メセナアワード2013
[メセナ大賞]メセナ大賞
全日本製造業コマ大戦
活動内容
ものづくりの技術で日本経済を支える企業が、意地と誇りを賭け、自社開発のコマを回して直径25cmの土俵で闘う。それが全日本製造業コマ大戦である。
中小製造業の経営者の集会に置いてあった、金属製の小さなコマ。3分以上静かに回り続けたそのコマを見たミナロ代表取締役の緑川賢司氏は、町工場の技術とアイデアを喧嘩ゴマで競うことを思いつく。
製造業の活性化を日々模索していた緑川氏は、SNSを利用して同業者に呼びかけ、2012年2月、21チームによる第1回全国大会を開催した。コマの大きさは直径2cm以下、手で回す、長く回り続けたほうが勝ち、土俵の外に出たら負け、2連勝で試合終了、勝者は敗者のコマを総取り、などが試合ルールである。
単純明快な対戦方法が町工場に受け入れられ、メディアの取材や参加チームの口コミなどが相まって、半年後には企業や学生の約200チームが参戦する第2回大会の予選が行われる。そして、地区予選やエキシビジョンマッチを経た27チームによる全国大会が、「テクニカルショウヨコハマ2013」の会場内で実現。現在は第3回全国大会に向けた予選の他、特別大会が各地で行われ、海外での開催も控えている。
コマ大戦は、経営者たち自身が大会を企画・運営し、中小企業の下請けマインドの脱却を目指す活動でもある。製造業であればほとんどの工場に旋盤があり、コマを製作できる。材質・重さ・形などは問わないため、参加企業は自らコマを企画開発する。新たな技術開発に挑戦したり、技術を補完するために他社と連携したりする企業も現れた。町工場のモチベーションの向上と製造業の活性化、それがコマ大戦の最終的なねらいである。小さなコマには大きな夢が託されている。
評価ポイント
産業を支える高度な技術力とものづくりの精神を、コマという遊びで社会に開くユニークな取り組みで、文化の地平を拡大した。
各社が独自性を発揮しながら連携をはかっており、創造的に産業の活性化を目指している。
団体プロフィール
事務局所在地:神奈川県横浜市
創立年:2013年
構成員数:60人
業 種:製造業
URL:https://www.komataisen.com
(2013年10月現在)
受賞スピーチ
ものづくりの楽しさを伝え、希望を持てる存在でありたい
[メセナ賞]映画の地球儀賞
エキプ・ド・シネマ-埋もれた名作映画の発掘・上映-
活動内容
岩波ホールは1968年、岩波神保町ビル10階に開館した。主に講演会のためにつくられたホールだが、高野悦子氏が運営に深くかかわるようになったことから、映画・音楽・学術・古典芸能の講座が行われた。
中心となった「映画講座」は、内外の名作映画を系統的に上映し再評価を行うもので、上映前に製作関係者が講演し、終映後に観客との質疑応答で作品理解を深めた。この企画はいずれも満員の盛況であり、この活動が、74年、岩波ホールでのサタジット・レイ監督「大樹のうた」上映をきっかけに、世界の埋もれた名画を世に紹介する運動「エキプ・ド・シネマ(EQUIPE DE CINEMA:映画の仲間)」に発展する。
主宰は高野氏とフィルム・ライブラリー協議会(当時)の川喜多かしこ氏。目標は、次のような映画の紹介だ。(1)アジア・アフリカ、中南米など日本で上映される機会の少ない国々の映画 (2)欧米の映画でも大手会社の取り上げない名作 (3)名作であってもなんらかの理由で上映されなかった作品 (4)日本映画の名作エキプ運動を推進するため、岩波ホールは日本で初めてとなるさまざまな試みを行ってきた。定員入替え制を導入し、上映前に決めた興行日数を守り、劇場も宣伝費等を負担する精算方式「トップオフの5対5」を打ち出し、映画の発掘・公開・上映終了までを輸入・配給(製作)会社とともに行う。エキプ会員は発足後すぐ3,000人に達し、現在もほぼ同数を維持する。
以降39年、映画を通じて世界44カ国の社会・文化を紹介し、上映数は200本を超える。 映画製作がフィルムからデジタルに移行し興行システムが激変する中、映画産業の状況は揺れ動くが、「心に響く映画」を上映する「エキプ・ド・シネマ」運動は多くの人々の支えを糧に継続していく。
評価ポイント
45年にわたり、自社ビルを活用して豊かな映画文化を育て、発信する活動を継続してきた。
優れた映画を通じ世界各国のさまざまな文化や社会問題・状況を日本に紹介してきた。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
創立年:1968年
資本金:6,000万円
従業員数:10人
業 種:サービス
URL:https://www.iwanami-hall.com/
(2013年10月現在)
受賞スピーチ
よい仕事をすれば必ずわかってもらえる、先代の言葉を胸に
[メセナ賞]学びの玉手箱賞
CAMP(Children’s Art Museum & Park)
活動内容
ワークショップを通して、子どもたちの「共に創る力」を育む。SCSKグループの社会貢献活動として、2001年に始まったCAMP(Children’s Art Museum & Park)のねらいである。国内外のアーティストや研究者等と多彩なワークショップの共同開発に取り組み、全国で実践・普及している。
これまでに開発したワークショップは46種、子どもたちの自由な発想を促し、自発的な創作表現活動を引き出すファシリテーションの手法により運営される。乾電池式の小型コンピュータで動くおもちゃをつくる「クリケットワークショップ」や、家族が撮り合った写真を素材に本をつくる「かぞくのひづけワークショップ」、子どもたちの想像力で未知の植物を育てる「くうそう・しょくぶつ・図鑑ワークショップ」等々、「考える」「つくる」「つながる」「発表する」「ふりかえる」といった創作プロセスの中で、自分にあった表現方法を見つけ、協同的に学び、創造性とコミュニケーション力を高めていく。
さらに、より多くの子どもたちに日常的な場で体験してもらおうと、ワークショップを「CAMPACO」と呼ぶ普及パッケージにして、各地のミュージアムや児童館、学校などへも届ける。必要機材と運営マニュアルを提供するだけでなく、ファシリテーター育成プログラムが組まれており、学芸員や学校教諭のほか、学生や社員ボランティアなども担い手となってきた。 12年間で26都道府県、900回近いワークショップを実現。近年は東北の被災地でNPOや大学と連携したり、長期療養施設や発達障がい児通級クラスでの継続的な活動にも着手した。子どもたちと共に夢ある未来を創る、息の長い次世代育成の取り組みである。
評価ポイント
アーティストや大学等研究機関と連携し、質の高い多彩なワークショップを独自に開発している。
子どもたちの表現力と多様性を尊重するプログラムを全国のさまざまな場に届け、継続的に展開している。
企業プロフィール
本社所在地:東京都江東区
創立年:1969年
資本金:211億5,200万円
従業員数:11,797人(連結)
主な事業:情報・通信
URL:https://www.scsk.jp/
(2013年5月現在)
受賞スピーチ
子どもたちと新しい夢ある未来をともにつくる
[メセナ賞]対話でアート賞
未来を担う小・中学生を対象とした対話型美術鑑賞教育支援活動の展開
活動内容
1976年に設立された損保ジャパン東郷青児美術館は、新宿西口の損保ジャパン本社ビル42階にある。東郷青児作品に加え、ゴッホの「ひまわり」をはじめ、セザンヌ、ゴーギャンなど印象派の名画を公開していることでも知られる。
この美術館では、公立美術館のない新宿区の子どもたちに美術鑑賞の機会を提供しようと、2007年から、区の小中学生に向けた次世代育成のためのプログラム「対話型鑑賞教育支援活動」を区と協働で展開している。
「対話型鑑賞教育」は、ガイドスタッフとの対話を通じ、鑑賞者が見たものや感じたことを引き出すことに重点を置く。作家や作品の解説を中心とした学芸員によるギャラリー・トークとは一線を画すもので、80年代半ばにニューヨーク近代美術館で始まった。
本活動では、ガイドスタッフが各校に赴き事前授業を行ったうえで、美術館の休館日を子どもたちに開放。美術館を訪れたことがなかった子どもたちが、実際に美術館で作品を見て回り、ガイドスタッフとの対話を通じて作品から感じ、発見したことを言葉にする。友達の言葉にも耳を傾け、自分なりの考えを育む。
ガイドスタッフは区報やネットなどで広く募集した市民ボランティアで、社員も参加している。「本物の芸術を子どもたちと一緒に楽しみたい」と、60名ほどが研修を経て子どもたちとの対話に取り組む。
活動開始以前には、区内小中学校での美術鑑賞教育の実施率は全体の2割程度だったが、現在では29のすべての小学校と全10校の中学校のうち7校で実施されるようになった。区外からの要請にも可能な範囲で対応し、同様の動きが全国に広がることを期待している。
評価ポイント
コレクションを活用し、地域の子どもたちに向けたきめ細かな対話型鑑賞教育支援活動を着実に展開している。
地域団体や市民ボランティアと連携しながらも主体的に活動を行っている。
企業プロフィール
本社所在地:東京都新宿区
創立年:1888年
資本金:700億円
従業員数:17,825名
主な事業:保険
URL:https://www.sompo-museum.org/
(2013年5月現在)
受賞スピーチ
区との協働、対話により美術鑑賞を後押し
[メセナ賞]タムタムしま賞
アートマネジメント総合情報サイト「ネットTAM」
活動内容
社会とアートをつなぐアートマネージャーを育成したい― 「人材育成」を社会貢献の重点領域とするトヨタ自動車が「トヨタ・アートマネジメント講座」(TAM)をスタートさせたのは1996年、まだ「アートマネジメント」の概念が浸透していない時期である。2004年3月までに32地域で計53回開催し、のべ1万人が参加。後にさまざまな分野で活躍する市民プロデューサーや、アートNPOの萌芽となる団体が多く参加し、TAMを機に新たな一歩を踏み出した。
この間に大学でも関連学科が増え、文化による地域活性などが展開されてきたことから講座形式を終え、蓄積した情報やノウハウをより開かれたネットワークで共有しようと、アートマネジメントに関する総合情報サイト「ネットTAM」を04年10月に開設。いまや年間650万ページビューのアクセス数を誇る。
アートマネジメントが学べる教育機関や関連書籍など基本情報を集約するほか、タイムリーな情報発信ができる利点を活かし、最新の助成金情報やアートの現場で活躍する人たちの「リレーコラム」を毎月更新、本年4月で連載100回を迎えた。他にも、入門講座にあたる「アートマネジメント事始め」や「芸術環境KAIZENファイル」「震災復興におけるアートの可能性」など、ニーズに先駆けるコンテンツを設けてきた。
中でも「キャリアバンク」は、アート業界の就労状況を一変させた掲示板で、05年の開設から昨年までで累計約7,000件もの求人情報が掲載され、多大な雇用の機会を創出している。
アートマネジメントの普及と基盤整備に大きく貢献してきたネットTAM、より身近で活用されるサイトを目指し、開設10周年の新展開を構想している。
評価ポイント
WEBによる情報発信で「アートマネジメント」の概念を社会に広げ、アートに携わる人々の下支えをしている。
アートの現場が求める人材と働きたい人とのマッチングに貢献し、雇用を生み出している。
企業プロフィール
本社所在地:愛知県豊田市
創立年:1937年
資本金:3,790億5,000万円
従業員数:68,978名(単体)
主な事業:輸送用機器
URL:http://www.toyota.co.jp https://www.nettam.jp/
(2013年3月現在)
受賞スピーチ
情報発信を通して、地域とともにアートを育てていきたい
[メセナ賞]光る町なみ賞
町屋に光を当て、町を活性化させ、町屋を守る商人(あきんど)の挑戦
活動内容
城下町村上市の旧町人町には、多くの町屋が残る。アーケードやアルミサッシに覆われた店舗の外観からは想像もつかない空間が、店奥に広がっている。
1995年、その旧町人町に開発計画が持ち上がった。村上伝統の鮭料理を守る味匠㐂っ川の吉川真嗣氏は、全国町並み保存連盟の会長であった五十嵐大祐氏より商店街の「近代化による衰退」を教えられ、全国の商店街を視察。町屋こそ村上の財産でありシンボルと確信した吉川氏は、町屋を活かした町づくりを始める。
最初の取り組みは、町屋の公開である。活動に賛同した地元老舗22社が集い、98年に村上町屋商人会が結成された。来訪客に町屋内部を公開し、さらに住民が生活空間を説明するという、他に例を見ないスタイルが注目され、町内を散策する観光客の姿が徐々に増えてくる。住民にとっては、町屋はすばらしい資源であるという気づきもになった。
商人会は、さらに町屋に光を当てるべく、春には町屋の住民が所蔵する人形を茶の間に展示する「人形さま巡り」を、翌年の秋には祭のしつらえとして屏風を飾る風習を復活させた「屏風まつり」を始めた。これらのイベントには毎年約70軒が参加し、商店のみならず地元小中学校の生徒、隣接する温泉街、交通機関や行政が協働して、約10万人の観光客をもてなす。 「まずことを起こして人を巻き込む」という手法をとった吉川氏の町づくりは、町人町の商店や村上の住民を確実に動かした。商人会は「黒塀プロジェクト」や「町屋再生プロジェクト」を始め、村上の町全体の景観づくりへと活動を発展させている。商人たちの志と市民自らの町づくりは、これからも広がっていく。
評価ポイント
老舗の商人たちが集い、生業にもとづく文化と歴史を紹介することで、地域全体が元気になっている。
城下町に伝承する文化に根ざした地域創造で、優れたまちづくりの取り組みである。
企業プロフィール
事務局所在地:新潟県村上市
創立年:1998年
構成員数:28人
(2013年3月現在)
受賞スピーチ
商人の心意気で町を元気に、空き家を再生していく
[特別賞]文化庁長官賞
障がいのある子どもたちの絵画コンクール「キラキラっとアートコンクール」
活動内容
「障がいのある子どもたちの可能性を応援したい」との想いから、三菱地所が2002年より主催。社会福祉法人東京コロニーが協力する。なんらかの障がいのある18歳までの子どもたちを対象とした絵画コンクールで、自由なテーマでサイズのみ規定した平面表現の作品を募集する。応募は子どもたちの目標ともなり、思いのままに描いた個性豊かな作品が寄せられる。
応募数は年々増加し12年は1,764点。関係分野の専門家4名による一次審査で150点の作品が選ばれ、続くグループ社員審査では、例年500名を超える社員が作品の展示される会議室等に足を運び、投票する。優秀賞50点を選出する最終審査と表彰式には三菱地所社長ならびに三菱一号館美術館館長も参加する。表彰式は、東京・丸ビルホールで受賞者全員に賞状を贈呈、会場が子どもたちの笑顔に満たされる。
優秀賞作品展は三菱地所グループが運営管理する全国6カ所のビル・商業施設で開かれ、2,000名を超える来場者を迎える。来場者から受賞者各人へ寄せられたメッセージは本人に渡され、今後の励みにつながる。
障がい者の自立支援をうながす側面も持ち、コンクールをきっかけに、現在13名が社会福祉法人東京コロニーが運営する障がい者アートライブラリー「アートビリティ」の登録作家として活躍する。また応募作品はすべて「キラキラっとアートコンクール」ウェブサイトにアーカイブされ、「三菱地所グループCSR報告書」の表紙や、ウェブサイトを見た企業からの依頼で企業冊子やカレンダーなどに使用されている。
子どもたちの絵を描く楽しみを増し、才能の開花や可能性の発見を応援する本コンクールは、子どもたちの生き生きした心を多くの人に伝え、感動の輪を広げている。
評価ポイント
コンクール形式という一歩踏み込んだ活動で、障がい者のアート活動に新たな風を吹き込んでいる。
障がい者の才能を伸ばす機会を提供し、作家活動に向けた自立支援もうながしている。
企業プロフィール
本社所在地:東京都千代田区
創立年:1937年
資本金:1,413億7,321万円
従業員数:677人
業種:不動産
URL:http://www.kira-art.jp
(2013年4月現在)
受賞スピーチ
コンクールで障がいのある子どもたちの可能性を応援