メセナアワード2010
[メセナ大賞部門]メセナ大賞
「世界遺産 石見銀山」における企業経営と地域貢献
活動内容
島根県石見地方、大森の地を中心に石見銀山の鉱脈は広がる。江戸初期には世界の銀産量の約3割を占め、20万もの人で栄えた大森町だが、大正12年の休山以降人口は激減、現在は500人にも満たない。
義肢装具の製作を行う中村ブレイスは1974年、大森出身の中村俊郎氏が京都とカリフォルニア州での研修を経て帰郷し、ただ一人で自宅前の納屋で創業した。新素材技術で義肢装具や医療器具を次々と研究開発し、特にシリコーンゴム製の手指、人工乳房などは「メディカルアート」と称して、一人ひとりの特徴に合わせたリアルで美しい仕上がりで国内外に知られる。
中村氏は社業の傍ら、大森の活性化に尽力する。古い民家を改修して社宅などに活用するほか、飲食店など店舗に貸与、これまでに35軒の空き家が蘇り、大森の伝統的な町並みを保ってきた。元酒蔵はメディカルアート研究所の工房とし、取り壊し予定だった明治期の銀行を移設して「なかむら館」を開設。同館で展示されているのが、25年にわたり収集してきた石見銀山に関連する資料約100点である。県外・国外に流出していた希少な絵巻や書籍、石見銀でつくられた古丁銀など、銀山の歴史的重要性を証明する資料の数々は2007年の世界遺産登録に大きな役割を果たした。
ほかにも、夏休み期間に海外の子どもを受け入れる「なかむらスカラシップ」や、銀山に関する研究や文化活動を表彰する「石見銀山文化賞」の創設、大森代官所跡リニューアルなど地元への貢献は著しい。大森から世界へ――社業においてもメセナ活動でも、独自の価値を発信して多くの人を惹きつけている。
企業プロフィール
本社所在地:島根県大田市
設立年:1982年
資本金:2,000万円
従業員数:70人
業種:義肢装具・人工乳房・医療用具
URL:http://www.nakamura-brace.co.jp/
(2010年3月現在)
受賞スピーチ
世界遺産登録へもつながった、大森町の伝統を守り発信する力
[メセナ大賞部門]音(お)もてなし賞
「リレー音楽祭 in アトリウム」の実施
活動内容
京都ブライトンホテルは長谷工コーポレーションのホテル事業一号店として1988年に開設した。客室数182室、京都御所や二条城に近く、立地と景観のよさ、定評あるサービスが人気だ。
このホテルのアトリウムで、夏の恒例として定着しているのが「リレー音楽祭 in アトリウム」である。京都市交響楽団の音楽監督で常任指揮者の井上道義氏と相談し96年にスタート、近年は7月の一ヶ月間にわたり、毎晩20時から30分間のコンサートが行われている。約30m四方のアトリウムは、20mある吹き抜け天井が特徴的で音の響きがよく、各階の客室をつなぐ回廊が囲む構造となっており、部屋の扉を開けると音楽が流れ込んでくる。宿泊客はもとよりコンサート目当てに通う近隣住民もいて、夏のホテルは音楽祭の会場として連日にぎわう。
出演者は京都を活動拠点とする団体や音楽家が多く、公募とともに各団体からの推薦を受けて選出される。各年のテーマやプログラム内容は、井上氏を長とする実行委員会で検討され、「ホ、ホ、ホテル来い」や「不響は終わりだ!」などユニークなテーマのもと、ソプラノの中丸三千繪やピアノの熊本マリといったソリストから、カルテットやアンサンブル、京響はじめ各団体の枠を超えたユニットが登場。クラシック音楽を中心になじみ深い唱歌やトークを交えたり、アトリウムならではの演出を試みるなど、出演者にとっても通常とは異なる編成やチャレンジの場となっている。
15年で593夜のリレーを続けてきた音楽祭。京都の風物詩としてさらに、暑い夏の夜を彩っていく。
企業プロフィール
本社所在地:京都府京都市
設立年:1988年
資本金:3,000万円
従業員数:337人
業種:サービス
URL:https://www.brightonhotels.co.jp/kyoto/
(2010年3月現在)
受賞スピーチ
「文化の薫りがするホテル」としてのおもてなしを
[メセナ大賞部門]ことばの花賞
「現代詩花椿賞」による詩の支援と振興
活動内容
資生堂の企業文化誌として70年以上の歴史を持つ『花椿』。ファッションやデザイン、アートに関心の高い読者に支持されている同誌で、「美を伝えることばの力を高めたい」との想いで1983年に創設されたのが「現代詩花椿賞」である。
それ以前も一般公募で詩を掲載する企画を行っていたが、専門的に詩に携わる人を対象とする懸賞事業とした。自費出版も含めて、前年度に発行された詩集の中から最も優れた作品に対して賞を贈る。選考委員は4人の詩人が務め、4年の任期で毎年1人ずつ入れ替わる仕組みで、それぞれが数冊ずつ詩集を推薦し、徹底的な討議のうえ一冊の作品を選んでいく。これまでの受賞者は吉増剛造や谷川俊太郎、新川和江らキャリア豊富な詩人から、主婦や会社員、教職の傍ら詩作を続けてきたという新人まで幅広く、その時々で優れた作品に注目する点こそが同賞の特徴といえる。
受賞者には社内デザイナーが特別に手がけた香水瓶と100万円が授与され、受賞作品は『よむ花椿』12月号に掲載される。すでに28回を数え、現在では出版社や特定の詩壇のグループに属さない賞として認知されており、他の賞を辞退した詩人にも「花椿賞なら喜んでいただきたい」といわれるほど、独自性の高さを確立してきた。
近年は、受賞者や選考委員による対談など「ことばの美」について語り合う場を設けており、『花椿』読者にも好評で、毎回多くの参加者が集う。現代詩という分野に光をあて、美しいことばの花を咲かせてきたのである。
企業プロフィール
本社所在地:東京都中央区
設立年:1872年
資本金:645億円
従業員数:2万8,968人(グループ)
業種:化学
URL:http://www.shiseido.co.jp/hanatsubaki/
(2010年3月現在)
受賞スピーチ
詩を愛する人々とともに、社会づくりに貢献
[メセナ大賞部門]印刷文化振興賞
印刷博物館の運営
活動内容
印刷博物館は、凸版印刷の創立100周年にあたる2000年、東京・小石川工場跡地に建てられた社屋の地階と1階に開設された。コミュニケーションメディアとしての印刷が社会や歴史に果たしてきた役割に着目し、「印刷文化学」を築くべく、資料収集と調査研究、展覧会、教育普及活動などに取り組む。
収蔵品はポスター、チラシ、書籍など印刷物のほか、活字や版木、フィルム、機械類で約6万点を超える。徳川家康がつくらせた駿河版銅活字(重要文化財)や、奈良時代の百万塔陀羅尼、グーテンベルクの『42行聖書』原葉などの貴重な資料の公開に加え、デジタル画像での資料閲覧やレプリカで理解を深める展示もある。
企画展では「ヴァチカン教皇庁図書館展」や「プランタン=モレトゥス博物館展」など、日本初公開となる作品や資料を多数展示し、その後も交流、協力を続け相互に印刷文化を紹介している。また「引札」「ポスター」「活字」「プレス機」といった印刷独自のテーマを掘り下げた企画展は、メディアやデザインなど関連領域で仕事をする人や学生等の関心を集める。さらに本展示場には、活版印刷体験ができる「印刷の家」がある。同社OBの指導により創作活動やワークショップが行われ、近隣小学校の利用が定着しているほか、全国の博物館や図書館にも出張して教育普及活動への協力を惜しまない。08年には多数の企業系ミュージアムとともに、産業文化博物館コンソーシアムを立ち上げ、産業が培ってきた技術や文化面での貢献を探る試みも始めた。開館以来10年、着実で専門性の高い活動を続け、印刷文化の振興に努めてきたのである。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
設立年:1900年
資本金:1,049億8,600万円
従業員数:4万7,650人(連結)
業種:総合印刷業
URL:https://www.toppan.com/ja/
(2010年3月現在)
受賞スピーチ
デジタル時代だからこそ、印刷文化の重要性を伝える
[メセナ大賞部門]写真家ニコリ賞
―写真文化とともに歩む― ニコンサロンの運営と活動
活動内容
1968年、ニコンの設立50周年を記念して写真専門ギャラリー、銀座ニコンサロンは開設された。オープニング企画は「木村伊兵衛の眼」。71年には新宿、74年には大阪にもニコンサロンを開設して、以来一貫して写真家に発表の場を提供してきた。
出展者は公募により、プロ・アマ、国籍、使用機材を問わず、40点以上の作品からなるポートフォリオで選ばれる。歴代の選考委員は木村伊兵衛、土門拳など日本を代表する写真家が務め、近年は土田ヒロミ、大島洋のほか美術評論家の伊藤俊治など多彩な顔ぶれである。作品のレベルのみを基準に選ばれた出展者は、ニコンサロンで1~2週間の展示を行い、年間で最も優れた写真展には「伊奈信男賞」としてトロフィーと賞金100万円、ニコンの最高級デジタルカメラが贈られる。
98年からは35歳以下を対象とする「Juna21」をスタート。ギャラリートークや「ポートフォリオレビュー」として選考委員と意見交換ができる場を設けるなど、若い人たちを励ましている。また「Juna21」でも年度賞「三木淳賞」を設けており、受賞者は2年の間に再度写真展を行う機会が与えられる。
さらに、機を捉えて企画展を開催するほか、活躍中の写真家を招いてのフォトセミナーやトークショーも実施。40年を超える歩みの中で行われた写真展は銀座だけでも1700回を数える。「ニコンサロンでやらなければ一流ではない」とその評価は国内外で高く、発表後に他の写真賞を受賞する写真家も少なくない。写真表現を真摯に追求する人たちが目指す場として、今後も変わらぬ活動を続けていくことだろう。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
設立年:1917年
従業員数:2万6,125人(連結)
業種:精密機器
URL:http://www.nikon-image.com/activity/salon/
(2010年3月現在)
受賞スピーチ
感性を磨き、感動を写しとめ、それを分かち合う
[メセナ大賞部門]日本画応援賞
山種美術館の運営
活動内容
山種美術館は1966年、山種証券の創設者である山﨑種二氏が蒐集した日本画を公開することを目的に、日本橋兜町に開設された。「絵は人柄である」との理念のもと、横山大観や上村松園、川合玉堂ら当時活躍中の作家と直接交流を深めながら作品を集め、美術館を建てるに際しては、横山大観や小林古径らから大切にしていた作品を譲り受けた。その後も東山魁夷らに作品制作を依頼したり、旧安宅コレクションの速水御舟作品105点を一括購入するなど、明治以降の近代・現代日本画のコレクション内容を充実させてきた。
さらに、若手画家の育成を目的として、71年から97年まで隔年で「山種美術館賞」を実施。受賞作品を買い上げて新たな才能を紹介してきた。こうして所蔵作品は現在約1800点にのぼり、年間6~7本の展覧会を開催して日本画ファンに親しまれている。
1998年、施設の老朽化に伴って千鳥ヶ淵に仮移転、さらに2009年10月に、広尾に新設オープンした。設計にあたっては、屏風や掛け軸、巻物などの作品鑑賞に最適な照明や展示ケースを工夫し、鑑賞希望が多い作品を定期的に公開するスペースを設け、バリアフリーにも配慮した。開設以来、以前にも増して多くの来館者を数え、高齢者や福祉施設からの団体鑑賞も受け入れている。
また、教育普及活動にも積極的に取り組む。企画展にあわせたギャラリートークのほか、近隣の小学校から大学まで教育機関と連携しての特別鑑賞会や講座なども行っている。今後も日本画専門の美術館として、より幅広い人々にその魅力を発信していくことだろう。
企業プロフィール
所在地:東京都渋谷区
設立年:1966年
基本財産:69億2,350万円
職員数:7名
業種:財団
URL:http://www.yamatane-museum.or.jp/
(2010年3月現在)
受賞スピーチ
「絵は人柄である」日本画の魅力の幅広い発信をめざす
[文化庁長官賞部門]文化庁長官賞
音楽による次世代育成の多角的活動―TOA Meet! Music! Concept―
活動内容
神戸・ポートアイランドに本社を置く音響メーカーのTOAは、グループ会社であるジーベックとともに、自社ホール「XEBEC HALL」を拠点に音楽を中心としたメセナ活動を展開する。98年からは、近隣中学校2年生を対象とした職場体験制度「トライやる・ウィーク」で、一週間で生徒とアーティストが音楽作品を共同創作し、住民向けのコンサートを開催する企画を毎年実施しており、地域の行事として定着してきた。
この企画を含め、音楽と教育に関する複数の活動を集約したのが「TOA Meet! Music! Concept」である。子どもの成長過程にあわせた4つの音楽体験プログラムと保護者の意識調査を組み合わせた複合プロジェクトで、小中学生が対象の「TOA Music Workshop」では、音楽との出会いや仲間とともに参加する楽しさを知り、中学生は「トライやる・ウィークシリーズ」で音楽を創る喜びを味わう。「神戸JAZZ」では、中高生が出演者やスタッフと連携してコンサートを制作。専門学校・大学生には「匠ワークショップ」としてプロの技を伝え、明日の音楽の担い手を育成している。
さらに親世代には「TOA音楽と教育の意識調査」で教育における音楽の役割を認識させるアンケートを行う。結果を公表し次世代育成活動の必要性を訴えるとともに、企画立案や内容の充実に役立てている。
自らが持つホールやスタッフの技術・スキルを活かし、NPO、教育機関とも連携して運営される多角的なプログラムを通じて、多くの子どもたちの表現力や創造性を高めてきた。地域ぐるみの次世代育成に、TOAのメセナ活動が欠かせない存在となったのである。
企業プロフィール
本社所在地:兵庫県神戸市
設立年:1934年
資本金:52億8,000万円
従業員数:2,710人(連結)
業種:電気機器
URL:http://www.toa.co.jp/mecenat/
(2010年3月現在)
受賞スピーチ
音によるコミュニケーションを、地域ぐるみの次世代育成