メセナアワード2009
[メセナ大賞部門]メセナ大賞
第一生命ホールを拠点としたNPOトリトン・アーツ・ネットワークの音楽活動への支援
活動内容
戦後の東京で、舞台芸術の拠点となった旧・第一生命ホールは、1989年、日比谷の本社改築のため多くのファンに惜しまれつつ閉鎖となる。その後、同社創立100周年を迎える2001年、晴海のトリトンスクエアに767席の音楽専用ホールとして、新たな「第一生命ホール」が再建された。
ホール運営については、同社の社会貢献活動の取組方針に基づき、約50名のワーキンググループで検討された。結果、NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)を設立して、コンサート企画や地域での音楽活動を展開していくという、民間ホールとして初の試みがスタートすることとなる。
TANは、そのミッションにクラシック音楽を「広める・創る・育てる」を掲げ、ホール・コミュニティ・サポーター・評価の4事業に取り組む。晴海周辺は、子育て世代の家族や定年退職者が移り住み、企業移転により昼間人口が増加している。TANはそうした地域の状況にあわせ、「育児支援コンサート」や「はじめのいっぽコンサート」などの企画を年30公演ほど制作。それとともに、近隣の幼稚園や小学校、病院、福祉施設などに音楽を届ける「アウトリーチ活動」を自治体とも連携しながら、これまでに300回以上、実施してきた。
こうしたTANの活動を支えているのは、第一生命の職員450名を含む個人会員750名と、同社を筆頭とする33の法人会員や協賛企業、さらに約70名の積極的な市民サポーターや社内ボランティアである。サポーター自らが企画する「オープンハウス」や、各支社の職員がマッチングギフト制度を活用してアウトリーチを実施するなどの展開も見られる。さらに、これまでの経験を踏まえた「文化ボランティア・コーディネーター講座」も本年より開講した。
NPOという形態が職員や市民の参加を促し、地域に根ざした音楽活動を着実にひろげてきたのである。
評価ポイント
第一生命ホールの歴史をふまえ、安定した持続力ある取り組みがなされている。
NPO法人の活動に職員の参加を促し、地域社会と結びつく発展的な拡がりが見える。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
設立年:1902年
資本金:4,200億円
従業員数:5万3,072人
業種:保険
URL:http://www.dai-ichi-life.co.jp/company/
http://www.triton-arts.net/
(2009年3月現在)
受賞スピーチ
企業人の心意気から、晴海地域を芸住隣接地域に
[メセナ大賞部門]「文舞」両道賞
シベールアリーナ&遅筆堂文庫山形館の運営
活動内容
蔵王の山なみを望む山形市郊外の産業団地内。洋菓子店として1966年に創業したシベールは、主力商品ラスクの工場に隣接して、2008年9月、シベールアリーナと遅筆堂文庫山形館を開設した。「地方であることは文化の個性の違いであり、水準の差であってはならない」との熊谷眞一社長の理念のもと、地域文化の受発信の拠点として建設されたものである。
きっかけは数年前、同郷出身の作家・井上ひさし氏らが提案した劇場建設の動きにある。市の中心市街地に劇場をつくり往時のにぎわいを取り戻そうとの構想で、熊谷社長も賛同したがかなわず、これをシベールの敷地内で実現。もとより売店やカフェレストランもあり、近隣住民が訪れる場でもあった。
シベールアリーナは、劇場と体育館の機能をあわせ持つ。演劇公演に最適の空間となるよう設計段階から舞台監督や照明家を交えて検討を重ね、客席数522席、設備、バックヤードも充実した本格的な施設が誕生した。以来、劇団こまつ座による公演のほか、講演会やコンサート、映画、落語や講談など多彩な企画を次々と手がけている。また、アリーナ仕様に転換した際には6面分の卓球台が設けられ、県内の小学生が集う「シベール杯」も主催している。
一方の遅筆堂文庫は、井上氏が地元・川西町に長年にわたり蔵書を寄贈してきたもので、約22万冊もの中から、「母と子のための本」3万冊を選出して「山形館」に巡回させる方法で運営されている。展示スペースも併設し、文学・演劇関連の企画展も催して好評を得ている。
09年4月、両施設の運営を担う財団法人「弦」地域文化支援財団を設立。また「シベールアリーナ友の会」には、約1500名の市民らが参加する。地域固有の魅力を高めるべく、より公益的で地元密着の活動を展開していく方針である。
評価ポイント
地域に根ざし、市民とともに新しい文化を広げ深めようとする意志が伝わってくる。
劇場としてもよく考えられた施設であり、井上氏の蔵書も独自の視点がありユニーク。
企業プロフィール
本社所在地:山形県山形市
設立年:1966年
資本金:4億8,835万5,000円
従業員数:230人
業種:菓子製造販売業
URL:http://www.cybele.co.jp/
(2009年3月現在)
受賞スピーチ
山形であることは文化の個性。地域文化の受発信の拠点として
[メセナ大賞部門]地域ネットワーク賞
「多摩川アートライン」の取り組み
活動内容
「多摩川アートライン」は、東京・大田区の多摩川下流域エリアの鉄道、駅、まちを舞台とした現代アートによるまちづくりの活動である。2010年、国際ターミナルを開設する羽田空港(大田区)に合わせ、07年から3年間を第1期とするプログラムを展開している。
実行委員会の運営母体、NPO法人大田まちづくり芸術支援協会(asca)は、「アートと企業のまちづくり」を掲げる地域メセナ組織。1992年の設立以来、企業30社、個人会員150名とともにコンサートなどのイベントを多数開催してきた。本プロジェクトは、醍醐建設、東急電鉄、金羊社、新田神社など地元に関連する企業や団体の協賛、大田区、地元・観光協会、商工会議所、商店街連合会、工業連合会、各大学や教育機関の連携のもとに運営されている。
現代アートの展示をプロジェクトの核とし、アートディレクターの清水敏男氏を中心に、毎年、秋に「アートラインウィーク」と称する作品展を開催。07年は、国内外で活躍する大田区ゆかりの16組のアーティストによる作品が、東急多摩川線全駅や地元の神社に置かれた。
08年は、「グローバル⇔ローカル」をテーマに、ソウルや北京からアーティストが参加。工業のまち・大田らしく、町工場でアーティストと職人が協働して作品を制作、公園や商店街、空港に展開した。さらには、シンポジウムやタウンミーティングを通じて、地元企業と市民、行政を交えたネットワークづくりを進める。実施2年間で参加したアーティストは4カ国、30組。制作された48作品のうち半数が常設となり、1日30万人の人々の目を楽しませている。
アートという視点から、まちの歴史や風景、産業を見直し、人々のネットワークを構築する「多摩川アートライン」。地域の創造力を活性化させる一連の運動として、次なる展開が期待されている。
評価ポイント
地元企業をはじめ、核となるメンバーが長年取り組んできた文化活動のノウハウが、多くの関係者をまとめる力となっている。
地域の市民セクター間のネットワーク強化により、横断的な協力体制が築かれている。
団体プロフィール
所在地:東京都大田区
設立年:2006年
会員数:幹事20人、ボランティア240人
組織形態:実行委員会
(2009年3月現在)
受賞スピーチ
小規模企業と地域の連携が、経済と文化をつなぐ
[メセナ大賞部門]千客万来賞
商店街文化と芸能文化で街再生
活動内容
大阪・天神橋筋は、南北約2.6㎞にわたり1000軒もの店が立ち並ぶ「日本で一番長い商店街」である。大阪天満宮の参拝道であり、創業100年を超える老舗も軒を連ねるが、より魅力ある街にしようとカルチャーセンターを設けたり、イベント企画や商品開発などにも取り組んできた。
この商店街での寄席を提案した桂三枝師匠と、天神橋筋商店連合会の土居年樹会長により、大阪天満宮に定席の小屋を建てることが検討される。かつて天満宮周辺には8軒の小屋があり、芸能と商いのまちとして栄えた、それを復活させようとの構想である。天満宮もこれに賛同し、土地を無償で提供。2005年には商店連合会と上方落語協会が中心となり、小屋の建設に向けた募金活動が始まった。
商店街にはのぼりやポスターを掲出し、一口1万円からの個人寄付を呼びかける。土居会長は大阪中の企業、団体に働きかけ、上方落語協会はメディアを通じて周知に努めた。その結果、総額2億4,000万円、緞帳や建築金物など3,000万円相当の寄贈を受けて、06年9月「天満天神繁昌亭」が完成。軒下や客席の天井からは寄付者の名前が記された提灯がびっしりと下がり、約250の客席を埋めてこけら落としを迎えた。
開設以来、大阪の新名所として繁昌亭は連日満員、天神橋筋も40%の集客増となった。商店連合会では新たにNPO法人上方落語支援の会を設立し、小屋の管理にあたっている。昼席を中心に多彩な顔ぶれが登場し、夜席は噺家による意欲的なプログラムが組まれる。また朝席はNPOの企画で、小中学生のための落語講座を行うなど、両者の連携で順調な運営を続けており、開設1周年の経済効果は116億円とも試算された。
「街あきんど」の心意気が多くの人を動かし、市民文化のまち・大阪の健在ぶりを世に示したのである。
評価ポイント
市民・企業を結束して上方芸能を盛り立てようとする「町衆」の気概を感じる。
繁昌亭ができて人の流れが変わった。商店街活性としても刺激的な好例である。
団体プロフィール
所在地:大阪府大阪市
設立年:1994年
会員数:350店舗
組織形態:商店連合会
URL:http://tenjin123.com/
(2009年3月現在)
受賞スピーチ
「街あきんど」の心意気で商店街、上方落語の灯を絶やさない
[メセナ大賞部門]歌劇な社長賞
オペラサロントナカイの運営を通じた、サロンオペラの普及と若手歌手支援
活動内容
東京・神田、岩本町のビジネス街にある「オペラサロントナカイ」は、各国のオペラに造詣が深い早川正一氏が所有する、コンサート形式のオペラを鑑賞できるレストランである。客席と舞台が近く、間近でプロの歌声に魅了されながらワインとイタリア料理を楽しめる。1994年に現在の地に移転する際は、こだわりの音響設計と舞台装置を施した127席の音楽ホールを完成させた。
平日の晩に開催されるコンサートには、オーディションを通過し、登録された約120名の実力ある若手歌手が出演する。日々メンバーを入れ替えながら、オペラ歌手3名と伴奏ピアニストが、約2時間、オペラアリア、デュエット、アンサンブルなどを演奏。これまでの公演は通算4,600回を超えた。
2002年には、NPO法人サロンオペラ・トナカイを設立。多くの人にオペラを経験してもらい、その魅力を広く知ってもらいたい。特に、伸び盛りの若手オペラ歌手の発表の場を増やしたいとの思いから、オペラ鑑賞、演奏・研究を通じてオペラ公演の普及を図る活動をスタートさせた。
隔月で企画される「サロンオペラ」は、長時間にわたるオペラを工夫して2時間におさまるように上演。オペラを初めて観る人にも親しみやすく、若手演奏家にとっては作品研究の機会となり、自らのレパートリーを広げるチャンスとなる。また、中高生や大人のための「オペラ入門」を実施するほか、「海外研修生歓送オペラ・ガラ」を企画して留学費の寄付を募ったり、メトロポリタン歌劇場やグラインドボーン音楽祭など本場のオペラに若手歌手を招くなど、世界に通用する歌手を育てたいと物心両面での支援を惜しまない。
早川氏は、「うれしいのは、うちで歌っていた若い人が受賞するとき」と顔をほころばせる。長年にわたる地道なオペラ振興への功績をたたえて、このたびの受賞となった。
評価ポイント
プロを目指す若手歌手を支援する熱意とオペラ普及への努力。
歌劇団の所属に関係なく機会を提供し、長年にわたり育成に努めた功績は大きい。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
創業年:1967年
資本金:1億円
従業員数:17人
業種:不動産
URL:http://www.opera.co.jp/
(2009年3月現在)
受賞スピーチ
若手の歌手を育てる、長年にわたるオペラ振興活動
[メセナ大賞部門]ベスト・コラボレーション賞
「エイブルアート・オンステージ」の実施
活動内容
明治生命と安田生命が合併した2004年、両社がかかわってきた福祉分野に重点を置きつつ、新会社の社会貢献活動として始めたのが「エイブルアート・オンステージ」である。障がい者と舞台芸術のアーティストとのコラボレーションによる、クオリティの高い活動を支援することをねらいとし、NPOとの協働による展開をはかった。
エイブルアート・オンステージは、3つのプログラムで構成される。中核は「活動支援プログラム」、障がいのある人とアーティストによる新たな舞台芸術の取り組みを公募し、毎年、6~8件に上限150万円の支援金を提供するものだ。福祉団体やアートNPOが企画し、何カ月もかけて地元での公演を実現するが、その間、選考にあたった専門家らがアドバイスをするなど支援先への対応は手厚い。
特徴的なのは「障がい」を身体障がいや知的障がいに限らず、心の病や加齢までも含めた「生きづらさ」と捉えていることで、さまざまな障がいのある人とダンサーによるパフォーマンスや、60歳以上の女性だけの演劇、引きこもりの中高年男性のためのワークショップなど多彩な企画が採択されている。
その成果を東京で一堂に会して見せるのが、2つ目の「コラボ・シアター・フェスティバル」である。各地で発表した作品のいくつかを発展させて上演したり、シンポジウムや展示などとあわせて、作品づくりのおもしろさや課題を伝える。3つ目は「飛び石プロジェクト」と称する国際交流プログラム。英国から障がい者のプロ劇団に携わる2名の演出家を招き、2年にわたり各地でのワークショップを重ねて、障がいのある人や俳優らが出演する作品をつくり上げ、好評を博した。
障がいを個性と見て、多様な表現活動への挑戦を促したエイブルアート・オンステージ。5年間の実践を通じて、福祉と芸術の双方に新たな可能性を拓いてきたのである。
評価ポイント
従来、美術に偏っていた障がい者の芸術活動の幅を広げ、異なる能力を結びつけている。
社会貢献として何をすべきかというコンセプト、意識が明快である。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
創業年:1881年
基本財産:4,100億
従業員数:4万485人
業種:保険
URL:https://www.meijiyasuda.co.jp/
(2009年3月現在)
受賞スピーチ
障がいを持つ方と舞台芸術のコラボレーションが生むステージ
[文化庁長官賞部門]文化庁長官賞
中之島線なにわ橋駅「アートエリアB1」における社学・地域連携文化活動
活動内容
大阪・中之島地区に2008年10月に開業した中之島線は、中之島駅から天満橋駅にいたる約3.0㎞の地下路線。京阪電気鉄道では、「なにわ橋駅」建設段階の2006年より、都市空間で駅がもつ可能性を模索する社学連携プロジェクト「中之島コミュニケーションカフェ」を実施。駅建設現場でのトークやファッションショー、ダンスパフォーマンスを実験的におこない、話題を集めた。
路線の開業以降は、なにわ橋駅の地下1階コンコースに常設の活動拠点「アートエリアB1(ビーワン)」を開設。大阪大学、NPOダンスボックス等との協働により、駅でのアートプロジェクトが本格始動する。
以来、定例の活動として「ラボカフェ」を実施。カフェというツールをラボラトリー(実験室)的に用い、コーヒー片手に自由な議論を交わす参加型の対話プログラムである。大阪大学の講師や学生らがコーディネートし、ときに専門家を交えながら、公衆衛生・哲学・音楽・演劇・書評・鉄道など幅広い分野にわたるテーマを取り上げる。週2~3回の頻度で、開設から一年足らずで100回以上を数え、ビジネスマンやOL、学生、高齢者など、通りすがりの人からリピーターまで、幅広い客層を集めている。
また、アーティストユニット「パラモデル」による鉄道玩具を使ったインスタレーションや、本年秋におこなわれた「水都大阪2009」連携企画として、ヤノベケンジの作品を紹介するなど現代美術展も開催。
「停車場としての駅」から「コミュニケーション空間としての駅」へ。中之島エリアが持つ大学の知、アートの力、地域の活力を結集して、「なにわ橋駅」が中之島エリアの「文化・芸術・知の創造と交流の場」となることを目指し、これからもさまざまなプログラムを展開していく方針である。
評価ポイント
地元の大学やNPOと連携して、市民が関与する多彩な文化活動を展開している。
駅という公共の場を活かし、大阪・中之島の文化醸成に熱意を傾けている。
企業プロフィール
本社所在地:大阪府大阪市
設立年:1949年(創立1906年)
資本金:514億6,641万円
従業員数:2,665人
業種:陸運
URL:http://artarea-b1.jp/
(2009年3月現在)
受賞スピーチ
文化発祥の地「大阪」のDNAを呼び覚ますプログラムを展開