メセナアワード

メセナ大賞1998

メセナ大賞

朝倉不動産株式会社

代官山ヒルサイドテラスにおける文化活動

活動内容

代官山ヒルサイドテラスは、1967年、朝倉家が代々所有してきた東京・代官山に、集合住居計画として構想された。建築家・槙文彦が中心となって手掛けたこの街区は、「モダニズムと都市建築」、「建築と自然・地形・周辺環境との関係」、「文化のインキュベーターとしての建築」など、その建築を中心に国を越えて語られ、高い評価を受けてきた。また、ヒルサイドフォーラム、ヒルサイドプラザ、ヒルサイドギャラリーなどの豊かなパブリックスペースを活かし、建築・美術・音楽を中心とした文化イベントを開催することで、新しい都市文化の発信に努めてきた。
このスペースを管理・運営する朝倉不動産は朝倉徳道、健吾兄弟が経営している。オーナー自らがこの町に長く住み続けていくために、町に寄せるこだわり、楽しさ、美しさを求めつつ、ゆるやかに開発を進めてきた。その成果は「代官山」のテイストともなって現れている。
代官山ヒルサイドテラスにおける文化イベントの企画には、槙文彦の他、元倉真琴(建築家)、岩橋謹次(アスピ代表)、北川フラム(アートフロントギャラリー代表)の各氏がボランティア的なブレーンとして参画。単独主催イベントとして「代官山アートフェア」、「ヒルサイドプラザコンサート」などを行うほか、共催事業も多数実施している。とりわけ「SDレビュー展」(鹿島出版会編集部主催)は建築・環境・インテリアのドローイングと模型による展覧会で、すでに16回を数え、新進気鋭の建築家の登竜門として高い評価を受けている。
1997年には最初の設計を依頼してから30周年を迎え、ブルガリア現代美術展、アントニオ・ガウディ展、「場所の状態:フランス文化省パブリックアートプロジェクトの記録」日本展など一連の記念文化事業を、各国の大使館や文化人などにより結成された実行委員会との共同で実施した。新しい都市景観・都市設計の提言の時代を経て、ハード面の計画もほぼ終了した現在、積極的なソフト展開を図り始めた代官山ヒルサイドテラスは「アーバンビレッジ」として、いよいよ成熟期を迎えつつある。

代官山ヒルサイドテラス

代官山ヒルサイドテラス

アントニオ・ガウディ展

アントニオ・ガウディ展

企業プロフィール

本社所在地:東京都
創立年:1971年
資本金:1,000万円
従業員数:14人
業種:不動産賃貸・管理
URL:http://www.hillsideterrace.com/
(1998年6月末現在)

メセナ育成賞

大川創業株式会社

関西フィルハーモニー管弦楽団への支援活動

活動内容

大阪・JR住道駅前のショッピングセンターをはじめ、ボウリング場、文化教室などを経営している大川創業(株)。同社の大川進一郎社長は、自らクラリネットを演奏するなど大変な音楽愛好家で知られ、1981年に関西フィルハーモニー管弦楽団(以下「関西フィル」)が発足した当初から同楽団の代表職を務めている。
発足以来、同社では関西フィルの累積赤字の補てんと資金調達のため年間3,000万円以上にも上る資金援助を行い、その累計額は1997年12月末で3億3,900万円を超えた。
この資金援助だけにとどまらず、同社は関西フィルの窓口として外注演奏会の取り次ぎ、自主企画コンサートのプロデュースなど諸業務をサポートするほか、ピアノ、コントラバスをはじめとする大型楽器の無償貸与、楽団員への寮の提供など、有形無形の支援を惜しまない。寮として提供している元社員女子寮だった古い建物に、楽団員は家賃5,000円で住むことができ、多い時には7、8人が入居。練習後、飲みに行った楽団員が寮で飲み直し、そこで音楽談義に花を咲かせることもあるという。また、1986年から1993年までは同社の施設を練習場として提供しており、そのスペースは現在、関西フィルが貸室としてテナントを入れ、年間5,000万円近い収益を上げている。これなども実質、同社の資金援助といえよう。
財政面で厳しい運営を強いられているオーケストラ界で、関西フィルが存続しているのも、同社が援助を継続してきた成果であるといえ、60数名の楽団員の演奏技能向上と生活を支えてきた実績は、これまでに大阪府知事賞、大阪市長賞を受賞するなど、高く評価されてきている。
同社では「地域社会に夢とロマンを」をモットーにさらなる躍進を期し、住道駅前のショッピングセンターを「関西オペラシティ」として全面的にリニューアルする計画を推し進めている。ここにバルセロナのリセウ劇場をモデルとした約1,500名収容のオペラハウスを設立する予定で、同社の音楽にかける情熱は高まる一方である。

関西フィルを振る大川社長

関西フィルを振る大川社長

寮内にて

寮内にて

企業プロフィール

本社所在地:大阪府
創立年:1971年
資本金:7,800万円
従業員数:46人
業種:不動産賃貸・管理
URL:http://ohkawa-sogyo.co.jp/
(1998年6月末現在)

メセナ企画賞

九州電力株式会社

若手工芸家の国内外派遣制度

活動内容

九州は伝統工芸の宝庫であるが、後継者の確保・育成などさまざまな問題を抱えている。九州電力(株)は、1993年に地域・文化活動委員会を設置し、地域文化全般にわたって積極的な支援を行うことを定めた。これに基づき、同社の地域振興室においても九州の伝統工芸の支援について検討を進め、地元の若手工芸家を国内外に派遣して研修させることで九州の貴重な文化を支援しようと、1996年に若手工芸家国内外派遣制度を創設した。
派遣対象は九州に5年以上在住の45歳以下の工芸家で、技術習得について基礎的素養があり、専門分野で創作活動の実績がある者。対象者の募集は、九州の伝統的工芸品産地組合などを通して行われ、地元の有識者と専門家からなる選考委員会に諮り、年間で5名程度選出する。研修者は順次国内外に派遣され、国内派遣者150万円、国外派遣者300万円を限度とした研修費が支給される。この制度のもと、1997年度は国内2名・国外3名の研修者が派遣された。
研修者の一人、博多織の米川恒一郎は中国の蘇州絲綢博物館で博多織のもとになったと考えられている丁橋織機の製織技術を習得し、新しい博多織のアイデンティティを確立した。また、三川内焼の山口祥治はマヨルカ焼で有名なイタリアのシチリア島で「プレゼピオ」と呼ばれる置物の制作技術を修得し、帰国後に個展を開催している。そのほか、1996年度の研修者である小石原焼の太田剛速はイギリスのエクセターで日本の陶芸が与えた影響を学び、続いてスペインのタラベラでは陶芸の技術を習得した。この研修の様子は地元のメディアで何度も紹介され、大きな関心を集めた。こうした現地での研修の成果については、同社によってカラー写真入りの報告書としてまとめられている。
単に助成金を与えるのではなく、若手工芸家に自らの意思で他の技法やシステムを学ばせようとする支援スタイルは、閉塞しがちな伝統工芸の世界に新風を吹きこんだ。活動を開始して3年目とまだ日は浅いが、この制度により、新しい伝統が築かれていくことが大いに期待される。

企業プロフィール

本社所在地:福岡県
創立年:1951年
資本金:2,373億400万円
従業員数:14,572人
業種:電気事業
URL:https://www.kyuden.co.jp/
(1998年6月末現在)

メセナ国際賞

株式会社ベネッセコーポレーション

直島文化村ベネッセハウスの運営

活動内容

瀬戸内海に浮かぶ直島。(株)ベネッセコーポレーションの企業哲学である「”Banesse”=よく生きる」を体現する空間として、1989年に直島国際キャンプ場を手始めにオープンした直島文化村は島の南端に位置している。 1992年、直島文化村に開館したベネッセハウスは「自然・アート・建築の共生」というコンセプトのもとに、建築家・安藤忠雄が手掛けた”美術館の中に泊まるホテル”。直島の豊かな自然に見事に融合したこの建物の内外には、デビッド・ホックニー、ジャスパー・ジョーンズ、フランク・ステラ、草間彌生など、同社が収集してきたコンテンポラリーアートを中心とする作品が展示されており、宿泊客は無論、一般客も静かに心ゆくまでアートと向き合うことができる。
また、同社はここで、コミッションワーク方式による作品収集とその公開をも行っている。これは、美術作家を招き、設置場所も自身で選ばせ、その場所に合ったオリジナルの作品を制作してもらうというもので、これまでこの方式でヤニス・クネリス、リチャード・ロング、安田侃らの作品を収集してきた。
1995年からはヴェニス・ビエンナーレへの協賛も開始。「トランスカルチャー展」にて同社は「ベネッセ賞」を提供し、その第1回の受賞者となったアーティスト、蔡國強にはコミッションワーク方式による作品制作を依頼。蔡は屋外に「文化大混浴 直島のためのプロジェクト」という作品を完成させた。1997年の同ビエンナーレでもアレキサンドロス・プシフゥーリスにベネッセ賞を贈り、直島での作品制作も依頼している。
1998年には、直島文化村の敷地から一歩踏み出し、島で代々暮らしてきた人々の居住地区にある古い民家を改修・保存し、コミッションワーク方式で作品制作を行う「直島・家プロジェクト」を開始。3月に、一軒目の「角屋」を舞台に宮島達男による作品が完成。これまでアートに触れたことのない町の人々をも巻きこんだこの作品は好評を博した。ベネッセハウスを軸とした同社の活動は、国内外の美術界に静かな波紋を投じつづけている。

リチャード・ロング《直島の流木の円》制作風景 (c)山本糾

リチャード・ロング《直島の流木の円》制作風景 (c)山本糾

企業プロフィール

本社所在地:岡山県
創立年:1955年
資本金:136億円
従業員数:1,944人
業種:教育出版
URL:https://www.benesse-hd.co.jp/ja/about/naoshima.html
(1998年6月末現在)

メセナ奨励賞

株式会社両国シティコア

シアターXカイの運営

活動内容

東京・JR両国駅のすぐそばにある両国シティコアは、東京都の土地信託事業を受託した住友、安田、東洋の各信託銀行が建設した複合ビル施設。その維持管理を担っているのが3信託銀行が出資し設立された(株)両国シティコアである。オフィス棟、住宅棟、店舗棟などからなるビルの、1、2階部分に客席数300の小劇場・シアターXカイは内設されている。「カイ」はXのギリシャ語読み。さまざまな文化の交流を意図して名づけられた。
1992年のオープン以前より、エディタープロダクツの上田美佐子氏に劇場運営を委託。氏は中欧の小国でありながら第2次大戦後、世界を芸術的に席巻したポーランド演劇に着目して劇場運営を展開、昨年5周年を迎えた。上田氏の言うポーランド演劇の特徴とは「特別な宣伝もなく、劇場に予告してあるだけで客席が満席になるという、いいものを嗅ぎつける観客レベルの高さ」、「<今、どう生きるべきか>を考えるために劇場へ行くという演劇観」、「強烈に放射される俳優たちの集中力によるメンタルなエネルギーのライブ感」、「巨匠、中堅、若手を問わず、すべての演出家が常に<前衛的な試み>に挑戦していること」というもので、その目指す方向が劇場のカラーとなっている。
シアターXはオープニング企画として3カ月にわたりポーランドの前衛作家ヴィトカッツイの作品を紹介しつづけたほか、日本の近代戯曲の発掘、つかこうへい作・演出「熱海殺人事件」の8カ月間ロングラン上演など話題には事欠かない。特に1997年にはオーディションによって選ばれた若手俳優を、故・郡司正勝の作・演出「歩く」をもってポーランドへ連れて行き、帰国後、同国の俳優兼演出家、ヤン・ペシェク演出のもと「王女イヴォナ」を上演するという徹底した俳優養成を行った。ペシェクには1992年以来2度にわたり「俳優修業」と題したワークショップを依頼してきたが、その3回目にあたった「王女イヴォナ」の上演は高い評価を受け、優れた翻訳劇の上演に贈られる「湯浅芳子賞」も受賞した。シアターXが日本の演劇界にまいてきた種は、徐々に芽を出し始めている。

シアターX客席

シアターX客席

企業プロフィール

本社所在地:東京都
創立年:1992年
資本金:2,000万円
従業員数:9人
業種:不動産管理・運営
(1998年6月末現在)

メセナ地域賞

財団法人たましん地域文化財団

多摩地域における文化活動

活動内容

(財)たましん地域文化財団は、母体企業である多摩中央信用金庫(たましん)の多摩文化資料室の活動を継承し、発展させるべく、1991年に設立された。以来、『多摩のあゆみ』の発行、たましんギャラリー、たましん歴史・美術館、御岳美術館の運営など、東京・多摩地域における文化活動を意欲的に展開している。
1975年の創刊以来、1度も休むことなく発行してきた季刊誌『多摩のあゆみ』は、1998年の春号で90号となった。「誰もが情報提供者になれて、誰もが読める」というスタンスで編集している同誌は「お茶の間で話題にできる郷土史の雑誌」として、多摩をはじめ、全国の読者から親しまれている。多摩というエリアで区切られた郷土誌はほかにはなく、貴重な地域資料となっている。毎号16,000部発行され、多摩各地の公共図書館、資料館、自治体関連部署などに配布するほか、支店店頭でも無料で配られている。同誌は民間の研究家や学生にとっても得がたい発表の場となっており、執筆者はこれまでに600人を超えた。
美術分野では、自社施設を活用した活動を展開している。立川市の本店9階にあるたましんギャラリーは、1974年の開設時から多摩在住・在勤・出身の美術作家に無償で発表の場を提供してきた。出展作家は500人を超え、収蔵作品は3,500点にも及ぶ。また、国立支店の6階にあるたましん歴史・美術館では、多摩に関連した美術展や歴史展、所蔵品による企画展を年4~5回行っている。1997年度には、「田中清型染版画展」「多摩の名所案内-地誌の挿し絵を通して-」などを開催した。1993年には同館の分館として青梅市に御岳美術館を開館。多摩を代表する画家・倉田三郎の「世界の旅」シリーズをはじめ、彫刻家・萩原守衛、画家・浅井忠らの作品を展示している。ほかにも、『多摩郷土文庫』『多摩歴史叢書』の刊行、多摩の歴史・美術などに関する講演会の開催、多摩の美術活動や民俗芸能に対する助成、国立支店の5階にある歴史資料室の公開・運営など、同財団の多岐にわたる活動は、多摩の地域文化の形成に大きく貢献している。

団体プロフィール

財団所在地:東京都
創立年:1991年
基本財産:8億8,591万円
従業員数:17人
URL:https://www.tamashin.or.jp/
(1998年6月末現在)

メセナ普及賞

キリンビール株式会社

キリンプラザ大阪の運営

活動内容

大阪ミナミにあるキリンプラザ大阪は、1987年、キリンビール(株)が新しい文化の情報発信基地を目指して建設した複合文化ビルである。建築家・高松伸設計による同ビルは、建築学会賞を受賞したユニークな建物としても知られている。同社はここをメセナ活動の拠点として、「若手芸術家の支援」「優れた芸術の多くの人々への提供」という2本の柱を軸に、現代美術・映像・パフォーマンス・音楽など、多岐のジャンルにわたる展覧会や公演を開催している。
運営には「コミッティ」と呼ばれる4名の有識者(立川直樹[プロデューサー]、三澤憲司[彫刻家]、椹木野衣[美術評論家]、大島早紀子[演出・振付家])の協力のもと、同社の広報部社会貢献室の社員5名があたっている。広報活動は社員自らがメディア媒体を訪問し、展覧会設営時の作品展示やライティングなども、アーティストとともに行っている。このように単なる場所や資金の提供にとどまらず、作家と協同して展覧会を完成させることに重点を置いたメセナ活動は、支援を受けた作家たちからも高く評価されている。
開館10周年を迎えた1997年度は、横尾忠則の「瀧狂」や「篠山紀信asカメラ小僧」で全館を使用した特色ある展示方法を打ち出した。特に篠山紀信展における4m角の大型パネルに引き伸ばした写真や、階段まで埋め尽くした各種週刊誌の表紙写真の展示は、各方面から大きな反響を呼んだ。
開館以来、展覧会、公演等の開催数は220回を超えた。プログラムも「大林宣彦の世界」「市川雷蔵映画祭」「中国現代美術展」「東京ディズニーランドフェア」「H・アール・カオス公演」「クリスマスという名のジャズクラブ」など、バラエティに富んでおり、幅広い観客層から支持を得ている。
また、「アートタンクシリーズ」と銘打った個展も毎年2~3本開催し、作品発表の場も少ない若手芸術家の支援にも積極的に取り組み続けている。

アートタンクvol.18 長尾浩幸展

アートタンクvol.18 長尾浩幸展

企業プロフィール

本社所在地:東京都
創立年:1907年
資本金:1,020億4,579万円
従業員数:8,128人
業種:食品
URL:https://www.kirinholdings.com/jp/
(1997年12月末現在)

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