナを築いていくチャンスなのではないかと感じました。皆様おめでとうございました。

【プロフィール】
美術批評家、多摩美術大学教授。1962年埼玉県秩父市生まれ。90年代初頭より美術を中心に多方面にわたる評論活動を始める。著作に『シミュレーショニズム』『日本・現代・美術』『反アート入門』『太郎と爆発 来たるべき岡本太郎へ』ほか多数。キュレーションした展覧会に「日本ゼロ年」(水戸芸術館、1999-2000年)ほかがある。

福岡伸一 氏

受賞者の皆様、誠におめでとうございます。本年もたいへん多くの独創的で、意欲に満ちたな応募があり、審査員としてもたくさん勉強させていただきました。中でも、すみだ川、ケニア、琉球など地域に根ざしたテーマをキーワードにして、そこから歴史や工芸、あるいは読書推進といった文化活動を応援しようとする特色ある試みに注目いたしました。
ご受賞プロジェクトのさらなるご発展に期待いたします。

【プロフィール】
生物学者、青山学院大学教授、ロックフェラー大学客員教授。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学研究員、京都大学助教授等を経て現職。サントリー学芸賞・中央公論新書大賞受賞の『生物と無生物のあいだ』、『動的平衡』など「生命とは何か」をわかりやすく解説した著作多数。ほかに『世界は分けてもわからない』『フェルメール光の王国』、近刊に文庫版『せいめいのはなし』。

松岡正剛 氏

受賞者の皆さんおめでとうございます。それにしても、アベノミクスを動かせるなというような顔ぶれですね。しかも沖縄やアフリカにおける活動の受賞まであり、日本における今日の問題がこの顔ぶれに集約しているという思いがつくづくしました。
もともと経済は社会に埋め込まれているものであって、経済の中に社会があるわけではないとポランニーは言ったわけですが、そういう経済人類学のような考え方は今あまり流行っていません。企業の社会文化活動は、本業とは別に、ソーシャルイノベーションやソーシャルキャピタルなどがCSRとともに重視されてきました。しかしソーシャルイノベーションやソーシャルキャピタルというと、その企業の利益活動や本業とうまく交差しなくなります。メセナ活動は年々難しいところに差しかかっているように思うのですが、それだけに、メセナや企業の文化活動を、国内さらには世界に向かって、日本の企業や財団などがどうアピールできるかが大変大きなテーマになってくると思います。
そもそも私たちには、不足とか過飽和、過剰、衰退、転移、忘却など、様々なことが起こります。各社の受賞理由の中には、衰退しつつある技能や忘却されつつある文化などを復活・再生させようとしている活動を評価したものもあります。例えば鶴屋南北、紅型というのは放っておいたら忘れてしまう、衰退してしまうものです。また、支援や救済もあり、日本工営はそういう図書提供の活動だったと思います。資源は今言ったような様々な動詞を持っていますが、企業活動はそれらを排除しないまでも効率的なベネフィットを獲得していくことははっきりしていて、それを四半期でどんどん詰めなければいけない。それは、メセナとは全然時計が違う活動だということになるわけです。だから企業メセナ協議会を含めて日本企業、社会全体は大きな時計をほかに1個も2個も作っていかなくてはいけないのだと思います。江戸の社会ではカセギ半分、ツトメ半分。稼いでなんぼやは半人前、自分のふるさとや地域社会に貢献することをツトメと言い、これで一人前なのですね。ぜひ大きな時計を作りながら新たな企業文化活動に、私たちも含めて勤めていかなくてはいけないなあと思っています。
受賞の方々は素晴らしい活動をされてこられました。おそらく社内でどのように活動が見られているか、大変辛いところや寂しいところ、我慢するところがあったと思います。各社でメセナ活動をどう呼ぶかは色々あっていいと思いますが、ぜひ企業の内部でもこれらの活動に再び光があたることを望んでいます。

【プロフィール】
編集工学研究所所長。1944年京都生まれ。工作舎設立、オブジェマガジン『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て現職。情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトに携わる。日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。著書『松岡正剛千夜千冊(全7巻+特別巻)』『知の編集工学』『日本という方法』『知の編集術』ほか多数。

茂手木潔子 氏

私は、日本の地域に伝わる芸能や音楽を、本質を大事にして受け継ぐために小さな活動を続けてきているのですが、その地域独自の豊かな文化や芸術は、地域で生活していると、あたりまえすぎて良さが見えてこないことも結構多いと思います。
その地域の固有の文化は、地域を一度出た人、あるいは外からやってきた人の目で見ると新たな発見があり、キラキラ輝いて見えることが多いのです。
ネットの普及で地域発信の情報も非常に多くなった現代ですが、古くから伝承する文化や伝統の現場からの発信は、伝統分野の人々にはまだまだ難しい作業です。
この発信力、そして彼らの活動の励ましと支援こそ、地球規模の、鳥瞰的な視野を持った企業だからこそ実現できることであると、私は考えています。そして、そこにこそメセナアワードの重要な役割があり、素晴らしさがあるのだ・・と体験した、私にとって大変刺激のある素敵な3年間でした。
ご受賞の皆様、本日はまことにおめでとうございました。皆様方のますますのご活躍と、企業メセナ協議会のご発展をお祈りいたします。

【プロフィール】
日本音楽研究。1949年山梨県笛吹市生まれ。東京藝術大学大学院修了。専門は音楽学。日本各地の伝統音楽研究・継承、公演企画を行う。現在、角兵衛獅子(新潟県)の囃子復元、E.S.モースコレクション日本音楽資料調査に取り組む。著書『おもちゃが奏でる日本の音』『酒を造る唄のはなし』等。日本大学芸術学部、聖徳大学音楽学部講師。

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