メセナアワード2008
[メセナ大賞部門]メセナ大賞
~美を結ぶ。美をひらく。~ サントリー美術館の運営と活動
活動内容
サントリー美術館は1961年、同社の創業60周年を記念して、東京・丸の内に開設された。「生活の中の美」を基本理念に掲げ、日本人が生活の中で愛でてきた器や調度を収集。国宝1件、重要文化財12件をはじめ、絵画、漆工、陶磁、金工、染織、ガラスなど多岐にわたるコレクション約3,000件を誇る。
1975年には赤坂見附のサントリービルに移転、2004年に一時休館するまで303回の自主企画展を開催してきた。「三十六歌仙絵―佐竹本を中心に」「光悦と宗達」など伝統美術の展覧会が多いが、「旅」シリーズや夏の恒例となったガラス展、サントリーホール創設を記念した音楽文化展(83~92年)、現代美術を対象とした「サントリー美術館大賞」展(88~98年)など、独自で多様なテーマの展覧会を実施。さらに国内外の館外展にも力を入れ、同館コレクションを通じて日本の伝統美を紹介してきた。
2007年春、六本木の東京ミッドタウンに移転・開館。建築家・隈研吾による設計で「都市の居間(リビング)」をコンセプトに、伝統的な素材と現代の技術を取り入れた空間が誕生した。展示面積を約1,000㎡と倍増し、カフェやショップ、茶室、ホールなども併設。新たなミュージアムメッセージ「美を結ぶ。美をひらく。」のもと、さまざまな美術を介して新たな発見や感動を生む場をめざして活動を展開している。
従来にも増して話題の展覧会を次々と開催するほか、中学生以下は入場無料とし、エデュケーションプログラムにも積極的に取り組む。また、近隣の国立新美術館、森美術館とは「六本木アート・トライアングル」と称して、情報発信や展覧会企画での連携を進めている。
古今東西の美を結び、多くの人にとって美が開かれた場となるよう、活動のいっそうの充実が期待されている。
評価ポイント
日本独自の美意識に着目し、確固たる理念に基く美術館運営を続けてきた。
長年の実績を踏まえ、よりダイナミックでグローバルな展開をしている。
企業プロフィール
本社所在地:大阪府大阪市
設立年:1899年
資本金:300億円
従業員数:約4,300人
業種:食料品
URL:http://www.suntory.co.jp/sma/
(2008年3月現在)
受賞スピーチ
利益三分主義の考え方のもと、50年近い歴史を刻んできた
[メセナ大賞部門]地域文化支援賞
「伊予銀行地域文化活動助成制度」による草の根文化支援
活動内容
愛媛県を中心に瀬戸内圏域を営業基盤とする伊予銀行は、1991年の創立50周年を機に新たな企業理念を策定。「潤いと活力ある地域の明日を創る」と定め、文化面でも積極的な地域貢献を行おうと、翌92年に「地域文化活動助成制度」を創設した。
本制度でいう「地域文化活動」は、専門家が取り組むものだけではなく、住民参加型の「草の根」文化まで捉えているのが特色である。分野も幅広く、郷土芸能、創作芸能、郷土史、音楽、美術、演劇、文芸、国際交流、生活文化、自然科学までを含み、特に、各地域に伝承する多彩な郷土芸能を発掘してきた。
年2回、県内118店舗を窓口に応募を受け付け、支店長を中心に営業エリア内の文化活動に関する情報を収集。本店広報文化室に推薦し、「伊予銀行文化振興顧問団」の審議を経て助成先を決定する。毎年、約50団体に計800~1,000万円の助成を行っており、2008年春の第33回までに724件、総額1億3,844万円の助成金を贈呈してきた。助成金の使途は定めておらず、公演や展覧会のほか、衣装・楽器の修復などにも充てることができる。ただし、個人の余暇活動は対象外、また原則として10年以上継続して活動している団体を支援することとしている。
この制度を通じて、市町村独自の獅子舞や踊り、祭りが浮き彫りになり、保存会の活動を継承する動きも出てきた。これら貴重な活動を周知しようと、5年ごとに、助成先を紹介する冊子『ふるさとのちからこぶ』を発行。これまでに655団体を掲載し、地域文化の高揚をはかってきた。さらに同行ホームページでも郷土芸能を中心に、いつどのような催しがあるかを案内している。
地域とともに生きる銀行として、地元の文化を大切にし勇気づける。きめ細かな支援活動が「愛媛の文化」を蓄積し、情報の発信と交流にも貢献してきたのである。
評価ポイント
「草の根文化」支援ながら、質の高い貴重な活動を発掘している。
各種媒体を通じて助成先の情報を蓄積・発信し、助成制度の「見える」化をはかっている。
企業プロフィール
本社所在地:愛媛県松山市
創業年:1878年
資本金:209億4,800万円
従業員数:3,637人
業種:銀行
URL:https://www.iyobank.co.jp/about/csr/culture/bunka/
(2008年9月現在)
受賞スピーチ
文化力は経済力のもとであるというスタンスで尽くしたい
[メセナ大賞部門]たたかう劇場賞
王子小劇場の運営と、若手劇団への支援
活動内容
東京・北区、王子駅前の商店街にある「王子小劇場」は、1998年、佐藤電機が本社ビルを建てる際に地下に設けた100席の劇場だ。現社長の父・佐藤佐吉氏の頃から商いを続けてきた会社として、地域に開かれた場を持ちたいと考えてのことである。北区つかこうへい劇団による柿落とし以来、「明日の演劇を少しよくするために、未来の演劇を豊かにするために」を掲げて運営している。
年間約45演目を上演する劇場に空きはない。若手劇団の利用が多いが、劇場としての性格と保つため、スタッフがあらかじめ公演を見て貸し出しを判断する。利用者には印刷機を格安で提供したり、同社が管理するビルの遊休フロアを稽古場として貸与するなど支援を惜しまない。
年末には、「佐藤佐吉賞」を実施。同劇場で一年間上演した作品を対象に、優秀作品、演出、主演・助演の男優・女優など12部門で表彰する。また2004年からは「佐藤佐吉演劇祭」を隔年で開催。劇場が薦める8~10団体を一挙に上演する祭典で、外部スポンサーがついて参加作品を表彰する仕組みも設ける。さらに、作品をすべて観た人たちに15万円を等分する「キャッシュバック制度」も採り入れている。
ほかにも、優れた新作戯曲には劇場を一週間無料貸与したり、06年実施の「王子トリビュート」では、中堅の劇作家の作品をプロデュース公演。戯曲の大切さに注目する企画にも取り組む。
一方、地元に根ざした劇場として、毎夏、「王子落語会」を地元商工会等と共催したり、北区の「コミュニティラジオ・ききたくなるまち」に「王子小劇場ラジオ」を設け、情報を発信している。
王子に小さな劇場ができて10年。斬新でおもしろい劇団がデビューする場として、演劇界からの注目度はさらに高まっている。
評価ポイント
地域の文化拠点として、創意工夫に満ちた運営をしている。
民間の劇場としての自由度があり、実験的な若手劇団を次々と輩出している。
企業プロフィール
本社所在地:東京都北区
設立年:1946年
資本金:4,000万円
従業員数:26人
業種:卸売
URL:http://www.en-geki.com/
(2008年3月現在)
受賞スピーチ
地域に根ざし、中小企業の小さな活動に光を当てていただいた
[メセナ大賞部門]伝統技能継承賞
竹中大工道具館での交流・体験重視型活動
活動内容
神戸市中央区中山手、代々神社仏閣の棟梁であった竹中藤右衛門が竹中工務店を創立した地である。ここに1984年、創立85周年を記念して、竹中大工道具館は開設された。古くからの技を伝え「匠の精神」を受け継ぐ場にしたいと、約2万4,000点の大工道具を所蔵。89年に財団法人化、90年には登録博物館となり、大工道具の収集・保存、展示と学術研究に努めてきた。
地下1階・地上3階建て、展示面積437㎡と規模は大きくないが、展示内容は「大工道具」を手がかりに時代と地域を越えて奥深い。原始時代の石斧から、寺院建築が始まった飛鳥・奈良、大陸から鋸が伝わった室町、建築の多様化が進んだ江戸、そして現代にいたるまで、大工道具の変遷を系統的に辿る。日本の建築史を背景に、各時代を代表する建築物を絵巻物などで紹介し、どのような道具でつくられたのかを考察した復元品と実物を常設展示。実物の道具は、技能員や熟練者に日頃から研いでもらい、いつでも使える状態を保って見せている。
またテーマを絞った企画展も開催。同館だけでなく、竹中工務店東京本店にあるギャラリーエークワッドでも年1回行い、毎回必ず、セミナーと実演、子ども体験教室を開いている。「錺(かざり)金具」では彫金、「鉋(かんな)の世界」は薄削りというように職人の技に触れ、体験してもらう試みだ。同館では、こうした機会をさらに広げようと、学校への出張授業や、他機関が催す体験講座などにも積極的に取り組んでいる。
ほかにも、定例のセミナーや講演会、ミニ企画展等を開催し、幅広い層の関心を集める。研究紀要も毎年発行し、名工の技をビデオに記録するなど真摯な博物館活動で、建築の研究者だけでなく現場の棟梁や職人からの信頼も厚い。
大工道具は使うほどに消耗する。しかし、その技と心は竹中大工道具館を通じて継承されていく。
評価ポイント
企業博物館の先駆けであり、幅広い活動を着実に展開してきた。
建設会社の責務として、貴重な大工道具と技術を時代に継承しようとする姿勢が高く評価できる。
団体プロフィール
財団所在地:兵庫県神戸市
設立年:1989年
正味財産:28億256万円
職員数:10人
業種:財団
URL:http://dougukan.jp/
(2007年12月現在)
受賞スピーチ
小さな博物館から、匠の精神、技を後世へ伝えていきたい
[メセナ大賞部門]音楽文化普及賞
「トヨタコミュニティコンサート」~アマチュアオーケストラによる訪問コンサート~
活動内容
「トヨタコミュニティコンサート」(TCC)は、トヨタ自動車と全国の販売会社グループが、日本アマチュアオーケストラ連盟と連携して取り組むクラシックコンサートである。1981年に茨城交響楽団と第1回公演を開催して以来、「音楽を通じて地域文化の振興に貢献する」を目的として、27年にわたり活動を継続。これまでに44都道府県・137市町村で計1,229公演を行い、延べ98万6,000人を超える来場者を迎えてきた。
現在は3つの方式を設けて、全国のアマチュアオーケストラからの企画提案を募る。ひとつは「市民参加型コンサート」で、年数公演を共同開催。プロの指揮者やソリストとの共演により、通常は取り組めない大曲やオペラなどに挑戦するもので、公開リハーサルやプレ公演などの工夫が求められる。また「招待コンサート」では、アマオケ主催の公演で会場の一割以上を招待席とすることを条件に、約30公演を協賛。生の演奏を聴く機会の少ない青少年や高齢者、障害者等を招いている。
そして2007年から始めたのが、アウトリーチ形式の「移動・訪問コンサート」である。山間地や離島など音楽ホールのない地域や、学校や福祉施設、病院などに出向くもので、年約10公演を実施。フル編成でなくてもできるプログラムで受け入れ先との交流を深めている。こうしたアマオケの活動を地元のトヨタ販売店も物心両面からサポート。事前の告知や当日の運営協力など、顔の見える協働関係を築いている。
評価ポイント
長年にわたる全国展開で、音楽の裾野を広げるという本質的な活動に取り組んできた。
開催地の販売店と連携するなど、企業リソースをうまく活かしている。
企業プロフィール
本社所在地:愛知県豊田市
設立年:1937年
資本金:3,970億5,000万円
従業員数:69,478人
業種:輸送用機器
URL:https://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/social_contribution/society_and_culture/domestic/tcc/index.html
(2008年3月現在)
受賞スピーチ
全国の地域のアマチュアオーケストラの方々の熱意の賜物
[メセナ大賞部門]網の目コミュニケーション賞
博多の伝統芸能、祭りの普及・支援
活動内容
博多・中洲で1948年に創業し、明太子の製造・販売を始めたふくやは、初代・川原俊夫社長の「人のため、社会のために生きる」との志を原点に、さまざまな社会貢献活動に取り組む。殊に同社を育んだ中洲への想いは強く、地域の発展に社員の力を活かそうと、社外の活動に積極的に携わる「網の目コミュニケーション室」を94年に開設、博多の文化・地域活動に深く関わっている。
その名の通り、地域とのコミュニケーションを網の目のようにめぐらそうと、社員のボランティア活動を推進、地元団体の役職を担ったり、勤務中でも町内活動に参加することを認めている。さらに地域のお祭りや伝統芸能、数々の文化事業など年間40件を超える催しに協賛し、社内外への情報発信に努める。
中でも、古い起源をもつ「筑紫舞」については、社内に筑紫舞伝承講演会を構えて事務局機能を担う。「筑紫舞」とは九州を発生の地とする能や狂言、人形浄瑠璃の原形ともいわれる舞で、「続日本記」にも記述がある。現在は西山村流宗家・光寿斉氏が継承しており、「筑紫舞の会」公演を支えて、観客の輪を広げてきた。
ほかにも、博多券番を支援する「博多伝統芸能振興会」や「伝統芸能を守る会」に属し、その保護と振興に努める。1月の「かち詣り」から12月の「博多をどり」まで、福岡の歳時記を彩る場を積極的に設け、明治期から連綿と続いてきた博多花柳界の芸を支えている。
博多っ子の祭り好きは知られるところ。ふくやでも5月の博多どんたくには150名の踊り隊を結成して参加し、博多祇園山笠では社員が率先して担ぎ手となる。また創業者の川原氏が考案した「中洲まつり」も地元の祭りとして定着し、10月には中洲國廣女みこしが華やかに街を練り歩く。
中洲に生まれ、博多とともに歩んできたふくや、これからも地域密着の活動を続けていくことだろう。
評価ポイント
地域に根ざした企業が社会に果たす役割を真摯に考え、行動している。
「網の目コミュニケーション」という発想がユニーク、社員の力を地域の発展に役立てている。
企業プロフィール
本社所在地:福岡県福岡市
設立年:1948年
資本金:3,000万円(グループ全体 3億7,100万円)
従業員数:592人
業種:食料品
URL:http://www.fukuya.com/
(2008年6月現在)
受賞スピーチ
博多は芸どころ、受賞は地域にとってありがたいこと
[文化庁長官賞部門]文化庁長官賞
クラシック音楽を通じた次世代育成と、若い演奏家への支援活動
活動内容
「For the Next Generation」をテーマに掲げるソニー音楽芸術振興会は、1984年に設立。クラシック音楽を通して子どもたちの豊かな感性を育み、次代を担う若手音楽家を支援する多彩なプログラムを各地で実施している。
幼児研究に情熱を傾けたソニー創業者の井深大氏は、「人間の知能・情操は生まれる前から育まれ得る」を提唱。この説に基き、85年に「0才まえのコンサート~ママのおなかは特等席」を開始した。妊婦を対象に、メディカル・アドバイザーの協力を得ながらのコンサートは無理なく楽しめると好評で、これまで全国各地で150回開催してきた。98年には、未就学児のための「Concert for KIDSシリーズ」をスタート。その後、2004年からは、小学生から高校生までを対象とした「子どもたちに贈るスペシャル・コンサート・シリーズ」を手がけ、海外のオーケストラやオペラ作品に触れる機会を提供している。
一方、若手音楽家の育成を目的に、1985年から3年ごとの開催で「国際オーボエコンクール」を実施。オーボエに焦点を当てた数少ないコンクールとして、世界的に活躍する演奏家を数多く輩出し、第8回を数えた一昨年は23の国と地域より148名が参加した。また2002年には故・齋藤秀雄氏未亡人・齋藤秀子氏の遺贈を受けて「齋藤秀雄メモリアル基金賞」を創設。若手チェリストと指揮者の発掘・育成を目的とした顕彰制度を運営する。ほかにも、若い音楽家を世に送り出すさまざまなコンサートを企画している。
2007年からは軽井沢大賀ホールを中心に「軽井沢八月祭」等を開催、地元市民と実行委員会を結成して、音楽フェスティバルの運営にあたっている。 これからも、聴衆と音楽家の双方に求められるプログラムを開発し、数々の音楽ホールの運営を牽引する活動を続けてほしい。
評価ポイント
子どもの成長に合わせたプログラム開発、演奏家の育成や地域活性化など、総合的な取り組みである。
地域や聴衆のリクエストに応えた柔軟で先駆的な企画を長年開催している。
企業プロフィール
財団所在地:東京都千代田区
設立年:1984年
正味財産:19億5,000万円
職員数:11人
業種:財団
URL:http://www.smf.or.jp/
(2008年3月現在)
受賞スピーチ
今、クラシック音楽が次世代のために出来ることは何なのか