メセナアワード2021
[メセナ大賞]パンデミックでも幸せつくるで賞
「パンデミックの中でのプチ幸せの量産」
活動内容
自動車業界は100年に一度と称される大変革期にある。トヨタは「自動車をつくる会社」から「モビリティカンパニー」へと変わろうとする一方、同社の始祖、豊田佐吉氏が志した「誰かの仕事を楽にする」という原点は忘れずに引きついでいる。2020年、社長の豊田章男氏はトヨタのミッションを「幸せの量産」と定義した。コロナ禍に見舞われた同年、移動の自由が奪われ、あらためて「移動すること」の喜びを多くの人々が再発見した。
「MOVE」という言葉には「心を動かす・感動する」という意味も含まれている。同社のミッションと多くの人に「ワクワク」をお届けしたいという想いが重なり、これまで培ってきたメセナ活動のリソースを活用し、パンデミックに迅速に対応し工夫を加えながら活動した。たとえば、1985年から行っている「トヨタ青少年オーケストラキャンプ」は全国各地のサテライト会場をオンラインでつなぎ、日本を代表するプロによるレッスンを実施。また、2000年から継続している「ウイーン・プレミアム・コンサート」は渡航制限により公演を全面休止したが、予約していた紀尾井ホールを活用し、「トヨタロビーコンサート」特別編として開催。サントリーホールでは、コロナ禍において発表の場を失ったアーティストに無償で会場を提供する「夢をかなえるコンサート」を企画・実施した。そのほか、2004年にスタートしたアートマネジメント総合情報ウェブサイト「ネットTAM」では、オンラインのメリットと発信力を最大限に活かし、芸術文化応援プロジェクトを立ち上げ、助成金情報やアート関係者を力づける連載記事などを発信。さらに、コロナ禍でのさまざまな困難について、ともに考え、踏み出すためのオンライントークイベントを実施し、アートのプラットフォームとしての役割を果たすなど、創意工夫をこらし活動を行った。
コロナ禍での活動で得た経験や気づきも新たなリソースとして、これからも幸せを量産していく。
評価ポイント
コロナ禍による社会の変化に対し、迅速かつ柔軟に対応しながら活動を展開している。
今までの活動を活かし、コロナ禍の影響を受ける芸術にかかわる人々にさまざまな機会を創出し、芸術文化の継続に貢献している。
企業プロフィール
本社所在地:愛知県豊田市
創業年:1937年
資本金:6,354億円
従業員数:7万1,373名
主な事業:自動車の生産・販売
URL:https://global.toyota/jp/
(2021年3月現在)
受賞スピーチ
「YOUの視点」を持ち、多くの方に元気や勇気を届けたい
[優秀賞]「禍」の今こそ音楽で賞
コロナ禍における、音楽を通じた教育活動に取り組んでいる団体、および若手演奏家への支援
活動内容
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年はさまざまな芸術文化活動が中止や延期の決断を余儀なくされた。そのような状況を受け、子どもの成長に合わせたクラシック・コンサートの企画制作や若手音楽家への支援などを行うソニー音楽財団は、同年6月に「ソニー音楽財団 新型コロナウイルス対策特別支援プロジェクト」を開始。コロナ禍において3つの緊急支援策を打ち出した。
1つ目は、2019年に設立した「ソニー音楽財団 子ども音楽基金」を軸に、子どもたちへ音楽を通した教育活動を行う非営利団体に対し、損害補填として1団体につき20万円または50万円を助成する「『ソニー音楽財団子ども音楽基金』新型コロナウイルス被害支援」を設置。全国27団体へ総額810万円を助成した。毎年度募集の同基金と合わせて、これまでに2,781万3,143円(のべ53団体)の助成を行っている。
2つ目は、子ども向けのクラシック・コンサートなどの公演中止により表現の機会を失い、経済的にも困窮している国内の若手演奏家に一律10万円を支給する「子どもたちを対象に活動する若手演奏家への支援金」。書類選考を経て187名に総額1,870万円を拠出した。さらに3つ目として、“With コロナ”を見据え創意工夫に富んだクラシック音楽動画の企画案を公募する「子ども向けクラシック音楽配信企画を通じた若手演奏家への支援」を開始した。採用されたアイデアには懸賞金50万円を支払い、収録用の機材提供や会場費なども一部負担。完成動画は財団のYouTubeチャンネル「こどものためのクラシック」にて公開している。
2021年も昨年度の支援を一部継続するなど、すべての子どもたちが等しく感性豊かな心を育むことのできるよう、コロナ禍においても新たな環境づくりに挑戦し続けている。
評価ポイント
災害支援に迅速に対応し、クラシック音楽界の維持と継続に貢献している。
時代の変化を捉え、一貫した精神のもと新たな仕組みをつくり、音楽に触れる機会を提供している。
団体プロフィール
団体所在地:東京都千代田区
設立年:1984年
基本財産:7億2,485万円
職員数:13名
主な事業:コンサートの主催・企画制作、若手演奏家の支援、音楽教育活動への助成など
URL:https://www.smf.or.jp/
(2021年10月現在)
受賞スピーチ
プロジェクトを立ち上げ継続発展し、大きな共感をいただけた
[優秀賞]おうちごはんでアートで賞
くばらだんだんアート
活動内容
福岡県糟屋郡久山町に本社がある1893年創業の久原本家グループは、茅乃舎だしなどで知られる総合食品メーカーである。同社の「くばらだんだんアート」は、絵や写真を通じて障がいがありながらもアートの才能を持つ方々の可能性を広げ社会参画のきっかけをつくることを目的に、一般社団法人だんだんボックスと共同で行うプロジェクト。
毎年「食」にまつわるテーマで作品を募集し、2020年で9回目を迎えた。作品募集のテーマ設定などの企画から運営に至るまで新入社員主導で推進され、地域の障がい者施設を定期的に訪問するなど実際に触れ合う機会も大切にしている。入社後の社会人としての基礎を身につける時期に、社会貢献活動のやりがいや意義を体感することにより、長期的に社会貢献に携わる人材を育てている。
大賞5作品は、久原本家グループの商品発送用の段ボール箱や一筆箋、福岡市内を走るラッピングバスのデザインに採用。受賞者へデザイン利用料として賞金を支払うことで、障がいのある方の社会参画を支援している。また、自身の作品が美術館に展示される喜びと来場者の方々へ障がい者のアートに触れてさまざまな可能性を感じていただくなど、多様性を受け入れる地域社会へつなげていくことの思いで、福岡県立美術館で展覧会を行い、応募作品すべてを展示する。
2020年第9回のテーマは、「いただきます!わたしが選ぶNo.1おうちごはん」。福岡県を中心に全国から757点の作品が集まり、応募者からは「コロナで学校に行けないから、絵を描く目的ができてうれしい」などの声が寄せられた。審査会はリモートで行われ、中止となった美術館での展覧会の代わりに、新たな発信方法として、すべての作品を掲載するWEB展覧会を自社ホームページ内で開催した。
障がいのある方の可能性と社会参画の機会をさらに広げるべく、今後も継続的に多様な活動を展開していく。
評価ポイント
コロナ禍でも柔軟に対応。アートを通じて障がいのある方々の可能性を広げ、企業活動にも活かすことで社会参加の機会も提供している。
新入社員が主体的に取り組み主導することにより、長期的な人材育成につながっている。
企業プロフィール
本社所在地:福岡県糟屋郡久山町
創業年:1893年
資本金:1億円
従業員数:1,272名
主な事業:食品の製造・販売、飲食事業
URL:https://www.kubarahonke.com/
(2021年10月現在)
受賞スピーチ
「久原なりの何かを…」で始めた事業 今後も続けていきたい
[優秀賞]でも笑顔を届けるで賞
LAVENDER RING MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES
活動内容
「LAVENDER RING」とは、さまざまな企業や団体、学校、病院、自治体など、活動の主旨に賛同した人が自由に参加し、それぞれの技術や知識を持ちよりながらがんの啓発・支援活動に取り組むプロジェクト。2017年に電通の有志と資生堂、認定NPO法人キャンサーネットジャパンによって立ち上がった。「がんになっても笑顔で暮らせる社会の実現」を目指して、同社では「MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」を行っている。
がんと向き合いながら生きるサバイバー一人ひとりに対し、資生堂ビューティーコンサルタントと資生堂美容室のスタッフが担当しメイクとヘアセットを施す。その人らしさが最大限に引き出され、いきいきとした表情を同社のフォトグラファーが撮影し、サバイバーが今一番打ち込んでいることを記した言葉を添えて、一枚のポスターに仕上げる。ポスターは会場で貼り出されるとともに、参加者のインタビュー動画をウェブサイトやSNSで公開。告知を受けた心境、がんになって変わったこと、今伝えたいことなどを共有し、がんの正しい理解とサバイバーの新たなつながりを提供することを目指している。
さらにLAVENDER RINGの活動は、キャンサーネットジャパン主催の「ジャパンキャンサーフォーラム」で毎年イベントを行うほか、協力企業とともにトークイベントや講演会・キッズワークショップ・表彰プログラムなどを開催している。2020年はオンラインでの個別メイクアップレッスンと並行して、サバイバーの著名人やYouTuber、インスタグラマーら多彩なゲストを迎え、全国に向けて生配信を実施した。
がんにとらわれることなく自分の人生を楽しもうという前向きな願いをもち、イベントへの参加者も年々増えている。これからも化粧の力とクリエイティブの力で理解の輪を広げ、多くの人に笑顔と勇気を届けていく。
評価ポイント
新たな社会課題への取り組みとして経営資源を活かし、人と人の交流を育み、生きる力につなげている。
企業や団体、病院、学校などと連携しながら、活動を多面的に発信し、新たな価値観を提案している。
企業プロフィール
本社所在地:東京都中央区
創業年:1872年
資本金:645億円
従業員数:3万9,035名
主な事業:化粧品事業を中心としながら、レストラン、教育・保育事業などを幅広く展開
URL:https://corp.shiseido.com/jp/
(2021年1月現在)
受賞スピーチ
化粧のちからで前向きに生きたい気持ちを後押しできる
[優秀賞]ロビーで育て!音楽家で賞
生まれ変わったホテルでも続く、音楽を通じた社会貢献
活動内容
1962年の開業以来、一流の格式と心地よさをそなえ、世界の賓客から愛されてきたホテルオークラ東京。創業者の大倉喜七郎は、奥ゆかしい優雅さを伝える「日本の美」ときめ細かく気遣いする「日本の心」を大切にした日本らしいホテルを追求した。また芸術文化への造詣も深く、芸術家への支援も熱心だったといわれる。「ホテルは人が集い、芸術文化が交流する場所である」という理念を受け継ぎ、同社はさまざまなメセナ活動を長年継続している。
開業25周年の1987年には、毎月25日に開催する「ロビーコンサート25」がスタート。特別な演出装置は設置せず、純粋に音楽を楽しむために開かれる30分間の無料コンサートは、宿泊者や近隣住民の憩いの場となっている。2011年からは指揮者・大友直人氏の監修のもと、より上質な音楽を提供し、これまでに国内外で総勢2,000名以上が出演してきた。出演交渉や日程調整、当日の会場設営などの運営はすべて社員が行い、一流の音楽家を受け入れるノウハウも蓄積されている。
また、1996年には開業35周年を迎え、「ホテルオークラ音楽賞」を創設。将来有望な若手音楽家2組を毎年表彰し、奨励金・副賞の贈呈と受賞者共演の記念演奏会を開催する。今では権威ある賞の一つとして認知され、2020年度は過去のロビーコンサートの出演者が音楽賞を受賞するなど、メセナ活動の循環も生まれている。
2019年には本館が建替えられ、新たに「The Okura Tokyo」として生まれ変わった。伝統と革新をコンセプトに、日本文化の美しい意匠が現代建築に調和している。昨年はコンサートが中止となったが、音楽賞受賞者による第400回記念ロビーコンサートから再開した。これからも芸術を愛する心を伝え、世界に通じる誇り高い文化を創出していく。
評価ポイント
独自の資源を活かしながら本物の音楽を届け、地域の芸術文化振興に貢献している。
才能ある若手音楽家の登竜門として継続的に育成支援し、音楽界全体の質を高めている。
企業プロフィール
本社所在地:東京都港区
設立年:2001年(開業1962年)
資本金:1億円
従業員数:782名(2021年4月現在)
主な事業:国際観光ホテル整備法によるホテル業経営
URL:https://theokuratokyo.jp/
(2021年9月現在)
受賞スピーチ
ロビーの公共性を活かしてお客様と芸術を結びつけられないか
[優秀賞]ステイホームでもおえかき賞
親子でチャレンジ国際理解!ちびっこおえかきコンテスト
活動内容
ベネッセこども基金は、未来ある子どもたちが安心して学習に取り組める環境のもとで、自ら可能性を広げられる社会を目指して2014年に設立され、多様な学びの機会を提供している。
「ちびっこおえかきコンテスト」は認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンの主催で2013年に開始され、2015年から賛同した同基金と共同で実施されている。
このコンテストでは未来を担う子どもたちが世界に触れるきっかけをつくることを目的に、発展途上国に住む同世代の子どもの生活を題材にした映像教材を家族で見てもらい、映像にでてくる子どもへ応援メッセージを絵に描いてもらう。家庭で子どもと保護者が一緒に描くことを楽しむことで、保護者の学びや気づきにもなりコミュニケーションや国際理解を深めるきっかけとなる。同基金が、募集、教材キットの提供、審査、表彰などの事務局の役割を担い、グッドネーバーズ・ジャパンが受賞作品を発展途上国の子どもに届けるとともに、生活や学校に通える環境づくりを支援している。
全国の幼稚園・保育園・こども園を対象として募集し、2020年は過去最高となる150園から3,278点の応募があり、2013年の第1回から延べ1万4,293人の子どもたちが参加してきた。コンテストでは、絵の上手さではなく「描く」というプロセスを大切にしており、子どもたちの思いやりの心を感じられる絵が毎年たくさん届く。参加した幼稚園・保育園・こども園や保護者からは、「何気ない日常が奇跡のような毎日だということ、世界には困っている子どもたちや貧しい国があることを子どもへお話する機会になった」などの感想が寄せられている。
コロナ禍のステイホームでも、「子どもたちが世界に触れるきっかけをつくる」という同コンテストの目的はしっかりと子どもたちに届けられている。
評価ポイント
絵画コンテストでありながら、絵の上手さではなく「描く」過程を大切にしているのがユニーク。
子どもたちへ海外の問題を身近に感じるきっかけを与え、絵画表現を通して気づきを深める機会を提供している。
団体プロフィール
団体所在地:東京都多摩市
設立年:2014年
正味財産:3億9,000万円
職員数:5名
主な事業:経済的困難や重い病気などにより困難を抱える子どもへの学び支援、子どもの安心・安全を守る活動など
URL:https://benesse-kodomokikin.or.jp/
(2021年3月現在)
受賞スピーチ
『よく生きる』を支援する事業をずっと継続していく
[優秀賞]いつも福島にグラフィックで賞
CCGA現代グラフィックアートセンター
活動内容
福島県須賀川市にある「CCGA現代グラフィックアートセンター」は、大日本印刷が1995年に開設した美術館である。主に、本業に近いグラフィックデザインとグラフィックアートの優れた作品と関連資料の収集・保存を行うアーカイブ・センターとして、グラフィック文化の普及振興と地域文化への貢献を目指している。2008年からDNP文化振興財団によって運営され、2020年には開館25周年を迎えた。
コレクションの中核は、アメリカ現代美術史を彩るアーティストたちの版画作品群「タイラーグラフィックス・アーカイブコレクション」と田中一光、福田繁雄、永井一正ら日本代表のグラフィックデザイナーの秀作を集めた「DNPグラフィックデザイン・アーカイブ」。そのほか、国内外236名・1万6,529点(2021年3月時点)のポスター作品を所蔵し、他館への貸出や学術研究での利用を目的とした検索サービスを展開している。
また、須賀川が江戸時代の銅版画家・亜欧堂田善ゆかりの地であることから、版画の教育普及施設として2012年に「版画工房」を開設。広く市民に向けた版画制作の体験講座のほか、経験者には工房を一般開放(新型コロナウイルス感染症対策により現在休止中)している。小規模ながら本格的な設備を備え、同社の前身である秀英舎で100年以上前に使われていたアルビオン・プレス型平圧印刷機を使用できるのも大きな特徴だ。さらに、商工会議所が主催する市内の小中学生を対象とした版画コンクール「田善顕彰版画展」にも協力し、地域文化の振興に努めている。
昨年は2カ月間の臨時休館を経て、3回の版画とグラフィックの企画展を開催。周年記念展では、明治時代に印刷技術として発展した木口木版画の魅力を現代版画家の作品を通して伝えた。これからもグラフィックの専門館と地域文化の発信拠点として、人と社会をつないでいく。
評価ポイント
本業と関連した専門性の高い施設を運営し、グラフィック文化の継承に貢献している。
地元の自治体や市民とネットワークを築きながら、地域文化の振興に寄与している。
企業プロフィール
大日本印刷株式会社
本社所在地:東京都新宿区
設立年:1894年[創業1876年]
資本金:1,144億6,476万円
従業員数:3万7,062名(連結)、1万328名(単体)
主な事業:出版・商業印刷、包装、建材、ディスプレー製品など
URL:https://www.dnp.co.jp/
(2021年3月現在)
団体プロフィール
公益財団法人DNP文化振興財団
団体所在地:東京都中央区
設立年:2008年
正味財産:24億5,648万円
職員数:12名
主な事業:グラフィックデザイン・グラフィックアートの展示、アーカイブ、研究助成、国際交流
URL:https://www.dnpfcp.jp/foundation/
(2021年3月現在)
受賞スピーチ
多くの方々と協働し、持続可能な文化振興へ向かっていきたい