メセナアワード2012
[メセナ大賞部門]メセナ大賞
アートNPOの活動基盤強化への多様な支援と協働
活動内容
アサヒビールは「未来」「市民」「地域」を方針として、専門性や機動力が持ち味のアートNPOとのパートナーシップによるメセナ活動に取り組んでいる。アートの力で地域再生を目指す全国各地の活動のネットワーク「アサヒ・アート・フェスティバル(以下AAF)」や多様な課題を共有・議論する「全国アートNPOフォーラム」の支援、アートNPOとの協働によるアサヒ・アートスクエアの運営など、手法は多岐に渡る。
特にAAFが10年目を迎えた2011年、これまでに培われてきたネットワークが、東日本大震災に際して大きな力を発揮した。
3月18日にAAF支援宣言が発表され、人的支援や活動支援募金、宮城県南三陸町で行われていた「きりこプロジェクト」の全国展開などが実施された。その逸早い行動は、NPOの主体性を重視しながら、基盤強化への継続的な支援と協働を行ってきた成果といえる。
同年夏に始動した「世界ネットワーク・プロジェクト」により、そのつながりはアジアへも拡大。7カ国から訪れたクリエーターと、東北ツアーを機に交流が始まった。
蓄積された活動事例をいかした書籍の発行や、データベースのアーカイブ化を進めるなど、アートと社会のかかわりに新たな価値をもたらす提案の数々は、多方面からの期待を集めている。 アートが市民の豊かな創造性を引き出すことにより、自分たちの力で社会課題にアプローチしていく。そうした活動への支援は一企業のメセナの枠組みを超え、よりよい社会を創造しようとする大きな市民活動の流れを生み出している。
評価ポイント
各地の課題に取り組むアートNPOの支援を継続的に行い、全国的な交流を促している。
多彩な広がりを持つ活動の成果をアーカイブし、発信しようとしている。
企業プロフィール
本社所在地:東京都墨田区
設立年:2011年(現アサヒグループホールディングス[株]は1949年設立。2011年に純粋持株会社制へ移行)
資本金:200億円
従業員数:21人
業種:食料品
URL:https://www.asahibeer.co.jp/
(2011年12月現在)
受賞スピーチ
全国のアートNPOとの思いを共有した結果が受賞に繋がった
[メセナ大賞部門]歴史をひもとく賞
「綴プロジェクト」の実施
活動内容
キヤノンは、鑑賞する機会が限られている国内の文化財や海外に渡った屏風・襖絵などの日本の貴重な文化財の高精細複製を行う「綴プロジェクト(正式名称:文化財未来継承プロジェクト)」という社会貢献活動を2007年より実施している。
デジタルカメラでの多分割撮影や高精度な色合わせの開発、日本画の繊細で立体感のある表現を再現するプリンティング技術など最新のデジタル技術を投入し、同社ならではの取り組みを継続的かつダイナミックに展開している。
複製品は、撮影したデータを画像処理し、特製の和紙に出力した後に、京都に伝わる伝統工芸の技を融合してオリジナルに限りなく近い形で完成させ、文化財の元の所有者や文化財にゆかりのある地方自治体などへ寄贈される。
また一般への公開も目的としており、間近で鑑賞できることが大きな魅力だ。例えば、京都の建仁寺に寄贈した海北友松筆「建仁寺方丈障壁画五十面」(重文)は、オリジナルの文化財は保存のために掛軸に作り直されているが、綴プロジェクトによる複製品は、もとのかたちである襖絵として再現し一般公開している。また、他の寄贈した作品は、美術館・博物館などで教育普及プログラムにも活用されている。
従来、日本の絵画や書物は模写により研究・普及がなされてきたが、現代ではさまざまなかたちの複製を通じて芸術に触れる機会が増え、質の高い複製品も文化振興の役割を担っている。オリジナルの文化財への敬意を払いつつ、自社の技術力をいかした新たな挑戦は、多くの人々に文化の扉を開き、歴史を未来へと綴っていく。
評価ポイント
優れた技術力をいかして、日本の貴重な文化財の保存に貢献する取り組みである。
伝統芸術の技術継承・研究を進め、広く鑑賞機会を提供し教育普及にも役立てている。
企業プロフィール
本社所在地:東京都大田区
設立年:1937年
資本金:1,747億6,200万円
従業員数:2万5,449人
業種:電気機器
URL:https://global.canon/ja/tsuzuri/
(2011年12月現在)
受賞スピーチ
自社の技術力を活かし、東日本大震災の支援プロジェクトも行う
[メセナ大賞部門]文化の映写機賞
ちばぎんフィルムライブラリー
活動内容
「ちばぎんフィルムライブラリー」は、1963年、千葉銀行の創立20周年にあたりスタートした。テレビが普及してきた当時、映画が娯楽として人気を集める中で、気楽に上映会が行われるようにと16ミリフィルムと映写機を貸し出したのである、当初より「長く残り、継続して行える地域に密着した活動」との趣旨で、来年で50年の節目を迎える。
千葉銀行が保有する16ミリフィルムは423本、映写機25台。DVD/VHSが293本あり、ビデオデッキ・プロジェクターが9台、スクリーンも揃う。歴史・地理、自然・科学、教育・訓練、芸術、スポーツ、保健衛生、劇映画、アニメーション、ドキュメンタリーなど幅広い分野の映像があり、千葉の自然や文化をテーマに制作した独自の作品もある。国内174の店舗を窓口に無料で貸し出し、1回につき5本、4日を上限としており、幼稚園や公民館、高齢者施設の利用が多く、特に夏休みクリスマスの時期に集中するという。
レンタルビデオが一般化した今日だが、16ミリフィルムによる映写会はレトロな雰囲気を醸し出し、利用者に好評だ。貸し出しに際しては映写機の使い方を講習し、返却後はメンテナンスを行う。16ミリフィルム・映写機ともに製造が中止された現在、同行が持つそれらは貴重な資料となっており、専門の業者が恒常的に点検・補修している。またDVD/VHSは再生機とアンプ、スピーカーをプロジェクターと一体化し、運びやすい形状に改良した。こうした配慮も利用者に喜ばれるところだ。
長年にわたる地道な活動で地域に親しまれるとともに、貴重な映像文化の継承にも貢献してきたのである。
評価ポイント
映写会によるコミュニティーの形成を促し、地域とのコミュニケーションをはかっている。
半世紀におよぶ活動の継続により、貴重な映像資料の保管と利用に貢献している。
企業プロフィール
本社所在地:千葉県千葉市
設立年:1943年
資本金:1,450億円
従業員数:4,491人(連結)
業種:銀行
URL:http://www.chibabank.co.jp/company/relationship/film_library/
(2012年3月現在)
受賞スピーチ
映写会で半世紀、地域社会との絆を深める
[メセナ大賞部門]支援のこころ賞
「ココロハコブプロジェクト~芸術・文化を通した復興支援活動~」
活動内容
2012年3月11日、宮城県南三陸町の総合体育館。東日本大震災犠牲者南三陸町追悼式で、町内5校の小学生135名の歌声が響いた。
この歌は、トヨタ自動車の社会貢献活動「トヨタ・子どもとアーティストの出会い(以下「子ども×アーティスト」)」のワークショップで子どもたちが創作したものだ。
東日本大震災に際し、同社は人やモノだけではなく被災地に「支援の心」を運びたいと考えのもと「ココロハコブプロジェクト」を立上げ、さまざまな支援活動を行っている。芸術・文化を通した復興支援活動ではこれまでのネットワークを活用し、活動の拡充を図るとともに、被災地の負担にならない、本当に必要な支援を心がけてきた。
長年にわたるメセナ活動「トヨタコミュニティコンサート」では、全国のアマチュアオーケストラの「音楽で被災地の皆さんの力になりたい」という声により、13ヶ所の復興支援コンサートが実現。04年から続く「子ども×アーティスト」では、コーディネーター・吉川由美氏が南三陸町でアート活動を行っていたことが縁となった。学校関係者やコーディネーターとの会議を重ね、11月、現地から「追悼式で、子どもたちの歌で町の人たちを元気づけたい」との発案を受けた。大事にしたのは、子どもたち自身の言葉と旋律による曲づくり。「町の人たちや自分たちがこの一年がんばったなあと思うこと」などをテーマに紡ぎ出された言葉が歌になった。
子どもたちの歌声は、被災地の方々のこころに勇気を運んだ。復興への長い道のりの中、同プロジェクトは長期的な継続を目指し、震災2年目の支援活動を進めている。
評価ポイント
震災後の早い段階で活動を開始し、被災地の状況を見極めながら支援に取り組んでいる。
メセナ活動の蓄積をいかし、アーティストやアートNPOとの協働を通じた多様な活動で被災地の方々を勇気づけている。
企業プロフィール
本社所在地:愛知県豊田市
設立年:1937年
資本金:3,790億5,000万円
従業員数:69,148名
業種:輸送用機器
URL:http://www.toyota.co.jp/
(2012年3月現在)
受賞スピーチ
復興の原動力になりたい。「支援の心」を運ぶ活動を
[メセナ大賞部門]四季のそよかぜ賞
帆風美術館
活動内容
青森・八戸駅から車で約20分、八戸北インター工業団地にある帆風八戸センター内1階に、2008年、帆風美術館は開設された。東京都内で営業する印刷会社の帆風が八戸に拠点を持って15年、地域へ貢献したいとの思いから設けた原寸の複製画展示を主体とする美術館である。
主に江戸期の日本美術をテーマに、同社開発のデジタル光筆画の技術で複製画をつくる。「たかが複製」を逆手にとり、国宝や重要文化財の掛け軸や屏風、絵巻物や画帖が一堂に会する展覧会を構想。博物館や美術館から作品のポジフィルムを借り、あるいは撮影を行って2点製作し、1点は所蔵先に寄贈して教育普及活動などに活用されている。
開館記念展は「川端康成が見つめた三大南画家展」で、文豪が所有した国宝3点を中心に企画を膨らませた。第2回は「江戸時代動物園」、俵屋宗達や伊藤若冲ら71名の絵師により描かれた動物画129点が揃った。第3回の「妙・江戸時代人に出会う展」は、渡辺崋山や菱川師宣らの肖像画、風俗画を展示。
4回目となる昨年は、八戸藩主・南部信房公が俳諧をたしなんだことから「美術歳時記―日本人の自然観照/春・夏・秋・冬―」として、絵と俳句が描かれた「俳画」と季語にまつわる絵画を展示した。
毎回、専門の監修者が加わり、詳しい解説付きの図録も発行する。こうして本物では実現できない企画展を年1~2回、観覧無料で内容を変えながら長期にわたり開催し、地元だけでなく遠方からも日本美術の愛好者が訪れている。
美術館運営には八戸の文化関係者がかかわり、友の会も組織されて、お茶会などのイベントも定着してきた。社業をいかした取り組みが、地域にやわらかな風をもたらしている。
評価ポイント
複製を前提にユニークな企画を実現し、日本美術への関心を高めている。
社有施設を地域の文化拠点として公開するとともに、自社の技術をいかした活動で独自性を追求している。
企業プロフィール
本社所在地:東京都新宿区
設立年:1980年
資本金:2億9,000万円
従業員数:442名
業種:その他製品
URL:http://www.vanfu.co.jp/service/museum.html
(2012年4月現在)
受賞スピーチ
青森県での受賞を地元の方が喜んでくれていることが嬉しい
[メセナ大賞部門]未来のうけざら賞
三菱地所アルティアムの運営、展覧会の企画
活動内容
“アートのスタジアム”を意味する「三菱地所アルティアム」は、1989年、現代アートの発信拠点として九州最大の繁華街、福岡市・天神に誕生した。三菱地所初の本格的商業ビル「イムズ(Inter Media Station)」の8階にある144平方メートルのギャラリーは、ビルの基本コンセプトに則り、イムズと九州地方ブロック紙・西日本新聞社が協力して企画・運営し、年間約10本、開設以来23年間で250を超す展覧会を開催。2012年7月には来場者が100万人に達した。
ギャラリーの最大の特色は、公立美術館に先駆けて、国内外で活躍する現代アーティストの先見性・革新性ある展覧会を福岡から紹介し続けてきたことである。D・ホックニー(89年)、C・ボルタンスキー(92年)、ナム・ジュン・パイク(96年)、横尾忠則(94、99年)、草間彌生(96年)、アルティアムでの展覧会後に飛躍的に地名度が高まった蔡國強(91年)や奈良美智(96年)、会田誠(99年)のほか、地元九州に縁ある柳幸典、副田高行、東信、牛島光太郎らを取り上げてきた。美術に限らず、建築やデザイン、映画、食など、現代の多様な芸術表現を既成の評価・ジャンルにとらわれずに発信するジャンルフリーの理念で、意欲的な企画に取り組む。観客層は20年のうちに着実に広がり、地元教育機関との連携や教育普及への取り組み強化もあって、高校・大学生の来場も増えている。
内外の先端のアートシーンを、未来に残すべき文化的表現か吟味し、逸早く福岡から世界に向けて発信し続けるその姿勢は、新しい表現の受け皿として、今後も未来の文化創造を担っていく。
評価ポイント
国内外の新しい芸術表現に触れる場を、早くから独自の視点で意欲的に企画・提供してきた。
四半世紀にわたり、民間による九州・福岡からの文化発信拠点として重要な役割を果たしている。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
設立年:1937年
資本金:1,413億7,321万円
従業員数:658名
業種:不動産
(2012年3月現在※三菱地所(株))
受賞スピーチ
人が集まる町の魅力に文化は欠かせないもの
[文化庁長官賞部門]文化庁長官賞
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 活動
活動内容
東京・初台にあるNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]は、日本の電話事業100周年を機に構想された。1991年、電話やファクシミリを通じたアートプログラム「電話網の中の見えないミュージアム」を皮切りに数々のイベントを経て、97年にICCを開設。以来、メディア・アートを牽引する拠点として多彩な取り組みを展開してきた。
毎年、内容を変えながら長期開催する「オープン・スペース」では、メディア・アートの代表的な作品、ヴァーチャル・リアリティやインタラクティヴ技術などを用いた作品を展示。また新進アーティストに注目する「エマージェンシーズ!」コーナーや、産官学の共同プロジェクトによる実験的な試みを紹介している。あわせて、現在のメディア・アートの動向やコミュニケーションをテーマとする企画展を開催。作品展示だけでなくトークやシンポジウム、ワークショップ、パフォーマンスなどを組み合わせ、幅広い層の関心を集める。
夏は「ICCキッズ・プログラム」で、子どもたちにメディア・アートのおもしろさを伝える。子ども自らが考え、体験し、想像を膨らませる内容が好評で、多くのリピーターが訪れている。
さらにウェブ上での研究会や動画投稿イベント、映像記録やインタビューの公開など、オンラインでも世界を結びつけ、活動成果を発信し、情報交流をはかるセンターとして機能してきた。
著しいテクノロジーの革新に伴い新たな表現が生まれ、従来の枠組みを超えたコミュニケーションが広がる。ICCの活動が、科学と芸術の対話が未来に開く可能性を今後も提示し続けていくことを期待したい。
評価ポイント
日本のメディア・アートの拠点として逸早く活動を始め、ネットワークを通じて最先端の動向を紹介してきた。
子ども対象のプログラムや大学等との連携により、メディア・アートの裾野を拡大している。
企業プロフィール
本社所在地:東京都新宿区
設立年:1999年
資本金:3,350億円
従業員数:5,900名
業種:情報・通信
URL:http://www.ntticc.or.jp/index_j.html
(2012年4月現在)
受賞スピーチ
日本のメディアアートの発信拠点としての役割を