メセナ大賞1995
メセナ大賞
ジーベックホールを中心として行っている音文化啓蒙活動
活動内容
未来の音文化の実験室
音響機器メーカーTOA(株)は1989年に、神戸ポートアイランドの本社ビル竣工と同時に「音の情報発信基地」としてジーベックホールをオープンした。周囲の壁全面にスピーカーを埋め込み、多彩な照明やスクリーンなどを備えて、アーティストの実験精神を刺激するべくつくられている。貸ホールのほか、実験音楽、環境音(音楽)、サウンドインスタレーションを中心とした数々の主催イベントを積極的に開催している。これらの事業を自主運営するために、100%子会社の(株)ジーベックを設立し、企画、制作、運営のスタッフを本社から派遣している。
同社はこれらの活動をメセナと評価されたのは、「嬉しい誤算だ」という。こけら落としのブライアン・イーノのビデオ・インスタレーション以来、単なる音楽イベントではなく、これからの「音」のあり方を探る音空間の実験室としてユニークな企画を重ねてきたが、これらの活動は同社の経営理念である「音の持つ役割を追求することにより、顧客の期待する価値を実現する」にダイレクトに結びついていると考えてきたからだ。
活動の内容としては、①現代音楽やコンピューターを用いた音楽表現のための実験、音の役割を再発見するためのパフォーマンスやイベントの自主公演や支援活動 ②民族音楽、民族楽器の紹介やイベント活動 ③音の役割、音の重要性を、レクチャーと体験・実験で学ぶ「サウンド&アートワークショップ」の実施 ④音の役割を意識してもらうため「サウンドスケープ」への関心を高めるためのイベントやコンサートなどの実施など。
神戸独自の、いや、日本独自の、未来に向けての、音文化の発信基地として、今後の活動が期待されよう。
1995年1月の阪神大震災のため、ポートアイランドにあるジーベックホールは休業を余儀なくされていたが、6月末からホールを再開することができた。
評価ポイント
事業領域である「社会の音」を良くするためのツールのひとつとして設置された、自社技術を駆使した設備を持つ300人収容のフリースペース「ジーベックホール」は、人と音と空間の関係やこれからの音のあり方を考え、その成果に基づいて新しい音の世界を創り出す実験空間である。ここでは、単なるコンサートでなく、イベントでもない、ジャンルを超越した個性的な《時間芸術》が素直な形で紹介されている。若手、巨匠を問わず、さまざまな音楽家、特に実験的な活動を展開するアーティストが自由に思うままに活動する空間であり、このような独創的な催しが日常的に継続しているホールは、わが国ではほかに例がない。独自の理念をもって、興行的には成り立たない実験的、先進的音楽を積極的に取り上げてきたこのホールのユニークな活動が高く評価され、本年度の大賞に決定した。
企業プロフィール
本社所在地:兵庫県
業 種:電気機器製造販売
創立年:1934年
資本金:24億円
従業員数:910人
URL:https://www.toa.co.jp/mecenat/
(1995年時点)
審査委員特別賞
「モードのジャポニズム~キモノから生まれたゆとりの美~」展の開催など
活動内容
世界の服飾文化研究の発展に貢献
京都服飾文化研究財団は、公益のために服飾文化資料の収集・保存・研究をおこない、その成果を広く公開し、国内外の服飾文化の発展に寄与すべく、(株)ワコールによって1978年に設立された。これまでに収集した服飾資料・図書文献はともに1万点近くを数え、国内外での展覧会の開催、海外美術館への資料出展、定期的な研究誌の発行などを行ってきた。
これらの活動は、(株)ワコールからの恒常的な寄付・協賛と社員9名による資金・人材両面でのバックアップがあって継続が可能となっており、まさに(株)ワコールと財団との二人三脚の成果といえる。
日本の美術が19世紀後半から西欧美術に与えた影響に関する研究や展覧会は、絵画・工芸の分野では多くおこなわれてきたものの、服飾分野では注目されてこなかった。同財団では、西欧より収集した服飾資料に、日本独自のデザイン・着装方法等の影響が見られることに着目し、作品を通じてモード史におけるジャポニスムの検証を進めた。その成果が、1994年4月から2カ月間にわたって京都国立近代美術館で開催された「モードのジャポニスム ーキモノから生まれたゆとりの美―」展として結実したのである。
東西文化の相互性に新たな視点を切り開いたとして、国内外から高く評価された同展は、開催にあたって海外の美術館等より出展品を借用する必要があったが、各美術館から寄せられた高い関心によって、国際的な協力関係が実現した。同展と同時に開催された国際博物館会議コスチューム委員会・京都会議では、同財団がホスト役を果たし、服飾文化の国際交流の推進に大きな役割を演じた。ちなみに同展は来年、パリ・東京へ招聘されることが決定している。
評価ポイント
国内において服飾文化を歴史的・体系的に研究・公開している機関がきわめて少ないなか、京都服飾文化研究財団は、生活文化の一分野として認識されている服飾文化を学術的な研究対象として見直し、その成果を美術館で公開することによって、芸術文化の一分野としての認知度を高めたばかりでなく、その独創的な研究・企画内容によって世界の服飾文化の発展に貢献した。今回の審査対象となった京都国立近代美術館での「モードのジャポニスム」展は、日本の美意識が西欧の服づくりに与えた影響を世界で初めて実証し、国内外の服飾文化研究に新たな視点をもたらした。
財団の17年にわたる継続的な活動の集大成として高い評価を受け、今回の審査委員特別賞の授賞となった。
企業プロフィール
本社所在地:京都府
創立年:1978年
基本財産:16億6000万円
URL:https://www.kci.or.jp/
(1995年時点)
メセナ育成賞
「URBANART(アーバナート)」の開催
活動内容
若手・新人アーティストの発掘と育成に寄与
URBANARTは、つねに時代を見つめ、変化していく社会背景の中で、アートー筋の軌跡をつらぬいてきた。
1980年、イラストレーションが大衆レベルの視覚文化として存在感を表し始めた時期、「日本グラフィック展」(1980~ 1991)続いて「オブジェTOKYO展」(1985~ 1991)を開催し、80年代のアートシーンを切り拓く先駆的な役割を果たした。1990年代に入り、アートは既成の“グラフィック”や“オブジェ”といった枠組みでは捉えられないという認識で、先の二つの公募展を統合し、1992年「URBANART」をスタートさせている。都市文明の中で発生してくる表現を広く集めて、4回の開催で8,000点もの創作応募を数えた。
これらの経緯・実績から、日比野克彦・タナカノリユキ・谷口広樹・内藤こづえ・馬田純子・長島有里枝ら実力派スターが誕生している。才能発掘の機会均等と幅広い鑑賞の場を求めて、全国で〈エリア展〉を開催。また、ミラノ展覧会を開いたり、シンガポールで作品公募を行うなど、国境を越えた芸術交流をめざしている。さらにアーティストの育成・情報交換の場として“オークション”の企画と、つねに多角的な活動を推進している。
評価ポイント
「URBANART」は、URBAN=都市とART=芸術の合成語。このクリエイティブなネーミングでヴィジュアルアートの世界に、創作活動への支援体制を確立した公募展である。単なる門戸開放型ではなく、①パルコの全国ネットを活用した(応募の便宣さ)、②海外にまで広げた展覧会の開催(表現の場の提供)、③CDーROMによる完全な〈記録化〉など。その企画の独自性は従来のコンペティションとは一線を画するもので、つねに着実に“いま”をキャッチしているのが特色である。通算16年、23回の展覧会実施、総応募数50,000点。数多くの才能が輩出し、その優れた成績が評価され、今回の授賞になった。
企業プロフィール
本社所在地:東京都
業 種:小売業/不動産賃貸業
創立年:1953年
資本金:175億9400万円
従業員数:562人
URL:https://www.parco.co.jp/
(1995年時点)
メセナ企画賞
国際識字年記念・三菱IMPRESSION-GALLERY ~アジア子供アート・フェスティバル~の実施
活動内容
子供の絵日記からアジアを識る
アジア23の国と地域の、6~12歳の子供たちから「1作品7枚綴りの絵日記」を募集し、日本国内と参加各国で展示紹介するという活動。三菱広報委員会がアジア太平洋ユネスコ協会クラブ連盟と日本ユネスコ協会連盟の協力を得て、国連の制定した国際識字年にあたる1990年より実施している。1990から1994年までの5年間にアジア各地を3期に分けて作品を募集。それぞれの参加国・地域の選考を経て、東京での最終選考によって、グランプリ各1作品、各国優秀賞などを選び、各国のグランプリ受賞者を副賞として日本に招待し表彰した。優れた作品は「アジアの子供たちの絵日記展」として各地で開催、展示され、お国ぶり豊かな色彩やタッチで描かれた子供たちの作品は来場した数多くの人びとに感動を与えた。
1994年からは、さらなる発展・充実をめざして、この事業は継続・拡充され、2年に1回、日本を含む24の国と地域から1度に作品を募集・展示することになり、アジアのほぼすべての地域の作品と子供が一堂に会することになった。
評価ポイント
1枚の絵よりも絵日記ならば、心の中や日常生活を表現しやすく、また読む人にも理解しやすいのではないか、アジア各地の子供たちに絵日記をかいてもらい、そこに描かれた習慣、風俗、生活、夢、心をとおして、言葉も民族も国境も越えて、子供たちとふれあい、アジアを識ることができるのではないかとの考えから始められた。応募された優秀作品は、「アジアの子供たちの絵日記展」として日本各地および参加各国で展示されるだけでなく、参加国の識字教材をつくり、識字教育にも活用されている。また、来日したグランプリ受賞の子供たちには日本や日本人を正しく理解してもらう機会となり、子供どうしの国境・文化・言葉を越えたふれあいの場となっている。このように、国際的、芸術的、教育的視野に立つ多角的な優れた企画が高く評価され、今回の受賞となった。
団体プロフィール
所在地 東京都
設立年 1964年
URL:https://www.mitsubishi.com/ja/profile/csr/
(1995年時点)
メセナ国際賞
「アジアの現代文芸」プログラムの翻訳出版
活動内容
文学で生きたアジア紹介
この財団は、1985年大同生命保険相互会社の創業80周年を記念して、わが国と諸外国との人と文化の交流を通じ、国際的相互理解の促進を図ることを目的に設立された。
わが国はアジアの一員でありながら、これまでアジア地域の文化や人々の営みに対する認識は十分でなかったといえる。そこで、この「アジア現代文芸」プログラムは、「文芸は民族の心を浮き彫りにし、それを生んだ国々の姿を映すたしかな鏡である」との考えにもとづいて、めざましく発展するアジア諸国の今日の姿を小説、詩歌、随筆、戯曲、評論等々の紹介を通じて、国際理解と身近な交流の促進に資することを目的に財団設立と同時に始められた。翻訳出版した7か国の27冊の作品は、大学や公立図書館に寄贈してきたが、その延べ冊数は5万9千冊にのぼる。また、1989年からは日本の文芸を世界に発信するプログラムも始め、タイ語やウルドゥ語の翻訳本も出版した。
アジア諸国の文芸作品は商業ベースに乗りにくいこともあって出版例は少なく、従って翻訳者が育ちにくい状況にある。このプログラムは、そうした人々に出版の機会を提供することで、併せて人材の育成にも寄与するところがあった。
評価ポイント
アジアとの国際理解を深めようと、そこに住む民族の考え方、生き方を表わしたアジア諸国の現代文芸作品を翻訳し出版している。これまでインド、パキスタン、ミャンマー、タイ、ラオス、インドネシア、マレーシアの7か国の作品27冊を出版し、全国の大学、公立図書館に寄贈してきた。
アジアの文芸作品は欧米の文学と比較して読者数が限られており商業ベースに乗りにくいため、大手の出版社が翻訳出版を試みることは少なく、大同生命の財団の地道な活動は意義深い。「アジアの時代」を迎えて、その国際性が高く評価され、授賞となった。
団体プロフィール
本社所在地:大阪府
創立年:1985年
基本財産:15億500万円
URL:https://daido-life-fd.or.jp/
(1995年時点)
メセナ奨励賞
「ひろしま平和能楽祭」「青少年のための能楽鑑賞教室」の開催
活動内容
能楽の鑑賞機会の提供と観客の育成
「アマチュアによる発表会はあるけれど、プロによる演能を観る機会がない。」
1991年、広島市に本格的な能舞台が完成したことを機に、広島市能楽愛好者連盟を中心とした広島市民の要望が高まり、広島信用金庫が推進母体となって「ひろしま平和能楽祭実行委員会」を組織。同信用金庫内に事務局を設置し、8名の職員が中心となって企画・運営のすべてを手づくりでおこなっている。毎年、観世・喜多・金剛・宝生の各流派より出演者を迎え、質の高い演能を無料で提供しており、過去5年間に日本・アジア各国から招待した観客は総計4,000名にのぼる。また、若い人たちにも能楽に親しんでもらいたい、と「青少年のための能楽鑑賞教室」も開始。広島市および近郊の高校生を、授業の一環として無料招待し、解説と実演を通して能楽の面白さを伝える努力をつづけている。継続こそ力なり、と今年3月には「財団法人ひろしん文化財団」を設立。市民の声を発端に始められた同信用金庫の能楽振興は、資金面での安定も確保され、ますます本格化しそうである。
評価ポイント
人材や予算、スペースなどの制限から、どの都市でも第一級の能を定期的に鑑賞する機会があるわけではない。広島市民の声を拾いあげ、能楽祭を誕生させた広島信用金庫の活動は、地域の芸術文化のニーズに応えたものとして意義深い。また鑑賞の機会を青少年にも拡げたことは、彼らの古典に対する理解を促進し、若い感性を育むうえで評価に値する。古典芸能の振興における貢献度の高さ、地元の芸術文化の質の向上にもたらした功績の大きさが高く評価され、メセナ奨励賞の受賞となった。
企業プロフィール
本社所在地:広島県
業 種:金融業
創立年:1945年
資本金:26億6175万円
従業員数:1235人
URL:https://www.hiroshin.co.jp/corporate/local/bunka.html
(1995年時点)
メセナ地域賞
稚内市での札幌交響楽団定期公演の全面的支援など
活動内容
定期公演の実現が地域住民の音楽ファン育成に寄与
稚内市での札響定期公演は1986年以来毎年6月に開催され、1995年で10周年を迎えた。この定期公演を実現させているのは、稚内信用金庫を軸とした地元の水産加工企業や建設会社など15社からなる「稚内音楽文化協議会」である。
きっかけは、1984年の稚内総合文化センターのこけら落としで、札幌交響楽団と300人の市民による「第九」の大合唱がたいへんな盛り上がりを見せ、大きな反響があった折、「1度きりで終わらせず、札響の定期公演の機会をつくりたい」と動いたこと。同信用金庫は協議会創設時から理事長が会長をつとめ、現在まで継続して事務局を担当するなど、活動の中心となり、積極的に運営にあたっている。3000円の入場料、中学校招待や小中学生1日音楽教室の開催なども効果をうみ、住民のクラシック音楽に対する興味や関心は膨らみ入場者は年々増えている。また、同信用金庫は他にも同協議会を通じてPMFなど音楽ヘの支援をしている。
同信用金庫は、1993年北海道が創設した第1回「北海道地域文化選奨特別賞」および「企業市民文化賞」を受賞した。
評価ポイント
同信用金庫は、日本最北端にある人口4万6千人の稚内市内で、1986年札幌交響楽団(札響)の定期公演を実現させた。札響が札幌市内以外のところで定期公演を行ったのはこの時が初めてで、同公演以後10年にわたって継続されてきた。毎年、宗谷管内の中学生を学校単位で招待し、定期公演が定着するにつれて、近年は入場者もコンスタントに千人を越えるようになった。また、学校の吹奏楽団や音楽教室に通う子どもたちが10年で倍増するなど、地域への波及効果はきわめて大きい。「稚内音楽文化協議会」という地元企業を中心に継続性のある独自な支援体制がつくられ、その活動の原動力となった同信用金庫の大きな役割と、地域文化育成に寄与したその功績が高く評価され、今回の授賞となった。
企業プロフィール
本社所在地:北海道
業 種:信用金庫
創立年:1945年
資本金:7億2150万円
従業員数:274人
URL:https://www.wakashin.co.jp/region/kouken/
(1995年時点)
メセナ普及賞
地域住民のためのコンサートの共同主催
活動内容
地方の文化ホールの活用と演奏会のノウハウを提供する
同文化財団は1988年、三井海上火災保険株式会社(当時は大正海上火災)の創立70周年を記念して、音楽、郷土芸能などの分野において地域の文化振興、及び国際交流の促進を図ることを目的に設立された。
各地の公立文化ホールにわが国の著名なクラシック音楽の演奏家(独唱から室内楽まで)を派遣し、都道府県ならびに市町村と共同主催により、質の高いコンサートを提供している。開催地については毎年10月末締切で都道府県の文化担当局に案内して、次年度の開催希望市町村を公募し、年間30市町村で開催している。
財団は音楽家の出演料、交通費、宿泊料を負担し、入場料はできるだけ低く押え現地主催者がポスターやプログラムを作成する費用などに当てている。また、コンサート運営の手引きを作成し、ポスターやプログラムの作り方、演奏家の受け入れ方、ステージ上の準備、アナウンスなど自主的な演奏会を開く際に役立つノウハウを伝えるなど、「音楽を与える人材」作りに貢献してきた。さらに、コンサート終了後、演奏家を囲んで交流会をおこなって、アーティストと文化ホール、地元の支援者との結びつきを強める一助とするようアドバイスしている。
評価ポイント
近年全国には多数公共ホールが建設されているが、文化の拠点としての役割を十分に果してない所も多い。当文化財団は、地域における文化の振興を支援するため地方の公共ホールに著名な演奏家を派遣し、都道府県ならびに市町村と共同主催により地域住民のために質の高いコンサートを提供している。
このコンサートの特徴は、演奏会を準備し開催するまでのノウハウを伝える点で、地域住民が公共ホールで手作りの演奏会を開けるように支援している。このように地域の文化普及に貢献していることが高く評価されメセナ普及賞の受賞となった。
団体プロフィール
本社所在地:東京都
創立年:1988年
基本財産:6億5562万円
URL:https://www.ms-ins-bunkazaidan.or.jp/
(1995年時点)