メセナアワード2011
[メセナ大賞部門]メセナ大賞
「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」~創造的なまちづくりへの挑戦
活動内容
大阪・北加賀屋、かつて造船業で栄えたまちは、1980年代から船舶の大型化などに伴い造船所が次々と移転。大阪湾河口の木津川沿いには、休眠した工場跡が幾つも並ぶ。そのうちの一つ、名村造船所大阪工場跡地をアートスペース「クリエイティブセンター大阪(CCO)」として蘇らせたのが、千島土地である。まもなく株式会社設立100年を迎える不動産賃貸事業者で、大阪を中心に約33万坪もの土地を所有する。北加賀屋エリアで工場が撤退し、住人も減少する中、名村造船所から借地返還された約4万2,000㎡の敷地に残されたドック(船渠)や工場建物をアートの創造の場として提供し、まちの活気を取り戻そうとのねらいだ。
2004年の「NAMURA ART MEETING」を皮切りに、ジャンルを問わず多くのアーティストが集い、広大な空間だからこそ制作可能な作品も生み出されていく。さらに09年からは、CCOの周辺で同社が所有する不動産にアート関係者を誘致し、滞在制作や発表の拠点として活用してもらう「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」を打ち出した。古いアパートや空き家、店舗だった建物を、借主であるアート関係者がリノベーションし、ギャラリーやレジデンス等に使用。長屋を改装したインフォメーションセンター「ク・ビレ邸」等、現在約20軒のアートスペースが点在し、若手アーティストやクリエイターが活動を展開している。
産業が衰退し高齢化が進むまちをアートの力で活性化する。文化による地域創造の好事例ではなかろうか。
企業プロフィール
本社所在地:大阪府大阪市
設立年:1912年
資本金:4,800万円
従業員数:21人
業種:土地・建物・航空機の賃貸事業
URL:http://www.chishimatochi.com
(2011年4月現在)
受賞スピーチ
眠っていた施設に新たな血が注がれ、芸術文化の持つ力に感心
[メセナ大賞部門]酒唄里づくり賞
酒蔵を核とする自然保護・文化活動
活動内容
創業天保元年、180余年にわたる酒造りを続けてきた朝日酒造は、かつての屋号を冠した「久保田」が代表銘柄の一つ。里山と田んぼに囲まれた越路の地は、優れた杜氏(とうじ)や蔵人(くらびと)を輩出することでも知られる。清冽な水と良質な米を育む自然環境を守るべく、同社では地域ぐるみで「ほたるの里づくり」や「もみじの里づくり」を推進する。2001年には(財)こしじ水と緑の会を設立して新潟県内の自然環境保護活動を助成、会社が基金を拠出するだけでなく、社員も毎月、清酒一升瓶相当の金額を寄付している。04年の中越地震後に完成した本社屋では、エントランスホールを文化活動に活用する。幅9m、長さ90mもの広さをいかし音楽イベントや美術展示等に提供しており、新潟県内で活動する音楽家のコンサートを定期的に主催している。また、隣接する創立者の元邸宅「松籟閣(しょうらいかく)」でも、茶会や寄席などさまざまな催しを実施。伝統的な日本家屋にアールデコ様式の装飾を取り入れた建物は国の登録有形文化財に指定され、昭和初期の建築空間をいまに伝えている。
さらに、杜氏の間で歌い継がれてきた「越後酒屋唄」を蘇らせようと、同社の杜氏や蔵人、地域住民など約100名の歌い手が集い、一年間の練習を経て実現したのが「酒を造る里のものがたり」の企画である。09年2月にエントランスホールで行われたコンサートは好評で、その後も機会あるごとに歌われ、地元小学校では授業の一環で「酒造り唄」が披露された。 かけがえのない自然環境と酒造りの伝統を守る、地域とともにある企業の営みがその地の文化を醸成する。
企業プロフィール
本社所在地:新潟県長岡市
設立年:1920年
資本金:1億8,000万円
従業員数:180人
業種:清酒の製造販売
URL:http://www.asahi-shuzo.co.jp/social/
(2011年3月現在)
受賞スピーチ
地域とともにある企業として、かけがえのない伝統を守る
[メセナ大賞部門]演劇ともしび賞
OMS戯曲賞による関西の演劇支援
活動内容
OMS戯曲賞は、扇町ミュージアムスクエア(OMS)の10周年記念事業の一環として1994年に創設された。大阪ガスの遊休施設を活用した複合文化施設OMSは若手劇団の活動拠点として重要な役割を果たし、2003年、建物の老朽化に伴い閉館する。ハードはなくなったが関西の演劇シーンを支える唯一の戯曲賞は、いまも継続して劇作家の発掘に努めている。対象は、関西2府4県に在住または関西を主な活動の場とする劇作家が前年に書き下ろし、上演された作品に限っており、毎年50~60編の戯曲が寄せられる中から大賞1名、佳作1名を選出する。これまでの受賞者には松田正隆や鈴江俊郎、内藤裕敬、土田英生など、OMS戯曲賞直後に岸田國士戯曲賞を受賞したり、全国に活躍の場を広げる劇作家を輩出している。例年12月の授賞式には演劇関係者や評論家等が集い、選考委員の生田萬、佐藤信、渡辺えり等が議論を交わす公開選評会も劇作家を志す者にとって貴重な機会となっている。
受賞作は選評と選考経過とともに書籍にまとめられるが、09年からは最終候補作をWEB上で公開し、幅広い周知に努める。また大賞受賞作品については「再演支援金」の制度を設け、受賞後2年以内に再演する場合には50万円を授与している。さらに本年からは、ラジオドラマ「イストワール histoire」をスタート、最終選考に残った作家に、関西に実在した人物や事件に取材したシナリオを書き下ろしてもらい、キャリアアップにつなげようとのねらいである。劇作家を育みながら、関西の演劇文化を支え発信する戯曲賞として、今後の展開がさらに期待されている。
企業プロフィール
本社所在地:大阪府大阪市
設立年:1897年
資本金:1,321億6,666万円
従業員数:1万9,684人(連結)
業種:ガスの製造、供給および販売
URL:http://www.osakagas.co.jp/index.html
(2011年3月現在)
受賞スピーチ
関西の演劇をもっと元気にしていこうという尽力の賜物
[メセナ大賞部門]動く技術遺産賞
産業遺産の保存とモノづくり文化の伝承
活動内容
名古屋にある産業技術記念館は、発明家・豊田佐吉の「研究と創造の精神」を次代に伝えるべく、トヨタ自動車の創業者・喜一郎の生誕百周年となる1994年、グループ13社の共同事業で設立された。明治44年から、佐吉が建設した約13,000坪におよぶ試験工場跡地には、塵突(じんとつ)や鋸屋根(のこぎりやね)を持つ赤レンガ壁が残され、展示機械とあわせて13点が近代化産業遺産に認定されている。館内約4,000点の機械、部品が展示され、主な機械は実際に動かせる動態保存であることが特長であり、技術者が常駐して、保守・保全作業に力を入れている。
繊維機械館では、スタッフが紡織の基本から紡績機、織機まで運転と案内をする。また自動車館は、材料試験室、試作工場など開発・生産技術のしくみが紹介されている。さらに、江戸中期から明治初期の「からくり」など様々な分野の科学技術資料約1,300点の貴重なトヨタコレクションを中心とした企画展も年1~2回開催される。教育普及活動にも積極的に取り組み、「週末ワークショップ」では、グループ各社の技術会や地元大学の協力のもと、次世代を担う子どもたちが「モノづくり」に興味を持ち、豊かな創造性を育むきっかけとなる多種多様なプログラムが展開されている。 2005年の愛知万博以来、アジアはじめ各国の視察も増え、入館者累計は300万人を超えた。父子二代の研究と創造にかける夢と情熱が人々の生活を豊かにし、近代産業の礎となったことを知る場として、「モノづくり」文化に携わる多くの人を勇気づけている。
団体プロフィール
本社所在地:愛知県名古屋市
設立年:1994年
従業員数:56人(連結)
業種:運営組合(トヨタグループ16社)
URL:http://www.tcmit.org/
(2011年3月現在)
受賞スピーチ
動態保存を重点に、先人の「研究と創造の精神」を伝える
[メセナ大賞部門]文化の枕木賞
東日本における地域文化支援
活動内容
岩手県遠野市の茅葺き屋根や新潟県長岡市摂田屋(せったや)の町並み、そして栃木県鹿沼市の鹿沼今宮付け祭り―これらを含め東日本の有形無形の文化財の多くが、東日本鉄道文化財団の「地方文化事業支援」によって支えられてきた。この「地方文化事業支援」は、JR東日本管内各地の貴重な文化遺産や伝統芸能、歴史的建造物やまち並みなどの保全と継承、地域の発展を目的に1993年からスタートした。JR東日本各支社が選出した候補の中から選考されたものに助成する仕組みで、1事業につき年間最大500万円の支援をしている。2011年度も含めると91件の事業に対し総額約8億6千万円の資金支援を行っている。また、これまで道具や衣装、建築など「有形」に限っていた使途を、次世代を担う人材育成費といった「無形」まで広げ、支援を受ける団体にとってより柔軟な対応を整えている。
財団の強みは、地元でアンテナの役割を果たす多くの駅や名士的存在の駅長さんたち。そこで集まった情報をしっかり吸い上げ、助成にいかす。財団担当者は対象となる支援先には必ず足を運び、報告会では地元の人たちと膝を突き合わせて意見を交わす。そして支援が終了した後も、活動状況の把握をし、一過性の事業とならないような気配りも欠かさない。助成を受けた地域の住民たちの間ではあまりに身近なため、見過ごしてきた地元文化の〈価値〉にあらためて気づき、地域への愛着や活性化につながるケースも多い。東日本大震災で被害を受けた地域も含めて、東日本各地にある唯一無二の地域文化を守り、後世へとつなげる活動が今後も続いていく。
団体プロフィール
本社所在地:東京都渋谷区
設立年:1992年
資本金:100億円
従業員数:60人(連結)
業種:財団
URL:http://www.ejrcf.or.jp
(2011年4月現在)
受賞スピーチ
唯一無二の地域文化を守り、後世へとつなげる活動を
[メセナ大賞部門]解体新生賞
古民家の修復保存と活用
活動内容
建物の解体にかかわる仕事を主とする油機エンジニアリングは、ある古民家の解体を依頼されたことを機に、却って古民家の魅力をいかした活動を始める。福岡県糸島市(旧・前原市)にある「綿屋」という屋号を残す町屋は、江戸時代から唐津街道の宿場町である前原宿を支えてきた旧家・西原家によって、明治34年に建てられた。歴史的な価値が高く、前原市中心地区の景観を残すうえで非常に重要な建物であると判断した油機エンジニアリングは、この建物を壊さずにいかす方策を考え、独自で修復・保存。2005年より「前原古材の森」との名を冠して、地域拠点として活用するに至っている。
社員と地元住民が連携してワークショップやコンサート、落語の独演会等を企画開催、この建物でしか味わえない独特の雰囲気は多くの人を魅了する。地産地消のメニューを揃えたカフェを目的に足を運ぶ人も多い。さらには建物周辺のまち並みを散策するツアーを企画したり、近くの宿場町とともに「唐津街道サミット」を開くなど、まちづくりの気運が高まっていった。ツアーには全国から参加者が集い、シャッター通りの閑散とした商店街にも人の声が戻りつつある。地域資源としての価値を見出した住民の中には、自ら住まう古民家を同じように「いかす」動きが出始めている。大きな民家は個人での維持が困難なことから放置され、あるいは解体されて失われていく例が多い。しかし地域のシンボルとして使うことで、次世代に引き継がれていく。解体することが本業の企業による修復保存と活用、オリジナリティー溢れるメセナである。
企業プロフィール
本社所在地:福岡県太宰府市
設立年:1995年
資本金:3,500万円
従業員数:25人
業種:建設機械のレンタル・販売修理
URL:http://www.yukieng.co.jp/ http://kozainomori.net
(2011年4月現在)
受賞スピーチ
解体を本業とする自社の「活かす」という取り組み
[文化庁長官賞部門]文化庁長官賞
50年にわたる月刊児童詩誌『サイロ』の発行
活動内容
十勝の子どもたちに詩をつくる機会を与えたい――六花亭製菓の創業者である小田豊四郎氏が、福島の同業者が発行する児童詩誌の一編の詩に心を動かされたのが『サイロ』誕生のきっかけである。当時小学生だった息子の担任に相談し、賛同する教師たちが子どもの詩を募集、表紙の絵を開拓農民で画家の坂本直行氏に依頼して1960年1月に創刊号が発行される。以来今日まで途切れることなく毎月刊行し、50周年を迎えた2010年末には611号を数えるに至った。
応募対象は十勝管内の小中学生で、毎月200~300編の詩が寄せられる。そのすべてに目を通して優れた作品を選び、編集作業を行うのは、地元小中学校の教師で構成される「サイロの会」だ。ベテランから若手の先生まで、世代交代しながらも「十勝らしさ」「子どもの初々しい表現」にこだわって選考を進める。B5判12ページ程の冊子に載る詩は十数編だが、50年の間に約1万2,000編を紹介、投稿数は25万編以上におよぶ。毎号4,500部程を発行し、応募者と十勝管内の小中学校、図書館、希望者に無料配布。すでに十勝では「あってあたり前」の児童詩誌は、サイロの会のたゆまぬ営みと、創業者の思いを継承するNPO小田豊四郎記念基金によって支えられている。六花亭の中札内(なかさつない)工場前には「十勝六花」と呼ばれる可憐な草花を植えた〈六花の森〉が拓かれ、生涯『サイロ』の表紙を飾り続けた坂本直行の記念館、そしてサイロ50周年記念館が設けられている。半世紀を経て子どもたちを取り巻く環境は変わったものの、詩に綴られた十勝の風景は、時を超えていまに蘇る。
企業プロフィール
本社所在地:北海道帯広市
設立年:1933年
資本金:1億3,150万円(六花亭グループ)
従業員数:1,321人
業種:和洋菓子製造販売・美術館運営
URL:http://www.rokkatei.co.jp http://www.oda-kikin.com
(2011年4月現在)
受賞スピーチ
50年たち、子供たちの詩っていうのは古くならないと再認識